【馬子軸スーリニ】レヴリの紅玉 #00【Prologue】

人生初ミステリー(もどき)!!!!!!!!

はじめましての方ははじめまして、Xで私の奇行を日々目撃されている方はいつもお世話になっております。ましろぬぃです。

最近アスナショウコ様をはじめとしたフォロワー様方の世界観である「馬子軸」に「楽しそう!!!!俺も混ぜて!!!!!(設定資料の投げつけ)」をしたところ、ご本家様に拾っていただいて小説にちらりと出していただいたので、「これは私もアンサー書かないとダメだろ!!」と思い、執筆を開始させていただくことにしました。
そちらの説に関しましては、本当にありがとうございました。

本作は自創作【suicidal/leniency(スーサイダルリニアンスィ)】を「馬子軸」(現代ファンタジー)に落とし込んだ作品です。作者自身、馬子軸に関してど素人中のど素人ですので、間違った解釈などあるかもしれません。最初に謝罪いたします。
また、本シリーズは【suicidal/leniency】本編のネタバレを含みますので、「ネタバレNG!」という方は閲覧をお控えください。作者的にはスーリニはネタバレありきの方が面白いと思いますので、じゃんじゃんネタバレしていきたいです(大迷惑)

スーリニ原作が気になってくださった方におかれましては、以下に本編リンクを載せておきますのでよろしければご覧ください。現在Prologue~Karte03まで読めます。

▼suicidal/leniency本編
https://novel.daysneo.com/works/3870c9c909042fb07a363f371caeee59.html


それでは、皆様にとって良い時間になりますように。
わたしへ 途中で執筆諦めるなよ!!!!!!!!!


ましろぬぃ


何で俺は休日なのに病院しごとばに来てるんかちゃ。
そう悪態を吐きながらも、きっちりと仕事着を着て出向いている自分の「悪い輩になりきれない」部分に苛立ちを覚える。医療と科学の発展をうんぬんかんぬんするならこの暑さもどうにかしろや、日本。熱に浮かされて莫迦丸出しの思考回路が更に腹立たしさを助長して溜息が一つ漏れた。
それらの苛立ちからか、はたまた暑さに白旗を振ったからか自分でも分からないが────俺は一番上に着ているスーツを脱いで小脇に抱え、白いワイシャツの袖を捲り上げて病院の玄関口を潜る。

院内は外界とは比べ物にならないほど快適だった。空調がゆっくりと体温を下げて汗を乾かしていく。この病院……「東都医科大学付属病院」の内部のいざこざを知っている身としては、院内に入った時点で涼しいを通り越して寧ろ薄ら寒さを覚えるほどではあるのだが。怪談などよりも此処のクソみたいな諍いを目の当たりにしている方が肝が冷えて寿命が縮まる。そして、俺がこれから向かう先で起こるであろう面倒事を思えば、胃痛も襲ってくる。

もう一度溜息を吐いて目的の引き戸に手を掛ける。『総合診療外来』とA4の紙に手書きで書かれた文字が、「お前も大変だな」と同情しているように見えた。


「あ!咲良さん遅いですよォ。ヒーローは遅れてなんちゃらってヤツですかァ?いや咲良さんがヒーロー?あァっはははははッ、ひぃ、面白すぎる、おもしろ!!!」

「しゃあしいわ。口縫い合わすぞ」

「やだ怖ァい!咲良さんならマジであり得ますね、私の唇繊細なんでハチゼロより細い糸でお願いしまァす」

「もういきなり勘弁してくれ……


本音だった。
目の前でけらけらと笑う深い紫のような黒髪に猫のような顔立ちをした女性────名を「大河カレン」という彼女を見て、本日三度目の溜息を零す。こんな人を揶揄う事に全力を尽くすコイツが仮にも捜査官というのはこの国もどうかしとるやろ。そうぼんやりと思っていると、彼女は「今失礼な事考えました?」と顔を覗き込んでくる。……エスパーか。


