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豆炭々炬燵
3927文字
Public
訳アリ心霊マンション
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【カミ東】わるいかみさま
いい子ではなくなったカミキリ様の話(※付き合っていません)とカミキリ様の片思いが成就して付き合っている二人の話詰め合わせセット。
1
2
夜明けに手を伸ばす
思えば明確な理由が見つかる前につま先立ちをして懸命に手を伸ばし続けていた日々を過ごしていた。
どう考えたって届きやしない。残酷な現実を達観する自分の皮肉な声を背に受けても、カミキリは直向きに手を伸ばし続けた。
時折り戯れで近付き指先を掠める夜明けに狼狽え咄嗟に手を引っ込めてしまう衝動を斬り伏せ、周囲に格好がつかないと笑われようが構わない火照る顔の熱を誤魔化さずに、自分を再び陽の光の下に連れ出してくれた東雲薫へ手を諦めずに伸ばし続け──、見事カミキリは本来の姿ではない幼い手で彼女の手を掴み抱き寄せた。
季節の移り変わりと共に熱量が増えるカミキリの真摯な態度に東雲が根負けしたと言っても過言ではない。
長年募らせ続けた東雲への想いが報われ成就したとき、片思いを抱き続けていた彼女のリアクションはカミキリが予想ものから大分かけ離れていた。
決して馬鹿にしているわけではない、半ば諦め交じりに笑い「おうっ、これからもよろしく頼むわ」なんて明朗快活に言ってくれるものだと思い込んでいた。
実際は、先程まで楽しげに喋っていた勢いが収まっていきついには無言。視線を交わしていた目を伏せ所なさげに腹の前で両手の指先同士をくっ付けては離すを繰り返していた。
普段のらりくらり躱して結局「NO」を突き付けるのとは違う、明らかに返事を躊躇っている様子にカミキリが息を飲み待ち続けていれば、淡い恋慕の存在に気付き困惑に頭の天辺から湯気を立ち昇らせていた自分以上に赤らめた顔で口元をもにょり波打たせ噤んでいる東雲にカミキリの目が釘付けになった。
「
……
うん」
小さく頷き耳を澄まさなければ聞き逃してしまう程か細い東雲の返事にカミキリの情緒がてんやわんやになったのは言うまでもない。
他愛のない散歩の途中。夕闇迫る心許無い街灯の下。両の手ではとっくに数えきれない告白が実を結んだ瞬間カミキリは二度目の夜明けを体全身で浴びた。
一度目は言わずもがな東雲が住む家を無くした自分をマンションに住まないかと誘ってくれたとき。
そして、二度目は──。
「嬉シい
…
」
冬の足音が聞こえ始めた頃、寒さで赤くなった言い訳が通用しないくらい血色の良い俯きがちな東雲の顔を仰ぎ見つめるカミキリの眼差しが眩しいものを見るように眇められ、大いに茹っている自覚ある手で彼女の手を包み込めば同じくらい温かい熱に目を瞑り二人分の手を額に寄せ擦った。
手と額に挟まれた髪が首を軽く振るう度伝わるこそばゆい感触に多幸感が心を包む。
「
…
夢みたイ」
「夢なんかじゃないさ」
殆どひとり言に等しい満ち足りたカミキリの想いを拾い上げた東雲は、カミキリに包まれていた手をするりと抜け出した勢いそのままに彼の後頭部と肩に手を置き抱き寄せた。
白絹の如き手触りの良いカミキリの髪を撫でる東雲の手に宿る新しい色彩が急な出来事で固まっていたカミキリの緊張を溶かしていき、ゆるゆると彼女の背中に腕を回しては二人の間に合った隙間を全て無くした。
抱き寄せられた勢いで見開いた宵闇の目を半分瞼裏に隠して鼻腔を擽る東雲の香りに顔を埋めた。
頭蓋奥で絶えず燻っていた暗く冷たく寂しい真夜中が明るくてあたたかい柔らかい夜明けに押し退けられる感覚にカミキリは微笑んだ。
「(東雲さんの顔見えナい
…
僕と同じだったらイイな
…
)」
間近で聞こえる鼓動の速さが自分と同じ速さに気付くなり一層愛おしさを募らせたカミキリの口元が弧を描き、東雲もまた照れ臭そうに特徴的な八重歯を覗かせている口角を上げ夜明けを告げる目を瞼裏に隠した。
真冬の澄み切った夜の空気を眩い輝きで照らす朝日が霞んでしまうくらい明るい笑顔で楽しげにマンション住人達と談笑に耽る東雲を遠目から眺めていた。
駐車場で行われるいい具合に休みが重なった第二回マンション住人全員参加のバーベキュー大会。彼女が自分と約束してくれた通り賑やかな魑魅魍魎だらけの心霊マンションへ着実に近付いて来ている現状にカミキリの顔が幸せそうに綻ぶ。誰も彼も東雲に誘われ新たな人生を謳歌する、不幸から最も遠い位置する素敵なマンション生活。
とある有名な「あの日あの時あの場所で
…
」のフレーズが脳内に響き渡り、恋人になれた日の事を思い出したカミキリの目元に朱が走る。
そして、胸の奥に大事に大切にしまっている恋人になれたからこそ、恋人の自分にしか見せない東雲の顔に心が躍り弾み、ふとキスして抱きしめるときの花も恥じらう乙女の如き可愛らしい姿が色濃く浮かび笑みを深めた。
「(とっても可愛かっタ)」
普段隙はあれど余裕が然程崩れない東雲が今も尚自分より初心な反応をしてくれる喜びが如何やら滲み出ていたらしい。
「カーミーキーリーさん。ニヤついた顔して面白いことでもあった?」
キリよく会話を切り上げた東雲が視界に入るよう顔を横にして覗き込む仕草にカミキリは思っていた事を端的且つ主観を交え説明するや否や、満面の笑みを崩さない東雲に手を掴まれ周囲の目が届かない場所まで連れて来られたあと、手を離し振り返った東雲の複雑な感情入り混じっている顔にカミキリは小首を傾げた。
「あんなァ、カミキリさん
…
。今度そういう事、外で言ったら“コレ”だかんなっ!?」
声量を抑えているが、端々から出ている遺憾の意オーラと共に東雲が自身の慎ましい胸の両端に手を添え胸をグッと中心に寄せる動作が始め理解出来ずに薄く眉根を潜めた。
そんなカミキリのリアクションを見た東雲は、いくら彼から言われた内容が自分の照れメーターの上限値を容易く超えるものだったとしても些か柄ではない上に、滅多なことを口にするんじゃないと後悔した。
「あ、いや
…
今の忘れて
……
」
幸い気付いていない様子に有耶無耶で終わらせたかった東雲の考えは見事霧散する。
──また言ったらシてくれル?
顰められた甘ったるい少年声に宿る夜更けの香り。じんわり冷や汗が滲む東雲の顔を無垢な面持ちでカミキリが見上げ彼女の手に指を焦らすように絡め握った。
「~ったよ! 二言はねえ!!」
どうにかなれ、と顔を真っ赤にさせ開き直るしかない東雲が叫ぶ姿につま先立ちをして背を逸らしたカミキリは淡く微笑み約束の前金として唇同士を重ね合わせた。
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