【なに清】六月

※大量クロスオーバー現パロ
※地雷で爆散しても文句を言わない人だけ読んでください。

【登場人物】
片岡桜:大好きな人がたくさんいる。
藤井冴美:なんだかんだJK楽しんでる。
沖田総司:好みの女の子のタイプとかあんまり考えたことない。
騰蛇:片岡兄妹にすっかり振り回されている。
勾陣:最近ふざけるのがちょっと楽しい。
六合(少陰):桜に負けず劣らず無表情鉄面皮。
安倍晴明:アパートの大家さん。
安倍昌浩:大人たちのおふざけについていくのが精一杯。

沖田総司(幕末Rock):ステージ上での人気者。

片岡真那賀:桜の兄。ひねくれている。




「俺、結婚することになったんだよね」
 まるで他人事のように告げられた言葉に、へえ、と一同がてきとうな相槌を済ませた直後。
……へっ?」
「えっ?」
「えっ!?」
 アパートの時が止まり、ほぼ全ての視線が一斉に珍しくふらりと姿を見せた片岡真那賀に集まった。桜の兄にして、唯一の肉親である。
「あ、醤油取って」
 突然爆弾発言をぶちかました本人は至って普通に手を伸ばし、醤油を取ってくれと宣っている。時刻は午後七時になろうかというところだった。数年前に一人立ちしてアパートから出て行った真那賀が久々に顔を出したため、夕食は普段より少しだけ賑やかだった。
「そりゃめでたいのう」
「ありがとうございます」
 さすが年の功と言ったところか、すぐさま立ち直った晴明が微笑んだ。真那賀は箸を置いて頭を下げる。
「桜!! 桜の兄ちゃん結婚するって!!」
「おい桜大丈夫か、生きてるか」
「待て、先に写真を撮っておけ、こんなに固まってる桜は珍しい」
「皆動揺してんなぁ」
 対照的に、若人たちは現実逃避的なものを始めていた。真那賀がけらけらと笑う。騰蛇は口をへの字にして「お前な」と嘆息した。
「俺達はともかくとして、妹にくらい、結婚前提の彼女がいるくらい教えておけ」
「こっちの方が面白いかなって」
「お前な、そういうところだぞ」
 しかしこの兄妹には何を言っても無駄な節があることを騰蛇は十二分に知っていた。特にこういうところは。もう一度嘆息し、醤油を手渡して、代わりに「これも」と差し出された空の茶碗を受け取る。
 白米のお代わりを騰蛇から受け取る頃、ようやく状況を飲み込んだらしい桜がのろのろと動きを再開させた。ぱり、と漬物が咀嚼されて音を立てる。
……
 何か言いたいことがあるのだろうが、突然のことに言葉がまとまらない。むしろ何を聞いたらいいのか分からない。私は一体何をどうすればいいんだ。何故皆は私の方を見ているんだ。
 いつもは上手く使える箸が今日だけは言うことを聞かなかった。鶏肉を一口大に割きたくてもそう簡単にはいかず、皿と箸がぶつかって派手な音を立てる。
 桜は落ち着くために茶碗と箸を置いて、顔を覆った。意識して深呼吸を繰り返す。
「おっ嬉し泣き?」
「ちょっと黙ってくんない」
「そうかそうか、お前も喜んでくれるか。いやあお兄ちゃん嬉しいなぁ」
「よし縫う」
「待て待て待て待て待て」
 迷いなく立ちあがった桜を両隣に座っていた六合と勾陣がどうどうと押さえて座らせた。待ったをかけたのは騰蛇だ。
「なんだよ、お兄ちゃん取られるのが寂しいのか? 心配するな、俺はずっと死ぬまでお前の兄貴だよ」
「他に遺言は無いな」
「どうどうどうどう」
 再び桜の肩を六合と勾陣が押さえて座らせる。「ステイステイ、まだだまだだ」勾陣が宥めるように言った。
「物騒な妹だなぁ、だから嫁さんに紹介しようにもできなかったんだよ」
「今だ行けッ! ゴーゴーゴー!」
「勾!」
 派手な音を立てて、立ち上がった桜を六合が羽交い絞めにした。反射的に立ち上がった騰蛇が、ほっと胸をなでおろす。
「暴れるんじゃない、こんな狭い部屋で」
 チッ、と桜が舌を打つ。舌を打つなと騰蛇は付け足した。真那賀は悠々とおかずを口の中に放り込んでいる。
 少しして大人しくなった桜が席に座り、ようやく話が再開された。
