かいえ
2025-04-26 15:33:29
8901文字
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【灰武】殺し屋の灰谷兄弟と小さいタケミチの話

両親を灰谷兄弟に殺されたタケミチ(4歳くらい)が、一緒に暮らし始める異世界パロでショタです
イザナと鶴蝶と九井と半間が出ます。三途は名前だけ出ます
灰武メインでタケミチ愛されです
8,901文字
※このお話の前までをまとめたものを通販中です
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「どうした? 腹でも減ってんのか?」
 イザナがいつものようにタケミチに尋ねる。「ん?」と小首を傾げたから、イザナの両耳で細い柵状の芒に月柄のピアスが揺れてカランと音を立てる。イザナはタケミチの顔を見ると、いつもお腹を空かせていると思うようで、何か食べさせようとするのが常だった。タケミチにしてみれば、いつまでも子ども扱いされる事を不満に思ってしまうのだが。
 タケミチがムッとしているのを理解した上で、イザナは「なんだ、腹は減ってねぇのか? じゃあ、このショコラケーキは他のやつにやるとするか」と、ニヤニヤしてタケミチの好物を鼻先にぶらつかせるので、タケミチは結局「食べます!」と即陥落するしかなかった。
 その様子を微笑ましく見守っていた鶴蝶が、イザナとタケミチに飲み物を用意するというのが、天竺での長閑な午後の風景だ。
 イザナにはブラックコーヒー、タケミチには蜂蜜の入った甘いホットミルクを鶴蝶は用意した。そこでも、タケミチはホットミルクを手渡された事に抗議して、イザナにブラックコーヒーを飲まされて、あまりの苦みに涙目になって、渋々ホットミルクを飲む事に落ち着いた。
 天竺に所属する人間なら、イナザと鶴蝶に口答えする人間など一人もいない。イザナも鶴蝶も非常に怖い存在であったし、過去の華麗な武勇伝が二人を伝説にしていて畏れ多い存在だった。そもそもイザナはギルド長であるから、組織に属するものがトップに生意気な口などきける筈がない。そんな中でタケミチだけが、自由にイザナと話す権利があり、生意気な態度を取っても許されていた。イザナがタケミチを可愛がっている事は天竺の人間には周知の事実だった。
 どっちみち、イザナも鶴蝶もタケミチが生意気な発言をしたとしても、ヒヨコがぴよぴよ鳴いているくらいにしか思っていないようだった。タケミチは鈍感なくせにそういう部分だけは嗅覚が鋭く、またちゃんと相手をして貰っていないと不満を感じるという悪循環だった。
 蘭と竜胆が仕事で長期に留守にする時は、タケミチはいつもイザナに預けられていた。イザナもタケミチを気に入っていたので、簡単に引き受けていたから、天竺はまるでタケミチの実家のようだった。鶴蝶もイザナが楽しそうなので、黙って受け入れていた。
 タケミチは蘭も竜胆の事も大好きだったが、天竺の面々も全員大好きだったので、預けられる事を嫌がった事は無い。
「よぉ、タケミチ。旨そうなもん食ってるな?」
 イザナと並んでショコラケーキを頬張っていたタケミチは、外から帰ってきた九井に声を掛けられた。
「ココ君、お帰りなさい!」
「仕事あるけど、バイトするか?」
「します!」
「じゃあ、それ食べたらオレの部屋に来いよ」
 元気よく即答したタケミチを見て、九井はククッと笑いながらそう言った。
「はーい!」
 自分の仕事部屋に向かう九井に、バイバイと手を振って見送ったタケミチは、再びショコラケーキをフォークで掬って口に運んだ。ショコラケーキは既に残り少なっており、もったいないから一口一口噛みしめて食べる。チョコレートの甘い香りが口内いっぱい広がって幸せしか感じない。
