ぎんちき
2025-02-10 21:35:44
9350文字
Public ブン木手
 

過去作まとめ①

雨降り短編詰め合わせ

↓以下はPixiv掲載時のキャプションです。↓
※調べてはいますが似非うちなーぐちが飛び交います!
ブン木手3本詰め合わせ。

いずれもサイト「確かに恋だった」様の「雨降りに恋10題」よりお題を拝借しております。
http://have-a.chew.jp/
①「はずむ」→「君を待つ雨の午後」「雨上がりと君の笑顔」
②「記憶――ある事件の回顧」→「こんな雨の日には」「すぶ濡れの恋心」「降りしきる夜雨」「降りしきる夜雨」
③「めいわく!」→「相合い傘の魔法」

はずむ

 待ち合わせの予定時刻よりもだいぶ早くに着いてしまった。こんな俺からの連絡を受けて、彼は「うちなータイムはどうした?」なんて言って笑ってくれただろうか。

 そう考えてみれば、というところではあるけども、確かに地元にいるときであれば自分だって何事に対してももっとゆっくりしているとは思う。性格上、最低でも時間厳守であることは変わらないにせよ。
 だがそれはそれで、これはこれ。いわゆる「遠距離恋愛」をしている俺たちにとって「ふたりだけ」の時間というものは至極貴重なものなのだ。ついその考えが行き過ぎてしまい、いつもより念入りに身支度をしたはずであったにも関わらず早々に準備が完了してしまった。
それならばホテルでちょうどいい時間まで待てばいいのに、と我ながらに思わないでもなかったがそうしようにも余りに落ち着けずここまで来ることに。だから結果として、一時間も前に待ち合わせ場所のカフェに着いてしまった、という訳で……

今日はあいにくの雨模様だから俺以外の客は全員店内にいて、オープンテラスのここは貸し切り状態だ。しっかりとした屋根はあるから濡れはしないし雨粒の跳ねる音が耳に心地よい。そんな中にひとりだけ、だからとても落ち着ける。なかなか悪くはない。

 ……悪くは、ないんですが。まぁ、一刻も早く彼の顔を見たいというのが本音であって。普通の電話は勿論のこと、ビデオ通話も時々しているから、声も顔もずっと見ていない、という訳では決してない。何より彼は俺たちが単なる友人同士であった時分から、俺が頼んでいなくても定期的に自撮りを送ってくる。それでも、実際に目の前で直接話をするのは俺にとっての意味合いが全然異なりますから。こんなこと、本人の前では到底言えませんけどね。
 時間を潰すためにと持ってきていた本をそれとなく広げてみても一向に内容が頭に入ってこなくて、ただただ文字の陳列を眺めているだけになってしまう。そのことを自覚すれば自覚するほどに彼の顔が、声が、香りが思い起こされて、胸が締め付けられるような思いすらする。こんなに浮かれてしまって全くどうしようもないほどに。
 彼との出逢いは数年前に遡る。お互いに中学三年の頃だった。ひょんなことからダブルスを組み、それがきっかけで友人となり長期休みには時々遊ぶこともある、そんな状態が続いていた。関係に変化が訪れたのはつい最近、と言っても数ヶ月前のことになる。

 あれぞまさに、青天の霹靂。通話をしながら、ちょうど今日の予定を立てているところだった。彼に誘われた、これから向かう予定の場所はどうもカップルに評判らしく、俺が思わず「男の友人同士で行ったらやっぱり浮きますかね」と言ったら彼が「……え、俺達って付き合ってねーの?」と返してきて。今もその声を鮮明に思い出せる。シンプルにとても、嬉しかった。だって「そういう感情」を抱いているのはきっと俺なんだけだと思いこんでいたから、彼と同じ思いだったことが何より幸せで。……最も、正式に互いの気持ちを確認し合った後、思わず少々涙ぐんでしまったことは俺だけの秘密として墓場まで持っていく所存ですが。

