シノハラ
2025-03-11 21:02:14
5404文字
Public カヴェアル♀
 

カヴェアル♀まとめ(2本)



ただならぬ仲のカヴェアル♀で、後輩が夜更かししてソファで本を読んでたらベロベロになって帰ってきた先輩に「足に触らせてほしい」と言われる話
2023年9月6日

 風呂に入って髪を乾かすのが億劫なまま、本を手に取ってしまったのが良くなかった。本来ならとっくにベッドに潜り込んでいる時間なのに、アルハイゼンは歯も洗わないまま本のページを捲っている。
 あと一節、あと一ページ、と言っているうちに髪も勝手に乾いてしまい、時計の短針は頂点を越えていた。明日――正確には今日が休日でなければもう少し理性的に切り上げていたのは、多分同居人も同じなのだろう。途中から本の区切りを契機にするのを諦めてカーヴェが帰宅するまでと思っていたのに、いまだに彼が戻る気配はなかった。店主に追い出されるまで粘ろうとする彼の姿が目に浮かぶ。
 眠気で頭の隅がぼやける感覚がしてきてさすがに切り上げようかと迷い始めた時、かしゃんと鍵が回る音がしてアルハイゼンは一度ページを捲る手を止めた。それから聞き覚えのある靴音が耳に入るのを待って、再び手元に視線を落とす。とん、とん、と歩く音はいつもより乱暴で、眠っているかもしれない同居人を思いやる余力はないようだった。
「あれ、夜更かししてる」
「店の閉店を伸ばしていた君に言われるとは思わなかったな。おかえり」
 視線を上げずに応じれば、機嫌を損ねた様子もなくただいまとカーヴェが挨拶を返してきた。それだけで呂律が回っていないのと、すこぶる機嫌がいいのが伝わってくる。随分と良い酒だったらしい。
……何か?」
 今にもつんのめりそうな粗雑さで歩みを進め、カーヴェがアルハイゼンの前までやってきて足を止める。それからしばらくの間、彼が自分の前から離れないのに気がついて、ようやくアルハイゼンは視線を上げた。
「足に触っても良いかい?」
 うーん、とかえっと、とか可愛らしい響きの懊悩をした後の願いとは思えない内容に、アルハイゼンはぱちりと瞬きをする。足を、と返すとうん、と可愛げのある肯定があった。
 ここで引き下がらないのだから、本当に相当な深酒をしたのだろう。よくもまあ無事に家に辿り着いたものである。
……いいよ」
 別に足だけでなくとも構わなかったが、わざわざ伝える必要もないだろう。足とカーヴェが限定してくるのだから、よそ見をしたくないのかもしれない。
 アルハイゼンの答えにぱっと表情を明るくしたのを見て、ようやく彼が緊張していたのに気がついた。それから崩れ落ちるような勢いでカーヴェは床に腰を下ろし、アルハイゼンのふくらはぎに触れる。彼に触れられてから、自分が太ももの半ばにも届かないショートパンツを履いていたのに気がついた。
 素足に触れた彼の親指の腹が膝の少し下を摩りながら、残りの指が膝の後ろに回る。日が落ちてからいくらか気温が下がったとはいえ、ショートパンツを寝巻きに選ぶくらいには気温が高く、汗が溜まっていないか少し気になった。
 アルコールが温めた指先が形を確かめるようにふくらはぎの膨らみをなぞり、皮膚の下にある腓腹筋の具合を見る。普段人に触れられない場所を丹念にさすられて、ほんの少しむず痒く感じた。
「動かさないで」
 ごまかすように足首を動かすと、カーヴェがアルハイゼンを窘める。彼の意を窺おうと視線を寄せると、だめ押しのつもりか再び静止された。息を吐いて彼に従い力を抜くと、良い子だと子猫を褒めるようにカーヴェがアルハイゼンに声をかける。
 硬さを覚えたいのか膨らみを手のひらに収めてしばらく揉んでから、彼の手はじわりと位置を下げた。向う脛の少し下当たりに辿り着くと、外周が握ったカーヴェの指の内に収まるようになる。
「ほそい」
「随分と認知が歪んだな」
 少々感動が籠っているように聞こえる感想に眉を顰めると、華奢とは言っていないよとカーヴェが抵抗する。良く締まって無駄のない足だと褒めて、カーヴェは緩く足首の辺りを握り込む。軽い圧迫感を心地よく感じて、一週間の疲れが末端に溜まっているのだとようやく気がついた。
 踝の骨を皮膚越しに擽った後、カーヴェの指がアキレス腱の根本を挟みこむ。はっきりと筋を主張する場所の曲線をなぞってから、彼はそっとアルハイゼンの踵を手に取った。踵の丸みを確かめて、手の甲が土踏まずの隙間を埋める。甲はすぐに離れたと思うと、足の甲に指が這った。甲の目立つ骨を確かめながら、カーヴェは爪に視線を落とす。
「君、爪切りで適当に切ってるだろう。ちゃんとしてあげるから今度僕にやらせて」
