饂飩粉
2025-04-16 12:52:19
10322文字
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木漏れ日の下で

 ハートキャッチプリキュア!の、月影ゆりと来海ももかのGL二次創作です。
 以前pixivに投稿したものをこちらに再掲しています。
 アニメ本編終了後の後日談的な位置付けなので、ちょいちょい本編終盤の言及が入ってますがガッツリネタバレというわけではないはず……。




「あのね、ももか、今までずっと隠していたんだけど――

「待って」

「えっ。でも」

「いいの。言わなくて。聞きたかったことは、そのことじゃないの」

「どういう、こと?」


 聞いても、ももかは答えようとしない。代わりに、さっきまで私が座っていたベンチのスペースをぽんぽんと叩いている。

 話を聞くには、ももかの言うとおりにするしかないらしい。促されるままに、再び腰掛ける。

「今ので、ゆりが私に何を隠してるかは、もうわかったから」

「…………

 ももかの言葉に、目を伏せる。膝の上に乗せた手を、キュッと丸めることしかできない。

……ゆり、こっち向いて」

 そうしていたら、突然ももかの両手が私の頬を挟んだ。強引に彼女と向き合わさせられる。
 また関係のないことで、心臓が脈打つ。今にもホウセンカの種のように、弾け飛んでしまいそうなくらいに。

「ねえ、ゆり」

 ももかの表情は、先ほどまでとは打って変わって、不安に満ちているように見えた。

「私、ゆりの秘密を聞かされるの、少し怖いんだ」

「どうして?」

「話すと、結構長くなるかも」

「…………

 私は無言で頷いた。

 ももかは視線をあちこちに向けながら逡巡し、やがて口を開いた。

「……まず、私にとってゆりは、かけがえのない存在なの。こんなこと言うの身勝手かもしれないけど、ゆりの前では現役高校生モデルとか元トップモデルの娘とか……そういう肩書きのない、ただの来海ももかでいられるから」

「……

 私も同じだと言いそうになるのを、ぐっと堪えた。

「だけど、私がただの来海ももかいられるのは、多分、ゆりも同じだよね。ゆりも、ただの月影ゆりで、いてくれているからだよね」
 私は、黙っていることしかできない。
「だから、これは私のわがままなの。せめて私の前では、ただの月影ゆりっていう一人の人間としていて欲しいっていう、わがまま」

 ももかの話を聞きながら、私は彼女の抱えていた孤独を想った。

 ももかは、現役高校生モデルという肩書きのせいで周囲から浮いてしまっていた。その点だけは、きっと本人の望んだことではない。

 私がももかの隣にいられたのは、お互いが同じくらいの高さに浮いていたからだ。
 そんな私に、かつてプリキュアだったという大きな風船がついたらどうなるか。その程度のことで、今更私たちの関係は変わらないと強く言い張ることもできるだろう。きっと、ももかだって同じことを考えているはず。
 事実、ももかは既に私がプリキュアだったということに気づいている。

 ただ、それを私の口から聞くのを恐れているだけ。

「…………

 ふと考える。つぼみたち三人は、親しい間柄の者たちに事実を打ち明けているのだろうかと。あの時結晶化を免れた人々の中には、中等部の生徒も大勢いた。つぼみたちだけがいなくなったことに、気づいていないはずがない。

 いや、違う。
 問題は私自身の中にある。私が、ももかにプリキュアであったことを話したいかどうかだ。

「ゆり」

 またしても名前を呼ばれて、我に返った。
 どうやら、考え事に夢中になってしまっていたようだ。

「私にも、ゆりに言ってない秘密があるんだよ」

「え?」

 ももかにも秘密がある? そんなこと、今まで気にしたこともなかった。

 改まって言われると、どう答えればいいのかわからない。

「でも、それはまだ秘密。誰にだって、胸に秘めておきたいことの一つや二つ、あるものでしょ?」
「ももか……

 私は、"こころの花"のことを考えずにはいられなかった。

 人が誰しも心の中に咲かせている花——"こころの花"はその人自身を象徴し、感情によって時に咲き誇り、時に萎れてしまう。

 かつて地球を襲った侵略者"砂漠の使徒"は、萎れたこころの花を人々から吸い出し怪人デザトリアンに変えて侵略の尖兵とした。"こころの花"を奪われた人は小さな水晶玉となり、"こころの花"が完全に枯れてしまうのと同時に元には戻らなくなってしまう。

 デザトリアンは、"こころの花"が萎れた原因となった苦悩や悲痛な叫びを撒き散らしながら暴れ回る。そんなデザトリアンとなってしまった"こころの花"を浄化させることができるのは、プリキュアだけだ。

 ももかも、一度は砂漠の使徒によって"こころの花"をデザトリアンに変えられたことがある。それは、世界が砂漠に覆われた時に無事だったことからも明らかだが、その当時のことを、私はよく知らない。
 しかし私の知らないうちに、ももかは"こころの花"が萎れたことがあったのは事実だ。それは恐らくは、つぼみたちが助けたのだろう。

 ももかの"こころの花"が枯れてしまった理由。
 私は、知りたくない。

 だからーー


「……わかった。私の秘密は、教えない」

 自分でも驚くほど容易く、言葉が出てきた。

 互いに秘密を抱えていようとも、私たちの絆は変わらない。

「じゃあ私の秘密も、ナイショ」

 ももかはにんまりと笑う。誌面で見せるそれとは違う、皺ができるほど満面の、力強く咲いた花のような笑み。

 この笑顔を見られるのは、もしかすると私だけかもしれないなんて、思わず自惚れてしまう。


 世界は平和になった。私はただの月影ゆりという一人の人間だ。だからどんなことに油断しても、自惚れてもいい。
 なんせ世界を救ったのだから、少しくらい心の贅沢を楽しんでもいいはずだ。

「いつか、秘密を話す時が来るかもしれない」

「だけどもしかすると、来ないかもしれない」

 ももかの笑顔につられて、私の頬も緩む。彼女の人を惹きつける魅力は、天性のものだろう。

 風が吹く。体を包み込むような、暖かい春の風。葉桜が揺れて、私たちを照らす木漏れ日が踊っている。

「ゆり、肩貸して」

「だめ。たまにはももかが貸して」

「えー! 別にいいけど……

「じゃあ、お邪魔します」

「え、あ、ちょっ……」

 ももかの肩に、頭を預けてみる。髪の毛がももかの頬に触れる。

 ああ、誰かに寄り添うって、こんな感じなんだ。

 ももかに、私の匂いは伝わっているだろうか。
 こうしていられる時間も、あと一年のうちにどれだけ残っているかわからない。


 私は、高校を卒業したらお父さんが在籍していた京都の大学に進学することを決めている。そこで植物学を学んで、いつかは必ず薫子さんの植物園で働く。希望ヶ花市に帰ってくる。

 だから、ももかとは絶対にまた会える。

 私はそう信じて、今この瞬間、ももかと直に触れ合っているこのひと時を、大切に噛みしめて、目を閉じた――