かいえ
2025-04-26 15:33:29
8901文字
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【灰武】殺し屋の灰谷兄弟と小さいタケミチの話

両親を灰谷兄弟に殺されたタケミチ(4歳くらい)が、一緒に暮らし始める異世界パロでショタです
イザナと鶴蝶と九井と半間が出ます。三途は名前だけ出ます
灰武メインでタケミチ愛されです
8,901文字
※このお話の前までをまとめたものを通販中です
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プロローグ


 鬱蒼と生い茂った木々が、夜空を覆いつくす勢いで地面から生えている。陽の光を求めて手を伸ばす地獄の亡者のように不気味に薄ら暗い。そのせいか昼間でもほとんど陽の当たらない地面は酷く湿気ていて、膝をついた態勢の竜胆のズボンをじっとりと湿らせていた。そんな場所にいて、自分だって不快な気持ちでいっぱいなのに、直に座らされているタケミチは、一体どんな気分なのだろうと思いながら、竜胆は背後からタケミチを見下ろしていた。
 すぐ目の前にある、柔らかな金髪に、いつものように口づけたい衝動に駆られる。細くしなやかな体躯を抱きしめ、優しいくせ毛に鼻先を突っ込んで、その優しくて甘い匂いを嗅ぎたかった。くすぐったいと逃げるタケミチを抑え込んで、戯れるようなキスしたくて堪らなかった。
 しかし、今の竜胆は遊んでいるわけではなく、真剣にタケミチの動きを封じる事に神経を使っているので、そんな願いなど持つのもおこがましい状態だった。
 竜胆の両手には関節を外した時の鈍い感触が残っていて、それが余計に竜胆を不愉快にさせていた。関節を外すという事は、骨と骨をつなぐじん帯をずらして動かせないようにするという事だ。もちろん、四肢の関節が全て外れたら歩くことも、指一本すら動かす事は出来なくなる。
 今まで竜胆が相手をしてきたのは全て成人男性で、大抵屈強な体躯の者が多かったからだろうか。片手で握れるあえかな腕からする音に、吐き気を催すほど気分が悪くなった。どんな無残な死体を見ても平気だったというのに、関節を外したくらいでおぞましさに鳥肌が立った。
 随分昔、仕事現場の生き残りだった小さなタケミチを蘭が連れて行くと決めた時、竜胆はタケミチの行きつく先は、蘭が飽きたら殺すか、売るかの二択だと確かに思った事はあった。けれども、一緒に暮らすうちに、竜胆はタケミチの事を蘭と同じくらい愛すようになった。タケミチは愛らしい子供だったし、竜胆に良く懐いたというのもある。タケミチの大きくて蒼い瞳がきらきらと輝き、竜胆を映すの見るのが好きだった。まっすぐに自分を見るタケミチが愛おしくて堪らなくなるのだ。
 兄の蘭も竜胆と同じくらい、否、それ以上にタケミチを愛しているのだと竜胆は信じて疑わなかった。蘭が殺さなかった時から、蘭のタケミチに対する対応は異例づくしだったのだ。竜胆から見ても蘭はおよそ愛情など持ち合わせていない人間だった。竜胆だけが特別で、それ以外は視界に入っていないくらい無関心だ。ギルド長であるイザナとその腹心である鶴蝶だけは一目置いていたが、それは自分より強いからという理由がある。
 しかし、タケミチは蘭より強くもなければ、庇護しなければ生きていけないような子供だ。特別何か力がある訳でも、後ろ盾がある訳でもない。だから、こんなに大きくなっても、ずっと自分たちの手元に置いたままにしているのは、蘭が竜胆と同じようにタケミチを愛していて手放せないのだと思っていたのだ。本当についさっきまでそう思っていた。この森に蘭がタケミチを連れて来るまでは。
 今夜の蘭がタケミチを殺す気なのは間違いなかった。昨日、竜胆とタケミチの関係が変化したことが引き金だったのかもしれない。
