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保科
2025-04-26 00:50:49
4150文字
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スタレ
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サムと星
スタレSS じゃあサムだっていいだろ……!(?)
「あ」
その声を聞き分けてしまえるのは、いっそ呪いのようなものなのかもしれなかった。とある星域、とある星にて。雑踏のかすかな声を聞き取った装甲騎士が思わず振り返ると、そこに居たのは
――
「ホ
――
じゃない。サムじゃん」
『
………
星?』
にわか困惑した声になることは否めない。"脚本"にない突然の出会いに、あるはずがない全身の軋みを感じたサムは、足早に進めようとしていた歩みを止める。屋台の串焼きを片手に3本持った少女は、そのうちの1本をかじりつつ、その手をや、と挙げた。再会の態度として普通に失礼だけれど、サムに咎める余裕もなく。
「珍しいね、アンタがこんなところにいるの。星核ハンターもバカンスとかするんだ」
『
……
いえ。私は、あくまで"脚本"の導きですが
……
』
この星で一人、数日過ごすこと。今回の脚本にあるのはそれだけだ。降って湧いた突然の時間を、サムは持て余していた。
銀狼の事前の情報操作や、この星におけるそものもの知名度の低さも相まり、星核ハンターとして通報されることはなかった。そのため、サムは特に憂うこともなく、一旅行者として日々を過ごしていた
――
はたから見れば、人はそれを休暇と呼ぶが、サムの心情としては難しい解釈だ。
『お一人ですか。星穹列車の方々は』
「ん?んー
……
」
星は少し宙を見上げた後、指折り数え始める。
「ヴェルトと丹恒とロ
……
お客さん達は
……
列車居残り。なのと姫子は理由あって別行動。私は栄誉ある単独斥候隊」
『
……
迷子、という意味で?』
「銀河打者が切り拓く道は、いつだって困難に満ちているものだよ」
ちょっと目を逸らして言うあたり、迷子のようだった。ウッカリだなあ、と内心で苦笑しつつ、そうですか、と頷くにとどめた。
『あなたが変わらず、元気そうで何よりです』
「そりゃそう。星核パワー由来の元気が取り柄だからね。あ、サムも串焼き食べる?」
『いえ。この姿では経口での食物摂取はできませんので』
「そっか。
じゃあ私がもらうね。そうでなくても私のものだけど。もとより譲るつもりも大してなかったかもだけど」
見ている側が胸いっぱいになる食べっぷりは見事なものだ。口いっぱいにもぐもぐと頬張りだした星を、サムは時を忘れたようにしばし眺める。
――
そういえば、食事はいつも手早く済ませていただろうか。味わっているのかいないのか、かつては何の感慨も抱かなかったけれど
――
『
………
』
――
沈んだ思考から我に返る。
気付けば胸の内に生まれかけていた"名残惜しさ"らしき欠片が、しくしくと痛むようだった。どんな体の痛みに耐えられても、心はどうしたって弱いままだ。
耐えかねて歩み出そうと
――
した矢先、引き留めるように手を握られる。スコープ越しの視線を向ける。最後の肉を串から引き抜く星が、何も持ってない手でサムの無機質な手を掴んでいる。
『
……
すみません。
離して頂きたいのですが』
「え、もう行っちゃうの?いくらなんでもつれなくない?
泣いちゃうよ
――
ウェーン」
『
………
』
潤んだ様子一つない瞳がじっとサムを見上げる。明らかなジョークだろう。だろう、けれど。
――
それでも、その文句は反則だ。
『
……
それは、困りましたね』
「でしょう」
したり顔で頷く星は、美少女の涙はプライスレスだから信用ポイントじゃ支払えないしね、と適当なことを言って。
「サムさ、まだ時間ある?
デートしようよ」
『
―――
』
串を適当なゴミ箱に捨てて
――
適当で済ますには、少しばかり問題のあることを言う。
「なのが雑誌で読んでたんだけどね。恋人にする適切な身長差ってものがあるんだって」
『
……………
そうですか』
「なんだっけ
……
あ、でも多分、私とサムだとちょっと差がありすぎるかも。ホタルとだと逆に足りないか
……
」
『はあ
………
』
適切な相槌が見当たらない。半ば強制的に連れ出されたサムは、大人しく星の半歩後ろを歩く。大柄な甲冑騎士と少女の組み合わせに、周囲からは奇異の視線が向けられるけれど、星は気にした様子もない。それどころか、曖昧な返事を咎めるように、サムだけを見上げる。
「歯切れ悪いね。仲間内であまり恋バナとかしないの?」
『
……
逆に聞きますが、あなたは星核ハンターのメンバーが、好んで恋愛話をするように思いますか?』
「刃とか」
『随分な大穴を狙われましたね。まだ、銀狼の方が付き合ってくれるかと』
「あー
……
、
そうだね。そんな気がする」
くつ、と喉を鳴らす彼女の横顔に、ピノコニーでの面影が重なる。黄金の夢を共に歩き、こんな風に会話を交わす
――
まさに夢であったあの日々は、けして遠い昔のことではないけれど。もう届かない日々であるならば、それはただの過去でしかない。
「ちょっと、サム」
『
――
はい、なんでしょう』
