かいえ
2025-02-09 23:41:45
4423文字
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【イザ+マイ×武】冬の花火 

2023年1月21日発行「我儘に愛したオレらの理由」武道受けサンドWebオンリー無配冊子に寄稿した作品に加筆修正したもの
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「行きてぇの?」
 天竺の事務所のソファに座ってチラシを眺めていた武道は、突然背後から声を掛けられて、盛大にびくっと身体を震わせた。
 そのチラシは駅の改札を出たところに設置してあった棚に置かれていて、来週末に行われる花火大会の詳細が書かれたものだった。真冬に花火とは珍しいと、一枚貰ってきて眺めていたのだが、まさかイザナに見られるとは思っていなかった武道は「え? あその」と口を濁すことになった。イザナは混雑した場所には、嫌いだから近寄らないのを武道は知っていた。それなのに、行きたいとは言えない。
「たけみっちが行きたいなら、オレが連れて行ってやるよ」
 イザナの横にいたマイキーが、すかさず口を挟んだ。そして、武道の背後から首に腕を回し抱き着いて、にっこりと武道にしか見せない笑みを浮かべるものだから、格好良さが倍増してしまい武道はゴクリと息を飲んだ。イケメンによる至近距離の破壊力は半端ない。
「連れて行ってやらねぇとは言ってねぇし」
 マイキーに先を越されたイザナがムッとした表情で言うと、マイキーは「イザにぃは嫌いだろ? こういう人混みは」と、揶揄いながら物事の核心を突くので、イザナは益々不機嫌になる。イザナは苛々とした声で「嫌いだけど、行かないとは言ってねぇ」と、マイキーに言い返した。
 こうなってしまった場合、二人の殺気だった視線がぶつかり火花を散らしたかと思うと、その後は常人を超えた暴力的な兄弟喧嘩へ発展するのが常だった。熾烈すぎて天竺の幹部も、その幹部筆頭である鶴蝶すら、止める事は出来ない恐ろしい兄弟喧嘩になる。
 そういうわけで、天竺の事務所内には不穏な空気が漂い、緊張が走ることとなった。 
「見てただけっス! 落ち着いて下さい、二人とも!」
 放っておいたら、ずっと平行線のまま蹴り合いを始めそうな二人を見て、武道は慌てて割って入った。イザナとマイキーの喧嘩が止められる唯一の人間である武道が間に入ったので、事務所内にいた幹部一同は全員がホッと胸を撫で下ろした。もちろん鶴蝶もである。
「オレは落ち着いている」
「オレも落ち着いてるし」
 喧嘩はするけど、二人はとても似ている。血は繋がっていないというのに、本当の兄弟のようだと武道は思う。
「で、タケミチは行きてぇの 行きたくねぇの?」
 イザナに再度聞かれても、武道は言葉に詰まってしまった。正直な気持ちで言えば、行きたかった。冬の冷たい空気の中で、大輪の花を咲かせる花火を見てみたいと思った。けれども、マイキーが言うように、イザナが人混みを嫌うのを知っていたから、武道は行きたいとは言い出せない。
 それに、王であるイザナが動けば、その配下である幹部も必然的に動くことになる。武道の我儘で幹部全員の予定が狂うだろうし、きっと警備の関係で兵隊も多数動員されるに違いなかった。ただの暴走族である東京卍會と違って、イザナが率いる天竺は組織として大きくなり過ぎていた。そんな大事にしてまで見たくないと武道が言おうものなら、マイキーが嬉々として、先ほどのように武道のエスコート役を買って出るに決まっていた。
 そうなると、またしてもイザナの機嫌が悪くなるのは、火を見るより明らかで、どう答えたら波風が立たずに終わるのだろうかと頭を抱えた。
 マイキーは武道を連れて歩くことを好み、イザナは武道を人目に晒すことを嫌がる。二人は似ているところも多いけど、こういうところは、二人の性質は真逆だった。
 色々と考えた結果、武道の返答は「珍しいから見てただけっス」というものになった。長い沈黙後の武道の返答に、イザナは綺麗な眉をピクリと動かした。それはイザナが納得していない時の表情だったが、珍しくそれ以上の追及がなかったのは、 丁度、灰谷兄弟が昼食用のテイクアウトの品々を持って現れたからだった。
 全員もれなく腹を空かしており、事務所内に充満した美味しそうな香りに抗えるものは誰一人としていなくて、すぐに不穏な空気になる冬の花火大会の件は、それ以上話題に上ることはなかった。