【基本英雄大鷹形態】マントリング【マウモア】

モア海2の世界観で大鷹半神半人の英雄と無垢な勇者の求愛詰め合わせセット話。突貫。映画ネタバレ独自解釈捏造要素有。

羽包む




 生まれも育ちも常夏気候、寒さとは無縁暑さに滅法強い地域出身の弊害をモアナは身をもって味わっていた。
 新たに左腕に刻まれたタトゥーと半神半人の英雄のサイン付き命の女神の祈りが籠められたオールに宿った人智を超えた力を見極める訓練がてら、半神半人の先輩であるマウイと一緒に外洋へ出航すれば唐突に天候がへそを曲げてしまった。
 燦々と降り注ぐ力強い日差しは分厚い雲に遮られてしまい熱の恩恵を享受出来ない。しかも、今まで体験した事のない肌を突きさすような寒さが情け容赦なく襲い掛かる。自分の意思に関係なく奥歯がカチカチ鳴り体が小刻みに震える所為でモアナが喋るたび言葉が途切れ途切れに波打つ。
 「あ、あそこのししし、まできゅ、きゅうけいす」
 これぞまさに天の助け。最後まで言い切る前に舵を切るモアナの足元はタップダンスを刻んでいる。
 程なくして砂浜に着岸後、舟を押し付ける形でマウイに任せたモアナが悴む手で火起こしの準備をし始めた。だが、身に染みこんでいる動きが寒さで鈍り思うように火が点かない。焦燥感に駆られた指先は脳からの指令を受け止めきれずに益々こんがらがってしまう。
 凍える風がモアナの緩やかにうねる髪を弄ぶたび、彼女は身を強張らせ目を固く瞑り風が通り過ぎるのを待った。
 「寒い寒い寒いっ!! はやく火を起こ、……
 風が弱まったのを見計らいモアナが再び火起こしに取り掛かるべく目を開ければ、波に攫われない位置まで舟を砂浜に移動させ終わったマウイが普段と変わらない動きで近付く姿が視界に入った。
 言っちゃあなんだが、自分より肌を隠す面積が少ない彼はさぞこの寒さは堪えるだろうと勝手に決め込んでいたが如何やら違うらしい。
 「寒くないの?」
 訝しげな視線を投げかけている最中、モアナは自分自身を掻き抱き二の腕を擦って少しでも寒さを和らげるのに必死だった。
 そして、寒がっているモアナに訊ねられたマウイは意外と愛嬌のある目を丸くさせた後、彼女が云わんとしている事を察して得意満面に胸を張り口端をつり上げた。
 「鍛え方が違う」
 サービス精神旺盛に大胸筋を左右別々で動かすマウイに合点がいったモアナが瞠目する。
 でも、正直釈然としない感情がムスっとふくれっ面に表れた。手っ取り早く厚着をしたくても余分に着替えを持ってきている訳もなく、モアナが中断した火起こしを買って出るマウイが屈んだ瞬間、彼女の目に大鷹のタトゥーが映り込む。
 「ねえ、ちょっとお願いがあるんだけど」
 「待ってろ。すぐ火ィ点ける」
 「そうじゃなくて」
 大きな手元で起用に作業していた手を止めたマウイが声がする方向へ顔を向ける。
 果たして、そこにいたのは何かいい案を閃いたらしいモアナが首をちょっとだけ傾け期待に満ちた眼差しで見詰めていた。
 「はいはい。お姫様のお願いでしたらなんなりと」
 「私はお姫様じゃないって何度言ったら──、鷹になってくれない?」
 不貞腐れた表情を瞬く間に上目遣いでねだるモアナに察したマウイが砂浜に置いていた釣り針を掴む。忽ち青白い閃光を放ち大鷹に姿を変え「これでいいか?」と畳んだ両翼を肩を竦める要領で上下に動かした。
 「ありがとうっ!!」
 「どういたしまして」
 要は羽毛で温まる算段を察したマウイが鋭い鷹の目を緩ませ片眉を大仰にクイっと上げる。