「とりあえず……おめでとうございます……?」
「ありがとう」
 何故疑問形なんだ、ということには敢えてつっこまず、真那賀は昌浩に礼を述べた。
「どんなひとなんだ。というか誰なんだ」
「仕事先のひと。同じ会社じゃないんだけどね」
「式は挙げるのか。というか、向こうの家に挨拶はしたのか?」
「うん、俺に親がいないのも知ってるよ」
 既に挨拶済みかよ。桜は箸を握りつぶさないように必死に理性をかき集めた。
「だから今度はお前も一緒にどっか食べに行こうって言われてさ。お前いつ空いてるの?」
 いつ空いてるの? ではない。ばきりと音を立てて、箸ではなく木製の茶碗に罅が入った。漆で塗られ、補強されているはずなのにと昌浩は目を剥いた。
「桜、落ち着け」
「そうだ、空いている日に食事を奢ってもらえるとついて行ったら実は兄の結婚相手の家族との食事会でしたなんてことにならなくて良かったじゃないか」
「すごいね勾陣、俺がやろうとしたことよく分かったね」
 ばきん。
「箸!! 桜の箸が!!」
「お亡くなりになったか」
 昌浩が絶叫し、晴明が痛まし気に南無阿弥陀仏と唱えた。桜はそっとテーブルに箸と茶碗を置き、再び顔を覆った。六合が気遣わし気にそっと桜の肩に手を添える。真那賀の言葉にはさしもの勾陣も目元を覆った。すごいね、ではない。
「嫁さんにも先んじて止められたんだよね。俺そんなにわかりやすいかなぁ?」
 桜の中で真那賀の嫁さんへの好感度が急上昇した。グッショブ嫁さん。あんたこんなのが旦那でいいのか。返品はあんまり受け付けたくない。
「だから嫁さんが、先に三人だけでランチでも、って。というわけで今週の土曜は空けといて」
「えっ」
 声を上げたのは昌浩だった。私立清涼学園は土曜日も授業日数に組み込まれている。今週も例外ではない。
「学校あるのは知ってるよ、俺も清涼だったから。でも昼までだったろ?」
 それともカリキュラム変わった? 真那賀の言葉に昌浩は首を横に振った。そう言えば、彼も清涼だった。昌浩が清涼学園に入学する頃には彼は既に高校だか大学だかを卒業していたような気がするから、自分の先輩であるという感覚が薄いのだ。
「部活にも入ってないんだろ」
「でも、剣道部はいいの? 毎週土曜はほとんど毎回相懸り稽古やってるんでしょ?」
 今年の剣道部は実力が拮抗しているため、ルール無用なんでもありの相懸り稽古において、部員同士で決着をつけられるということがほとんどない。そのため最後に部員ではないが桜を呼んで強制終了をさせることがある。最近では桜無しでは成り立たないと断じられる程らしい。
「あぁ、あれ? 部活の最後でしょ、それまでに戻ればいいよ」
 桜ではなく、真那賀が答えた。勝手知ったると言わんばかりのそれに、昌浩は訝し気に目をしばたたかせた。それを見て察したのか、真那賀は小首を傾げた。
「あれ、言ってなかったっけ。俺、剣道部のOBだよ」
「そうだったの!?」
「しかも、かなりのやり手だぞ」
「そうなの!?」
 騰蛇の付け加えた情報に、昌浩が驚いて目を見開く。しかし桜はそれを鼻で笑った。
「雑魚程度が」
「そりゃお前にとったらね?」
 至極まっとうな反論に、一同は何も言えなくなる。桜は目を据わらせた。
 ということは、相対的に見れば彼はかなりの手練れだということか、と昌浩は生唾を飲み込んだ。
「制服だぞ」
「いいよ、ランチだし。顔合わせ程度だからそんな構えなくても」
 詳しいことはまた連絡するよ。
 そう言って、真那賀はごちそうさまと手を合わせて立ち上がった。すっかり綺麗に平らげられた皿を器用に重ね、洗い場である程度の汚れを落とす。
「じゃぁ、嫁さん待ってるから帰るわ」
 お邪魔しましたー、と声が遠くなっていく。鍵を閉めるために騰蛇が立ち上がり、後を追った。
……
……
……
 沈黙が降りた。
 それを破ったのは、晴明だった。
「桜や、新しい箸と、茶碗を出しといで」
……
 桜は黙って立ちあがった。