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ほしのまなつ
2025-04-25 22:55:45
9845文字
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:一郎×3世短編
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🥞🎩3️⃣/悪魔と踊れ
千年王国研究所、初夏の事件簿
1
2
◆転入生
・
・
・
「ねぇ、やっぱりそうだって!」
「
……
っ
……
」
ぞわり。
はずむ声に、肌が粟立つ。
梅雨に入ったばかりの教室は肌寒く、思わずさすってしまった腕はおかしくはなかったはずだ。
「
――
あの転入生、さっきもカナのこと見てた! ほんと怪談よりタチ悪いよね」
「うちの七不思議だっけ? 不幸を呼ぶ転入生。『季節はずれにやってきたソレは、禍をもたらす』って」
「わざわい? デリカシーない男の方が、実害あるわ
……
また、なんかカナに言ってきた? ノンデリくん」
「ううん。もう、なんともないよ」
ほんとうは違うけれど、これ以上話題にしたくない。
高校生になって初めてできた親しい友人は、クラスにふたり。多くもなく少なくもない。
相手に聞こえてしまうんじゃないか、と不安になる声の大きさは、カナを思ってのことだ。ふたりに悪気はない。
――
廊下側の、いちばんうしろ。
先月ふらりと現れた灰色の髪の転入生は、先程から帰る様子もなくよく分からない分厚い本をめくっている。
猫背だが、立つとクラスの中でも長身の部類だろう。
色素の薄い髪色にすっきりした輪郭の、パっと見は繊細な容貌をした転入生。
骨ばった指がながくて、きれいだな
……
と思ったのは、担任に頼まれて校内を案内していた時だ。
男の子にしては珍しく爪のかたちが整っていて、まじまじと見てしまった。手入れしないと、ああはならない。
たった数日。
この狭い教室ですごしただけでも分かる物事への無頓着さと、その指先がちぐはぐで、そこばかりがアンバランスな彼の印象になっている。
あれは、
大切なものがあるひと特有の指だ。
楽器をあつかう指だろうか?
絵筆をにぎる、指だろうか?
指先を大事にしないといけない特別な理由が、あるのかもしれない。
そう言われても納得してしまうくらい独特の雰囲気をまとわせた彼が、
『今度の転入生、ちょっとかっこよくない?』などと騒がれていたのは、はじめのうちだけだった。
――
あいつ、ヤバくない?
そう囁かれるようになったのは、転入してきてすぐ。
三日めの放課後のことだ。
次の日は一限目から移動教室で、担任から言われていたカナは、念のために
……
と彼に場所の確認をしていた。
家の用事で遅刻してくる、というので余計に。
表情が分かりにくく、カナばかり一方的にしゃべっているような状態は苦手だったが、名指しで頼まれたのに迷子になってしまっては困る。
『
――
分からなくなっちゃったら二階まで降りて、職員室で聞いちゃったほうが早いかも』
『
……
アリガトウ』
あまり言い慣れてないのか。
その、ぎこちのない『ありがとう』に、ふっとカナの緊張がゆるんだ。
言葉を大切にしている
……
しようとしている、人だ。
――
カナには、歳の離れた兄がいる。
すごく頭がいいのだけれど、社会人になったいまも人付き合いが不得手だ。
ちいさなころ、祖母のアップルパイにお礼を言わない兄がカナにとってはすごく不思議で、
『?? にぃに、ありがとは? ありがとだよ!』
などと小さいながらも真剣にくちを出してしまったことがある。
母には酷く叱られてしまったが、あの時の兄のかすれた、絞り出すような『ありがと、う』を、カナは今でも鮮明に覚えている。
