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シノハラ
2025-03-12 22:32:53
3612文字
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アルカヴェ
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アルカヴェまとめ(2本)
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2人で同じ本を読むのに失敗する
2023年4月12日
アルハイゼンの読んでいる本こそが、自分が探している本のように思えてならなかった。比喩的な表現ではなく、昼間にカーヴェが途中まで読んでいた本をアルハイゼンが今まさに読んでいるのではないかという話である。
夜になってから続きを読もうと思ったら置いたつもりの場所に見当たらず、彼の前を何度か往復して探し回ったが自分が置きそうな場所にはどこにもなかった。となればもう、彼の手の中にあってちょうどカーヴェの位置からは装丁が窺えない本こそが自身の探し求めたものだとしか思えなかった。
読書中に声を掛けてもろくな反応がないのは明々白々なので、彼の横に腰かけて身を乗り出すと紙面を覗き込む。カーヴェの肩がアルハイゼンの腕に当たって彼が一瞬視線を寄こしたが、気づかないふりをすればすぐに本に意識を戻した。
カーヴェの予測はやはり正しかったようで、眺める文章は記憶に新しいものばかりだ。アルハイゼンがもう少し読み進めればカーヴェの未読の部分に辿り着くので、読むペースさえ合えばそのまま覗き込んでいてもいいかもしれない。
「
――
カーヴェ」
どれくらい二人で読んでいたかは覚えていないが、それなりのページ数を読み進めてからアルハイゼンがカーヴェを呼んだ。少し苛立ったような、普段よりも平坦さに欠けた声にカーヴェは本から意識を離す。
「ああ、やっぱりお邪魔かな? でもこの章が終わるくらいまでは一緒に読みたいんだけど」
アルハイゼンが邪魔だと思うのも分からなくはないが、あまりに中途半端過ぎる。先に手をつけていたのはカーヴェなのだから、それくらいのわがままは許されても良いだろう。
「今ならまだ見逃してやれる」
「何のはな
……
」
全く想定していなかった返事に目を丸めて、視線だけで誘導されて首を倒してからようやく彼の意図を理解する。視界の先にはアルハイゼンの太腿があって、そのしっかりと発達した足の上にカーヴェがべったりと手を付けていた。それだけならまだしも、内腿に指が這わされてやんわりとであるが薄い皮膚を押し下げている。
彼のポジションを考えれば、こんな場所を触れられることは情事の時だってそうそうない。もし、機会があるとするならばカーヴェが彼に奉仕をするときくらいだろうか。
いつの間にこんな事をしていたのか全く思い出せないまま息を飲むと、ぴくりと指先に力が入ってしまった。服越しに刺激される感触を紛らわすように、アルハイゼンが苛立ちに似た息を吐くのが分かる。
「えっと、その、そんなつもりじゃなかったんだが」
「だろうな」
そう。カーヴェは中途半端にしていた本の続きを読みたかっただけなのだ。いつの間にかアルハイゼンの太腿に手をかけていたのも、体勢を保つ以上の意味はないはずだ。おそらくこの状況をカーヴェはもちろん、アルハイゼンだって理解している。そうでなければ、アルハイゼンが苦々しい返事をする必要などどこにもなかった。
そんなことは百も承知で、カーヴェはアルハイゼンの緩く皺が入った眉間に口づけた。これっぽっちも下心なく恋人に近づいたのは事実だが、下心なしに彼と恋仲になったつもりはカーヴェにはない。明日の予定を考えれば、多少夜更かししても良いだろう。
唇の下で彼の眉間の力が緩んでから、カーヴェは小さく音を立てて唇を離した。そのまま距離を取ろうとしたが、アルハイゼンの手が後ろ頭に回ったせいでままならない。
そのまま頭を引き寄せられたのに抗わず俯いて、カーヴェはアルハイゼンからの口づけを受け入れる。栞も挟まないままぱたんと本が閉じられる音は、アルハイゼンが理性を手放す時の音に似ているのかもしれなかった。
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