【少陰】畢生道中膝栗毛

2023/04/10 タイトル変更、編集
2023/02/26 追記
2023/02/03 投稿

※少年陰陽師二次創作(後々大量クロスオーバー予定) 
※オリキャラが主人公です 
※現代のじい様神社に祀られているじい様と現代で少年陰陽師やってる昌浩がちょっと出ます
※キャラ崩壊しとるかも 
※続く予定

 堀川通を下りながら、青年は、冴美と自分がいるのは京都だと告げた。
「さ、流石に県境跨いだのは初めて……
「そうかそうか。まあ国内なのだし、大したことはないだろう」
「いやいやおおごとですよ!? うちこっから新幹線で帰んなきゃいけないですよね!?」
「おお、そうだな。足はあるのか」
「あ、ありますけど……
 こういうときのために、冴美は財布にそれなりの金銭を常備していた。新幹線は片道で自由席だと一万円とすこし。早さにこだわらなければもう少し安くなる。しかし、ただの高校生である冴美に唐突な一万越えの出費は痛かった。
「京都には来たことがあるのか?」
「いえ、今回が初めてです。でも、今度、修学旅行……えっと、」
 少し困った風情で見上げられて、晴明は「そのくらい知っている」と少しだけ目を据わらせた。あ、そうですか、と冴美は少しだけごまかすようにして笑った。
「そう、その、修学旅行で来ることになっていて」
「そうか。では、何かあればあそこに寄るといい」
 青年が差す車道側の向こうには、五芒星を戴く提灯をぶら下げた白い鳥居が立っていた。晴明社、と掲げられている。
「晴明神社……って、安倍晴明の?」
「そうだ。普段、私はそこにいるからな」
「そうなんですか。神主さんとかなんですか?」
 冴美の無邪気な問いに、青年はただ静かに微笑を深めただけだった。

 ───そう言えば、名前も何も聞いてない

 ハタ、と冴美が気付いたときには、青年は先を歩き始めていた。あれが戻り橋で、あれが商店街で、とあちこちを指す。とりあえず渡っておいで、記念になるからと背を押された冴美は、修学旅行で京都に来るとは言え晴明神社に来られるかは分からないからと青年と言う通りに橋を渡って戻ってきた。その頃には、冴美は、青年の名を聞く隙を、青年に見出せなくなっていた。
「では、バスに乗ろう。私の運賃は気にせずともよいからな」
「アッハイ」
 ちょうどよく通りがかった緑色の京都市バス五十番に乗りこむと、青年は口の前に人差し指を立てて、静かにしているようにと示してきた。冴美がきゅ、と口を噤む。いいこだ、と微笑んだ青年は、冴美には黙っているように言ったにもかかわらず、やれこの堀川は春は見事な桜並木になるだの、あれが二条城で近年は朝も夜も騒がしいだの、なんやかんやと京都の街並みを解説した。冴美が何か言おうとすると人差し指で口を押えられるので、冴美は困惑しながら瞬きして、青年のガイドを聞いているしかできなかった。
 京都駅についてから、冴美はその駅の大きさと規模に思わず「でけえな」と声を漏らした。ひとがあっちこっちを行き交っている。そのほとんどが冴美の目からも観光客に見える。
「土産は良いのか?」
「また修学旅行で来るし……今から帰るなら、たぶん八時くらいには家に着けますから。親には、京都行ってきたなんて言えないし……
 冴美の言葉に青年は瞬きしたが、「そうか」と静かに相槌を打つだけだった。
「では、見送りはここまでだ、冴美」
 中央改札の前で、青年は冴美と別れることにしたようだった。
「えっと、ありがとうございました」
「うん。で、お前の力のことだが」
「あ、はい」
 聞きだしたくてもなんだかんだ聞くことを許してくれなかった青年がとうとう話題にしたとあって、冴美は真剣に青年の言葉に耳を傾けた。
 どこか厳かな声が、冴美から一切のざわめきを奪う。
「清涼学園中等部の、安倍昌浩を探せ」

 清涼学園中等部の、安倍昌浩。

……?」
 頭の中で繰り返して、冴美は眉を寄せて首を傾げた。
「そのひとが助けてくれるんです……?」
「悪いようにはせんように、取り計らっておく」
 鷹揚に頷いた青年に、冴美は「そうですか」としか返せなかった。
「何から何まで、すみません。ありがとうございました」
「うむ。ではな、気をつけて帰れよ」
「はい」
 一番早い新幹線の切符を買ったので、冴美は急ぎ足で改札を駆け抜けた。
 青年の姿は、瞬きひとつで掻き消えた。





