ゑ/圓堂
2025-03-27 00:45:48
5357文字
Public 月詠サーバー(十五夜本丸)
 

【刀剣乱舞】ちょもさに♂Twitterログ01【山鳥毛×創作男審神者】

Twitterに文庫ページメーカーで上げた小話まとめちょもじゅ編。2024年に上げたものをまとめました。
眼鏡珈琲ネクタイの日小話『pretty fetish』
ハロウィン小話『今日からいつかの1031へ』
ポッキープリッツの日小話『十五夜本丸、11月11日の八つ時。』
の三本立てです。
『十五夜本丸、11月11日の八つ時。』だけ初期刀加州清光視点のお話になってます。

【pretty fetish】

死にそうなほど暑い夏がやっと終わって、からりとした気持ちのいい風が吹く季節になってきた。昔から一年で一番好きなのは秋だ。本丸に来てからは他の季節に対してもそれなりに楽しみを見出すことが出来ているけれど、それでもやっぱり一番は秋だ。情緒がないかもしれないけれど、どこか一年間だけでいいからずっと秋だったらいいのに——なんて我儘を、俺はずっと心に秘めている。

俺は今日、やっと重い腰を上げて衣替えに取り掛かった。この十五夜本丸で生活し始めて数年、知らない間に服が沢山増えていたことに、今更ながらに気付く。大体原因は、俺が始まりの一振りとして選んだ加州清光と、初めて鍛刀で顕現してくれた乱藤四郎だ。この二振りはおしゃれなことが好きで、自分たちが着飾るだけでは飽き足らず、俺にもおしゃれでいるよう強いてくる——というと、俺が嫌々従っているような感じになってしまうけれど、そんなことはなく、寧ろ助かっているくらいだった。現世での生活環境では服装のあれこれなど知りようがなかったし、ここ月詠サーバー内では仲良くしてくれる人も多くて他人に会う機会も沢山あるから、出来ればそれなりに小綺麗でいたい。それに——それに、そう、今、何故か恋愛的な意味でお付き合いをしている近侍の山鳥毛のためにも、みすぼらしい姿でいるわけにはいかないのだ。

衣装箪笥の中に吊り下げられた上着類を改めて検分してみると、山鳥毛から贈られたものもそこそこある。山鳥毛は顕現してもう随分長い年月が経っているし、先代審神者や十五夜本丸の政府担当者の三上さんなど、人間との関わりも長く深い。だからか、俺よりもずっとファッションには詳しい。勿論センスもある。俺の好みから外れるような独りよがりな選び方も絶対にしない。だけど、俺が着るには高級すぎるんじゃないかと思うような服を軽々しくプレゼントするものだから、俺はなかなか頻繁には袖を通せないでいた。どこかふたりで改まって出掛けるような時に——とはいえ、審神者と近侍という立場上、軽率にそんな機会を増やせるはずもなく、結局箪笥に仕舞ったままの時間の方が長かった。

(服からすれば、ボロボロになるくらい沢山着てもらった方が嬉しいのかな)

元は無機物だった存在と長く一緒に暮らしているからか、俺は年々自分の持ち物に対してそういった思考回路になることが増えた。物目線——というか、そういう考え方は審神者になると自然と身に付くものなのだろうか——俺はクリーニングタグが付いたままのジャケットを持ったままぼんやりと思う。そして、そのうち満月本丸のみちさん辺りに聞いてみるのもいいかもしれない、と頭の中の話題ストックにそれを放り込んで、俺は次の衣類に手を掛けた。

——あ」

一人きりの部屋で、思わず声が出た。
山鳥毛からもらったジャケットの隣、箪笥の一番奥に押し込まれるように吊るされていたのは、俺が最後に現世で着ていた服——高校の制服だった。思わず引っ張り出して、畳の上に広げてその前に座り込み、まじまじと眺めてみる。
何だか酷く懐かしいもののように思える、ありがちなブレザーの制服だ。シルバーにも見える明るいグレーのジャケットと無地の白いYシャツには胸元に校章のエンブレムの刺繍が入っており、濃い緑の縞模様のネクタイの先端には校章のマークだけが小さく入っている。ズボンは濃いグレーのチェック柄で、膝の辺りが随分と擦れててかてかした質感になっている。膝をついて蹲るようなことが多かったからだろうな——と、今となっては何でもないことのように当時の記憶へと思いを馳せる。
制服に詰まった思い出はどれも嫌なものばかりだけれど、デザイン自体は好きだった。だから数年前の俺は、捨てずにとっておいたのかもしれない。あったことすら記憶から失われていた俺は、他人事のように考える。

