【基本英雄大鷹形態】マントリング【マウモア】

モア海2の世界観で大鷹半神半人の英雄と無垢な勇者の求愛詰め合わせセット話。突貫。映画ネタバレ独自解釈捏造要素有。

空に落ちる




 何の前触れもなく強靭な鷹の足が私の体を掴んで飛び上がった際、地上に残した悲鳴の尾が上昇するのに比例して伸びていくのだけは分かった。
 時折マウイがする悪戯にしては勝手が違い過ぎる雰囲気に先程貰った羽根を抱き締め身を竦ませた。
 島の頂に立ち見下ろす感覚と別格な高度の高さ。地に足が付いていない不安定な感覚が恐怖心を煽りに煽る。

 「マウイッ!! ちょっと度がす、」
 「空でダンスするのは初めてかいお姫様?」

 被せてきた言葉の楽しそうなこと。腕ごと体を掴んでいた猛禽類の足が開いたお陰で私の体が空に投げ出された。上昇していた浮遊感が一転して、もの凄い速度で落下するのに合わせ私の髪が空に吸い込まれる。
 スカートの裾が忙しなく靡き、風にお手玉されている私の体はもみくちゃだ。前後左右に加え上下不覚な視界端、殊更楽しそうに飛んでいるマウイを睨みつけた。

 「私はあなたやマタンギと違って飛べないのよ!!」

 大鷹になれるマウイと不思議なマントで飛ぶマタンギは空の世界を詳しく知っているだろうけど、甚だ残念な事に私には学ぶ方法やそもそもスタートラインにすら立っていないずぶの素人。
 恨み節を疾風でかき消されないよう叫べば、マウイが甲高い鷹の鳴き声を残して急降下していってしまった。広げていた翼を折りたたみ私が落下する速さよりはるかに速い速度で急降下していったと思いきや、折りたたんでいた翼を広げ速度を落とした彼が私の傍まで戻って来た。
 ……嗚呼、トドメにウィンク決めなくても分かりました。

 「~~~ッッッ」

 師匠に倣い両手両足を広げ風を体全身で受け止める。右手に握ったマウイの羽根が風を切る音を奏で、明らかに落下速度が遅くなった視界で隣を飛ぶ大鷹をジト目で見遣る。

 「上出来」

 お墨付きをいただけたところで安全に地上に帰還したかったのにそうはいかないらしい。
 広げた両腕を鷹の足ががっちり掴み再上昇し始めてしまった。降下した分だけ上昇したかと思えば、今度は振り子よろしく反動をつけ上空へ投げられた。
 一定の高度まで上がった体が下に引っ張られ落下する様子を私より下で滞空して待ち構えるマウイを鼻で笑い──、両手を体の横にピタリと付け足を閉じた状態で彼の横を高速で通り過ぎた。
 呆気に取られ羽ばたいていた彼がワンテンポ遅れ私を追ってくるのを横目で捉え、今度は隣に来るタイミングで閉じていた四肢を目一杯広げ風を受け止め減速させた。
 慌ただしくブレーキを掛け此方を見上げるマウイにしたり顔で笑ってやったわ。

 「やるじゃないか。が、リードは俺がさせてくれ」

 一瞬やられた表情を浮かべた彼が一呼吸する前に羽ばたきひとつで私の所へ戻って来た。兎角忘れていたわけではない風と海を司る半神半人の英雄の姿に自然と笑みが零れた。
 その後、マウイが私を掴んでは投げて空で鳥たちがするように舞い踊った。後半なんか空にいる感覚が楽しすぎて笑っていた記憶しかない。手首を掴む鉤爪の脚を掴み返し、優雅に雲の合間を縫い飛ぶマウイが見る世界に興奮で声を張り上げた。心が楽しさで跳ねまわって呼吸も弾む。蒼穹に放られ自然落下する私の周りをマウイが触れる距離まで近付き離れてはまた近付くをくり返す。二人揃って錐揉みで海に飛び込む間際、強靭な鉤爪が私を掴み急上昇して空に舞い上がった。

 「まだダンスし足りない?」

 甲高い鳴き声ひとつ鳴いた彼は私をまだまだ付き合わせる気満々みたい。しょうがないって笑った私を見つめる物柔らかな鷹の瞳に私はどうしてか笑いが止まらなくなってしまった。
 時間にすれば然程経っていない久方ぶり地面の再会で足裏がふわふわする。
 夕焼けに染まる空を見上げる。さっきまであそこにいたんだと感慨深く眺めていれば、大鷹の変身を解いていないマウイが嘴に何かの実を咥え私に差し出してきた。何時の間に

 「羽根もそうだけど、もらってばっかでいいの?」

 右手に抱えた立派な羽根から視線を嘴に咥えられている果実、そして何故か喋る気配がないマウイの顔を辿り虚空に投げた。
 肩で溜息を吐き嘴に咥えられている瑞々しい果実に手を伸ばし受け取った。今日は本当に貰ってばかりだ。片手で収まる実は丁度叫び過ぎてカラカラになっている喉を潤すのに良さそう。

 「あなたも食べる?」

 私の問いに首を振るい翼で食べるのを促す姿を不思議に思いつつ、折角なので名前も味も分からない未知の果実にかぶりついた。想像通り瑞々しい果汁が弾け飛び首筋を伝って零れる甘い汁を手で拭いながら食べ進める。
 余程喉が渇いていたみたい。夢中でかぶりつき嚥下した私は果実を持ってきてくれたマウイにお礼を言うべく、果汁塗れの口元を拭い彼の目を見詰め彼にとっては聞き慣れている感謝の言葉を述べた。

 「そいつは良かった。お前好みの実を用意して正解だったな」

 何処か突っかかる彼の物言い。ただ指摘する頃合いに合わせてか青白い光を纏い人間の姿に戻ったマウイの嬉しそうな表情を見た私は深く考えるのを止めた。
 私だって大切な人が喜んでくれるならば贈り物のひとつやふたつするのを思い出したからだ。マウイの羽根を両腕で抱き笑えば、彼もまた笑い返してくれる。それだけで充分。
 だから、マウイの大きな手がいつもと違う熱を含み頬を撫でる小さな違和感に当時の私は気付きようも無かった。