他の世界で繋がる縁もあるそうですよ

中の人ネタです!!!!!!!!!

人類最後のマスターが監督生やってるn番煎じのやつです。細かいところは脳内補完してください。
それと魔術知識についてはお目こぼしを……何卒……。








 ───献血って、一回行ったあとは、何日くらい空けなきゃいけないんだったっけ。

 自分の血が並々注がれた試験管を見ながら、立香はぼんやりと思った。
 新しい傷を作ると婦長や医神に怒られる気がしたので、立香は体中に走っている裂傷や火傷痕などの古傷などの感覚が鈍くなっている場所を中心に、自分の体を傷つけて、血を溜めていた。
 以前、ロードの授業で召喚術式のテストをした時に、立香は絵の具を使って術式を再現した。そのときに使った絵の具の量は、確かこんなもんだったと思う。二世は鶏三匹ぐらいって言ってたな……、と立香は貧血でちょっとだけふらふらする体を押して、深夜の学校を訪れた。
 オンボロ寮には、ゴーストがうじゃうじゃとしている。それが触媒となって、立香の知らない、幽霊にまつわる英霊が来られても困る。贅沢を言っている自覚はあるが、立香はできれば「もしかすると異世界に行くことができるかもしれない」英霊に来て欲しかった。
 となると、狙うはフォーリナーのクラス。次点でキャスタークラスの方々。出来るなら、アビゲイルに来てほしい。SAN値ピンチになるかもしれないが、元の世界に戻ることができるのならいくらでも回収可能だ。


 貧血気味でふらふらしていた立香は、鏡舎を通り過ぎた辺りから、自分が誰かにとある生徒に尾けられていることに、微塵も気付くことができなかった。
 長い影が街灯に照らされる。きっちりとしたハットに、細長い体躯。洒落た革靴に、首から下げられた薄紫の長いストール。ナイトレイブンカレッジはオクタヴィネル寮の寮服であった。指定暴力団だの、ギャングだの、ポートマフィアだの言われているオクタヴィネル寮の中でも特にヤバイ双子の見た目からしてヤバい奴、と評されているフロイド・リーチは、最近自分が「小エビ」と呼んで構ってやっているオンボロ寮の監督生がふらふら校舎へ向かうのを見かけて、何となく興味を持った。
 もうすぐモストロ・ラウンジの閉店作業が始まるのだが、今日はそういう気分ではなかったので脱け出してきたのだ。なーんか面白いことねえかなあーと何となく出掛けた先でふらふらよたよたする小エビを発見。しかも何か抱えているし、アザラシ、もといグリムも何かを頭上に抱えてよろよろ歩いている。何かあると感じたフロイドは、こっそり後を追って、一番のタイミングで「ばあ♡」と驚かせてやることにした。


「リツカ、魔法石、ここに置いとくゾ」
 よたよたしながら魔法石の入った木箱を運んでくれたグリムは、はーやれやれとその場に寝そべった。リツカは「ありがとー」と礼を言い、式典会場にも使われる鏡の間をざっと見渡した。
 さて、これから立香にとっては複雑な文様を床に描かなければならない。召喚術式が成功するにしろ失敗するにしろ、床は後で綺麗にしなければならいので、その辺を考慮して持ってきた掃除用具も脇に置く。代わりに、立香は筆を取り出した。
「グリム」
「なんだゾ?」
「もし、ぶっ倒れちゃったら、たぶん貧血とかそんな感じだから、持ってきた毛布とか被せておいてくれる?」
「エースかデュースを叩き起こしてくるんだゾ」
「うーん、まあそれでもいいや」
「じゃ、オレが保健室まで運んであげよっか?」
「あー、それが一番ありが……、」
 たいですね、という続きは音にならなかった。声のした方へと視線を巡らせた立香の真横で、明らかにヤバイ・リーチがにこにこ微笑んでいる。

