ぎんちき
2025-02-10 21:35:44
9350文字
Public ブン木手
 

過去作まとめ①

雨降り短編詰め合わせ

↓以下はPixiv掲載時のキャプションです。↓
※調べてはいますが似非うちなーぐちが飛び交います!
ブン木手3本詰め合わせ。

いずれもサイト「確かに恋だった」様の「雨降りに恋10題」よりお題を拝借しております。
http://have-a.chew.jp/
①「はずむ」→「君を待つ雨の午後」「雨上がりと君の笑顔」
②「記憶――ある事件の回顧」→「こんな雨の日には」「すぶ濡れの恋心」「降りしきる夜雨」「降りしきる夜雨」
③「めいわく!」→「相合い傘の魔法」


記憶――ある事件の回顧


 もうじき志望校の受験日。余程のことでもなければまず落ちることはないでしょう。それでも万全を期すために、とこうして机に向かい、問題集とノートを開いている。勉強の供となるのは夜通し降りしきる雨。……こんな雨音を聞くたびに、数ヶ月前のあの日を思い出す。丸井くんは、元気だろうか。
 彼に対して抱いているこの感情が、なんと言えばいいものなのか、ぼんやりと分かってはいるが明確にできないまま、今になってしまった。いつか、全て笑い話にできればいいのに。

 U17の合宿に参加してからの俺はちょっと変だ、とジャッカルが言う。つい、「そうかぁ?」なんて返して誤魔化してみたけれど、自分でもそう思ってはいた。何でだろう……なんて、理由を考えるまでもないんだけどな。沖縄のアイツ……木手のせいだから。
 あの時起きた、事故。いや、「事件」か。キテレツはもう、忘れたのかな。忘れていてほしいような、それはそれで悲しい? ような。本人には聞けねーけど。

 忘れたくとも忘れられないし、今思い出すだけでも心臓が跳ねる。
 目の前のことに集中しなくてはならないのだから余計なことなんて考えていられない、と思ったが最後。自分の頭はご丁寧にも記憶の糸を解し始め、一から十までを映画のように投影しだした。こうなったなら勉強どころではない。もういい、諦めて物思いに耽ってしまおう。
 そう――あれは、丸井くんと一緒に練習をした後のこと。お互いに買いたい日用品があったからじゃあそのまま買い物に行きましょう、という話になった、その帰り道。雨がポツポツと降ってきて。

 突然だったから、俺もキテレツも当然傘なんか持ってなくて。俺が気にせず「歩いてりゃ止むだろ」って言ったんだっけ。でも結局、全然止まないどころかむしろ強くなって来て。流石にこれはまずい、ってなって近くの公園にあった屋根のあるところに避難することになったんだよな。
 んで、俺たちはテーブルを挟んで向かい合うように座ったんだ。

「今のところ、全然止みそうにねぇな」
「そうですね……

 その時の会話の細かい内容まで今となっては明瞭には覚えていないけれども、確か、やっぱり内地は冷えますね、とか、その流れで昔一度だけ旅行先で雪を見たことがある、とかそんなことを話していたような気がする。
 今思えばなんとなく気まずい空気を誤魔化そうと俺も彼も必死だったのでしょう。

「雪、ねぇ。俺はちびがいるからかもしんねーけど、結構、今でも幸が降るとわくわくするかな。けどさ、赤也のヤツはいっちょ前に「雪は寒いから嫌っス~」とか言っててよ」
「ふふっ、そうなんですね。私たちにとって雪はかなり珍しいですから、きっと皆さんはしゃぎますよ」
「それは、キテレツも?」
……さて。どうですかね」
「うわー。見てぇ〜! 合宿期間はまだ降らないだろうしなぁ……あ、そうだ、じゃあさ、そのうちスキー行こうぜ、スキー! かまくらも作ってさ」
「ふぅん、中々面白そうですね」

 思ったより乗り気だなーって感じた。何となく、「嫌です」なんて即答されるもんだと思ってたから。まぁその後は、こういうのって大抵その場限りの話になっちゃうよなーって俺が言って、キテレツにもそうですねって返されて……そんな他愛もない話を続けてたんだよ。
 でも次第になーんか静かになってきちゃって、会話がブツっと途切れた。

 雨がさっさと止んでくれればいいのに、そうもいかず。沈黙が非常に重く、長く感じられて、この俺もとうとう意を決して口を開きました。意味はありませんでしたが。

「あの、」
「あのさ」
「あ、な、何ですか、丸井くん」
「え? あ、あー、何でもな……あ! いや、そう、あの、さ公園! こういう公園でキテレツも遊ぶことある? あった? のかなー……なんて……?」
……あ、あぁ。勿論ありますよ。お気に入りだった公園で昔、甲斐クンとよく遊んでましたから」
「へぇー! え、でもお前らって遊具で遊ぶのか? なんかいつもブジュツで戦ってそうじゃね?」
「失礼ですね、何ですかその偏見は。普通に遊びますよ。あの公園は、大きい象の…………っくしゅ」

