11155.
2022-07-02 00:37:34
2430文字
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感じ過ぎる「なつ」

うちの子、海さんの中学時代。ちょっとした友人との過去話。

感じ過ぎる「なつ」

 
 どうしてだろう。こんなに苦しいのは。何かをしていても頭の片隅に必ずいる。本を読んだり道を歩いたり誰かと話していたり……動かしていた手が、足が、口がいつの間にか止まってしまう。
「具合が悪いのかい?」
 頭の上からの声にはっと目を開き、顔を上げた。すると目の前でひらひらと動かす手の指の隙間から鮮やかな瞳と髪の人物が顔をのぞかせる。
「顔色は良さそうだけど、ここのところ忙しそうにしていたからその疲れでも出ているのかと心配になってね。声を掛けても反応がなかったらそのまま置いていこうかと思っていたところだ」
 ふふと微笑む顔にあぁと小さく返事をするしか出来なかった。手元の本は抑えていた手が意味をなさず、ぱらぱらと無情にも捲られていく。既にどこまで読んだか分からなくなった本にすっと細く長い指が差し込まれる。
「折角なら続きから読んだ方が楽しいと思うよ。ほら、本についてるこの紐、栞もあるんだから活用しないと」
「そ、そうだよな! ちょっと、疲れてたみたいだ……
 歯切れ悪く話す自分に思わず口の端が曲がる。そんな思いを抱きながらも本を抑えるために先程よりも近くなった深い碧眼にまるで吸い込まれたようなそんな気分になる。
「自覚症状があるなら尚更休んだ方が良い。休める時に休まないと。楽しいことへの招待はまた今度にしておくよ」
 心配だからとにっこりと微笑む目の前の人物にいや、そんなと口を開こうとする。しかし、指先をすっと口元に運ばれ、触れるか触れないかの距離で止められた。
「大丈夫。まだ時間はあるから元気になったら教えてくれるかい?」
 それからと綺麗な口が動く。
「心配事がある時でも構わない。君が元気になるならむしろ大歓迎だ」
 窓から射す午後の陽射しにきらめく赤い髪と瞳は中性的な彼をより幻想的に見せていた。
「ふふ、どうしてこんなに好きなのか、分かるかい?」
「えっ」
 見つめていたその口から零れた言葉に鼓動が一際はやく打つ。
「君だからだよ。はやくきてね」
 まるで恥じらうようにそっと目線を逸らすと、彼は顔を体を教室の出入口へと向ける。その後ろ姿はどことなく急いでいるようにも見えた気がした。見送るどころか先程の言葉が頭の中をくるくると回っている自分には落ち着いて見ることはそもそも不可能だったのだが。そんな中、出口へと手をかけた彼は背を向けたまま語りかけてくる。
「次は俺のこと、ちゃんと見て話して欲しい。寂しいから……じゃ、また、ダイスケ」
 言葉だけを残したあとはパタパタと教室の外を駆けていく。ひとり、ぽつんと取り残された教室で先程の彼がいた扉を見つめるだけだった。
……親友に心配かけちまった……違うんだ——
 ドサッと硬い背もたれにもたれ掛かる彼は両手で顔を覆いながら天井を見あげた。その手で感じる熱はただ夏が暑いせいだと言い訳ばかりを考えていた。