動き出す光と闇

第二回目公募に合わせてイベント『真夏ノ巨人ノ巣穴』終了から数ヶ月経った時系列となります。季節は冬です。


 暗い街を一人の人間が歩いている。明かりも人気も無く、煌々と空に昇る月だけが唯一自分達を照らす光だ。不意に隣を歩いていたルガルガンが唸った。視線の先を見ると自分と同じ姿の人間がもう一人ルガルガンを伴って立っている。昼と夜、全く正反対の姿なのに不気味な青の体毛だけは似ている。
〈ご苦労、レナトゥス〉
〈お前もご苦労だった、レナトゥス〉
 男とも女とも分からない不気味な機械音声を発し、二人のレナトゥスは向かい合った。
〈終末は見つからなかった〉
〈私もだ〉
 黒ずくめの格好の二人は手を伸ばし、合わせるように掌をくっつける。すると二人の姿が影となってどろりと溶けた。二体のルガルガンがその様子を静観していると、暗がりからもう一体のルガルガンが現れた。エメラルドのような深い緑の目をしているが、やはり他の二体と同じで身体の色が青い。
〈スコル、ハティ、マーナガルム。私の可愛い狼達よ〉
 影の中から声が聞こえた。スコルと呼ばれた真昼の青い狼は頭を垂れる。ハティと呼ばれた真夜中の藍色の狼は妖しく目を光らせてニタリと笑う。マーナガルムと呼ばれた群青の狼は表情を変えることはなかった。
 やがて影の中から一人の人間が出てくる。レナトゥスの影は溶けあい、一つに戻っていた。
……来たか〉
 レナトゥスを守るようにしてルガルガン達は四方に向かって低く唸り声を上げる。それに応じるように更に闇の中から四人の黒ずくめの人間が揺らめいて現れた。
「ご命令通り、ギャラルホルン・エンタープライズの研究エリアからUB『PARASITE』ウツロイドを数体捕獲して参りました」
〈ご苦労、フェンリル。知略に長けた狡猾なる狼よ〉
「この程度、造作もありません」
 フェンリルと呼ばれた黒ずくめは恭しく頭を下げながら答えた。
「我らが導き手、レナトゥスよ」
〈なんだスルト。猛き炎の巨人よ、不服そうだな〉
 フェンリルの隣にいた黒ずくめが不満の声をレナトゥスに向ける。
「いつ、我々の出番が訪れるのですか? このスルト、心躍る闘争をこんなにも渇望しているというのに」
〈相変らずだな。だが、もう少し堪えろ。未だこの時もフィンブルの冬は終わりを迎えていない〉
 スルトは少し唸ったが、レナトゥスの言葉に「……御意に」と従い下がった。
〈それで、ヨルムンガンド。全てを食らい尽くす世界蛇よ、資金繰りは順調か?〉
「ええ、勿論」
 ヨルムンガンドと呼ばれた黒ずくめはくすくすと笑う。
「若干数は減りましたが、ノートなどの闇市場の売り上げは半年前より上がっています。コランダに着々と人間が増えてきた証拠に市場は活気づいています。捕獲したポケモンの質も上がりましたので、更なる収入はお約束します」
〈そうか。お前はどうだ、ガルム。冥界を見張る血塗れの番犬よ〉
 他の三人が話し終えると、ガルムと呼ばれた黒ずくめは静かに前へ進み出る。
……裏切り者や脱退者が増えつつあります。皆、意思が弱い。神罰の執行が今月に入って立て続けに三件ありました。コランダへの移住や流れ者から来たメンバーの増員により組織が肥大化しつつあるので改めて統制が必要かと」
〈ふむ……それはそれでまた面白いとは思うのだがな。今は好きにさせておけ、ただしニーベルングの支配だけは途切れさせぬように〉
「畏まりました」
 ガルムは小さく一礼するとまた静かに下がった。
〈親愛なる同士達よ。悲しいことに未だ終末は我々から遠のくばかりだ〉
 四人の黒ずくめが一歩下がると、レナトゥスは静かに両手を広げて語り始める。
〈ウツロイドの入手により、異界からの来訪者であるウルトラビーストの研究もこれで進展するだろう。ラボはガルムを中心に研究を続けよ。ヨルムンガンドは組織を活かす資金繰りを続け、スルトとフェンリルは来たるべき神々との戦いに備え、牙と爪を研いでおけ。新たな任務があればそれぞれ指示を出す〉
 レナトゥスの言葉に全員は頭を下げる。それを見たレナトゥスはそっと自らの胸の上に手を置き、機械音声でも分かる程慈愛に満ちた声で言った。

「全ては、より良き終末の為に」