ひとりで平気です、みたいな雰囲気をにじませている転入生にも、そうしたひとがいるんだろうか。
――
たぶんそんな、場違いなことを勝手に思っていたのが、よくなかったのだ。
あんなに注意深く、
あんなに慎重に距離を取ることを覚えたはずなのに。
カナは、また間違えてしまった。
『
……
おい』
『???』
幸い
……
と言っていいのか。
教室には、ほとんど人が残っていなかった。
カナの頭からつま先まで
……
無遠慮に向けられた視線に、足が固まる。
息が苦しい。この感覚は知っている。
でもまだ、まだ大丈夫だ。ただ値踏みされているだけ。失敗じゃない。
『えっと、他になにか
――
』
慎重に、慎重に。こういう声を出すときは、いつも緊張する。
胸が苦しくなって、おなかのそこがずんと重たくなる。
そのことに気づかれてはだめなのに。
緊張する。緊張して、嫌な汗が止まらなくなる。
頼まれごとなど気にせず、立ち去ってしまえたらどんなにいいだろう。
『
――
”なにか”は、これからだ』
『え?』
『
……
取りあえずこれを持ってろ』
転入生は一方的につぶやくと、カナの手に無理やり何かを書き込んだノートの切れ端を、渡してきたのだ。
ぞっとした。
書かれていたのは、おまじないのような落書き。
固まるカナのことなど構う様子もなく、よれた紙を押し付け、突き刺さる数名の視線の中にカナを残して行ってしまう。
まだふたりだけの方が、マシだった。こんなこと、誰にも知られたくない。
さり際には家にも行くようなことをほのめかされ、後日、いくぶん誇張された内容を知った友人たちの方が、カナよりも怒っていた。
・
・
・
「
……
ああいうの、困るって言ったら『そうか』だって。でもあれからは本当に何も言われてないよ? ふたりに相談してよかった!
そろそろテストでそれどころじゃなくなるし
……
あっ! 漢文のノート、先週のぶん写すよね? ノート新しくするから、このまま貸しちゃうね」
「うそ! 持ってきてくれたの?? 助かる」
「うん。あの先生出題範囲広くて、やんなっちゃうよね」
「ほんと~~選択科目誤った~~って思ったもん」
だいじょうぶ。
だいじょうぶだ。
声はふるえていない。詰めていた息をちいさく吐き出す。
笑顔のままそっとふたりを見ても、カナが話題を変えたことに気分を害した様子もない。
「
――
あれ? カナ、今週も委員会?」
「うん。担当の先輩が、風邪ひいちゃってしばらく休みなんだって」
「え~~それ、カナが代わりにやってんの? 同じ学年からじゃない? フツー」
「うーん。でも座ってるだけだもん。テスト勉強してていいし、ラクだよ」
ああ、ああ。
(ずっと、みられてる)
せまい教室。
せまい空間のなかで向けられる好意に、みんな敏感だ。
(だいじょうぶ)
だいじょうぶ、
だいじょうぶ。
重たい鞄を抱え、校内の図書室へ逃げ込みながら、
カナはなんども、なんども頭の中で注意事項をなぞっていく。
叔母の母校であるこの高校は、県内でも指折りの偏差値の高さを誇る。
建物は古いが、祖父母世代に特にウケのいい名門だ。
同級生も落ち着いた子が多く、中学と違ってムダなことで騒いだりしない。
入学にあたっては叔母がわざわざ母との間に入って話をつけてくれた。
いまも、カナは叔母の家から通わせてもらっているのだ。
失敗したくない。
失敗したくないのに。
例の転入生からの刺さるような視線は、話をしてからも変わっていない。
小学校。中学校。ずっと、ずっとそうだ。
カナはこうした『少し問題のある子』に異様に懐かれる。
『
――
秋川さんが、教室で手助けしてくれるからほんとうに助かっているんですよ』
担任からそう言われることを、母はよく思っていなかった。
『何をやってるの? 人のことにかまけてる場合じゃないでしょ?