 どこぞの制服を着たこどもがひとりでいるのはやはり珍しいようで、冴美はいくつか視線を感じたが、その尽くを気付いていないふりでやり過ごした。東京駅に着いてからもいくつか在来線を乗り継いで、家に着くころには九時になっていた。
 新幹線に乗った時点で友達とカラオケに行ってご飯食べてから帰ると連絡を入れておいたので、帰宅が少し遅くなっても「どうせ本屋にいたんでしょう」と言われて終わった。あながち嘘ではないのでごもっともと返し、冴美は母親になにか不審な目を向けられなかったことにホッと胸を撫で下ろした。





 翌日から、冴美は早速、件の安倍昌浩探しを始めることにした。
 なんだかんだ冴美の話を受け入れてくれる度量の広い友人・詩織にこれこれかくかくしかじかで、と経緯を話すと、彼女は顰め面しい顔で「とうとうやったか」と一言述べた。それだけだった。冴美はその詩織の反応に対し、過剰に感謝するでも、本当にこの話を信じたのかと疑うでもなく、スルーすることにした。
「それで、うちに安倍昌浩なんてやつ、いたっけなと思ってさ」
 清涼学園は幼稚部から大学部までエスカレーター式で進めるマンモス学校である。冴美と詩織は中等部からの入学なので、中等部にもある程度の顔は利いた。
 詩織はちょっと考える素振りを見せたが、すぐにひとつの案を示した。
「私の知り合いにはいないけど、調べる方法ならあるよ」
 そう言って、詩織が昼休みに冴美を連れてきたのは図書室だった。
 特別にカウンター席に入れてもらい、詩織が操作するパソコンを後ろから覗き込む。詩織は図書委員会に属しているので、蔵書の貸し出し記録などを閲覧できるのだ。
「これでヒットしなかったら、地道にコツコツ聞き込みかなあ」
 表示されるリストの学年を一学年ずつに絞り、五十音順に並べ替えて、上から順に探していく。
「うーん……うち、そんなに他学年の知り合いなんていねえぞ?」
「知り合いの知り合い以下略なら可能性があるかもしれないじゃん。少なくとも、いま中等部ってことは、三年生の可能性もあるわけでしょ。そしたらぎりぎり、私達が中三だったときに入学してるかも。部活で高一の後輩に聞いたら、名前ぐらい知ってるやつ、いるんじゃないかな」
「なるほど。頭いいな、お前」
 ふふん、と詩織が渾身のドヤ顔を披露する。
 これで見つからなかったら、後で部活の後輩にあたってみるかと考えていた冴美は、パソコンの操作を終えた詩織とほぼ同時に「あ」と声を上げた。
「ラッキーだねえ、冴美」
 五十音順に並べ替えたリストの一番上、あべまさひろ、と読める名前がいくつか並んでいる。図書室に縁のない生徒が多数いる中で、しかし彼はそうではなかったらしい。
「安倍昌浩……中等部二年……
「当たりっぽいね?」
 あぁ、と冴美は頷いた。
「中等部二年なら、ウチの部活の顧問の先生がいる。探してみるよ。詩織、ありがとな」
「どーいたしまして。どうにかなるといいねえ」
「まったくだな……
 冴美は心底から溜息をついた。





 部室の鍵を貸し借りできるのは部活の顧問担当だけだ。鍵を借りるのはいつも一番に部室へ顔を出す冴美だったので、冴美はこれ幸いと、いつもはさっさと通り過ぎる中等部二年のフロアを見渡した。

 ───名前の感じからして男子かなぁ。

 きょろ、と辺りを見回して。ちら、とクラスを覗き込む。なるべく不審に思われないようにしても、中等部の中でやはり高等部の生徒はひとり浮いて、少し目立った。
「おー藤井。部活の件か」
「あ、先生。そうですいつもの」
「ちょっとまっててー」
「はあい」
 これで鍵を預けられたら、部室に行かなくてはならない。冴美はやっぱり後で後輩に聞いた方が確実かなあ、と少しだけ思案した。教師に聞くのもありだが、何故そんなことを聞くんだと疑問に思われたら、なんと返せばいいのか分からない。
「お待たせ、藤井」
「どうも」
 鍵を受け取り、いつものように踵を返す。
 瞬間、「先生!」はきはきとした、声変わり前の、少し高い声が、冴美からざわめきを奪って行った。
「ん?」
「、あ」
 思わず振り返った冴美と、少年の目が合う。
 まだまだ成長途中の、華奢な体。思春期の少年にしては珍しく、長い髪を項でひとくくりにした、少しだけ変わった風体。黒々とした丸い瞳が見開かれて、冴美を映す。
「どうした、安倍」
……あ! はい、日誌、日誌です」
「はい確かに」
 日誌を受け取った教師が、職員室に入り、扉を閉める。
……
……
 二人の間には、沈黙と、放課後のざわめきが横たわっていた。どちらも、初対面だが知らないわけではない相手に対し、どう話しかけたものか、言葉を探しあぐねていた。
 意を決して、冴美は自分から一歩踏み出すことにした。
「ええと。……高等部二年の、藤井冴美です。安倍昌浩くん……で、合ってるかな」
 少年は、意志の強そうな瞳をぱちりと瞬かせ。