「戯れるのもその辺にしておけ、カレン」


部屋の奥の椅子に深く腰掛け、長い足を組んで知恵の輪を人差し指でくるくると弄んでいる緋色の髪の女性がそう咎めた。赤と青のオッドアイに左目の下の泣き黒子。白衣を纏ってはいるがその下は片方の肩を露出した黒のワンピースで……。ふと気付いて大河の方を見遣れば、彼女もまた私服をその身に包んでいた。彼女は緋色の女性と異なり露出の少ない長袖だ。袖と襟から胸元がシースルーで構成された深い藍のトップスに短いデニム……私服、と言い切るには些か独創的なデザインではある気はするのだが。若い女が好みそうな服だなと思う。


「仕事の連絡やったろ。何で……


何で俺だけスーツなんかちゃ。
私服で良かったならもっと涼しい恰好をしてくれば良かった。いい社会人ぶろうとした行為が無意味だった事に気付いて、苛々が募る。緋色の女……「四宮椿」は面白そうに瞳を細めて俺────「市ノ瀬咲良」を映した。


「仕事は仕事だぞ。お前の判断は間違っていない」

「じゃあ何でお前らはそんな恰好なんや」

「私は一言も『ドレスコードを守れ』とは言っていないのでな」

「この……ッ」

「話を聞けばどういう事か分かる。そう苛々するな、頭髪が薄くなるぞ」

「お前が苛々させてるっつう自覚を持て、この歩く大厄災」

「そんなに褒めても何も出ないぞ」

「褒めとらんわ!」


売り言葉に買い言葉。幾ら争ってもキリがない。宇宙の真理すら見抜く彼女の頭脳を前にしてどうにか言い負かそうとしていた己の幼稚さを悟ると、言いたい事をぐっと飲みこんで「それで、」と続きを促した。


「何の用事で呼んだ?下らん理由やったら引っ叩く」

「私が今までに下らない理由で呼んだことがあるか?」

……まさか」


空調の効いた室内だというのに、冷や汗が背筋を撫でた。
彼女の言いたい事を、今までの経験上でなんとなく察してしまう。
どうして俺はこうも「平穏な日々」に嫌われているのだろう。
生まれた時からそうで────そして「螺旋捜査官」などという神秘や幻想と密接に関わる職務に就いている以上、それは避けられない事なのだろうが。
椿はにやりと瞳を細めると、さも楽しそうにこう告げた。
これを「楽しそう」と感じている彼女も差し詰め狂人だ。今更ながらそう思う。


「死者が出た。それもこの東医でな」

「やっぱりか……今度はどんな事件だ」

「事件ではない。……今のところはな」

「妙に引っかかる言い方やな」

「最初から説明しよう。結論から先に言えと嘴馬に言われたからそうしてみたが、やはり私は順序立てて述べる方が好みらしい」


彼女は机に置かれたファイルをとんとん、と人差し指で叩く。……読め、という事らしい。それに従ってデスクの前まで足を進め、ファイル────そしてその中にある資料に目を落とす。隣から大河もそれを覗いて、意図的にか無意識にかは分からないが、俺の代わりに読み上げていた。


「死体検案書、と……

「司法解剖の記録書ですねェ……なになに、8月4日、15時26分……フランス国籍の、えーと……なんて読むんですかコレ、ヴィンセあッ、ヴァンサン・ジラール!────さんが死亡。死因は胸腔内出血と腹腔内出血による失血性ショックで……あ、外傷もしてます」

……右肺門部損傷と肋骨骨折による血胸とグレードⅣの肝右葉損傷、脾臓もグレードⅢの損傷。肝動脈も破裂して────酷ぇな、交通事故か」

「うわッ、出血量3000ml!?えぐ~~~~~~……

「ただの『交通事故』なら良かったのだがな、百歩譲って」

「まだ何かあるんか……

「交通事故程度でお前達を呼ぶ訳がないだろう。2枚目を見ろ」

「確かにただの事故死で司法解剖になる訳がないですもんねェ」

「────……。」


ぺら、と薄い紙を捲って2枚目に目を落とす。それは、この病院で行われた司法解剖の結果だった。……文面と椿の発言から察するに、彼女もまたこの解剖に付き合ったのだろう。長々と書かれた文章を追って────視点が一つの単語で止まる。


……スアサイダル症候群」


まさか。
先程知った「死亡理由」を脳内で反芻して、それらが全く別の意味を持つ事に気付く。最近の職務に気を取られて、「それ」に侵された患者が後を絶った事に安堵していて、その脅威を忘れかけていた。そうだ。日本にも、「それ」の影は確かに忍び寄っているのだ────!