お兄ちゃんと違って、アナタは自分のことすらちゃんとできないのに』
そうやって誰にでもいい顔をして、ズルい子ね。
ほら、その顔。
昔から嘘つきで、ズルくて、お母さんを困らせて
――
、
『ねぇ、教えてよ。どうしてこんなに嫌な子になっちゃったの?』
ちがう。
おかあさん、ちがう。
『カナちゃんはお世話係だから、アレといっしょの班でいいよね?』
『なぁーまた教科書忘れたってさ、嫁がなんとかしろよー』
『やだぁ。せんせい公認のお世話係でしょ?』
ちがう。よくない。
いやだって言ったら、わらうくせに。
『え、いまさら?』『酷くね?』って。
騒いで、わらって、カナの気持ちなんてなかったことにするクセに
――
。
「
……
おい、」
「っ」
いつのまに、ここまで付けられていたんだろう。
落ちてきた声に、絶望する。
試験まえの図書室は、まるでそこだけ世界から取り残されたような静かな場所だ。
学校の近くに新設された、ここよりも大きな図書館があるので、みんなそっちを使う。
――
そう。
『普通は』そっちを使うのだ。
「えっと、貸出しならまず図書カードを
……
」
うつむけていた顔を、なるべく自然にみえるようにあげる。
本当に、用件が本のことだったらいいのに。ごつごつした白い手には、何も持っていない。
色素のうすい前髪のしたで、射抜くような瞳がカナを映し込んでいた。
お腹がずん、っと痛くなる。喉の奥からかすれた声が出そうだ。
「
――
渡した紙はどうした?」
「
……
ちゃんと、持ってるよ」
嘘じゃない。
あんな紙、どこにも捨てられない。
(はやく、はやく)
どうか、誰もきませんように。
どうか、誰にも見られませんように。
どうか、はやく離れてくれますように。
「嘘をつくな。カバンの中に入れっぱなしにでもしてるんだろう。僕は肌身離さずと言ったはずだ」
「それは
……
ごめんね。制服に入れてたんだけど、シワになったら良くないのかなって
……
」
「
――
僕は、肌身離さず、と言った」
話が通じない。
きっと向こうもそう思っている。
相手からしたら、カナの方が間違っているのだ。
そして、そのことに苛立っている。
(はやく
……
!)
こわい。
だれにもこんなところ、見られたくない。
いま目の前にいる相手に怒鳴られたり、何かをされることよりも、そっちに怯えている。
嫌だ。そんな自分が心底、いやで、いやでいやで。
だから、だからカナは
――
、
「
……
秋川さん! ごめんね、ひとりでやらせちゃって」
鈴の音のような、声だとおもった。
目の前の冷ややかなひとみが、一瞬そちらに向けられる。
薄暗い、古いつくりの図書館で、そこだけが明るくなったように錯覚する。
「テスト前なのに。早く帰りたいよね
……
未返却のリスト、いっしょにチェックしちゃお?」
どうして彼女が、いまここにいるんだろう。
鮮やかなブルーのファイルにそえられた、奇跡みたいに美しい桜色の爪をじっと見てしまう。
頬があつい。
だけど胸の奥があたたかなもので包まれたのは、いっしゅんだけだ。
(
――
みられた)
噂の、ちょっと問題がある転入生に絡まれてるところ。
カナがいちばん見られたくなかったひとに。
「
……
、
……
」
「カナちゃんのクラスの、転入生だよね? 図書室の利用は初めて?」
ぼそぼそと何かを呟く彼に、澄んだ声が重ねられる。
すぐにカナの隣に座った先輩の、白いシャツにつつまれた華奢な肩から、まっすぐな黒髪がさらりとゆれた。
校則はそこまで厳しくない。
明るい髪色の生徒も多い中、濡れたような艶を放つ黒髪は、先輩を見つけるさいしょの目印だった。
ああ、ああ
……
こんな状況でなければ、どんなに幸せだろう。
(ゆり先輩
……
)
芦屋ゆり。
名まえのとおり、透けるように色の白い、ほっそりしたひとつうえの先輩。
カナの憧れを、ぎゅうっとつめこんだような、カナの理想のひと。