不意に名前を呼ばれる。こちらを見つめる星と目が合う。
「ボーッとしてた。眠い?」
『
……
失礼しました。考え事を』
「ええ、私という女が隣にありながら
……
!?」
『その
……
すみません
……
』
「
……
」
返答に窮するサムに、星は小さくため息を付くと
――
何故か、徐ろに肩を甲冑にぶつけてくる。がん、と鈍い音。
当然、痛くはない。質量の差故に重心がブレることもない。けれど、突然の行動が読めず、サムのシステムが緊張に強張る。
『
……
星?あの、何を』
「ああもう、態度も鎧も硬い!証拠に私の肩がジンジンしているんだけど!」
『
――
ええと』
謝るべきなのか。すでに謝罪をしてしまった以上、これ以上軽率な発言は迷惑に当たらないのか。そもそも今害されたのはサムの方ではないか。考え込んで言い淀むサムの前で、肩を押さえた星がじっとりと睨めつける。
「あのさ。ピノコニーのことってアンタの中ではホントの夢とかだったりする?それともサムとホタルの好感度ゲージって別カウントなの?」
『
……
え?』
星は、ヤキモキしたものを持て余すように頭をかいて、らしくもなく
――
"言い辛そうに"口を開く。
「
……
もし。関係値とか感情とか、夢境の出会いからやり直したほうが良いならそう言ってほしい。
別にそれでもいいけどさ、
……
、
――
私だけ舞い上がってばかみたいだ」
『
―――
』
がつん、と、鈍い音は、今度は幻聴だ。けれど
――
彼女に当たられたときよりも、ずっと内面に響く。星が自由に振る舞うこと、それが例えいつも通りだったとしても。その裏にある意図までもが、いつも通りとは限らないわけで。
君の、ほんの少し不貞腐れた珍しい顔。ここまでずっと、自分のことばかり考えていた"あたし"が、心底嫌になる。嫌になって、でも、この口元のほころびが伝わらないのは、数少ない幸運だと、サムは思う。
『
……
星』
「何」
『失礼しました。此度はデート、でしたね』
「
……
そう、だけ」
ど、と彼女が口にしきる前に、サムはその体を抱き上げる。彼女の華奢な体は、すっぽりと腕の内に収まった。がしゃ、と彼女の服の装飾品と、装甲がこすれて音を立てる。
「おお」
『少し、じっとしていてください
――
』
一歩、二歩、三歩で跳躍。一度の踏み切りで周囲の建造物を飛び越え、そのまま、とん、とん、と軽やかに屋根を踏み切っていく。
「
……
この身長差もありか」
『
………
』
好奇の視線も、ざわめきも、星の謎の呟きも、遥か眼下でちりぢりに解けて見えなくなって
――
やがて、適当な高台に建つ家の屋根の上で、サムは星を下ろす。
寂れた住宅地、人が住んでいるのかも怪しい区域。ここでなら、誰かに聞かれることも、好奇心を向けられることもなく
――
彼女を独り占めできる。
足元を確かめるように踏みしめつつ、手をブラブラとふる星は、目の前の景色をしばし眺める。街全体が見下ろせる、穏やかな風の吹く場所。たなびいた髪を押さえると、振り返ってサムに問う。
「なんでここに来たの?」
『伝達が遅れました。
私の意向としては、共に過ごす時間は穏やかれであればあるほどよいと思っていますので、この様に』
「ふーん
……
。まあまあかな」
躊躇いなくストンと腰を下ろす星の隣に、サムも腰を下ろす。人の体と違い、エネルギー効率は立とうが座らないがそう変わらない。むしろ関節の可動分、体勢の変更は無駄が多い。
だとしても、今は彼女に倣いたかった。
『星』
「うん。何?」
『先程の回答ですが
――
どうか御容赦を』
「
………
」
ちら、とこちらを見上げる視線を感知しながら。乾く口も無いのに、スピーカーには微かなノイズがかかっているような気がした。
『私にとって、どうにもあなたは特別な友人でして。
……
想う余り、ぎこちない対話となりました』
「ふうん?
……
そっ、か」
『はい。勿論、ピノコニーであなたと過ごした時間もまた、夢物語などではありません。
この身が如何様になろうと、大切な思い出です。故に、己の未熟な振る舞いに、御容赦を』
「
……
ま、いいけど」
ぱちり。サムの言葉に目を丸くした星が、そっぽを向いて呟く。
どこか気まずそうな態度に、馴れ馴れしかったろうか、と、彼女の様子を数秒観察して
――
身体数値の変動、心音の加速に気付く。会話の流れと、態度と、その視線の惑いを総括する。
まさか。
『
……
もしかして、照れています?』
「は?ちがうし。てか、別に、私のことは良いじゃん
……
」
ぺし、と装甲を叩かれる。痛くない。
―――
。
『まさか、この様な牧歌的な理由で、この装甲に感謝する日が来るとは思いませんでした』
「
……
」
意味を問うように睨めつけられるので。"あたし"は、努めて澄まして返す。
『君のかわいいところ、一方的に見てられるの、特別いいことじゃないかな』
げほ、と星が噎せる。口元を押さえた彼女の視線は
――
なぜだろう、さっきよりも圧が増しているのに、まるで怖くなかった。
「
……
、
……
ホタル、なんか前より意地悪じゃない?」
『フ
――
』
いやいや、そんなことはない。友情が深まっただけだよ?なんて。サムはそんなジョークは言わないので、笑うに留める。
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