【なに清】四月

※大量クロスオーバー
※人によっては吐き気を催す
※大量地雷生産機。爆散しない人だけ読んでください。

【登場人物】
片岡桜:無表情鉄面皮は文字通り鉄壁。
藤井冴美:去年桜と同じクラスでなんだかんだ仲良くなった。
沖田総司:言わずもがなめちゃモテる。
沖田総悟(銀魂):総司とは兄弟ではない。
桂小太郎(銀魂):あだ名がヅラ。
マシュ・キリエライト(FGO):色々あって転校してきた。
藤丸リツカ(FGO):立香とは二卵性双生児。知らない人はほとんどいないが有名人というわけではない。
藤丸立香(FGO):リツカとは二卵性双生児。大概「購買の人」と認識されている。大学生によく間違われる。
柊京一郎(大正メビウスライン):片田舎から進学してきた。学園始まって以来の秀才。寮に住んでいる。
五本刀時雨(大正メビウスライン):京一郎とは幼馴染。何でもそつなく器用にこなす。寮に住んでいる。
安倍昌浩:実は隠れた実力者だが周りが凄すぎて埋もれてしまうタイプ。
斎藤一(薄桜鬼):総司達とは中学くらいからの知り合い。従姉妹がいる。
志村新八(銀魂):ツッコミメガネ。