「まだ貯まんねぇのか?」
「はい」
「頑張るな」
「はい、だって二人にちゃんとしたものをプレゼントしたいですから。でも、あと少しで目標額っス!」
 最近のタケミチは自ら働こうという意思があった。今は蘭と竜胆に何かあげたいという一心で、天竺内のアルバイトに勤しんでいるのだが、今後タケミチがどのような仕事に就くべきか決められていなかった。
「オレが足りない分を小遣いでやろうか?」
 イザナの申し出に、突然何を言い出すんだとタケミチはイザナをキッと睨みつけた。タケミチは睨みつけたつもりでも、イザナにしてみれば子猫が爪を少し出したに過ぎないので、タケミチの不遜な行いも不遜にならない。
「イザナ君、止めて下さい。そういうのはダメなんですよ。オレ、ずるはしたくないです」
「ずるになるか? オレから金を引き出させた時点で、蘭と竜胆はすごいってオマエを褒めると思うがな」
「ダメです! イザナ君、それじゃあココ君と変わんねーっス!」
「ココはおまえに甘いみてぇだな」
 子供嫌いだったのに、タケミチの事を九井は何かと気にかけているのをイザナは知っていた。
 すぐ傍に控えて聞いて鶴蝶は、イザナだって充分タケミチに甘いのにとフッと笑った。
 天竺の事務所内に、ヤバい依頼を受けているとは思えない穏やかな空気が流れていた。この時間を鶴蝶は愛おしいと思って止まなかった。自らが行っている生業を否定するわけではない。ただ、荒んだ王であるイザナの心を慰める時間も必要なのだと思うのだ。こんな生ぬるい環境に、三途などは危機感を覚えるようではあるが、孤児であるイザナと自分が必死で生きてきた先にあったご褒美だと鶴蝶は思いたかった。 
 正直、あの灰谷兄弟に子供が育てられるものかと思っていたのだが、鶴蝶の予想に反して、タケミチは思いのほか素直にまっすぐに育っていて好ましかった。ただ、この先を考えると、汚れていない人間が属するには厳しい世界だとは危惧していた。


「おかえりなさい!」
 蘭と竜胆が仕事を終え、タケミチを迎えに来た夜、タケミチはいつものように二人に走っていって抱き着いた。幼児の頃なら抱き上げられていたが、今は抱きしめられるようになっていた。タケミチは満面の笑みを浮かべて二人を見上げる。蘭と竜胆もタケミチの元気な様子に安心して笑みを返した。
「そうだ、二人にプレゼントがあるんです!」
 タケミチの言葉に蘭も竜胆も不思議そうな顔をする。タケミチは「カクちゃん!」と。今度は鶴蝶の方に走っていき、何やら話をしている。鶴蝶は奥から取ってきたものを渡し、タケミチはそれを興奮した面持ちで、蘭と竜胆に手渡した。タケミチが二人に渡したのは、質の良い布で作られた黒いフード付きのマントだった。
「どうした?」
「蘭君と竜胆君に俺からのプレゼントです!」
 タケミチの蒼い瞳が宝石みたいにきらきらと輝く。興奮しているのか頬は赤く染まっている。
「金はどうした?」
 蘭が片眉を上げて、タケミチに冷静に問いただす。
「え天竺でバイトしましたけど
 何だか想像した感じと違う蘭の様子に、タケミチは不安そうに答えた。
「ハァ?」
 タケミチの言葉に、蘭は益々不機嫌になった。タケミチは蘭が諸手を挙げて喜んで貰えると思っていたのに、喜ぶどころか不審そうな顔をしている事に段々気持ちが萎んでいくのを感じていた。蘭の横にいる竜胆も怪訝そうな表情を浮かべている事で落ち込んでいくのに拍車がかかる。
「安心しろ、そんな変な仕事はさせてない。主にココのアシスタントで稼いだ金だ」