 ともかく、そんな彼のことを俺は少しだけズルい、と思うことが多い。さらりとスマートに、かつストレートに俺が言いたくても言えないことを発せる彼が。今日はどんな言葉を俺にくれるのでしょうかね。彼の「恋人」として、初めての……デート。その時が、待ちきれない。
 ああ、丸井くんに、逢いたい。一刻も早く。

「悪ぃ、待った……よな?」

 全く、なんてタイミングなんでしょう。集合時間はまだだというのに、急いできてくれたのか息を切らしている。さっき、「三〇分はかかるかも」なんて返信していたじゃないですか。そんな彼へお気になさらず、とか、俺が無駄に早かっただけですよ、とか、そもそも感謝の辞を伝えるとか、そういう気の利いた返しができれば良いのに、この口から出た言葉は。
「あ、俺、お会計済ませてきますから。少し待っててもらえますか」
 この馬鹿 くぬふらー! ……っ、しかし、対面した瞬間にして何故か ・・・火照った頬を冷ますには彼から離れる必要があった。そう、そうです。小銭の受け取りがもどかしいですね。
 ――呼吸を整えて、彼のもとへ。平静を保つ、そんなの至って簡単なことじゃありませんか。俺にはできる。よし。

「お待たせしました。俺のせいで急かしてしまって、申し訳ないです」
「別に。お前との時間が延びるんだからさぁ。気にすんなよな。……ああ、もう傘はいらないぜ?」
「はい?」

 空を見上げれば、つい先ほどまでそんな気配を見せていなかったのにも関わらず、すっかり雨が止んでいて。おまけに映画のワンシーンかの如く、ビルの谷間には大きな虹までかかっていた。そして何より、俺の前には満開とばかりの笑顔を浮かべた丸井くん。それはそれは、沖縄の太陽に負けないくらい眩しい。

「じゃあ予定よりは早いけどさ。行こうぜ、キテレツ」
……はい!」

 恥ずかしいけれども、今日は俺からも伝えよう。君に出逢って変わったこと。君からもらった沢山のもの。その総てに感謝していること。
 こうやって彼と肩を並べられる……そう。願わくは、これからも共にあらんことを。

*

 キテレツは、根っからの沖縄人のはずだけど、俺が抱いているような「沖縄人 ウチナーンチュのイメージを覆してくる。いや、知り合ったときからアイツと同じ比嘉中の連中に比べる……までもなく、そうだったけど。

 とは言え、いくらなんでもまさか集合時間の一時間も前に「着きました」なんて連絡があるなんて誰も思わねぇって。「アナタは時間通りに来てください」なんて言われてもさ、急がないわけにはいかないよな。仮にその通りに行ったとして、別に俺が遅れてる訳じゃないのに罪悪感を覚えるだろうし。
 もうちょっとゆっくりしてくれればいいのに、と思わなくもないけど、結果としてアイツの顔が少しでも長く見られることになるし、いいか。……なんか、我ながらちょろいな……。っていうか、そもそもが、もしかして俺に早く会いたくて、とか……? なんて、期待のような、願望のようなことを思ってみたり。

 そうこうしている内に着いた、んだけど。何でアイツ雨降ってんのにわざわざ外の席にいるんだろ。本? を読んでるみたいだけどそれだけで、なんか画になってるし。俺って正直、顔はまぁ良い方だと思ってるけど、同じことをしてもああはならないだろうな。多分。

 ん。あぁ……。そっか。俺がキテレツのことを待たせているってことは、今アイツの時間はオレだけのために流れているんだよな。……そう思うと、なんつーかこう、アイツのことが、ますます可愛く思えて、胸がいっぱいになる。……俺よりひと回りも物理的にデカい男相手に可愛いってのもどうかとは思うけど。アイツは、可愛い。あー、なんか、ヤバい。急に自分がめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。呼吸が乱れているのはさっきまで走ってたせいでしかないし。だから、こんなにドキドキもしてるんだよな。うん。それだけだぜ。そういうことにしよう。
 軽く深呼吸して、いつも通りに。