「事の重大さが分かったか」

「また、末期患者が出た……

「そうだ」


椿は双眸をそっと閉ざすと、ゆっくりと開き直して真相を紡いだ。長い睫毛の下で揺れる叡智の瞳が、男の死の裏側を識っていた。


「救命医が死亡宣告をした後、出血箇所を探した時に体内に鉱物のような結晶が見つかった。それで私のもとに連絡が入り、解剖をした結果……見つかった訳だ。その腫瘍がな」

「つまり、この患者は……

「9割9分、自ら道路に身を投げたのだろう。それで、大型の車両に撥ねられた」

……悲惨だな」


ぐ、と書類を握り締める手に力が入る。

────スアサイダル症候群。
それは感染症でありながら精神疾患の面を強く持つ病で、同時に近年新たに認定された幻想種だ。
感染と同時に体内にクリスタル状の腫瘍を残すそれは、患者の内分泌系を狂わせる事によって強制的に幻想や神秘を認知させ、精神を蝕み……同時に強い希死念慮を芽生えさせて破滅に誘う。その結果、末期に陥った患者は最終的に自分の手で命を絶つ。うつ病や統合失調症と似た症状を持ちながら、「ほぼ確実に死ぬ」という凶悪性はそれらの疾患を遥かに凌ぐ。
ヒト・ヒト感染をした事例が見受けられず、ばら撒いている「本体」との接触……或いは摘出直後の腫瘍本体に接触しない限りは感染しないというのがせめてもの救いではあるが、それでもこの病が本格的に流行すれば経済は低迷し、人口は急減し、人間社会は破綻するだろう。
極めて危険な、人類の敵である幻想種だ。


「まだ続きがあるぞ。……ここからが重要な点だ」


椿はそう言って、顎をくい、と持ち上げて「3枚目を見ろ」と指示を飛ばす。スアサイダル症候群の新規患者が現れた、というだけでも感染経路や他の潜在感染者の洗い出しなど調べる事が山ほどあるのだが、どうやら目の前の彼女が言いたいのはそういう話ではないらしい。俺は彼女に従って、ホチキスで止められた次のページを捲る。


「な────なん、やこれ……?」


俺の声がひっくり返っているのを見て、大河もまた手元の資料を覗き込む。二人がその「真実」に触れた事を確認すると、椿は「異常事態である事が分かったか?」と好奇に満ちた声音でそう告げた。

それは、患者の体内を映した────そしてその後に行われたであろうCT検査の写真だった。

体内のあらゆる臓器から、紅い鉱石の腫瘍が生えている。……まるで天然の洞窟だ。あり得ん、何をどうやったらこんなに腫瘍が生える……!?
CT画像を見ればその異常さがより鮮明に分かる。彼の体内に巣食う腫瘍、白く表示される影。それは臓器だけでなく血管からも生えており、全身の血管に沿って白い異物が存在を主張していた。


「スアサイダル症候群の感染経路は、今把握している時点で『感染源との接触または摘出直後の腫瘍との接触』……という事は知っているな?」

「聞いた。カンファレンスでもそういう事になっとる」

「私はナポリで数名の症例を診たが、どの末期患者も腫瘍の形成個所は数箇所に留まっていた。心臓腫瘍、肺腫瘍、結腸腫瘍……のようにな。だが今回はどうだ、全身のありとあらゆる臓器に腫瘍が形成され、それどころか末梢の血管にまで魔の手が広がっている。このような症状は見た事がない。それがどういう意味を持つか分かるか?」