 不憫に思ったイザナが助け舟を出してやると「へぇ」と蘭は答え、イザナに窘められた形になっただけで、蘭の心中は穏やかではなかった。タケミチが蘭に隠れて天竺で働いていたという事実に動揺を隠せなかったのだ。そして、なんで自分がこんなにも心を乱されているかの理由が分からず、珍しく蘭は戸惑っていた。そんなあれこれをいつも通りのポーカーフェイスの下に隠して、ひとまずようやくタケミチに渡されたものを目にした。タケミチにしては良い品を選んでいて、絶対イザナか九井がアドバイスをした
物だという事が分かる。タケミチにファッションセンスは皆無なのは周知の事実だった。
「かっけえじゃん」
 蘭の言葉に、耳も尻尾も下がった犬みたいになっていたタケミチは、ぱっと瞳を輝かして蘭を見上げた。
「ああ、タケミチにしては良いじゃん」と、竜胆も褒めたので、タケミチは嬉しくて堪らなくなって「へへへ」と笑った。蘭も竜胆もいつのまにか大きくなった子供をじっと見た。もう養われるだけの子供では無くなった事に、二人は初めて気が付いた。目の前に立っているのは、抱き上げてあやす様な幼児から、もうすぐ成人を迎える少年の姿に変化していたのだ。三人で天竺の事務所から家に向かいながら、フードで顔を隠したタケミチを蘭は横目で盗み見て、これから先の事を決める時が来た事を実感していた。
久しぶりの家で、竜胆の手料理をタケミチはたらふく食べさせて貰った。味にうるさい、でも料理はしない蘭のせいで、竜胆の料理の腕前はシェフ並みだった。
「竜胆君、めちゃくちゃ美味しいです! いつでも、お店が開けますね」
 タケミチの賛辞に竜胆はニヤニヤするのを止められない。相変わらず可愛い弟分の頭をくしゃくしゃと撫でてやると、タケミチは口の周りに食べ物をつけたまま、ふにゃりと笑った。
 蘭と竜胆に挟まれるようにベッドに入ると、安心してすぐに睡魔が襲ってきた。でも、すぐに眠るのはもったいなくて、一生懸命目を開けて二人の顔を交互に見比べる。
「眠くないの?」
 竜胆に聞かれて「まだ眠くないです」とタケミチは嘘をつく。竜胆もタケミチが嘘をついているのを分かっていて「そっか」と苦笑しながら返す。自分たちに会えて嬉しくて堪らないんだなと思うと、竜胆も自然に笑みが浮かんでしまう。全然寝ようとしない愛しい子のこめかみに口づけると、タケミチは「くすぐったい」と、くすくす笑う。すると、反対側で二人の様子を見ていた蘭もタケミチのこめかみに口づけたから、やっぱり「くすぐったい」とタケミチはくすくす笑った。タケミチが来る前、蘭と竜胆は二人だけの世界で生きていた。蘭は竜胆の為なら死ねたし、竜胆も蘭の為なら死ねた。もちろん、自分たちが死ぬなんて気は更々なく、死ぬのはいつも灰谷兄弟の前に立ちふさがった相手だけだったが。
 それが、いつからかタケミチが当たり前のように蘭と竜胆の間に入ってきて、二人の想いはタケミチを中心に円を描いた。
「髪の毛、付け根が黒くなってんな。明日染めてやる」
「はい」
 タケミチが蘭に連れられてきてすぐ、イザナが目立たないようにと、タケミチの髪を蘭と竜胆と同じ金髪に染めさせた。それから、ずっとタケミチは金髪で過ごしている。
「もう寝ろー」
 蘭がタケミチを自分の胸に抱き寄せた。「あったけ」とタケミチの髪に鼻を埋めて蘭はご満悦そうだ。
「兄貴、ずるい」
 仲間外れにされた竜胆はムッとしたが、蘭の冷たい視線に渋々引き下がった。もちろん、明日は自分がタケミチを抱きしめて眠ると心に決めていた。
 タケミチの耳の下で蘭の心臓が一定の音を立てて、そうじゃなくても睡魔に襲われていたタケミチの意識は薄れていってしまう。もう少し二人と話していたかったのにと残念に思いながら、蘭の体温で心地よくなった身体は、もう抗う事など出来なかった。