保科
2025-04-02 19:50:17
4028文字
Public まほ箱系(オールキャラ)
 

四月馬鹿:蛇足

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蛇に足生えたらかっこいいだろうがよ

あー……と、疲れた様子のチカちー青年――同じチカちーだと混乱するから、内心でそう呼ぶことに決めた――が、頭を掻きつつ嘆息する。
あたしは背筋を伸ばしながら、続く反応をこわごわと伺う。
「んじゃあ、まあ、お客さんの言い分を整理すると、だ。
お前は、自分こそが須方スナオであり。俺達が女のはずだと主張する、と?」
「む、無理筋だけどそうじゃん……
「いや無理筋にも程があんだろ」
そんなのは、重々承知だった。とは言えジタバタしても仕方ないと、あたしはひとまず自分の境遇を二人に伝えることにした。もしこの事態が、想像通りの奇跡の産物であるのならば――多分、あたし如きにできることは特にない。人はこれを自棄っぱちともいう。
「な、なあチカちゃん、オレ達、実は女の子だったとかないよね?……え、実は可能性あるのかな!?」
「180超えてる野郎にその可能性を見出すのは限りなく厳しいんじゃねーか……?」
ひびきち青年がおずおずと口にするのに、チカちー青年が一言ではねのける。
確かに、ひびきち青年はデカい。たぶん、あたしが知るクラスの男子の誰よりもデカい。チカちー青年は、並んでいるのを見るとひびきち青年より少し小柄だけど、特別小さいというわけでもなさそうだ――少なくともあたしよか一回りはデカい。なんだコイツら揃いも揃ってにょきにょきと。
見下されてばかりのあたしが睥睨していれば、チカちー青年が肩を竦める。
……まあ、仮に、お前の言うことが真実だったとしてだ。
それで?じゃあ、何だってここにいるんだ」
……それはあたしが知りたいっしょ」
……話になんねえな」
「うーん、困ったねぇ〜……
小馬鹿にしたように鼻を鳴らすチカちー青年は、おそらくあたしの話は信じてなさそうに見えた。まあ、普通はそういう反応になる――でも他に答えようがなかった。
一方、真摯に向き合ってくれているひびきち青年は腕を組むと、暫く目を瞑って。
ぽん、と手を打つ。
「じゃあさ、えっと……スナオちゃん?」
「う、うん。あたしこそはスナオちゃんじゃん」
――スナオちゃんの知る、女の子のオレたちってどんな子なの?教えてほしいな」
すっと膝を折り、あたしを見上げるようにしながらひびきち青年が微笑んだ。
その、ホストクラブ然とした手慣れた所作に、思わずドキッとしていれば。
…………おい、ヒビキ」
ぐい、とチカちー青年がその首根っこを掴んで引き上げた。ずろろ、と猫の胴体みたいに伸びていく。
「ぐええ」
「だぁから!お前、そういうのマジでやめろよ!
お前がそんなんだから、お客さんから『チャージ料はいくらですか?』とか『指名って受け付けてます?』とかワケの分からんこと聞かれんだよ!」
「えー……?でもオレ大きいし、屈まないとさあ……
「ここやっぱホストクラブだったんじゃん……!」
「純の付く喫茶店だボケ!」
怒鳴られた。メイド服を着ながら『ウチはコスプレ喫茶じゃね〜!』と叫んでいたチカちーのことを思い出す。得てして悩みは似通うらしい。
「つーか。女の俺達がどうとか聞いてどうすんだよ……?」
「でもさでもさ、チカちゃんも気になるでしょ?
それに、もしかしたら……このスナオちゃんが自分の世界に戻る手がかりになるかも!……とか?」
自信なさげではあったけれど、確かに、とあたしは納得する。手がかりがない以上、いろいろ共有すれば何か分かるかも知れない。
「ったく、適当言いやがって……
後、チカちゃん言うな」
「あはは、ごめんごめん」
悪びれた様子のないからっとした返事に、はぁ、とため息をつくと。腰に手を当てたチカちー青年が、あたしをふてぶてしく睨んでくる。なんだよう、と見返せば。
「それで?
……どうなんだよ」
………
こォのツンデレがよ……
ジト目を向ければ、不満げに鼻を鳴らされる。
指摘してもよかったけど、未だこのボーイズな二人との距離感を掴みかねたままだ。追及は控え、質問に素直に答えることにした。
「そうさねえ……
……まずひびきちは、だいたいあたしとおなじ位の背丈の女の子だよ。
髪の長さも、こっちのひびきちと同じくらいかな。
天真爛漫で料理が上手!きっといいお嫁さんになる子だぜい」
「へー……!そっちのオレ、料理得意なんだ……!」
キラキラ、目を輝かせるひびきち青年の後ろで、なぜか、したり顔のチカちー青年が何度も頷いていた。こっちのチカちーはどういう立ち位置なの?
「じゃあじゃあ、チカちゃん……チカギは?どんな感じ?」
「チカちーはねえ、んーとね……ツインテ凶暴やってられっかガールじゃん」
「へー……!」
「おい待て、女の俺についての説明、色々雑じゃねえか!?」