……より凶悪なものに変異した、っつう事か」

「確信はないがな」

「椿が『確信がない』って珍しいですねェ。名探偵もスランプですかァ?」

……スランプなのかもしれないな。明日は槍か爆弾が降るかもしれん。神に祈っておいた方がいいんじゃないか、咲良」

「やらんわ。……珍しいな。スランプを認めるんか」

「認めたい訳ではない。ただ────答えが『見えない』からそう言ったまでだ」

「見えない?」


眉を顰める。この天才を超える天才に暴けぬ真実が此処にあるというのか。初対面で俺のプライベートをあっけらかんと暴き、事件を次々に解決したこの名探偵が、『見えない』?
疑問符を浮かべている俺の姿が面白かったのか、自身の頭脳をフルで使える出来事に興味を持ったのか……彼女は口角を緩く持ち上げて答えた。


「私の頭脳を持ってしてもこの症例から見抜ける事は『一つ、彼は自殺を試みた事。二つ、スアサイダル症候群の末期患者である事。三つ、スアサイダル症候群の発祥地フランスで似たような症例がある事』……この三つだけだった。面白い。非常に面白い」

「イキイキすんなや、不謹慎やろ……

「咲良さん、今に始まった事じゃないじゃないですか、椿はいつもこうなンで」

……それで、俺達にも何か協力をしろ、と」

「結論から言えばそうなる」


椿はそう言うと、長い足を組み替え……好奇心に輝く子供のような瞳で宣言する。


「────私はこれからこの謎を解明しにフランスに渡る」

「椿がフランスって事は監視する螺旋捜査官が要るって事でェ……えぇッ!?て事はもしかしてッ!?」

「そのまさかだ、カレン」

「やった~~~~~~~~!!!!またフランス行けるんですかァ!?私、ルビアンのクロワッサン食べ損ねたんですよォ。あ、あとエスカルゴ。キモいけど興味ありますよねェ~~~」


そう言いながら大河はスマートフォンをポケットから取り出すと、フランスの名物についていそいそと調べ始める。勝手に行ってろ厄災共。一生帰ってこんでいい。そう思っている事を悟ったように、椿はにんまりと悪戯な笑みを浮かべながら封筒を手渡してくる。
何やこれ。俺宛て?……嫌な予感しかしなかった。


「ま、さか……

「残念ながら咲良、お前も同行するよう召し使っている。お前の大好きな海道霧雨────ひいては厚生労働大臣が指名した、螺旋捜査部直々の指名。良かったな、ナンバーワン指名を貰えて。楽しい仕事の時間だぞ」

……最悪や」


きりきりと胃が痛む。恨むべきは過去の自分だ。金と引き換えにこの歩く天災のお守りを引き受けた自分。末代まで呪ってやる。末代は自分なのだが。
そう考えて、本日────何度目か既に記憶にない溜息が零れる。


「そもそも椿の監視は複数人で……っていう決まりですしねェ。良かったですねェ咲良さん!!一緒にいいホテルで飲んで食べてブチ上がりましょう!!国の金で大豪遊!!ヤッターーーーー!!!」

「ブチ上がれんわ!!!!」


反射的にそうキレる。穏やかな夏……というのが泡沫の夢に消えた現実がじわじわとメンタルに来ている。最も、そんな夏が訪れる事に期待などしていなかったのだが。
……
だが、螺旋捜査官として────いや、医学を修めた一人の人間として、この邪悪な病をどうにかしなければ、という正義感と使命感は少なからず自身の心の臓で燃えていた。何らかの悪質な存在が病をばら撒いているなら捕らえなければならない。治療法があるなら調べなければならない。これ以上、この幻想の病で人が望まず死ぬというのは、御免だ。
椿はそう思案する俺の心の内を読んだように、「覚悟は決まったようだな」と告げる。
手に握られた封筒は、まだ封を切られていない。
そんなものを見なくとも、答えはもう決まっていた。

彼女は決意を瞳に宿し、ゆっくりと立ち上がった。
俺も、大河も、反論はしなかった。


「獲物狩りだ。新たに生まれた幻想種────それを解理し捕らえる狩りの時間だ」








────#01に続く