月まで届けよ摩天楼。言葉の通り、天を摩るかのような高い高いビルが、奇形になるほど増築され続けるその天空都市は、まさしく不夜城であった。月の支配する時間になれど、人々は空を見上げず、眠りもせずえっちらおっちら働いては、遊び歩いては、思い思いの時間を過ごしていた。
最も大きな表通り。まるでレッドカーペットのように、摩天楼たちが道を開けるその隙間、人々の往来は盛んで、脇道のショーウィンドウを眺めながら歩くめかし込んだ者もいれば、それらには一切目をくれず足早に駅に向かうスーツを着込んだ者もいる。それぞれが、それぞれの目的や思惑を持って歩むその道に、「ねえ、見て!」と小さな歓声が上がった。それにつられて、またつられ、人々がふいに空を見上げれば、そこにあったのは、ビルの谷間を悠々と泳ぐ、光り輝く金魚の姿。それが何なのかを知る人々は、次々に歓喜の声を上げ、紙張りの金魚へと手を振り、その上に立つ幼き影の名を叫んだ。
ポン、と。鼓の音が響き渡ったと思いきや、ショーウィンドウもネオンの看板も、摩天楼や月ですらもが闇に包まれ、人々は胸をつく衝動のままに声を上げた。閉ざされた闇の浮かぶ金魚が道の端へと辿り着いたその時、金魚の影は飛び上がり、そして人々の前へと降り立った。細く、小さなその影は、黄色の薔薇の羽織を纏い、その顔はふっくらとした女の顔を、面をかけ、扇子をぱっと開いては、緩やかに、淑やかに、足をひとつ踏み出した。その後をふよふよと追う、ふたつのロボット。鼓の音と、笛の音を奏で、その足取りを彩る。
人々はその足取りを止めることもなく、けれどその姿を捉えんと、カメラを一斉に向けた。老若男女が道の中心へと視線を向ける中、その福を我が手に収めんと、赴く欲のままに、押し合いへし合い、怒号が上がった。あっという間に殴り合いに発展しそうになったその瞬間。魔法のように隣に立つもうひとりの存在にも気づいた。巨大な筆を振るい、通りを包む黒い霧へと色を載せていく屈強な、青い髪の男。にやりと笑って、喧嘩の中心に乗り出しては、そこには小さな魚の群れができていた。
「恋も喧嘩もなんとやら…つっても、祭りはみんなが楽しんでこそだろ? 他所に迷惑はかけんなよ」。光り輝く魚の群れにか、それとも突然目の前に現れたその男にか、すっかり巻かれた喧嘩はしぼみ、代わりにまた違った毛色の歓声が上がっていた。流る水のように、男は足取り軽く開かれた道へと躍り出ては、先ゆく子と肩を並べ、息を合わせ、その行進を続ける。
黒き世界に色が広がるたびに、美しき水の流線が描かれるたびに、黄色の花びらが水面に舞うたびに。人々はつい、足を止め、足を向け。その渦の中心を追いかける、追いかける。未来と過去の交わる渦は、歓びを、徐々に熱狂へと変えていく。そのたびに、足取り早く、謡いも早く。道の脇にて耳を澄ますも良し、渦の中心にて共に声を上げるも良し、あるいは変わらず目を向けず、走り去っていくのも良し。道を開くそれはあらゆる人々を許容し、ただ楽しむそれだけのために、謡い、踊り、奏で、彩られていく。
迎え迎えよ摩天楼。入り混じる人々、互いが何者かを知らずとも。ただ熱狂に身を任せては、悦楽を城下に花開かせた。
これこそ、芸術集団【P.U.N.K.】のゲリラライブ。これこそ、天空に浮かぶ不夜城の名物。変わらぬ味気ない日常に、数字には表せぬほどの活気をもたらす、過去からの、そして未来からの恵みである。
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