「───はい。俺が、安倍昌浩です」

 しっかりした声で、応えてくれた。






 空き教室かどこかで話せないかと切り出した冴美に、昌浩はすぐに大丈夫ですと二つ返事で頷いた。じゃあ荷物を持ってこの棟のこの教室に集合で、と話し合って、一度分かれ───
 お待たせしました、と空き教室に入ってきたのは、何故だか昌浩だけではなかった。
 あ、どーもと会釈されて、冴美も戸惑いながらどうもと返す。
「えっと……
 昌浩の方を見やると、彼はどこか半眼で、これは意図しない状況です、というのを全面に押し出した表情をしていた。
「すいません、先輩。ついてくるって言って、聞かなくて」
「そりゃあ、幼馴染が高等部の先輩に呼び出されたとあっちゃあ、着いていくしかないだろ。なあ、彰子」
「えっ? えっと……その……
 話の水を向けられた少女が瞠目して、何度か瞬きし、言葉を探しあぐねる様子を見せる。彰子の反応とは対照的に、がなったのは昌浩の方だった。
「だからそういうんじゃないってば!!」
「どうだかなぁ?」
「比古!!」
 ひこ、と呼ばれた少年はによによとしたままだ。昌浩が真面目にやれよと言っているその側近くで、からかわれたらしい少女が仲裁に入った方がいいのかとおどおどしている。その三人の様子を、どこか呆れた眼差しで、落ち着いた雰囲気を纏う少女が見つめていた。

 ふむ、なるほどな。だいたいわかった。

 内心、したり顔で頷いて、冴美は比古と昌浩の間に入ることにした。
「皆がどういうのを想像してるかはわかんないけど、喧嘩でも告白でもねえから安心しな」
「なーんだ、つまんねえの」
「比古! いい加減にしろよ」
 比古が昌浩に怒られている横で、彰子と呼ばれた少女がほっと息をついたのを、冴美は見逃さなかった。同時に、なるほどねー、と緩みそうになる頬を堪える。しかし、今日は親睦を深めるより先に、やっておきたいことがある。
「えーと、この御三方は、安倍くんのお知り合い、でいいんだよな?」
「あっ、はい!」
 昌浩が慌てて姿勢を正す。ちょっとしか違わない年齢なのに、真面目だなあと冴美は感心した。
「ということは、今から安倍くんに相談することって、この三人が聞いても特に問題ないってことでいいか?」
「はい、大丈夫です」
 しっかりと頷く昌浩からは、三人に対する信頼と信用が見て取れる。冴美は「わかった」と一つ頷いた。
……あ!」それまで二人のやりとりを見守っていた比古が目を丸くして声を上げる。「じゃあアンタが、今朝、昌浩が夢でご先祖さまに押し付けられた厄介そうな感じの!」
 比古の言い方に、冴美は思わず苦笑した。
「えーと……夢で昌浩くんのご先祖様が何を言っていたかは知らんけど、厄介であるには違いないかもな……
 冴美は姿勢を正して、後輩たちに向き直った。
「改めまして、藤井冴美です」
「安倍昌浩です。この三人は幼馴染で、彼女が藤原彰子、小野螢、九流比古です」
 ぺこぺこぺこ、と三者三様に会釈される。冴美も「どうも」と頭を下げた。
「今日は、時間を割いてくれてありがとな」
「いえ……えーっと、何かお困りごとですか……?」
「うん、そうだな。困りごとだ。できれば根本的に解決してほしいけど、無理そうなら対症療法だけでも欲しいと思ってる。でも、その……
 冴美は、ちょっとだけ気まずそうに言葉を切って、けれども意を決して言い切った。
「お礼とか、うち、学生だし、あんまお金とか持ってねえから……話を聞いてくれるだけでもありがたい」
 というわけで、今日はよろしくお願いします。そう言って再び頭を下げた冴美に、昌浩は居住まいを正した。
 中学二年生というこどもを、このひとは、プロとして扱おうとしてくれている。その誠実さが、昌浩にとっては得難いものであり、同時に重圧だった。
「えーっと、ちなみに、何をどこまで聞いてるか先に教えて貰っていいか?」
 しかし、冴美の言葉に、昌浩は早速ちょっと黙ってしまった。口をきゅっと噤んで、沈黙する。その場にいる全員の視線が昌浩に集まり、冴美に無言で促されて、昌浩は漸う口を開いた。
……御先祖様は……今朝、夢で……初めて会ったんですけど……

