Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
11155.
2022-07-25 22:15:16
5751文字
Public
Clear cache
次の次の約束も
うちよそCPの謙蛍話。二人で出かけたある年の夏。二人が交わした約束は。
1
2
次の次の約束も
花火を観に行かないかと誘われたのはいつぶりだろうか。ふとそんなことを考えていると気遣ういつもの声が聞こえる。
「足痛むのか?」
歩く砂利道を見つめていた顔を少しあげる。日が陰り始めており周りが薄暗くなっているが、迷うことなく声のする彼へと視線を向けた。彼女はなんでもないと慌てて口を開ける。
「そうじゃないの! 元気だよ! ちょっと考えてただけで
……
」
「無理してないなら良いんだが」
ふっと優しく笑う彼は何だが寂しそうに見えた気がした。いつもと同じように自分を気遣う声と表情なのに。
「そんなことないよ。むしろ謙おじさんの方が辛くない?」
大丈夫かと上から覗き込む彼女は彼、謙之介の微かな表情の変化がないかと見つめた。困った時にはよく眉間に皺を寄せているが何だかんだ言いながら最後まで付き合ってくれる、そんな彼が隠していることがないかと。
「俺は平気だ。蛍ちゃんがゆっくり歩いてくれてるから」
右手に持った杖と足を一歩前に出す謙之介。蛍は彼の早さに合わせていつもより狭い歩幅でゆっくりと歩いている。
「一緒にいたいですもん。当たり前です」
「っとに、そう言うのはさらっと出てくるよな。蛍ちゃんは」
なんのことだろうと首を傾げる蛍の横で、謙之介は目尻が少し赤く染ったように見える。目から下を覆い隠すように手を添えてるが緩む口元が隠しきれていないようだ。
「あ! 照れてるんですか? 可愛い~」
「
——
っ! おじさんをからかうんじゃありません
……
!!」
眉間に皺を寄せて困った顔をしている謙之介。満更でもない顔のようにも見える。そして慌てながらもこちらを気遣う様子になんだが蛍は胸がきゅうと締め付けられた感覚がして、胸を軽く抑えた。
「
……
じっと見ても面白くないぞ
……
」
何も出てこないしと零す彼はまだ赤みを残している。目線は合わせていないが先程から視線を感じているため蛍に投げかけたのだ。
「
……
うん、そんなことないですよ。今も謙おじさんの様子が可愛くて目が離せないですもん」
ほらと両手で彼の頬を支えると顔を上に向かせる蛍。んっと驚き声を零す謙之介の目の前にはにっこりと頬をほんのり染めて微笑んでいる蛍が目の前にいた。
「ほら」
「
——
ほら、じゃないっ
……
!」
「こんなに可愛いのに」
残念そうに口を尖らせる蛍にそれは違うだろと内心突っ込んでる謙之介だが言葉には出せなかった。躊躇いなく触れる手に、彼女の言葉に翻弄さているばかりでなんと返したら良いか頭の中がぐるぐるしている。それと胸の中も騒がしい。
「と、とにかく、俺は可愛くないから
……
! 別のもので、そう言うのを言ってくれ
……
すずめちゃんとか
……
!」
言葉に詰まりながら出てきたのはそんな言葉だった。もっと別のことを伝えたかったはずなのにと混乱している謙之介。うーんと首を捻る蛍は口を開く。
「もちろん、すずめちゃんは可愛いですよ? でも謙おじさんも可愛いんでそこは譲れないです。別の可愛さなんです」
うんうんと、ひとりその言葉に納得してる蛍。それが分からないんだがと零す謙之介に彼女はつまりと続ける。
「謙おじさんの反応が私には可愛いんです。他の誰でもなく、謙おじさん、謙之介さんが、良いんです。だから特別なんです」
あたりがふんわりと明るくなるような、眩しいほどの微笑を彼女は浮かべた。目を見開く謙之介は彼女の言葉で、仕草で、身動きが取れなくなる。高まる鼓動に鎮まれと口元に力を入れた。