――――着てみようかな」

敢えて思い付きを独り言として呟く。そうやって、普段ならすぐに自己否定して打ち消してしまうようなくだらない思いつきを、実行に移せるよう自分で後押ししてみる。
俺は無意味に辺りを見回し、念のため自室前の周囲にも誰も居ないことを確認して、部屋に閉じこもる。そして、実に審神者にスカウトされた高校の卒業式の日以来、久し振りに制服に身を包んでみた。
着てみると、知らない間に少しだけジャケットの袖丈やズボンの裾丈が短くなっていることに気付いた。この本丸に来てから、どうやら俺は少しだけ肉体が成長していたらしい。審神者になってから徐々に服が増えていったせいで全く気付いていなかった。何だか少しだけ、俺は嬉しくて誇らしい気持ちになる。

「そういえば——

今日の俺は独り言が多い。うっかりまた頭の中に浮かんだ情報を口から出力してしまう。
どうせ誰にも聞かれていないのだから、いいか——俺は思い直して、蘇った記憶に従って身体を動かす。普段から使っている先代審神者のおさがりの机の引き出しをあちこち開けてみて、記憶の通りのものを探し当てた。つやつやとした黒縁の、レンズの抜かれた眼鏡——これは少し前に篭手切江から譲ってもらったものだ。戦闘中にレンズを割ってしまったため、新たな支給品を頼むよう俺に依頼しに来た時に、捨ててしまうのは名残惜しいと彼が悩んでいたので、勇気を出して譲ってくれないかとお願いしてみたものだった。彼は俺の申し出を喜んでくれて、割れたレンズも外して伊達眼鏡に作り直してくれた。
俺は結構意外がられるのだけど、視力はそんなに悪くない。でも、だからこそ眼鏡に少しばかり憧れがあった。どこかのタイミングで身に付けてみたい——そう思いながら、なかなか機会が巡ってこず仕舞われたままだったのだ。
俺はそろそろと眼鏡を掛けてみる。顔面に、初めて感じる不思議な重みがある。しかし視界は変わらない。初体験の感覚に俺の胸は静かに弾み出す。
鏡で見てみよう、と思って、衣装箪笥の扉に備え付けられた上半身が映るくらいの鏡のもとまで行こうとした。その時だった。


「主、珈琲を淹れたから飲まないか——

こういう時に限って断りもなしにすいと障子戸を開けて入ってきた山鳥毛と、隠れる暇もないプラスチックのフレーム越しの俺の目が、ばっちりと合う。誰にも見せるつもりのない、ほんの好奇心でのお遊びを、よりにもよって一番見せたくなかった相手に見られてしまった──俺は顔一面に物凄い勢いで熱が集まるのを感じた。口からは勝手に、あの、とか、えっと、とかのよく分からない呻き声が漏れてしまう。様々な嫌な次の場面が脳裏に展開され、俺は目眩すら覚えた──けれど。

「主……その、格好は……

山鳥毛の顔は──俺から見ても、ときめいているように見えた。俺の一挙手一投足や服装など、自分の好みにヒットしたらしい時に見せる顔をしていた。山鳥毛的には、今の俺の格好はどうやら好みのど真ん中だったらしい。──意外だ。俺は思った。

「や、あの、高校の制服を見付けて……着てみようかな、って……
「その眼鏡も、現世で身に付けていたのか?」

言いながら山鳥毛はすぐに俺の方に近寄ってきて、俺の顔をその大きな両手で包み込む。内番服姿の、サングラスを外した直の赫い瞳が、今はうっとりと俺を見つめている。俺はドキドキするよりも、何だかおかしくなって笑ってしまった。

「ううん、これは篭手切からおさがりを譲ってもらった。……似合ってるかな」
「とても、……とても良い。本当に……

誰にも見せたくない──そう呟きながら、山鳥毛はとうとう俺を腕の中に閉じ込めた。気に入ってくれたのなら今日一日この格好で居てみようかとも思ったけれど、それはどうやら叶いそうにない。
だけど、山鳥毛の可愛らしい独占欲に触れられたのは純粋に嬉しい。俺は衣替えそっちのけで、山鳥毛の広い背中に手を伸ばし、暖かな胸に眼鏡の顔をぐいと押し付けた。