 ───藤井冴美というひとがお前のところに来るから、話を聞いてやって、ちょっとなんとかしてみなさい

「って……
……
 ほお、と冴美が昌浩の言葉を受け止める。
 次いで、ちょっとした間があった。
……えっ、それだけ?」
「はい」
「えっ!?」
 冴美は心底から目を剥いて素っ頓狂な声を上げた。
「本当にそれだけ!?」
「ほんとうにそれだけです」
 ポカンとする冴美に、昌浩はなんだか申し訳なくなってきた。
 昌浩の夢に突然ぽん、と顕れた青年は、見た目が若々しいのに、纏う雰囲気が昌浩の祖父の晴明とよく似通っていた。だから最初、昌浩は、思わず「じいさま?」と声をかけてしまったのだ。何かの拍子に、祖父の若い頃を夢に見ているのではないかと。
 青年は少しだけ瞠目して、しかし優しく微笑んで「ちょっと違う」と言った。自分は、お前のじい様の、じい様の、さらにそのまたじい様、つまりご先祖様だよ、と。
 なにぶん突然んことであったので、昌浩は「はぁ」と生返事をした。お前、陰陽師を目指しているのかとも問われて、それにも「はい」と答えた。
 ならば、と青年は厳かにもそれらしい振る舞いで、ちょっとなんとかしてみなさい、と昌浩に言うだけ言って、姿を消してしまった───というか、昌浩の目が覚めてしまったのだった。
 冴美は苦々しい顔で嘆息した。
「つまり何にも聞いてねえ……というか、何にも教えてもらってないんだな、よくわかった。なんかすまん」
「あ、いえ……
「それじゃあ、何から話したもんか……
 報連相くらいしっかりしてくれよなあ、とむつかしそうな表情の冴美に、比古が言葉をかけた。
「藤井先輩は何に困ってんの? 見たところ特に……大変そうには見えないけど」
「うーん。困ってはいる。ただ、信じてもらえるかどうか……
「とりあえず話してみてよ」
 比古に促されて、少しの間うんうん唸って言葉を探しあぐねていた冴美は、やがて「もうこの言い方しかないよな」と顔を上げた。
「瞬間移動って、分かるか?」
……えっと、いま自分がいる場所とは別の場所へ、一瞬で移動する……
「テレポート、ってやつ?」
「そう。SFなんかでよく見るやつだな。うち、理由はよく分からねえんだが、昔から瞬間移動しちゃう体質みたいで」
 昌浩たちは何度か目を瞬かせた。
……瞬間移動を……?」
「して、しまう」
「体質……?」
 不思議そうな昌浩たちに、そうです、と頷いて、冴美はこれまでに起こった様々な出来事を話した。
 小さい頃、家の玄関で靴を履いていたのに、次の瞬間には気が付けば近くの公園に着いていたこと。
 授業中、確かに自分の席に座っていたのに、ふとした次の瞬間には本屋に立っていたこと。
 極め付けは、昨日。見知らぬ黄昏小路というところに迷い込んでいて、その異界は京都に位置していたということ。
「小さい時のは、記憶が曖昧になってるだけじゃねえかなって思ってたんだ。でも、自分で腕時計を持つようになって、気が付いた」
 移動している間の記憶がないだけなら、それは夢遊病などの病気に分類されるはずだった。けれども冴美の場合は、自分が先程とは違う場所にいる事にハタと気付いた瞬間、時間を確かめても、時計の針はまんじりとも動いていなかったのである。
 肌身離さず持ち歩くようにしている携帯で確かめても同じことだった。自分が最後に記憶している時間から、移動にかかるぶんの時間が経過していない。加えて、公共交通機関を乗り継いだ記録も、冴美のI C乗車券にはなかった。
「この力の厄介なところは、自分でコントロールできないところにあるんだよ」
「確かに、普通に使えるなら困る能力じゃねえよな」
「うん。でも実際には困ってる。いつ、どこで、どういう状況で発生するか、うちには皆目検討つかねえんだ」
「それは……」思案しながら、昌浩が言葉を並べた。「つまり、本当に突然、想像もつかない場所に放り出される、ということですか……?」
「マジか。大変じゃん」
「地味に困ってる」冴美は嘆息しながら言った。
「授業中とかに何回かやらかしてるから、先生達からは素行不良だと思われてるし……
 それは本当に困るやつだ、と学生たちは頷いた。教師達から下される成績は、生徒達にとってかなりの重要事項だ。
……というわけで、うちとしては、このよく分からねえ体質をどうにかしたい。自分でコントロールするのか、もうこの不思議現象が発生しないようにしてもらうか、予兆みたいなものを感じ取れるようにするか、とか……何ができるかうちには皆目さっぱり検討つかんから、もし、安倍くん達が何か詳しかったり、詳しい人を知っていたら、教えてほしい」
 言い切った冴美に、うーん、と昌浩たちは一様に難しい顔をした。
「比古、聞いたことある?」
「ない。螢は?」
「私も無い。でも、夕霧なら何か知ってるかも……
「俺も、うちのひと達に聞いてみるかぁ……成親兄さんとかなら何か知ってるかな……
「それよりは騰蛇とかの方がいいんじゃないか?」
「ああ、確かに」
 主に三人で何事か相談した後、昌浩は「今日のところはひとまず、」と切り出した。
「ちょっと、俺達でも調べてみます。ええと、その……どうなるかは、わかんないんですけど……もしまた、さっき言ってたことが起こったら、連絡してください。それと、その時の状況を詳しく教えてください」
「わかった。じゃあ、連絡先、交換しとくか」
 それぞれ携帯を出し、せっかくだから、と昌浩でけではなく、比古達ともメールアドレスと電話番号を交換し、冴美は「なんか変な事がきっかけだけど」ちょっとだけはにかんだ。
「皆さえ良ければ、普通に先輩後輩としても仲良くなれたら嬉しいなって思ってる。よろしくな」
「はい! よろしくお願いします」
「先輩! 次の定期テストの過去問とかある!?」
「ねえけど、どんなのが出てきたかはだいたい覚えてるから、教えてやれんことはないと思うぜ」
「やりぃ!!」
 よろしくお願いします、と比古と昌浩が頭を下げる。螢は呆れ、彰子は苦笑いを浮かべた。

