mishiadd
2025-04-06 10:13:29
9205文字
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月にピアス

【現パロ/本編軸】『品行方正な宮本伊織さんがとんでもないところにピアスをしていてほしい』という謂れのない性癖の展覧会(伊織さんのピアスがバレるシチュエーション3連発短編集)※性癖の都合により剣陣営はデキてません【剣陣営】


3.『ホテルで同室になった親友の臍ピアス』



タケルが自分のベッドに腰かけてテレビを見ている間、伊織がシャワーを浴びている音がする。

剣術に関する国際的な祭典が開催されるということで会場で演武を披露する役割を仰せつかり、こうして異国の地で主催者側の招待により――自腹であれば恐らくは宿泊は叶わぬであろうグレードの――ホテルに、ふたりで一部屋とはいえ泊まることができている。
空港で購入したこの国の名物であるらしい甘い練乳をたっぷり入れたコーヒーを片手にチェックインしてみれば、『ウェルカムフルーツ』と称して大きな木彫りのボウルに南国のフルーツが山盛りにされてテーブルの上に置かれていたので、食べ方もよくわからないまま、まずはその場に置かれていたナイフでドラゴンフルーツなるものを伊織が適当に切り分け――タケルが「瑞々しくて甘くて美味い」とそれに食らいついている間に、飛行機での長旅の疲れを流すため伊織はシャワールームに入っていた。

ホテル側の気配りかなぜかNHKは入るものの、とはいえこの揺蕩うような亜熱帯の気候の中で「今日の日経平均株価は」もないだろうと思い、適当にザッピングする。結果、異国の言葉を話す異国のアナウンサーが真剣な顔をしてなんらかの政治問題を報道しているチャンネルを探し当て、何を言っているかわからないまでもそのままつけておいてみる。しばし眺めているとなんとなく何を言っているのかわかるような気がしてきたが、それも恐らくはただそういうつもりになっているだけなのかもしれなかった。

「セイバー、風呂を先に貰ったぞ」と体から湯気を立てながら伊織がシャワールームから顔を出す。四方がガラス張りのシャワールームでそのままでは中の様子が丸見えになるかと思ったが、一度使ってみると湯気でガラスが曇り、うまい塩梅で目隠しになるのだから大したものだった。
「ん、」とバナナの皮を剥きながらテレビ画面から目を離さずにセイバーが生返事をすると、すたすたと伊織がスリッパを突っかけたままこちらへ歩いてくる音がする。「――ほら、おまえもシャワーを浴びてしまえ、セイバー。明日の朝は早いだろう」と急かしつつ、タケルが彼のためにわずかに残しておいたドラゴンフルーツを一切れ口に運ぶ。ほとんどが水分で出来ているような瑞々しい甘さが風呂上りに丁度よく、「ふむ、」と軽く頷いた。
伊織の小言に口うるさいとばかりに眉根を寄せたタケルが、ようやくテレビ画面から目線をはずして伊織を見る。

「わかったわかっ――イオリ!?」

素っ頓狂な声をあげたタケルに、「ん?」ともう一切れのドラゴンフルーツにフォークを伸ばしていた伊織が顔を上げる。「きみ――それ」とタケルに指さされたあたりを見下ろして、「ああ」とあっさりと頷いた。

湯を浴びてほんのりと血色のよくなった素肌に白いバスローブを羽織り、持参したジーンズのみを穿いていた。バスローブの合わせ目からわずかに引き締まった細い上半身が覗いており――その臍のあたりを、タケルが指さしている。

「ああ――これ」
「『これ』ではない! き、きみ、それ――そんなところにピアスなんかしてたのか!?」

うっすらときれいな筋の入った腹筋の真ん中あたり、すっと縦長に刻まれた臍の上方に――飾り気のない無骨な銀色の金属が嵌っている。
「そんなに驚くようなことだろうか」とでも言いたげな目でセイバーを見下ろした伊織が言った。

「昔、体幹の重心を意識するためにあけたんだ。子供が自転車を練習するときの補助輪みたいなものだよ」
「こんなことを訊くのもアレだが……その、怒られなかったのか?」

師匠ようふには」、という言外の言葉に、伊織がわずかにばつの悪そうな顔をして目を泳がせた。

「まあ……な。それなりには。――ズルのようなものだし」
「そういうことでもないような気がするのだが〜〜」

ある日突然愛弟子むすこの臍に金属が嵌っていて、かつ本人に大真面目に「これで体幹の運び方を鍛えます」などど言い放たれたときの彼の養父の心中を想い、タケルがこめかみを揉む。――それから、はた、と思い至る。

「いや待て。……待て待て待て待て待て。――きみ、もしかしてそれをずっと嵌めているのか?」
「? ……とは」
「ずっと嵌めっぱなしにしているのかと訊いているのだ。普段の生活でも、学業や仕事の間でも――鍛錬中や、試合中や――演武中でも」
「当然だ。普段付けたままにしているのは正直に言ってしまえば『無精』だが、剣術の間は意識して付けている。そもそもがその為のものだ」
――……

タケルが絶句し、手に持っていたバナナの果実が自重で折れそうになる。「おっとと」とそれを伊織が慌てて拾い上げ、「セイバー、物を食べている最中に気を逸らすな」と小言を言ったが、タケルの耳にはまったく聞こえていないようだった。

「きみ――あんなにかっちりした身なりをしておいて――あれだけ澄ました顔をしておいて――

背筋のすっと伸びた美しい姿勢を保ちながら、襟元のきっちりと締まった品行方正然とした和装の着こなしで、清廉そのものといった表情で剣を振るいながら――皺ひとつない着物のその下では、臍に銀色に鈍く光る太いピアスを付けている
「どうしてこんなに強く握りしめたりしたんだ、すっかりぐちゃぐちゃになってしまっている」とバナナの残りの皮を剥きながら溜息をついた伊織に向き直って、タケルが言った。

「きみ、今後私にやんちゃをするなだのなんだの金輪際言うんじゃないぞ」
「うん?」
「説得力がない。きみにだけは言われたくない。――明日きみの演武を観る人々が心から気の毒だ、まさか目の前の廉潔で優雅然とした若い剣士が着物の下にこんなエグいボディピアスをしているなどと夢にも思わぬだろうよ」
「うん? うん」
「きみ、絶対に他所で服を脱ぐんじゃないぞ。他人の夢を壊すな。あるいは他人のヘキを壊すな」
「セイバー、先程から妙な俗語ばかりでおまえが一体何を言っているのか――
他所で服を脱ぐな。わかったな」

真剣な顔で強く言い含められ、実際タケルの言い分の半分も理解しないまでも、場をおさめるために伊織が「わかった」と同意する。その顔をじろりと数秒たっぷり睨みつけて検分したあと、「まったくもう」とタケルがぷいっと不貞腐れたようにそっぽを向く。それから、ボウルに置かれていたローズアップルをくさくさと拾い上げ、苛立ちまぎれにシャリリと噛み千切った。



翌日、演武を終えた伊織が演者共同控室で着替えようとしたのを全力で騒ぎ立てて止めるタケルの姿が目撃され――なぜか彼の方が「友人の肌を見せることを異常に嫌がる過保護な友」扱いされてしまい、非常に不名誉なレッテルを貼られていよいよ不貞腐れていた――とか、なんとか。――であった。






3.『ホテルで同室になった親友の臍ピアス』・了



(月にピアス・了)