「ばあ♡」

「───ヒョッ!?」
「ふな゛っ!?」
「あはぁ、だーいせーいこーう!」
 ぎざぎざとした歯を剥きだして機嫌良く笑うフロイド・リーチに、立香は「なんで……!?」と「?」や「!」を次々と明滅させた。グリムはあっという間に立香の背後にへばりついて、離れようとしなかった。
「なんで、って。小エビちゃん、もしかして、アレでなにか隠してるつもりだったの? ちょーウケるんだけど」
「え……? いや、あの……なんで先輩はここに……?」
「え? 小エビちゃんがふらふら校舎の方に行くから、何すんのかなー、って思って」
 フロイドはにぱ♡ と笑う。立香はそうですか……と意識して深い呼吸を繰り返した。
 一応はこの学園の生徒として登録されることになった立香にとって、フロイドは一学年上の先輩だった。学園生活というものが凡そ二年振りだった立香は、まだ、なんとなく、上級生を先輩と呼ぶことに慣れなかった。
「それで、何しようとしてたの?」
 有無を言わせぬ眼光が立香を貫く。立香は少しだけ迷ったが、変に機嫌を悪くされて暴れられたりぎゅーっと絞められても困るので、正直に言う事にした。
 魔術とはまた体系の違う魔法という概念のあるこの世界で、神秘の秘匿云々言ってても始まらないだろう。
「元の世界の魔術です。使えるかどうか試して、元の世界と何かしら接触できないかな、と思って」
「魔……じゅつ? 魔法じゃなくて? ナニソレ」
 フロイドは訝し気に眉を寄せた。立香は「説明するのが難しいんですけど……」とフロイドと同じような顔をした。
「元の世界だと、魔法ってとっても特別で、使えるひとなんてほとんどいないんです。でも、この世界の魔法に似た現象や概念は、魔術として扱われていて……使えるひとは珍しいんですけど」
「フーン……小エビちゃんは使えるの?」
「ほんっとーーーにちょっとだけなら使えます」
「ソレ、面白い?」
……まあ……物珍しい現象ではあると思いますけど……失敗するかもしれないんで……
「ぶっ倒れるって言ってたやつ? じゃあ、面白かったら保健室まで運んであげる」
……
 フロイドは妙に優しい、甘やかすような声音で言った。過日の騒動だけでなく普段の応酬から、これが「面白くなかったら何もせずにほったらかして帰る」ということだと察した立香は、「まぁそれでいいですけどね……」と筆を握り直した。
「ほら、グリム、重いから離れて」
「ふなぁ……
 立香はグリムを引っぺがすと、試験管のコルクを開けた。鉄錆の匂いが漂って、思わず顔を顰める。
「え、なにそれ」
「自分の血です」
……え、これ全部?」
「コツコツ貯めまして」
 言いながら、立香はまず、英霊召喚の術式を床に描き始めた。フロイドは試験管の数を、十を越えたところで数えるのをやめた。一体何ミリリットルあるのか、考えるだけで呆れてしまう。そこまでするか、という顔に、グリムも今回ばかりは同意した。
 立香は何度か試験管を取り換えて、なんとか円卓の術式も追加してかき込んだ。筆と空の試験管を片付けて、召喚陣の周りを囲うようにばらばらと魔法石を散らしていく。少しでも立香にかかる魔力消費的負担を減らすためだ。
「それ、どこで手に入れたの?」
「錬金術で作ったり、購買部でちっちゃいのを融通してもらったり……あとはオンボロ寮に必要でしょ、って学園長が用意してくれるときに、ちょっとだけ水増ししてお願いしたんです」
「ウワ、小エビちゃん、いっけないんだあー。魔法石が超貴重だって知らないわけじゃないんでしょ?」
「まぁ、学園長のお願いもいろいろ聞いてるので、それでチャラってことで」
 立香がちょっとフロイドの方を顧みると、彼は予想通り、にやにやとあくどい笑みを浮かべていた。小エビちゃんも悪だねえ、とその顔が語っている。立香は小さく頬を緩めて、すっかり乾いて酸化した召喚陣の中に立った。
「で、今からナニするの?」
「召喚です。元の世界から、力を持っているひとを呼びます」
「へー。それってどんなひと?」
……どんな……どんなでしょう……正直、誰が来るかは分かんないですね……
「え、なにそれ。てきとーじゃん」
……呼符とか、特別なアイテムがあれば、また違ったんですけどね……
 確定召喚とかね、英雄王がくれるやつとかね、とどこか遠い目になりながら、立香は鏡に背を向ける形で、令呪の刻まれた拳を目前に突き出した。
 立香は瞑目し、深く呼吸した。レイシフトした先々で、召喚を繰り返した、あの感覚を思い出す。
 手の甲に刻まれた、赤い令呪が仄かに熱を持ち、輝いた。万全ではない体に、早くも負荷がかかる。
 ずしり、と両肩に重しを乗せられたように錯覚する。呼吸は気を付けなければすぐに浅くなり、心臓は早鐘を打って、本能がやめろと警鐘を鳴らし始め───立香はその全てを、一笑に伏した。