 それじゃ、今日はこの辺で、と解散の空気が流れた。その最中に、昌浩は、少しだけ意を決したように、冴美に言葉をかけた。
「あの……俺たちがどういうことやってるのかとか、聞かないんですか……?」
 冴美は少しだけ目を丸くして、ちょっとだけ微笑んだ。
「うーん。聞いた方がいいなら聞くけど。聞かなくてもいいなら、聞かないに越したことはないと思ってるなぁ。何せ余計なことを聞いて散々な目に遭った逸話やら民話やら寓話やらは古今東西ありとあらゆる場所と時代にあるからなぁ……
「なるほど」
「聞いた方がいい?」
「大丈夫です」
「よし、じゃあ聞かないでおく。でも、信用も、信頼もしてるからな。よろしくお願いします」
「頑張ります……!」



 それにしても、と冴美は弱冠遠くを見張るかした。
 京都駅に行く前に「普段はここにいる」と晴明神社を指され、上手く取り計らっておくと言われていた相手の姓が、安倍。
 しかも、夢枕に立ったのが御先祖さま。

 と、いうことは。

 昨日話を聞いてくれた青年、イコールご先祖さま、イコール安倍晴明、という式が、自然と冴美の中で組み立てられる。

 ───引き当てちゃったなぁ……大物をよお……

 ───千年その名をこの国に轟かせている稀代の大陰陽師をよお……

 死後になって神に祀りあげられているのは今回初めて知ったが、日本史の資料集にも掲載されている御仁だ。
 その子孫がおそらく、安倍昌浩くん。
 そして、御先祖、もといあの青年は、子孫の末に「お前ちょっとやってみ」と冴美のことを放り出した、らしい。
 どうりであの道中、具体的に何をどうすればいいかというような話をしようとすると尽くはぐらかされた筈だ。

 ───つまるところ。きっといわゆる、あれ……現代版陰陽師ってやつなんだろうな。


 ───……安倍くんはまだ少年だから、少年陰陽師、かな……


 なんかちょっとかっこいいな、と。冴美は生まれて初めて、自分に宿る謎の力のことで、少しだけ楽しい気分を味わったのだった。