【少陰】畢生道中膝栗毛

※少年陰陽師二次創作(後々大量クロスオーバー予定) 
※オリキャラが主人公です 二人に増えました
※じい様と昌浩と藤花と神将がちょっと出ます
※いろんな作品と微クロスオーバーし始めてる
※キャラ崩壊しとるかも
※続く予定







 日中は、昌浩の母親の露樹と、藤花が面倒を見てくれた。出掛ける前にと、父親の吉昌も顔を出して、怪我が治るまでうちにいるといい、と快く言ってくれた。怪我さえなければ平身低頭の勢いで、冴美は何度も礼を言った。
 吉昌と入れ替わるようにして、邸の主である安倍晴明が部屋を訪れた。
 始めに安倍晴明と申しますと言われた時は「えっ、ご本人?」と言いそうになってしまったが、冴美は全力でぐっとこらえて、藤井冴美です、となんとか頭を下げた。
「すみません、こちらからご挨拶しなければならないところを」
「大怪我をされておられる方が何を仰る。お気になさいますな」
 好々爺と言う様子は、どこにでもいるご老人だな、と冴美は思った。
「吉昌からもお聞きになったかと思いますが、怪我が治るまでうちに居て頂く方が良いかと」
「ありがとうございます」
「と言いますのも」
「?」
 話が続いた……だと……? 冴美は思わず怪訝そうな顔をしてしまった。
「藤井殿は、昨晩ご自分がいったい何に襲われたかご存知ですかな?」
……鎧武者、ですか……?」
「さよう」
 顰め面しく、晴明が頷き、しかしてあれはただの鎧武者ではございません、と続ける。
…………あれって、……おばけですよね?」
「そうですな。妖の類です」
「あやかし」
「はい」当然といった様子で、晴明が頷いた。「信じられませんかな」
「いや…………
 そりゃまぁ見たことないし、と言いかけて、昨晩の、思い出したくもない光景を脳裏に描く。
……青い雷みたいな炎をバチバチ纏ってるやつが人間のはずないよな……
「まったくその通り。いや、ご理解頂けたようで、助かります」
 にこーっ、と晴明がいい笑顔を浮かべる。冴美は考え考え、話を続けた。
……じゃあ、うちがここに居た方がいいっていうのは、怪我のことだけじゃなくて、……またその妖に襲われるかもしれないからって事ですか?」
「はい。これでも陰陽師の端くれですからな。他の邸よりかは、まだ安全です」

 ───はははよく言うぜこの爺さん、陰陽師の端くれだってよ

 ───ア ン タ が 稀代の大陰陽師だろうがよ!! 死後に神様にまでなっちゃってさ!!

 冴美が内心そう叫んでいるとは露知らず、晴明はやれやれと肩を竦めた。
「一番は、藤井殿の怪我が治り切る前に、うちの孫が妖を退治することなんですが……
「孫。ええと……昌浩くん、ですか」
「もう二人ほどおりますが、今度の件は昌浩に任せております」
「そうですか。……昨日は、うちが居たから、やりにくかっただろうな……
 ぽつり、冴美が呟く。
 晴明は数度瞬いた後に、笑みを深めた。
「なに。妖を取り逃したのは、ひとえに孫の力不足。藤井殿のせいではありません」
……ありがとうございます」
「ところで藤井殿」
「あ、はい」
 突然変わった空気に、冴美は思わず何度か目を瞬かせた。
「藤井殿は今まで、妖に襲われた事は」
「無いです」
「無い」
「はい。一度も」
 見たこともありません、と言い切られて、晴明は腕を組んだ。
「ふむ」
 そうして、顎髭を少しだけなぞり、思案する素振りを見せて。
「何か、守り石のようなものを持っておられましたか」
 どこか探るように、冴美に問うた。
「あ……はい。知人からもらったもので……、」
 冴美はもぞもぞと首から下げていたお守りを取り出した。
 受け取った晴明は、守り袋を試す眇めつした後に、開けても良いかを冴美に聞いた。
「たぶん……大丈夫だと思いますが……開けるなとは言われていないので……
「左様ですか。では」
 節くれだった指が、慣れた仕草で守り袋の飾り紐をほどいてゆく。
 冴美は黙って見つめていたが、やがて守り袋の中からころん、と出てきたものを晴明に見せられて、あ、と声を上げた。
「翡翠の石ですな」
「割れちゃってる……
 形の良かっただろう石は、一目で割れたと分かる程に、綺麗さっぱり二つに割れていた。