 ともかく、蘭が竜胆にタケミチの四肢の関節を外せと指示したのだ。これはずっと昔から変わらない二人の間の儀式のようなものだった。竜胆が関節を外し、蘭が警棒で撲殺する。いつも、二人が行ってきた殺しの手順なのだ。
 蘭の警棒がタケミチの顔面に振り下ろされる瞬間を想像して竜胆はゾッとしてしまった。そして。竜胆は生まれて初めて蘭の決めた事を嫌だと思った。この腕の中にある愛おしい温もりが、竜胆の胸元に寄りかかっているくせ毛の子供が、この世界から永久にいなくなるなんて、到底耐えられる事では無かった。
「関節ちゃんと外しとけよ」
 竜胆の背後からした蘭の声には抑揚も、何の感情さえも含まれていなかった。だが、静かな湖面のような静謐さが、鋭利な刃になって突き刺さって来るようだった。その有無を言わさぬ威圧に、竜胆は蘭の恐ろしさを再認識していた。
 我慢の限界を超えた竜胆は「兄貴!」と叫びながら振り返った。
 そこには薄暗闇の中で笑みを浮かべた蘭が、何事もなかったように腕を組み立っていた。この世界に悪魔がいるなら、きっと目の前にいる兄と同じ貌をしているのではないかと竜胆が思うほどに。そして、その悪魔のような兄と、自分は良く似た顔立ちをしているのだから、自分も同様に悪魔なのかもしれないと自嘲気味に笑った。現に蘭に指示されたとはいえ、竜胆は自らタケミチに手を掛けたのだ。そのくせ罪悪感が半端なくて、気が狂いそうだなんて偽善だった。「ワルい、タケミチ。なるべく痛みが無いようにするから」なんて声を掛けて、自分の中の罪の意識を軽くしようとする自分にも虫唾が走った。
 タケミチの綺麗な蒼い瞳は恐怖に震えていて「竜胆君」と見上げてくるタケミチに胸が苦しくなった。自分の好きなものを壊すという異常事態に竜胆の額には脂汗が浮いていた。力を入れる手が緊張で震える。竜胆は慎重に武道の両肩を外したが、当たり前だけどタケミチは痛みに呻いた。その声に気が変になりそうだった。
「足もやっとけ」
 間髪入れずに指示をする兄に腹が立つ。
 くそっと思いながら、竜胆は蘭には逆らえない。泣きそうになっている竜胆に気が付いたタケミチが「大丈夫ですよ」と逆に慰めてくる始末で、竜胆は情けなくてこの場から  逃げ出したかった。この後、蘭がタケミチを痛めつけながら殺すところなど見たくなかった。
 タケミチを抱えて逃げてしまいたいと思いながら、竜胆はタケミチの足の付け根の関節を外す。矛盾した自分の行いに苦笑するしかない。そうして、そっとタケミチの身体を叢に寝ころばせた。足元に横たわる少年期に差し掛かった子供は、蘭が気まぐれで連れてきた子供だった。その子供、タケミチを竜胆は弟のように可愛がってきた。風呂に入れ飯を食わせ勉強を教えた。竜胆が得意とする体術も護身用に簡単なものは教え込んだ。
 タケミチの世話を竜胆に押し付けていた蘭も、タケミチの服を揃えたり、天竺に行く時には同伴させたりと、およそ以前の蘭では考えられない行動を取っていたのにと思う。
 蘭は決して自分勝手にタケミチを抱かなかった。何も言わなかったけれど、あの行為に嘘は無かったと思う。蘭も竜胆も家族のように恋人のようにタケミチを慈しんだのだ。唯一無二の相手として。
 それなのに「外した?」と、まるで他人事のように恐ろしい事を確認してくる蘭に、竜胆はやるせない気持ちでいっぱいになった。
「外したけどさ
「じゃあ、行くぞ竜胆」
 竜胆の問いかけにも答えず、蘭は踵を返した。蘭がタケミチを撲殺する気がない事が分かり、竜胆は胸を撫で下ろしたのだが、こんな森の奥に動けないタケミチを放置する行為は、殺していないだけで死ぬように仕向けているのと何ら変わりがない。
「兄貴、待てって。マジでこんなところにタケミチを置き去りする気かよ?」