そして次に彼の口からこぼれた言葉は自身でも思っていなかったものだった。
「
……
あれだけ、告白の後は人が変わったように、避けていたのに?」
目の前の彼女はみるみるうちに赤くなっていく。それはもう茹でダコのように首まで真っ赤だ。頬に触れている指先まで熱を感じるほどに。
「
——
!?!!? あっ、れっ
——
は!!?」
言葉にならない音が彼女から出ていた。そんな様子にしまったと謙之介が後悔しても、言葉に出した後では遅かった。
そう、謙之介が蛍に告白してからその場で返事は貰えたのは良いが、ここ一ヶ月程、今までにないくらい距離が出来てしまった。いや告白前の二人の距離感が近過ぎただけかもしれないが
……
ともかく、蛍が謙之介を見ると固まったりすぐ離れたりしており、話す時間すら減っていたのだ。それがやっと落ち着いてきて、以前のように蛍が謙之介をからかうようになってきた所だったのに
……
触れてはいけないものに触れてしまった。
「あ、いやっ、すまん
……
! さっきの言葉は忘れてくれ
……
」
彼女の慌てようにつられて、直ぐに謝る謙之介。そんな彼はなんでもないんだと口にするが、力のない笑みを浮かべていた。
そんな様子に蛍は彼の頬をぎゅっと押え、無理やり上を向かせた。互いの鼻が当たりそうな距離まで顔を近づける。まだ彼女は赤く染まった顔で、瞳も揺れているが、真っ直ぐな目線は逸らすことを許さないと言わんばかりに謙之介へと注がれる。
「ほ、蛍ちゃん!? ち、ちかっ
……
」
「特別だから、なんです!! 言ったじゃないですがはじめてだから、恥ずかしかっただけだって
……
!」
だから
……
と蛍はきゅっと口を閉じる。一瞬張りつめた空気がとても長く感じられた。
「か、かれしとか
……
いたことないから
……
だから、そんな顔しないで
——
」
彼女の瞳には涙が溜まり、薄暗いこの場所でも木々の間の薄明かりに照らされキラキラときらめいている。
「謙
……
謙之介さんが、悲しそうにしてたら嫌だ
……
」
それは絞り出すような声だった。今にも泣きそうな顔で。
「ほ、たるちゃん
……
」
「ごめんなさい
……
ちゃんと、いえなくて
……
でも、謙之介さんと一緒が、ほんとに嬉しくて
——
っ」
「謝るのは俺の方だ
……
!」
彼女の言葉を遮るように謙之介はすまん、すまんと何度も顔を歪めながら口にする。
「そんな顔させたくて言ったんじゃないんだ! 俺が、俺が気持ちを押し付けたんじゃないかって
……
ただ勝手に不安になってた、だけなんだ
……
」
彼は左手をあげると、彼女の頬を撫でるように優しく包み込む。
「
——
謙之介、さん
……
?」
「待って欲しいと言われてたのに待てないこんなダメなおじさんでごめんな
……
蛍ちゃんに甘え過ぎてるんだろうな
……
やっぱり、俺
……
」
「甘えてた、の?」
えっと思わず驚きの声を出す謙之介。それに対して泣きそうだった蛍はまだ赤く染ったままだがきょとんとした表情になっている。
「あ、ええと、蛍ちゃんには甘えてると思うぞ
……
?」
「悲しそうな、顔も?」
「
……
ああ、蛍ちゃんが楽しくなさそうなのは俺が無理させてるから、かなと
……
」
「諦めたような、笑顔も?」
「
……
ん、そんな顔してたのか?」
こくんと頷く蛍。数秒、何かを頭の中で巡らせて固まった後、はぁーと馬鹿でかいため息をつく謙之介に彼女は思わずビクッと体を震わせる。
「ダダ漏れじゃないか
……
だから蛍ちゃんは泣きそうになってるのか
……
」
「え、あ、いや」
「俺が悪い
……
本当にごめんな
……
」
「け、謙之介さん?」
「こんなダメダメな奴じゃ、彼氏にはなれないな
……
蛍ちゃんにはもったいない
……
だから俺じゃあ
……
」
「け、謙之介さん!!」
