かいえ
2025-02-09 23:41:45
4423文字
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【イザ+マイ×武】冬の花火 

2023年1月21日発行「我儘に愛したオレらの理由」武道受けサンドWebオンリー無配冊子に寄稿した作品に加筆修正したもの
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「ココ君、どうかしたんですか?」
 九井は大抵疲れた顔をしているが、今日はいつもより更に悪い顔色をしていたから、武道は驚いて声を掛けた。
「大将とマイキーに無茶振りされただけだ」
 うんざりした口調だった。質問してまで聞くこともなかったと武道は反省した。九井が振り回されるている時は、いつでもイザナかマイキー関連なのだ。そして、その件に関して、武道にしてあげられることはほとんど無くて、ご愁傷様と思って上げることしか出来ないのだ。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫にしてやった」
 九井は切れ長の目を細め、口角を思いっきり上げると、ふふんと自慢気な表情を浮かべる。疲れてはいるが、大きな仕事をやり切ったという清々しい感じがあった。
「すごい! さすがココ君だね!」
「ははは。今度からはもっと早く言えよ」
 九井はそう言うと「何を?」と思う武道の頭をくしゃくしゃと撫で、忙しそうにその場から去っていった。九井の後ろ姿はやっぱり疲労感が漂っていて、イザナとマイキーの指令がひどく骨の折れるものだったことを物語っているようだった。
「武道、行くぞ」
 しばらくして、事務所に戻って来たイザナがそう言ったから、武道は何も考えずにイザナに着いて行った。班目が運転する黒塗りのセダンの後部座席に乗り込み、途中でマイキーを拾うと、いつもと全然違う道を走っている事に武道は気が付いた。いつも行っている店に行くのだとばかり思っていた武道は驚いた。後部座席で武道を挟むように座るイザナとマイキーは、二人とも武道ではなく窓の外を眺めている。そんなことも、車内で会話が全く無いことも珍しい事だ。けれども、武道の両手は二人にしっかり掴まれていたから、二人が武道に対して怒っているという訳でも無さそうだった。
 車は大きな倉庫が連なる場所で停車した。イザナは無言のまま武道の手を引いて車から降りた。どこに着いたとも言われなかった武道は、口を開け見上げながら周囲をぐるりと見回した。夜の帳が下り、いかにもヤバいブツを取引する現場のような場所だった。勿論、そこに人の気配などはまるで無く、吹く風の音しかしていない。反対側の後部座席のドアから降りたマイキーが武道の横に来て、当たり前のように空いている方の手を繋いだ。
 武道は子供のように二人に手を引かれ、倉庫と倉庫の間のアスファルトで塗装された道を歩いて行った。武道たちの前を先導するように三途と灰谷兄弟が歩き、背後を鶴蝶と班目と武藤が歩いている。
 そのものものしい感じに、どこに連れて行かれるのだろうかと、武道は初めて不安に思った。錚々たるメンバーに囲まれて行く先は、もしかすると、処刑場なのかもしれなかった。
 以前、三途と灰谷兄弟が話していたのを聞いた事を思い出したのだ。
 彼らは、遺体は凍らして砕けば魚の餌だと話していた。
 そんな悍ましい事をするのに、この場所は適しているように思えてしまったのだ。先ほどからずっと二人が黙り込んでいるのは、殺す相手と話すと情が移るからなのかもしれない。汐の匂いが風に乗って鼻腔につく。この先にあるのは海なのだと武道は思った。
 武道の予想通り、倉庫の向こうは岸壁で、すっかり陽の落ちた濃紺の夜空の下に、漆黒の海が広がっていた。空と海の境界線が曖昧になっていて、緩い波が岸壁当たる音が聞こえていた。
 進行方向に、土台が組まれた上に白いテントがあるのが目に入る。リゾートホテルの海辺にあるように三方が布で覆われているものだ。感じが違うのは内側に弾除けの鉄板が設置されているところだろう。
 その場所にイザナとマイキーが武道を連れて登って行った。そこは思ったより景色が良く、盆踊りの櫓くらい高くなっている。
 幹部たちは奥の席に座り、イザナとマイキーと武道は、一番前に用意された三人掛けの席に腰を下ろした。背後で竜胆がシャンパンを開けるポンという軽快な音が鳴り、すぐに蘭がシャンパングラスを三人に渡しにやって来た。目の前に丸いテーブルも運ばれてきて、その上には軽いオードブルが並んでいる。どういうことだろうと、唖然としている武道の目の前で、ひゅーという花火が打ちあがる時の特有の音がして、漆黒の夜空に大きな花火が開いた。そして遅れてドンという音の衝撃波が全身にぶつかってきて、ようやく、あのチラシの花火なのだと武道は理解した。
 よく見れば、薄暗闇の遠くの方に人混みがあり、打ちあがる花火に歓声を上げているのが見えた。 
 ここはイザナとマイキーが武道の為に用意してくれた特等席なのだ。九井の疲れた後ろ姿と「もっと早く言え」の意味を今更ながらに知って、武道は感動で胸を震わせていた。
「どうだ? よく見えるだろ?」
 ふふっとイザナが得意そうに笑う。それなのに、武道は全然違う想像をしていたのだと、罪悪感でいっぱいになった。
「ごめんなさいオレてっきり」
「てっきり? なんだ?」
「凍らされて細切れにされて、お魚の餌にされるかと思っていました」と言って、武道がぶわっと大粒の涙を流したので、イザナとマイキーは面食らってしまった。
 何をどう考えたらそんな恐ろしい発想になるのだろうと、二人とも二の句が繋げない。そんな物騒な話を自分たちの天使に教えた奴はどこのどいつだと、イザナとマイキーが後ろを振り返り凄むと、そこにいた鶴蝶以外の幹部は全員すっと目を反らした。
「そんなことありえないから、二度と考えるんじゃねぇぞ?」
 イザナは嗜めるように武道に言い聞かせ、こいつは、いまいちオレの気持ちを分かっていないようだから、今夜はじっくり分からせてやる必要があると考えた。
「たけみっちはバカなの? オレらが、たけみっちを殺すわけないじゃん?」
 過去に何度も武道を殺そうとしたり、殺したりしたマイキーが微笑む。
「そうですよね
 何度も恐ろしい目に合い過ぎて、感覚が鈍くなっている武道が「ごめんなさい」と素直に謝る。
 仕切り直して、三人でシャンパンの細長いグラスを合わせて乾杯をすると、グラスは高価な澄んだ音がした。
 花火は次から次へと打ち上げられていて、三人とその他大勢を鮮やかに彩ってくる。
「お礼はしてくれねぇの?」
 打ち上げの合間。
 ほんの少しの静寂が訪れる合間を狙ったように、イザナが蠱惑的な笑みを浮かべ武道に囁く。
「お礼?」
 ニヤッと笑うイザナと、同じく微笑むマイキーの瞳はキラキラと輝いて、まるで悪戯でも考えているかのように生き生きとしていた。両側の二人がそろって目を閉じたので、武道はドキドキしながら、順番に二人の唇にキスをした。