11155.
2022-04-29 14:29:28
3235文字
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コイツだ

うちよその謙蛍。テンプレの一コマ台詞に感化され出来上がった短編。イチャついてます。また口付け描写多めなのでお気をつけて……!

コイツだ

 
 鳥も寝静まる夜にすぅすぅと微かな寝息を聴きながら、ひとり目を開けている。眉間に皺を寄せて、その彼ははぁと深く深く一つのため息をついた。
……おーい、蛍ちゃん?」
 彼は腕の中に居る彼女にそっと耳元で囁くがうーんと小さく鳴くだけで返事は帰ってこない。また規則正しい寝息をたて始める。
「起きてないんだな……?」
 祈るような彼の声は無情にも彼女には届かない。どうやら夢の世界へ既に旅立っているようだ。その事に既に気づいていた彼のはずだが、目の前の現実を受け入れたくはないのか目を細め、彼女を抱きしめる腕にぎゅっと力を入れた。彼、謙之介は蛍の肩に顎を乗せ、言葉を零す。
「さっきまで、起きてたのに。蛍ちゃんは平気なのか……
 自嘲気味に口の端をあげると目をつぶった。先程まで楽しそうに話していた蛍を思い出す。コロコロと表情が変わる彼女を眺めるだけで満足していた頃を懐かしく思うと同時に彼女への想いが体を熱くする。
「くっ——
 そう、今隣に居るだけで良いはずなのにそれだけで終わらなかったのは何故かって……もちろん理由はあった。ちらっと目線を彼女へ向ける。こんなに可愛い顔で寝ているが寝落ちる直前『ヤる』雰囲気にしたのは紛れもなくコイツだ。
 いつもの寝る前の他愛ない会話をしていた中、蛍の方から可愛い反応をしだしたのだ。寝るつもりだった謙之介は驚きと興奮が混ざったが、それでもやはり嬉しかった。とろんとした熱い目線を受けながら口付けを交わす頃にはバクバクとした鼓動が最高潮に達する。それなのに。
「そのまま寝るとか、生殺しだよなぁ……
 ははと乾いた笑いがもれる。重なる唇が離れると彼女の目は閉じられたままだったのだ。呼びかけるが確かな返事はなく、今に至る。
「俺だけがまた蚊帳の外か」
 すぐ隣に居るのに、それなのに手が届かない。そんなかつての自分を突きつけられたような謙之介は求めるように蛍を抱きしめる。彼女の左手を覆い隠すように自分の手を重ねた。
「はっ——、俺は良いお隣さんで居ようとしてたからか。結局は蛍ちゃんの前じゃ、良いおじさんにはなれなかったけどな」
 皮肉な微笑をうかべる。そんな気持ちを紛らわすために顔を彼女の首元に埋めた。蛍に触れることで先程のざわざわした想いから落ち着いてくるのが分かるが、段々と別の感情が湧き上がる。何故ひとりで起きているのか、彼女は自分を残して。あの雰囲気はなんだったのかと。ふつふつと湧き上がる想いと熱に彼は切れ長の目を鈍く光らせる。
 そして謙之介は左手を彼女の長くて細い指に絡め、首筋に口付けを落とす。最初はそっと触れるくらいに。それから徐々に肌に触れる時間が長くなる。ちゅっと音がする度、蛍の寝息が短く小さな鳴き声に変わっていくのを謙之介はゆっくりと確認していった。軽く首筋を噛む頃には声も部屋に静かに響きはじめる。あっという自分の声に目を覚ましたのは蛍だった。
——んぅ? 謙之すけ、さん?」
 ぼんやりと聞こえる声と感覚で彼を見つける。意識とは関係なく、またあぅと自分の声が漏れた時には謙之介が狙うように見上げている。ちゅうっと一際丁寧に吸うと彼女の体は震えた。
——っ」
 目をまん丸にして頬を真っ赤になっている蛍の表情に思わず口元が緩む。それでも見つめるその視線は外さず口を開いた。
「おかえり」
「えっ? た、ただいま」
「責任とるから、蛍ちゃんも取ってくれるよな」
 一瞬動きが固まる蛍は首筋と後ろの方に当たるものに気づきボワッとに全身が赤く染まる。
「うん、ありがとう」
「あ、まだ、なにも……
「答えは決まってるだろ」
 熱をおびた瞳で見つめられるだけで何も言えなくなる蛍は口だけを微かに動かす。はいの動きを。彼は目を細め満足気に眺める。
「眠くなったら言うように」
 そんな受け入れてくれる彼女に先程までの仄暗い気持ちが小さくなる。代わりにもっと近くもっと傍にという想いが頭を占めた。彼女だから、コイツだからとひとつずつ確かめるよう肌に心に触れていく。