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Hizuki
2025-02-14 22:33:03
5534文字
Public
あんスタ[零薫他]
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贈り物に想いを込めて
【あんスタ】零薫+凛月。バレンタインに互いに手作りの贈り物をしようとする零と薫の話。前半は凛月視点、後半は零視点。想い人に喜んでほしいから。
1
2
キィ、という扉の蝶番が軋む音が聞こえた。ここに足を踏み入れられる人物は限られるからこそ、誰と問う必要はなかった。
「まさかわざわざ実家に戻って作ってるとは思わなかった」
「ここなら誰にも見つからぬからの。空気の入れ替えも兼ねておる」
続けて聞こえてきた凛月の声に答えた。時は2月13日の夜、明日の準備のために実家のキッチンに籠っていた。もちろんキッチンは寮の共有スペースにもある。とはいえ、紫之くんが何かを作るつもりだという話は耳に挟んでいたし、タイミングがかち合ってしまっては申し訳ない。何より、薫くんと、贈る相手と顔を合わせてしまうのが一番気まずい。ならば、空気の入れ替えも兼ねて実家の屋敷のキッチンを使うのが一番安心だということに思い至った。
「出来は
…
って兄者のことだし聞くまでもないか」
オーブンが焼き上がりの音を知らせる。側に置いておいたミトンを着け、オーブンのドアを開ければチョコレートの甘い香りが広がった。天板を取り出し、その出来上がりを確認する。
「うむ、いい具合じゃの」
熱が落ち着くまではラッピングはできないし、もうしばらくはこのままだ。
「凛月のおかげじゃな。ありがとう」
「はいはい」
いつものようにあしらわれてしまったけれど、声音に嬉しそうなものを感じる。見栄えも、味も、手軽な作り方も全て満たすものを伝授してくれた凛月には頭が上がらない。近いうちにきちんと礼をしなければ。直接望みを聞いても答えてもらえるか怪しいことだけが気がかりではある。いっそ同室の影片くんを含め、Knightsのメンバーや周囲の者に聞いて回るのも手かもしれない。
「
…
先に言っとくけど」
「ん?」
そんなことを考えていると、凛月はそう前置きをした。そう切り出した割に、すぐに言葉は続かない。続きを待ちながら、一服用に淹れた紅茶の入ったカップに手を伸ばそうとした時だった。
「薫さんのこと、困らせたり泣かせたりしたら俺が許さないから」
「
…
えっ?」
凛月から発せられた言葉に、カップの取っ手に届く寸前で思わず固まってしまった。顔を凛月の方に向けるも、本人はこちらから視線を逸らしている。混乱が思考を埋め尽くす。何故凛月からそんな言葉が出てきたのか。
「それだけ」
短く付け加えると、そのまますたすたとキッチンを出ていってしまった。理由を聞けないまま、ばたんと閉まったドアを見つめて瞬きをすることしかできない。凛月は薫くんに懐いているし、あの子なりに自分達のことを気にかけてくれている、ということではあるのだろう。
「
…
安心せい、凛月。薫くんにはいつでも笑っていてほしいと思っておるよ」
自身の隣で、あの心地良い眩しさの笑みを浮かべていてほしい。あの表情を曇らせるようなことはしたくない。それは常々思っていることでもある。
ふぅ、と小さく息を吐き、改めてカップを手に取った。少し温くなった紅茶で口を湿らせ、味見用にと余分に焼いたものを一口かじる。薫くんの好みに合わせてある分、自分の舌にとっては甘く感じられた。
「
…
ふむ、こんな感じかのう」
しばらく冷まして熱が落ち着いたことを確認すると、それを一つずつの個包装にして、箱の中に収める。黄色のリボンをかけて結び、黒の手提げ袋に入れた。あとは明日薫くんに渡すだけ。キッチンを綺麗に片付けると、鍵をかけて屋敷を後にした。
翌朝の待ち合わせは少し早い時間で、寮の中はまだ静かだった。音を立てないようにそっと外に出て、朝の挨拶を交わす。そして、話もそこそこに薫くんに一つお願いをした。
「薫くん、手を出しておくれ」
「ん、何?」
何の迷いもなくこちらに差し出された薫くんの手に、持っていた手提げ袋をかける。
「我輩からのプレゼントじゃよ」