 伸び始めた親指の爪の断面に指を滑らせられた感触にむずりとして、アルハイゼンは指先を動かしてカーヴェの指を弾く。アルハイゼンの反抗に少々不服そうに眉を潜めてから、カーヴェはアルハイゼンの親指に再び触れた。
 爪と肉の間に緩く自身の爪を差し入れて擽ったかと思うと、今度は指の股に指を入れる。皮膚の薄い場所が擦れるむず痒さと共に、風呂でしっかりと洗えていたか今更ながらに気にしてしまう。酔っ払いのカーヴェはアルハイゼンの揺らぎなどお構いなしに、アルハイゼンと比べれば節のある指先を指の股に差し入れてゆっくりと指を握り込む。緩く引いたり押し込んだり、もしかしたら本人はマッサージをしている気分なのかもしれない。
 ようやくカーヴェが指を解放した頃には、指先まで彼の熱が移ってしまったらしい。床に足をつけると、ひんやりとして心地よかった。
「やっぱり綺麗だな……
 ふ、と感嘆を漏らしたカーヴェが太腿に触れた瞬間に、微かに呼気が乱れてしまう。幸いにも彼からの称賛に紛れ、カーヴェの耳には届かなかったようだったが。
 太腿とソファが接触する辺りから内側には至らない辺りまでぺったりと手をつけて、ショートパンツの下にまで指先が入り込む。工具を握るせいで手入れはしているものの皮膚が厚くなった手が、アルハイゼンの彼以外に見せる機会のない腿を撫でさすった。
 さすがに静止するべきか迷い出した頃、カーヴェはいきなり身を近づけてアルハイゼンの太腿に頬を押し付けた。ぞわりと不快感ではない怖気が背筋を痺れさせたが、それ以上の事をカーヴェはするつもりはないらしい。
 パイモンのようにふくふくしているわけでは当然ないが、それでも彼の体の部位では柔らかな部位が居所を定めるためにするりと頬を擦り寄せる。指先どころではない熱に既視感を覚え、アルハイゼンは最後に猫のそれだと結論づけた。
 彼の胸元が押し付けられた膝が彼の体温で温められる頃になると、アルハイゼンの心も随分凪いできている。気がつけばいくらも残っていない本をそのままにしてしまっていたので、再びページを捲ることにした。彼の体温が暑くて集中が途切れるかと思ったが、意外と邪魔にならない範疇に収まったようで、こんなところで夏の終わりを感じ始めてしまう。
……殺してくれ」
 最後の十数ページを読み終えて、書評の執筆者の名を確認した時に突然腹辺りから物騒な言葉が聞こえて来て手を止めた。本を閉じてソファに置くと、情けない声を上げてアルハイゼンの太腿に鼻先をカーヴェが押しつける。何をきっかけにしたかは不明だが、自分が何をしているのか客観視できるようになったらしい。
 帰宅して早々、女の足に固執してべたべたと弄り倒した。まあ、誰かに話せるような出来事でもなかろう。とはいえ。
「この程度で死にたがっていたら、普段はどうやって贖うつもりだ?」
「うっ、いやそうなんだけど、今回はフェチズムがすごいから」
 我々の関係を忘れたのかと突けば、カーヴェが呻きながら頭を持ち上げようとする。殊勝な反応をつまらなく感じ、離れている彼を追って太ももを上げて彼の頬をさすろうとするとカーヴェがぴたりと動きを止めた。視線の先を見て、彼の反応に得心する。
 たしか、今日風呂上がりに履いたのは彼が選んだ下着だったはずだった。緩い裾の隙間から、平日には身につけない類の刺繍が施された布地が彼には見えたのかもしれない。
「それだけ飲んだら勃たないだろうに反応だけはするんだな」
「ちょ、まっ……! 分かってるなら煽らないでくれよ!」
 散々いじくり回された足先で彼の下腹をそっと押さえてからふにゃりとした部位を緩く踏むと、カーヴェが慌ててアルハイゼンの足の邪魔をする。勃起しなかろうが感覚と欲は残っているのだときゃんきゃんとカーヴェが吠えながら、最後は強くアルハイゼンの足を抱き留めてようやく静まった。
 彼の願い通りにアルハイゼンが動かなくなったと確信を得てから、カーヴェは暴れたショートパンツの裾をそっと揃える。そうやって視界からの刺激が減ったのに満足したのか、今度はアルハイゼンの膝頭に頬を乗せた。
「綺麗だから触れたかったんだ。君の足はすごく綺麗だ。学生服じゃ分からないから気がついたのは暮らし始めてからだったけど、きっとずっと綺麗だったんだろうな」
 カーヴェはまだ相当酔っているのだろう。つい先ほどまでの羞恥も後悔も一瞬でどこかへ行ってしまったらしく、夢みがちな調子でアルハイゼンへの恋情まで吐露し始める。甘ったるい響きはアルハイゼンを擽って、その甘さのまま気持ちを蕩かせた。
 味に深みを出すために火にかけられた砂糖のような毛先に触れると、カーヴェがアルハイゼンの指先を見つめて、爪の形が好きだと思いを夜に溶かす。嫌いな部位はあるのかと尋ねると、喃語にもならないような音を鳴らすばかりで答えらしい答えもなかった。