 お前、その見た目でそんな可愛いくしゃみするのかよ、って茶化してやろうとした。だから俺は顔を上げて、キテレツの方を見たんだ。そしたらアイツの肩とか手とかが、少し震えているのが見えた。本当に寒かったんだろうな。それに、くしゃみをしたのが恥ずかしかったのか、顔も少し赤くなってた。
 その時、なんか、自分でもわかんねぇけどその姿が急に小さく見えて……胸が、きゅって、締め付けられるような気持ちになった。それで、気がついたら俺は身を乗り出して。

 今でもハッキリと覚えている。丸井くんの……唇の感触を。柔らかくて、少しカサついていて。多分、あれはほんの一瞬の出来事だったはずだ。それでも俺にとってあの瞬間は長く、永く思えた。今だって静止画のように鮮明に切り出すことができてしまう。
 触れ合った唇から全身へと熱が伝わり、痺れるような感覚。ああ、今思い出してもどうしようもなくちむどんどんする。

 あのときの俺、相当ひどい顔をしていたと思う。基本表情を崩さないキテレツが顔を真っ赤にして、目を見開いていたから、多分俺も負けないくらい赤かったんじゃねぇかな……。うわ、今になって改めて自分の行動がめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
 あの時までに別にキテレツのことを「好き」だとか、そういうふうに思ったことはない。それは断言できる。そりゃあ、友だちとしては好きだけど、恋愛感情とかは持ってなかった。なのに、なんでなんだろうな。俺って軽率にああいうことしちゃう男だったのか? と考えるとビックリというか、少しゾッとする。
 ……正直言えば嬉しくない訳じゃなかった。でも、俺にとって間違いなく、丸井くんは「友人」だ。いや友人と呼んでいいのかも分からないが、少なくともあの合宿中は「仲間」だった。

 あの後、完全に気まずくなってお互いに黙り込んじゃったんだけど、運、というかタイミングが良いのか悪いのか雨が止んで。ふたりしてあの場から逃げるみたいに、ちゃっちゃと合宿所へ戻った。翌日からは全くそのことに触れることもなく、今まで通りの友だちとして過ごした。

 丸井くんがどういうつもりでああいうことをしてきたのかは分からない。……知ることができたとしても、聞きたくはない。いたずらにしては悪質だし、恐らく彼はそういうことをする人間じゃありませんから。でも……。知ってしまうことが、怖い。彼の気持ちを。何より、俺自身の感情を。

 W杯が終わったあとだって、キテレツは何事もなかったみたいに俺に接していた。拒絶された、っていうこともなかったはずだ。今だって時々だけど、普通にメッセージのやり取りくらいはするし……じゃあ、さ。あの時の表情は一体、何だったんだよな。

 ああ。あの時と変わらないくらいに鼓動が激しくなってきた。きっと、雨音如きには到底かき消すことはできないだろう。これも全部、彼のせいだ。

「あー、もうこんなウジウジしてんの、俺らしくねぇよな!」

 キテレツと、話そう。メッセージとかじゃもどかしいから、直接会いに行こう。直接話して、俺のモヤモヤを伝えちゃえ。春休みとかならアイツの受験も終わってるだろうし、なんとかなるだろ。うん。それがいい。思い立ったが何とやらだ。「春休みそっち行っていい?」――と。

 この前丸井くんから送られてきたメッセージにはまだ返信できずにいる。久しぶりに、逢えるチャンス。それだけでこんなにも高揚するのだから、俺はきっと、彼のことが……
 だからこそやはり、「怖い」のだ。彼とは良い友人でいたいから。でも、でも……

……「でも」、何なんでしょうかね。こんな俺の姿を見られたら、皆さんから笑われてしまいますよ」

 まぁ来るなって言われても行くつもりだけど。せっかくなら単純に観光だってしたいし。お、そう思ったらなんかスッキリしてきた。待ってろよ、キテレツ。俺の気持ちをぶつけてやる。その後がどうとか、知らねぇし。

 逢いましょう。逢って、ハッキリさせてしまおう。それだけだ。返答が遅くなったことを詫びつつ、了承の旨を伝えて。春休み、ですか……まだ少しばかり先ですけど、いいでしょう。その時に、きちんと伝えてしまえば。

 もう迷うことなんてない。だって、この気持ちの「答え」は見つかったのだから。