あたしの完璧な回答に対し。チカちー青年がギャースカ噛み付いてくるのを、ひびきち青年がどうどうチカちゃん、と宥めている。
見覚えがある光景なのに違和感がすごい。あたしが絶妙になじむのも怖い。
「あー、あと、こんな感じの事を言うとおんなじように噛み付いてくるじゃん」
「そりゃ随分気の合いそうなこった!」
多分、普段のチカちーだったら容赦なく一発叩いてきそうなラインで、チカちー青年はぐっと拳を堪えている。実質初対面の相手に対する配慮があるらしい。危なかったじゃん……
「あ、ツインテ……ってことは、女の子のチカちゃん、ツインテールなんだ?」
こちらのやりとりが一段落した後、そんなひびきち青年の確認に、あたしはしっかと頷く。
「そーそー!めっちゃ可愛い!あれはチカちーの唯一無二の可愛げよ」
「へー……見てみたいなあ……ツインテかあ……
「この流れで俺を見るな」
しっしっ、と視線ごとひびきち青年を追い払うチカちー青年は、確かにツインテールが似合わなそうだった。それはそうだ。
「にしても、ツインテールねえ?
なんつーか、俺の割にはカマトトぶってんのな」
「そんなこと言うなよー。
かわいいよ?ツインテって。きっと似合うよ〜」
「俺の髪を結ぼうとすんな」
手を伸ばすひびきち青年を、継続して追い払うチカちー青年。その疑問は、昔あたしも抱いたものだ。チカちーの性格だけ抜き出したとき、ツインテそのものは確かにツンデレのテンプレートではあれど、その髪型を彼女が好むかと言われれば否だろう。
「んー、あたしもよくは知らないけどさ。本人もお願いされたから不承不承でやってるっぽいじゃん」
「は?そんなの誰に、――……
「?」
……いや待て、いい、説明要らねえ……
隣に立つひびきち青年を見て。チカちー青年が、何か察したように額を抑えた。理解が早いのは、どちらも同じチカギだからなんだろうか。てかこっちの2人もやっぱそういうアレ?
「え?どういうこと?」
「えーとねえ、ひびきちが――
「言わんでいい!てか言うな!」
「えー!」
「えー、じゃねえ!……ああもう、マジでスナオだなお前……!」
「ね、オレも思った。なんか、話してるとすっごいスナオくんだなって!」
二人が揃って口にするのを聞いていると、少し、こっちのあたしってやつに興味が出てきた。
「そりゃまあ、あたしこそがスナオちゃんですし。
……ところで、こっちのあたしはどんなヤツなの?」
「そうだね〜」
「そうだなあ」
うーん、と、二人は少し考えて。
「スナオくんはね、明るくて元気で、面白い友達だよ!」
「ほうほう……!」
ひびきち青年からはそんなコメント。いや照れますな。思わずぺこぺこ頭を下げる。
「あ、あれだ。胡散臭い関西人から関西弁抜いたやつ」
「それもう胡散臭いだけじゃん!?」
チカちー青年のコメントは最悪だった。シンプル詐欺師じゃん!
「まあ、ほぼお前って感じだよ。
……え、もしかしてマジでお前、女のスナオなの?」
「ド失礼だし最初からそう言ってるじゃんよこのツンデレヤロー!」
「だぁからツンデレってなんなんだよ!!」
「わー!スナオちゃんもチカちゃんも落ち着いて!」
「止めるなひびきち!」
「チカちゃん言うなッ!」
喧々囂々、チカちー青年とあたしの間に入ったひびきち青年が両手を広げてストップ――するまで数分。ギリギリ血を見るところだった……
なにはともあれ、一通り情報共有が済み。
一息つくように降りた沈黙を破って、おそるおそるひびきち青年が口を開く。
「改めて、だけど。
スナオちゃん、この後どうする?
さっきも伝えたけど、もうお店も閉める時間だから……
「でも、行く場所もないだろ」
ウエイター2人に、差し迫った問題を突きつけられる。そう。なにはともあれ、今日の寝床の確保が必要だ。
「んー、それなんだよにゃー……
うーん、と考え込む。ポッケに財布はあると思うけれど、大した額じゃない。身元不明であれ、一先ず教会に行くべきか――見知らぬ世界で一人というのは、なかなかに困ったものだ。
こんなにも荒唐無稽な話なんて。そう、夢であればどれほど助かったことか――

―――

「あれ、夢じゃんこれ?」

曰く。
夢というものは、覚める時は一瞬だ。





――――――おい、スナオ!」
「ひょわっぷ!?」
がたたっ、と『突っ伏していた上体を起こしてのけぞる』。正面に、チカちーがいる。アーネンエルベのウエイトレスの格好をした、緑のツインテールの女の子。
荒い呼吸のまま呆然とするあたしの前で、チカちーが、漫画本を振りながら嘆息する。あたしがさっきまでここで読んでいた、イケメンがパラダイスなやつ。
「お前なぁ、疲れてんならこんなん読んでないで、ちゃんと家で寝ろって」
「ち、チカちー……?」
「あん?なんだよ、そんな化物見るみたいな顔で……
や、や、
「やったーーーチカちーが女の子だーーーーー!!!!!!!」
「いきなり失礼かましてんじゃねえよ!?」
ぶっ叩かれた。