こっち見てともう一度顔を上げさせる蛍。ひとり呟いていた謙之介の目の前には瞳を揺らしながらも真剣な表情の彼女だけが視界に広がる。
「置いてかないで
……
! 私楽しかったよ? それに、甘えてたって聞いて嬉しかったんだから
……
そんなこと言わないで
……
?」
「そ、うなのか
……
?」
「うん
……
私だけが謙之介さんに甘えてるんだって、一回りも年下の自分に出来ることって本当に少なくて、言葉にもできてないから不安にさせてばかりなんだって
……
だから、その顔にした自分が悪いんだと思ってたからっ
——
」
ぐっと眉間に皺を寄せて泣きそうなのを堪えた蛍は口をにっと上げてなんとか笑いをつくる。
「私が謙之介さんの彼女になっても良いですか?」
震える声で彼に囁く。ちゃんと笑えているだろうか、声に出せただろうかと不安ばかりの蛍はただ彼の返事をじっと待つ。
「っ
——
! 良いに決まってるだろ
……
!」
謙之介は蛍の頭の後ろに手を回し、ぐいと互いの額が当たる程の距離に顔を近づけた。
「むしろ俺で良いんだな?」
「
……
うん、謙之介さんだから良いの」
「もう離さないからな?」
「うん、一緒が良い」
「俺の彼女は蛍ちゃんだからな
……
」
「うん、私の彼氏は謙之介さんなんだから」
えへへと緊張が解けたような安堵の笑顔を見せる蛍。眩しいほどの彼女に謙之介は目を細めて優しく、優しく笑う。彼女と自分が落ち着くまでと謙之介は蛍の頭をぽんぽんと撫でた。
「
……
落ち着いたか?」
「うん、謙之介さんは?」
「俺もだ」
あ、いやと言い淀む彼は今更だがと口を開く。
「こんな近くに蛍ちゃんがいて、緊張と嬉しさで凄く胸がうるさいよ。ダメだな」
眉を下げ困りながらも、とても嬉しそうに笑みをうかべる謙之介。その表情に蛍は衝撃を受け、はうっと悶えながらぎゅっと目をつぶる。
「だ、大丈夫か?」
「
……
大丈夫。け、謙之介さんが可愛過ぎただけだから
……
」
「え??」
困惑する彼を蛍は抱きしめる。背中までがばっと手を回し、離さないというように。おわっと声を漏らすが、彼女が落ち着くならばと謙之介はそのままされるがままになっていた。
小さな神社の境内に蛍と謙之介、二人がいた。ヒュードン、ドン
……
バラバラ
…
と花火が空気を揺らしている音が響く中、二人は開けた夜空にキラキラと咲く花火に照らされている。
「わあ、凄い! 綺麗だね!」
ほらとはしゃぎながら話す蛍に、にっこりと微笑む謙之介。
「ああ、綺麗だ」
「ね!」
目を合わす二人は手を繋ぎ、笑い合う。
「誘ってくれてありがとう、謙之介さん」
「こちらこそ。一緒に観れて嬉しい」
私もと微笑む彼女に謙之介は胸がじんと温かくなる。いつも色んな言葉を表情を見せてくれる彼女が傍にいてくれる、そう思うと一緒に過ごすこの瞬間がとても愛おしく感じられた。
「来年もその次の年も
……
一緒に観よう」
色とりどりに照らされる謙之介は嬉しそうに目を細める。静かにでも確かにこれからの約束を口にして。
「うん!」
花がほころぶような笑顔を見せた蛍は瞳をきらきらと揺らす。そして、一際大きな花火が打ち上がる時に、謙之介の耳元で囁いた。
「大好き」
目を何度も瞬きする謙之介に、にっと口の両端をあげ蛍は頬を染める。
おまけ
ねぇ、知ってる? 謙之介さん
出会った人たちの中で特別なんだよ。
謙之介さんがお隣に越してきた時、ううん。
それより前に出会った時からかもしれない。
謙之介さんの為なら惜しくないと思っていた私の命さえ、
長くあって欲しいと思うようになったんだ。
彼女を変えるのはいつもお隣さんだった。
「これね、謙之介さんには内緒の話」
しーと人差し指を口元に抑えて、蛍は恥ずかしそうに話す。
1
2
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内