 蘭の背中を追いかけながら、何故だかタケミチの両親を殺した日を竜胆は思い出していた。あの日も今日と同じように月が綺麗な夜だったからだろうか。
 蘭は竜胆の問いかけに答える気はないようだった。取り付く島もないとはこういう事を言うのだろう。前を歩く蘭のトレードマークの三つ編みが揺れて、金髪の部分が月光で 神々しく白く光っていた。どんな時でも、兄は美しいのだと竜胆は泣きたくなった。
 タケミチは蘭と竜胆と同じ黒い特服を身に着けていた。天竺の赤色ではなく、灰谷兄弟専用の漆黒の特服だ。
 先月、蘭がタケミチに手渡したものだ。蘭がタケミチを同じチームに属させる事を決めたという意味になり、天竺の面々もそう受け取った筈だ。その時点で、タケミチが灰谷兄弟の手で殺される事も、どこかに売り飛ばされる事も無くなったという事でもあった。だから、竜胆は本当に心底ホッとしたのだ。正直、ここまで一緒に過ごしたケミチを殺すことなど出来る筈がなかった。タケミチは血が繋がっていなくとも、竜胆の中では、もう随分前から灰谷兄弟の一員になっていたのだ。そういう訳で、蘭がその証として、タケミチに特服を与えたのだと思って安堵したのだ。それなのにと、やはり竜胆は納得がいかなかった。
「ねぇ、マジでこのままじゃ死んじゃうって!」
 竜胆の悲痛な叫び声は、湿った土と葉の上に寝かされたタケミチの耳にも届いていた。泣きそうになりながらタケミチの関節を外した竜胆が可哀想で、タケミチはぎゅっと竜胆の逞しい身体を抱きしめてあげたかった。竜胆は年上なのに年下みたいな空気を出す時があるのだ。何とか元気づけたくて痛みを我慢して微笑んだのに、竜胆はもっと泣きそうな顔になってしまった。その竜胆はタケミチの為に蘭を説得しようとしてくれていて、その優しさにズキズキと神経触るような関節の痛みも少しは和らいでくる。
「兄貴!」
 竜胆の声が森の中に寂しく響き渡る。蘭はきっと意志を変える事は無いのだとタケミチは知っていた。自分が身動きも出来ない状態で、こんな暗い森に置き去りにされたという事は、蘭の中でタケミチは不要なものに変わったという事なのだ。
 遠ざかる二人の背中を見ながら、自分はここで朽ちていくの待つことしか出来ないのだという絶望の淵にタケミチはいた。ここは森の中だから、心臓が止まる前に獣に食い殺されるかもしれないと想像してタケミチは怖くなった。
 蘭はどちらを望んでいるのだろうか。
 もう、オレに飽きちゃった? 
 そう思うだけで、涙が溢れてくる。
 タケミチは蘭の濃い紫色の綺麗な瞳が好きだった。冷たい手のくせに、タケミチと触れた唇と躰が温かくなるのが死ぬほど好きだった。
 蘭君と心の中で呼んだとしでも、タケミチを置いて行こうとしている蘭には届かない。
 どうせ死ぬなら蘭に殺されたかった。
 繋がったまま、幸せな気分のまま殺してくれたら良かったのにと思う。こんな暗い森に捨てていくくらいなら、いっそそうして欲しかった。こんな風に捨てるつもりだったら、どうして自分に優しくしたのと尋ねたくなる。
 どうしてオレを手元に置いたのだろう。
 どうしてオレを愛してくれたのだろう。
 聞きたい事が、次から次へと湧いてきて、答えの貰えない惨めさに胸が詰まる。
 タケミチは堪らなくなって、遠ざかっていく蘭に向かって「蘭君!」と叫んだ。
 タケミチの声に蘭が立ち止った。でも、立ち止まっただけで、タケミチの方へ戻ってくる気配はない。タケミチが知っている蘭はそういう人だった。
 その場で振り返った蘭が、月明かりの中微笑んでいる。その口が「バイバイ、タケミチ」と動いて、また遠ざかっていった。


 オレが好きになったのは

 優しくて怖くて

 綺麗で目が離せない

 美しい人
 


 オレの両親を殺した人殺しでした。