「えっ?何で?」
「何でって
…
今日はバレンタインじゃろ?」
驚いたように目を丸くして、かけた袋とこちらの顔を交互に見ている。まさか薫くんから理由を問われるとは思いもしなかった。
「いやいや、それは分かってるけど
…
っていうか俺も零くんに用意してきたし
…
」
薫くんがバレンタインを忘れるようなことがあるとは思っていない。確認するように問いかければ、薫くんも反対の手で持っていた紙袋をこちらに差し出した。サイズ感も色も自身のものとほぼ同じだった。
「おお、嬉しいのう。ありがとう、薫くん」
「
…
一応、手作り、だから。信頼できる人に相談に乗ってもらったから味は大丈夫、だと思う
…
」
照れ隠しのように視線を外すと、少し心配そうに声を弱めた。薫くんからのものであれば何だって嬉しい。バレンタインの贈り物に手作りと言われれば、より嬉しく感じられる。薫くんが信頼できる人だというのなら、味も約束されているようなものだ。
「おや、薫くんもかえ?」
「も
…
、ってことは零くんのこれも?」
「うむ。こういうのもよいかと思っての」
自分から明かすつもりはなかったものの、薫くんが打ち明けてくれたことを聞き返せば自然とそれは伝わった。意外とでも言いたそうに、薫くんは自身の手元の袋に視線を落とした。
「
…
ふふ、そっかぁ」
先程までの不安げな様子はどこへやら。手を口元に寄せて楽しそうに笑っている。
「どうしたんじゃ?」
「あの朔間零の手作りなんて、すごい貴重なものもらっちゃったな~って思って」
「これこれ、そんなにハードルを上げんでおくれ。我輩も人頼りなのじゃから」
少し袋を持ち上げて煽る薫くんに、今度は自分が眉を下げることになった。シンプルなものではあるが、味は確認してあるし、申し分はないはず。けれど、薫くんの言い方は大袈裟なようにも感じられて、その期待に応えられるのかと心配にもなる。
「それに、ショコラフェスの時にも作ったじゃろう?」
「あれはお客さんに向けてみんなで作ったもの、でしょ?」
「まぁ、そうじゃけども」
確かに薫くんが言う通り、あれは特定の誰かのために作ったというものではない。ショコラフェスに来てくれたお客さんに配るためのものだった。パフォーマンスの方に時間を割いて業者に発注したはいいものの、数を間違えて自分達で作ることになったのも、今となってはいい思い出だ。
「でもこれは、『俺のためだけに零くんが作ってくれた』わけじゃん。やっぱり貴重で特別なものだよ」
こちらを納得させるように、薫くんは言葉を強調する。事実、その通りではある。相手が薫くんだからこそ、普段はそういうことをしないなりにも作ってみようと思った。
薫くんに喜んでほしい。ただ一つのその想いを込めて。
薫くんはそれを汲んで、言葉にしてくれた。
「
…
ありがとう、零くん。すっごく嬉しい」
―
この笑顔をずっと見ていたい。
自身の心を温めてくれる、満面の笑顔を。
「
…
我輩、薫くんの熱烈な言葉に今ここで溶けちゃいそうなんじゃけど
…
」
「ちょっとちょっと、これからお仕事なんだからしっかりしてよね~?」
顔を手で覆って思わず俯いた。そんな自身の肩を薫くんは軽口と共にぽんぽんと軽く叩く。薫くんの言う通り、今は朝で、ここから夕方まで一緒の仕事が入っている。もちろん今日にちなんだ内容のもので。
「
…
薫くんが喜んでくれたのなら、何よりじゃ。さて、今日も頑張るとしようかの」
深呼吸をして、意識を切り替える。流石に現場で締まらない顔をしているわけにはいかない。仕事の後のご褒美だって既に決まっているのだから、それに見合うだけの働きをしなくては。
「うん。お仕事終わったら一緒に食べよ?」
「うむ、そうしようぞ。我輩も実に楽しみじゃ。何せ『薫くんの手作り』じゃからのう」
「も~!」
お誘いに頷いて、もらった紙袋を掲げながら歩き出す。後ろから薫くんの慌てたような声が聞こえる。歩いていく足取りは普段よりも軽かった。
そして、仕事を終えて互いの贈り物を開けたところ、全く同じものが姿を現し、協力を仰いだ人物が同じだったということが明らかになるのは、ここから約半日後のことだった。
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