きっとカナが困っていると察してくれた。
『カナちゃん』だなんて、途中からちょっと親しげな呼び名に変わっている。
――
仲の良い女の先輩と、処理しないといけないらしいファイル。
そういう風にみせて、少しでも早く相手を帰そうとしているのだ。
「
……
また明日、だ」
「またあした」
カウンター越しによこされていた視線が、ふっと外される。
明日もまたこの視線にさらされる現実に、沈みそうになる声をかろうじて堪えた。
こわい。こわいから、平気な顔しかできない。
(
――
ほら、ぜんぜん嫌がってない)
(
――
えー? このまえ『本当はいやだ』ってグチってたじゃん。うそつき)
ぐわん、と視界がゆれる。
忘れたい。こわい。いやだ。
思い出したくないことばかり、まるで昨日のことみたいに頭のなかでくり返してしまう。
ゆり先輩は、そんなこと思ってない。そんなひとじゃない。
じゃなきゃ、カナを助けたりしない。
こんなこと考えるなんて、なんてみにくいんだろう。
「カナちゃん
……
」
「せんぱい」
「
――
ふふ。さっきとっさに『カナちゃん』って呼んじゃった。
……
ね、このまま名まえで呼んでいい?」
とくっと。心臓がひとつ、おおきく跳ねる。
つやつやの黒いひとみが、カナを映してゆっくり細められた。
カナのだいすきなまっすぐな髪が、すぐ近くでさらさら、さらさらゆれている。
夢みたいだ。
ほんとうに、ゆめのようだ。
最悪なことと、幸運がゴチャまぜになって、あたまがうまく動いてくれない。
「せんぱい、」
このひとにダメだなんていえる人間が、いるんだろうか?
カナは夢のような気持ちのまま、ただただ小さく頷いたのだった。
ただの委員会の先輩と、後輩。
それでしかなかったゆりとの関係が変わった、きっかけだった。
・
・
・
その日は、めずらしく雨つぶがぽつぽつと窓を濡らしていた。
梅雨入りを果たしたものの、今年は異様に雨の日がすくない。
「~~~カナちゃん、カナちゃんってば!」
「なぁに」
「カナちゃん、さっきからずっとよんでるのに!」
「ごめんね。リン」
まるっこい黒いひとみが、下からカナを睨みつけてくる。
学校から帰ってずっと、最近はこんなやりとりがくり返されている。
ゆりに助けてもらってから、ずっとだ。
居間で勉強していても、ノートに向かっている間はジャマしてこないリンが、珍しくカナにまとわりついてくる。
小さなリンの相手は、帰りの遅い叔母の家に住むことの条件のひとつだ。
日中は、裏に進む近所のおばあちゃんが、面倒をみてくれている。
カナの祖母には生前とてもお世話になったのだと、カナに会う度に話してくれるのだ。
リンのことは、リンがいまよりもっと小さかった頃から知っている。
カナちゃん、と全身であまえてくるリンは、カナが緊張しないでいられる数少ない存在だ。
『カナちゃん! カナちゃん!』って。リンはいつだって何のてらいもなく、やわい身体を預けてくる。
中学や母のことで、擦り減っていたカナにとって、リンの存在はこころの拠り所でもあった。
「カナちゃん、なんかあった?」
「何かって、なぁに」
「リンがきいてるの!」
ゆりとのことは、リンにもまだ言っていない。
言葉にしてしまうのがもったい。もうすこしだけカナだけの大事なひみつにしていたかった。
「リンちゃん、あのね」
「やだ!」
「えっ、まだわたし何も言ってないよ?」
「だめ! やだ!」
「もう。
……
週末ね、おねえちゃんお出かけするから、裏のおばあちゃんちで待てる?」
「だめ! だめ、カナちゃん。やくそく、ちがう!」
なんで。リンといっしょにいないとダメってやくそくなのに。
だめなのに、って。ひっしに言ってくるリンは可愛い。
「ね? おねえちゃん、お昼には帰ってくるから
――
……
」
「だめ!!」
ふるふると首をふるリンに、カナも困ってしまう。
