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ほしのまなつ
2025-04-25 22:55:45
9845文字
Public
:一郎×3世短編
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🥞🎩3️⃣/悪魔と踊れ
千年王国研究所、初夏の事件簿
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2
◆放課後クライマックス
・
・
・
「
――
っリン! リン!!」
どうしよう。
指に、ぎゅっと力が入る。
どうしよう。
リンがいない。
リンが、いなくなってしまった。
あのちいさな体で、どこにいってしまったのだろう。
ひやっとした汗が、背中をつたう。
最悪なことばかりが浮かんでは、首をふった。
じわりと視界がかすむ。泣きたくないのに、涙がぼろぼろと頬をつたう。
この時間、電話に出られないだろう叔母には、メールで要件だけを伝えた。
はやく気づいて欲しい。
泣いている場合じゃない。近所の人も、協力してくれている。
「
――
……
っ」
制服のうえに羽織ったパーカーのなかで、スマホがふるえる。
ゆりだ。
いったん家に帰って、それからすぐゆりと合流するつもりだった。
ゆりにはさっき『行けなくなりました。ごめんなさい』と短いメッセージを送ったまま。
こんなはずじゃなかった。
裏のおばあちゃんの家にいるはずのリンと、顔を合わせるはずじゃなかった。
『カナちゃん、いっちゃだめ!』
『どうして、リンがそんなこというの』
どうして。
どうしてそんなこと、決めるの?
おばあちゃんちに、まだいればいいのに。
カナが学校にいるあいだは、そういう約束のはずだ。
どうしてジャマをするんだろう。
いつもならば可愛いだけのリンのワガママが、急に許せなくなった。
どうして、どうして
――
どうしていつも『わたし』なの?
『
――
リンなんて、もういらない』
リンのまるっこい瞳が、ぎゅっと尖った。
みるみると、黒いひとみの表面がゆれる。
それは、ぜったいに口にしてはいけない言葉だった。
(ちがう。わたし)
(そんなこと、おもってない
――
!)
――
ほんとうに?
ガンガン、頭が痛む。
やみくもに走り回った、酸素のたりない頭が軋むように痛む。
リンは怖がりだから、じぶんの行ったことがない場所にはいかないはずだ。
裏のおばあちゃんちと、カナの学校までの道。
途中に小さな公園があって、リンは遊びたがっていた。
どうかいますように。祈るようにちいさな姿をさがすのに。
『いなくなっちゃえばいいって、本当はずっと思っていたくせに』
いやだ。ちがう。やめて。
意地の悪い声が、耳のおくにザラっとへばりつく。
『うそつき』
『おまえは、またうそをつく』
ちがう。
ちがう。
ちがう!!!
「
――
あの、だいじょうぶ、ですか?」
「
……
ぁ、」
はじかれたように、顔をあげた。
こころの底に、すとん
……
っと声がおちてくる。
それは、ふっと視界のさきに現れた。
夜がせまる、公園のいりぐち。
商店街へのショートカットになる公園は、白昼あふれかえっていた子供も親もいない。
うでに何かを抱えている。きっと買いものの帰りだ。
「だいじょうぶですか? えっと
……
もうすぐ暗くなっちゃうよ?」
黒づくめなのに。
頼りない街灯のしたで、まるでそこだけ光をあつめたみたいだ。
なぜだろう。
格好だけならば浮いているし、ぎょっとするだろう。
なのにすこしも怖くない。
見開いたまるい瞳が、ぱちっとまたたく。
にてる。
リンと似てるんだ、この子
――
「
……
っ、
……
さがし、て、いて」
「さがしもの? おれ手つだいますよ」
「わた、し、わたしがっ、ひどいこと、」
うー、という鳴き声が、のどからこぼれた。
まるでじぶんのことみたいに、目のまえの眉がぎゅっと寄せられる。
よく見たら、カナよりずっと小さい。同級生の、どのおんなこよりも。
――
だけど、子どもだとは思わなかった。
「さがしものなら、おれ、とくいなんです」
「
……
っ
……
!」
それは、いっしゅんだった。
その子を守るようにつつむ真っ黒なマントが、ふわっとゆれる。
あわい光が、ちいさな輪郭をふちどった。
白い手袋のさきまで丁寧な、やわらかな所作だ。
――
またたき、ひとつぶんもない。
息をのむ時間すら、惜しかった。
買い物袋を下げていた右手に、
ステッキが握られている。
「おれの名は
――
」
はっと息をのむ。
カナは、”知っている”
もういない祖母がもっていた。
だいじな本のなかに描かれているものを、カナは目にしたことがある。
『
――
しあわせの象徴。
それはぜったいに、幸福をもたらしてくれる』
思い出した記憶が、その言葉と共振する。
胸が、ふるえる。
いまだせり上がる恐怖が胸をがんじがらめにするけれど、上擦る声を搾りだした。
「リンを、リンをっ、さがして、
……
っ」
だいじなの。
ちいさな、わたしのともだち。
叔母に言われたからじゃない。
わたしが大事だから、わたしのだいじなの。
「おねがい
……
っ」
くるっと。
夜の色が滲むマントがひるがえる。
暗闇をまとう小さな悪魔のくちに、やわい笑みがうかんだ。
少女はこの日はじめて、あくまに願いを口にしたのだ。
・
・
・
(つづきます)
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