 ───そういえば。

 あの鎧武者に襲われた時、ばきん、と砕ける音を、聞いた、……ような気が、する。
 もしかすると、身代わりになってくれたのかもしれない。ということは、未来の昌浩が作ってくれたお守りの効果は絶大だったということになる。
 帰ったらめちゃくちゃお礼をしよう、と冴美は心に固く誓った。
「これは、いつ頃から藤井殿のところに?」
「つい最近です。五日……七日前とかかな、えーと、旅に出るので、お守りにと持たせてくれて」
 はて、と晴明は瞬いた。
「ではお生まれはこの辺り」
「あ、違います」
「? ちがう、とは」
…………昌浩くんには話したんですけど……
 そして、かくかくしかじか。
 冴美は、先程昌浩にもした「ついうっかりいろんなところに瞬き一つで移動してしまう」能力のことを話し、自分がおそらくは時を越えて未来から過去へ移動してきてしまったことを伝えた。
 これにはさしもの大陰陽師も呆気にとられたようだった。
…………なんと」
 びっくり、と顔に書いてある。冴美は、そりゃそうですよね、うちもびっくりがまだ収まらんよ、泣きたいよと、「突拍子もないですよね」言いながら頷いた。
「それは……また……」晴明は言葉をどうにか選び、「難儀なさいますな……」無難な感想を口にした。対する冴美は遠くを見晴るかしている。
「どうにかなるといいんですけどね……
 でも、それよりもまずは、と冴美は気を取り直すようにして言った。
「安倍家の皆さんのご厚意を受け取って、怪我の治療に専念します」
……そうですな。そうなさるのが宜しいかと」
「お世話になります」
「何かあれば、なんなりと」
「ありがとうございます」
 一礼して、晴明は冴美に宛がった部屋を辞した。
 部屋に戻り、やれやれ、といつものように腰を下ろす。
『またぞろ面白いことになっているな、晴明』
「ん」
 不意に、低く、柔らかい声が部屋に響いた。勿論、晴明のものではない。
「勾陣か」
 音も無く、黒曜の髪と瞳を持つすらりとした痩躯が顕れる。涼やかな顔立ちの勾陣と呼ばれた女性は、晴明の近くに腰を下ろした。
「先程の突拍子もない話、まさか信じる気か」
「信じるしかあるまいて。嘘は言っておらんかった。しかし……
 先程の、背に傷を負って申し訳なさそうに横臥していたこどもを思い返す。

「───あれほどの霊力量で、今まで異形の者に縁のない生活を送っていたとは。俄に信じ難いのう」

 まったくだ、と言わんばかりに勾陣が瞼を伏せる。
 晴明の目に映った冴美は、溢れるほどの霊力をその身に纏わせていた。晴明が知っている、陰陽師が練り上げたものや、妖が身に纏うものとは根本からして異なるようだった。晴明をして霊力としか形容できない力の奔流は、まるで炎のように冴美の体を覆っていたのだ。
 晴明にも視えていたから、後継の昌浩は勿論、見鬼の才がある藤花にもなにか見えたかもしれない。昌浩は冴美の霊力の気配を感じ取ることができたから、冴美が自分の力を完璧に操れないと言った時に、素直に驚いたのだ。
 あそこまでとなると、全盛期の晴明や、その後継の昌浩を越える可能性もある。
 しかも、霊力を溢れさせながら、本人は至ってけろっとしていた。特に鍛えた体という訳でもなさそうだったので、本来ならば強く多すぎる霊力に体の方が耐えきれず病気がちになったり、動けなくなったりするのが自然だ。
 だが、冴美は、怪我には苦しんでいても、霊力による負担を感じている素振りは見せなかった。性根の素直そうなこどもであることは見て取れたので、我慢して隠しているというわけでもないだろう。そもそもの身体の強度が、生まれながらにして他とは違うのかもしれない。
「守り袋とやらも、最近手に入れたのだったか」
「うん。石に残っていたものを視たが、封じの術などは施されておらんようじゃった」
 体に負担を強いる霊力は封じてしまうのが一番だ。大抵、本人そのものに術をかけるか、封じの役目を施した石などを常から肌身離さず持ち歩くことになる。
 守り石には持ち主の安全への願いと祈りが込められていた。相当、実力のあるものが術を施したに違いない。或いは、冴美が持っていることによってその霊力を吸収し、鬼の刃を弾くほどにまでなったのか。
 砕け散った後では、真偽の程はわからない。
「はてさていったい、どうなることやら」
 どうしてだか昌浩のところにはいろいろ舞い込んでくるのう、と好々爺は口元を袖で隠した。その目元がゆるりと細くなったのを、勾陣は少しだけ呆れた風情で見逃すことにしたのだった。





 続