 ──ここに座って
 ──翼はスサーって伸ばさなくて平気
 ──ちょっとだけ体起こして隙間空けて

 モアナの要望を素直に叶えていたマウイだったが、何やら雲行きが怪しくなってきた。モアナが楽しげに大鷹になった姿を観察するまでは良かった。今思えば大きさを確認していた時点で制止すべきだった。
 鋭い鉤爪がある脚の間を匍匐前進して収まるモアナが嬉々として口を開く。
 「うん! このまま体を下ろしてあったか~い」
 彼女に促されつい潰さない程度に体を加減して下ろしてしまった己自身にマウイは嘴を強く閉じた。
 「Ah~、この態勢じゃなきゃ駄目か巻き毛」
 「この態勢がいいんじゃない。よく親鳥が雛鳥を温めるのと同じよ」
 苦々しいマウイの提案を棄却したモアナは寒さが緩和され素肌を包み込む羽毛の温もりに強張っていた体から力が緩々と抜け、重ね折り畳んだ両腕の枕に顔を乗せ温もりを堪能し始めた。
 「(お前が良くても俺が良くないんだよっ)」
 端から見れば大鷹の羽毛に埋もれ温められている人間の構図だが変身を解除して人間同士になったらと、思考をマウイが頭を振るい追い払う。
 「流石ね寒いのなんてへっちゃらだわ。それにもっと温かくなってきた!」
 マウイの心モアナ知らず。無邪気にはしゃぎ身じろぐモアナに翼で頭を抱えたマウイが小さく唸る。
 しかし、心と身体は正直で残酷かな。モアナから齎される熱が羽毛越しでは足りなくて潰れないよう細心の注意を払い羽毛の根元を掻き分け直接肌を押し付け、転寝モードに突入する彼女を寒さから護るため羽毛で完全に覆い隠した。僅かに見える隙間から先端が黒く染められた黄色い嘴で波打つモアナの髪を繕い、ゆっくりとゆっくりと彼女の背中から太腿に至るまでの稜線を体全身を使い重ね合わせ、熱が交じり合う感覚に浸るマウイは甘い己自身を自嘲せずにはいられない。
 寒さで委縮していた体の緊張が解け尾羽の温もりからはみ出たモアナの伸ばされた爪先を器用に引き戻す。為すがまま身を預け委ねる危機感も何も無い彼女の態度にマウイが満更でもない顔で見据え、不承不承モアナ専用羽毛布団になる事を許容するのだった。





















 出番が来るまで暇つぶし一般通過大蟹の魔物さん襲来

 「交尾前ガードに精が出るな友よ」
 「これ以上自慢の脚を捥がれたくなけりゃ口を閉じろカニコロッケ」
 「そいつは困る、数え歌の歌詞を変えるのは面倒だからな」
 「だったら今”は”見逃してやる。とっとと俺たちの前から消えろ」
 「おーおー。半神様の寛大な心に感謝して塒に引っ込めってか? 笑えないジョークだ。生憎ラロタイを縄張りにしている大蟹がみすみす狙っている雌を諦めるほど軟じゃない、お分かり? さっさと小娘にしてる交尾前ガードや、」
 「断じて違う」
 「自棄に強い口調で遮るなんざ図星か? まあ、いい。俺の趣味は交尾中の雌雄を物理的に引き離す事だ。情けない顔で生殖器が抜かれちまって慌てふためく滑稽な様は最高の娯楽ってもんよ」
 「……趣味の悪さは一級品だな」
 「ぬははっ! 褒めても何もでないぞ。……ミニミニ・デミゴッド」

 微睡んでいた意識が轟音で一気に浮上した無垢な勇者の目の前で繰り広げられる本気モード英雄と大蟹の大迫力バトルに彼女の髪は衝撃で靡き、海は大いに狼狽えながらも被弾せぬよう舟を移動させ、神域で高みの見物をしている嵐と蝙蝠はポップコーンを摘まんでいたのだった