 ───この程度のコンディションで、やめるわけがない。


 思い出せ、あの感覚を。カルデアからサーヴァントを召喚するときの、体の細胞が開く感じを思い出せ。


「───素に、銀と鉄」

 みしり、骨の軋む音がする。立香はうっすらと瞼を押し上げた。仄かに光る令呪と連動して、召喚陣が輝きを放ち始める。

 
 ───いける


 立香は、腹に気合を据え直した。

「礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 閉じよ みたせ閉じよ みたせ閉じよ みたせ閉じよ みたせ閉じよ みたせ

「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する───告げる!」

 音が消える。己の声以外は聞こえない。

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」

 光が消える。赤い光を放つ召喚陣と、令呪だけが鮮々しい。

「誓いを此処に! 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!」


 ───凄まじい衝撃が、立香を貫いた。


 同時に、誰かが来た、という感触が、確信となって、ブラックアウトしそうだった立香の意識を叩き起こす。

 ───知らないサーヴァントじゃない、

 立香は必死で、すっくと立とうと四肢に力を入れ直した。

 ───寧ろ、知ってる、この、馴染みの感じは、

 力強い腕が、立香の体を支えた。

「いよっ、マスター。というわけで、カルデアから召喚されたクラスはアサシン、お前の燕青 えんせいだ。……ここはキャスターとかを呼んだ方が良かったんじゃねえの?」
 聞き慣れた声。見覚えのある顔。立香は、情けなく、顔をくしゃっと歪めた。
 人理焼却を、共に駆け抜けてくれた無類の無頼漢が、困ったような、仕方がないものを見るような顔で、立香のことを優しく見つめていた。
「───新シンさあああん!!」
「うおっ、なんだなんだ、熱烈だねえ」
 全力を振り絞って新宿のアサシン、もとい燕青に抱き着いた立香は、勢いそのままに情けない大音声を喚き散らした。
「あ、あい、あいたかっ、ええええええええん!!」
「おー、よしよし」
「や、やった、やったあ、良かったあ、成功したあ、」
「でも俺、暗殺者 アサシンだぜ、マスター。アーサーシーン。魔術使えねえよ? どうすんの?」
「どうにかするぅ……
「どうするんだよ!」
 燕青はからからと笑って、ふと、こちらをぽかんと見つめる二対の視線に、静かに押し黙った。
……マスター、あいつら、何? マスターの知り合い? 俺としてはこのまま見せつけるのは吝かじゃねえんだけど……
「離れらんない、貧血だからおぶって……
「は? マジかよ」
 燕青は瞠目して立香の顔を覗き込んだ。無理やり顔を上げさせられた立香は、うに、と顔を歪めた。
「確かに顔色すげえ悪いな。え、まさかこれ、全部マスターの血?」
「うん」
「───ばっかでねえの?」
 途端、怒気の色に様変わりした声音に、立香はうへえ、と首を竦めた。
「だって、少しでも成功率上げたくて……
「ばか。ほんとばか。魔術をよく知らねえ俺でも分かるわ、ばか」
 馬鹿馬鹿言いつつ、燕青は優しく、丁寧に立香をおぶさった。そういうところなんだよなあ、と立香は燕青の背中で大人しく鼻を啜った。
「マスター、まだ寝るなよ。いろいろ説明してもらわなきゃならねえんだから」
「うん……
「寝るなって言ってんのに。じゃあほら、口と頭を動かせ、マスター。あいつらはなんだ? さっきも聞いたんだが」
「フロイド先輩とグリム……グリムはモンスターだけどエネミーじゃなくて、フロイド先輩は指定暴力団オクタヴィネル寮の明らかにヤバイ方の双子……
「どーいう紹介の仕方? 小エビちゃん、オレのことそんなふうに思ってたの?」
「あえ?」
 立香は、はたと目を瞬かせて燕青を見やった。ん? とこちらを顧みる燕青は何か喋ったわけではないらしい。

 ───燕青が喋ったのかと思った。

 立香は素直に驚いた。
「そう言えば、二人とも、めちゃくちゃ声が似てるんだゾ」
「は?」
「お、そうなのかい?」
 グリムの言う通り、燕青とフロイドの声は、響きから何から、ほとんどが似通っていた。

 ───まさか、そういうのが触媒に……? 混沌・悪だから……

 いやそんなわけあるか、と、立香は積極的に、自分の推測を彼方へどうにか押しやった。







 
CV:岡本信彦 中の人が同じ───!!