どうしよう。こうなってしまうと、難しいかもしれない。
「じゃあ、リンもいく」
「
――
リンちゃんも?」
「うん。そしたらいっしょだもん」
ゆりは、いいと言ってくれるだろうか。
見上げてくるリンの黒い瞳は、カナが『ダメ』だなんて言うとは思っていない。
リンの普段の聞き分けのよさは知っている。ふたりだけのときはこんな調子だが、誰かがいるときは人形みたいにおとなしい。
ジャマなんてしないし、探し物をするなら猫の手だって借りたいぐらいだ。
「ちょっと、聞いてみるね?」
「ちょっとじゃない、ちゃんとなの!」
「そうだね、ちゃんと聞くね」
――
そう。
カナがずっと探している本が、ゆりの祖父の書斎にあるかもしれないと判明したのは、昨日のことだ。
・
・
・
「
……
その本、原書が祖父のコレクションにあるかも」
「えっ、本当ですか? どこの図書館に問い合せてもなくって
……
!」
とくに原書のものは、とっくに絶版だ。
カナが口にしたタイトルに、ゆりはゆっくりと首を傾け、願ってもない申し出をしてくれたのだ。
「わたしのうちに来られる? 祖父の書斎を探すことになっちゃうんだけど
――
」
「あの、ゆりさんがご迷惑じゃなかったら
……
わたし、ほんとうにずっと探していて」
「ふふ。じゃあ決まり。学校まえのバス停で待ち合わせましょ? 学校以外で会うのは、初めてね」
夢みたいな先輩との逢瀬は、なんとあれからも続いていた。委員会の当番が終わっても、だ。
ゆり先輩、じゃなくって『ゆりさん』と呼び名が変わるくらいに。
先輩はやさしい。
だから、例の転入生に目をつけられてしまったカナを心配しているのだ。
(せんぱいなら
――
)
ゆりさんなら、きっとだいじょうぶ。
ゆりならばカナの家の事情をしっているし、本を探し出すまでのちょっとの間だ。
このときカナは、安易にそんなことを思っていた。
・
・
・
「
――
カナに来て欲しいの」
「え、っと」
「祖父の書斎、けっこう広くてね? 時間がかかりそう
……
でもふたりで探すの、たのしいだろうな」
「っあの、ゆりさん。わたしまえに話した通り、叔母にはすごくお世話になっていて
……
リンのことを頼まれてるのも
――
」
ゆりに話したのだ、ぜんぶ。
中学時代のことも、親とのことも。ゆりは、最後まで途切れることなくきいてくれた。
『
……
カナちゃん、いままですごく、すごく頑張ってきたんだね』
こちらを見つめ、静かな声で。
うつくしい顔をうつむけて、白い手でそっとカナの手を取ってくれた。
瞳の表面がゆれる。
まっしろな指先は、すこしふるえていた。涙が滲むほど、カナはうれしかった。
『カナちゃん』
『カナちゃん、カナ
……
』
『
――
カナ、わたしには甘えてね』
いつのまにか『カナ』と呼ばれていた。
でもちっとも嫌じゃなかった。
カナを消費してきた人たちは、カナが嫌だっていってもやめてくれなかった。
ゆりは、ゆりだけはカナの話をさいごまで聞いてくれる。
叔母やリン以外でそんなひと、初めてなのだ。
うれしかった。
大げさかもしれないけれど、救われたと思った。
「カナが欲しい本だもの。わたしがいっしょに探してあげる」
ゆりは
わたしのために何かしてくれる、ひと。
「カナ、おねがい、ね?」
こんなにうつくしくて、
こんなにカナに一生懸命になってくれるひとを、カナはしらない。
「ゆりさん
……
」
いったい誰がこのひとを、裏切れるのだろう。
いったい誰がこのひとに、そむけるのだろう。
「でも週末って。カナ、話しちゃったのね?」
じゃあもう、きょう。
きょうじゃないと。
きょう。いまから、うちに
――
、
「ね? カナ」
それはカナにとって、ぜったいに抗えない言葉だった。
・
・
・
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