 まったく新しい環境へ対する期待と不安で胸をいっぱいにして入学してくる新入生と同様、在学生にも新年度に際して抱える特別な気持ちというものがある。
 それは確かに新入生に比べると小さなものかもしれないが、恋する女子生徒にとってみれば胸中常に戦場であろうし、天敵とも呼べる存在がいる男子生徒にとってはすわ地獄が天国かというこの上ない二者択一である。しかも選択権は己に無い。
 生徒にとっては運試しの佳境と言っても過言ではない、そう───クラス替えである。
 クラス替えをただの生徒と教師のごちゃまぜシャッフルだと侮るなかれ、結果的にカオスを極めた例も、極まりすぎて結局丸く纏まったといった例も、清涼学園には存在する。
 短いようで長い一年間の始まりである。少なくとも極めて高度な協調性を求められる日本の教育カリキュラム的に、クラスメイトの顔ぶれというのはなかなかに重要な項目だ。
 無論、これらの事項が当てはまらない生徒もいないわけではないが。
 沖田総司はどちらかと言うと、いわゆる「当てはまらない」生徒であった。
「姉さんは、今年は何組だと思う?」
「一組」
「じゃあ僕は七組から探そうっと」
 近くにいた女子生徒のうち二人が敏感に反応し、互いに目配せをしあって、さりげなく移動を始めた。二人の瞳は期待のような、獣のような、形容しがたい未熟な光を宿している。
「当てはまらない」生徒ではあるが、大半の「当てはまる」生徒に「重要項目として定義される」側の生徒である総司は、生徒の名前が列記されている上から十行、ないし十五行あたりで探すのをやめて、隣の掲示物へ視線を移そうとした。
「おい」
「なに、姉さん」
「あったぞ」
「え、ほんと? 見つけるの早くない? 姉さんのはあったの?」
 すらり、人差し指が空を縦になぞる。「片岡桜」の上に、「沖田総司」の印字。さらに指は上へ滑り、一組の担当教師の名を指した。
……
「さて行くぞ」
「これ総悟君と間違ってるんじゃない?」
「あいつ一年だろ」
「そうだっけ? 今年で二年じゃなかった? 清涼学園中等部から数えてもう五年目とかじゃなかったこの学校」
「私達がな」
「そうだったっけ?」
 さり気なく校門へ向かおうとする総司の制服の襟を引っ掴み、さり気なく教室とは反対方向へ行こうとする総司の腕を無理やり引きずり、さり気なく屋上へ行こうとする総司を問答無用で引きずりおろし、桜は新しい教室の新しい自分の席に荷物を置いた。
 ついでに総司を前の席に座らせる。「いやよく考えてよ姉さん」総司は鞄を抱えたまま、椅子をそのままに、くるりと後ろを向いた。長い足が窮屈そうにはみ出る。図体の割に机と椅子が小さいのかはたまたその逆なのかということに思考回路の余剰を割きながら、桜は「なんだ」と返した。
「姉さんと一緒のクラスになれたのは素直に嬉しいし僕も気が楽だけどさ、逆にこれは姉さんの仕事も増えるってことだよ?」
 桜は総司が言わんとするところを正確に読み取った。つまり自他共に認める犬猿の仲である男が担任なら、二人が変に暴走、あるいはヒートアップした際に間に入る役目が桜に振られることになると彼は言いたいのだ。
 しかし直感的にそういうことにはならないだろうと思っている桜はお前大丈夫か、それとも、とうとう頭が逝ったのか、どちらを聞くべきか迷って、結局、己の額と総司の額に手を当てた。
……
 総司は無言でその手を引っぺがした。桜は淡々と彼の据わった双眸を見返した。
…………僕は至って本気だよ、姉さん」
「好きにしろ」
 桜は総司から視線を外すと、廊下の方へ顔を向けた。少しの間を置いて、教室に一人の女子生徒が入ってくる。
「スラックス」
「おはよ、桜。そんで、スラックス? え、それがなに……?」
……今日、始業式だから、正装だよ」
「あ」
 総司の言葉に、いつものように女子生徒用に用意されたスラックスを履いてきた藤井冴美は、困ったように視線をさまよわせた後、「まぁ、なんとかなるだろ!」と開き直った。
「ところで、えーっと……沖田、だっけ」
「うん。……あぁ思い出した! 確か姉さんの数少ない友達の、えーっと……
「藤井冴美です」
「冴美ちゃんか。いつも姉さんがお世話になっててごめんね」
「あぁ、いや、こちらこそ」
 桜は机に頬杖をついて二人に顔を背けた。すかさず「拗ねないの」「拗ねるなよ」二つ、声がかけられる。
 声をかけた方は戸惑ったのか視線を合わせたり合わせなかったりして、結局気まずそうに互いから目をそらした。
「お前、クラスは」
「え、あ、あぁ、うちは三組! お前は一組になったんだな。担任、土方先生だろ? 大変だなぁ」
「そうなんだよ、こっちはもう先生で遊ぶネタがほぼ尽きかけてるっていうのに」
「んんん?」
 総司の言葉に、冴美は小首を傾げて「こいつは何を言っているんだ?」と桜に視線で訴えた。桜は素知らぬふりで「お前のところは」と聞いてくる。
「うちは、えーと、むろ……ろん……室星、ロン先生? とかで、初めて聞く名前なんだよな。中入組のお前らは? 何か知らない?」
 中入組、つまり清涼学園中等部からの持ち上がり組にかけられた問いに答えたのは総司だった。
「知ってるよ。結構有名な先生だよね。なんの先生だったっけ」
「社会」
「あーそう、現代社会系の。でも僕らの時は世界史だったかな? なんでも、『変なとこから歴史を解説するから模試とかに向かない』んだって」
「なるほど……?」
「担任は二回目ぐらいじゃないかなぁ。去年はクラス持ってなかったはずだよ」
 へえ、と冴美は感嘆した。「詳しいなぁ」ぽろりとこぼすと、「情報屋だ」桜が顎をしゃくって総司を示した。
「そうなんだ」
「まあね。土方先生の間抜けな写真とか欲しかったらいつでも言ってね」
 それって盗撮では? と聞こうとした冴美を遮って、チャイムが鳴り響く。人の影がまばらだった教室に、次々人が入ってきた。「あ、やべ」冴美が自分の教室の方へ視線を巡らせる。
「後でな」
「え、昼空いてる?」
「ここ、来い」
「あー……分かった、また後でな」
 じゃ、と軽く総司に会釈して、冴美は素早く教室の外へと出て行った。
「姉さん、あの子とお昼食べるの?」
「お前もな」
……本気で言ってる?」
 一瞬呆気に取られた総司がまじまじと桜を見やる。「あの子を悪く言うわけじゃないけど」総司はどこか面倒そうに、げんなりとした表情で続けた。
「あんまり合うタイプじゃないでしょ」
「そうか?」
「そうだよ……
 彼女がついさっきまで変に緊張していたのを桜が気付いていないはずがない。あぁいう地味なタイプの女子は、自分のような軽い見た目の男子とは馬が合わないだろう。というかそもそも人見知りをするタイプに見えた。他人に対する認識能力にある程度の自負がある総司は、昼は違うところで食べるから二人で過ごすといい、と言おうとして、桜に遮られた。
「トモダチ少ないのはお互い様だろ」
「、」
 音など無い。刃となった言葉は、姿も影も見せず、総司の中身を容赦なく抉り、握り潰し、ずたずたに切り裂いた。
 桜の瞳は揺るがない。ただひとり、総司だけが認識できない強大な何かに振り回されて、狼狽えているだけだった。
 がらがらと、扉の開く音が無感情にのしかかる。開いたままだった口を閉じて前を向いた総司は瞬き一つでいつもの表情を取り繕っていた。
……あー……桂」
「桂じゃない、ヅラだ! あっ間違えた。桂だ!」
「知ってる。号令かけろ」
「押忍! 起立!!」
 教室前方、壇上の土方歳三がついた嘆息は、桂の勢いに和らいだ雰囲気のクラスに響いた忍び笑いに打ち消された。
「礼! おはようございます!」
「おはようさん」
 揃わない「おはようございます」をかき消すように「着席!」桂の声が張る。和らいだ雰囲気のまま、土方は簡単な自己紹介と、ホームルームを始めた。
 土方の指示で、運動部系の男子生徒が何人か教室を後にした。
 それらすべてが深く刻み込まれるようで、あっという間に流れていく。心臓の動悸だけがひどく激しい。
…………くそ)
 ひどく煩わしい、午前十時ごろ。外は晴れやかで、爽やかな初春の風が吹いていた。