桜霞
2022-10-01 17:53:37
9818文字
Public 【twst夢】フライパンは無敵
 

「ごちそうさん。美味かったぜ」

#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/03/13にpixivに投稿したものの再掲です。







 ピクニック、もといお花見は、早速その週の土曜の昼間に行われることになった。
 朝からオンボロ寮に集合し、マブたちはひたすら乾燥したコメを砕くことになった。テーブルに広げたものを棒でひたすら叩いたり、すり鉢で擦ったり、様々だ。粉と呼んでも差し支えない程度にまで細かくしたものを集めると、リンは米粉に水を加えた。
「じゃ、あとはひたすら捏ねてね」
「? はーい」
 何ができるのか分からずとも、マブたちは素直にリンの言うことを聞いた。頑張れば美味しいリンのお手製ランチボックス(お花見豪華バージョン)を貰えることを分かっているからだ。リンさんの躾のたまものだなあとユウは鍋に水を入れて火をかけた。
 それなりの生地が出来上がったら、ひとつまみ千切って丸める行程を繰り返す。次々出来上がる白玉の量に、はてこれは食べきれるかしらとリンは一抹の不安を覚えたが、食べ盛りの男子高校生たちの胃袋を信じることにした。
 積み上げられていく白玉を、ユウは次々とお湯の中へ入れた。数分間さっと茹でて、氷水を張ったボウルの中へひょいひょい移していく。冷めた白玉はグリムが回収し、水を切ってから竹串へ差していった。それを見た生徒達が次はこれかと自分の作業が終わり次第ユウとグリムを手伝いに移る。
 流れるような連携だなあと感心しながら、リンは醤油、砂糖、水、片栗粉をもう一つの鍋にぶち込んで火をかけた。だまにならないようにかき混ぜている間、ふと顔を上げると全員の視線が手元に集まっているのに気付いて「ウォウワ、」びくりと肩を揺らす。
「な、なによあんたら、手が止まってるわよ」
「いやめっちゃいい匂いすっから」
「リンさん、もしかしてそれ……
「この白いのに……
 ごくりと固唾を飲む学生共に、リンはにやあと笑って見せた。
「かけま~~~す」
「ウオーーー!! ぜってーうめえ!!!」
「優勝じゃねえっすか!!」
「お腹減ってきた……!!」
「ほらほら、さっさと焼いちゃいなよ」
 カラカラ笑うリンに、グリムが好い具合の炎を吐いて答える。薄くこんがり焼き色のついた団子を平たい更に積み上げ、一度ラップで包む。みたらしに浸けるのは食べる直前だ。
「っしゃあ、それじゃあ荷物持ちな!」
 リンの号令で、それぞれがレジャーシートやジュースの入った袋を持ち、各々で持ち寄った菓子類を抱える。ユウがお重を持って、グリムが先導して走った。次々に寮から出ていく生徒達を、最後に盃を持ったリンがのんびり追いかける。
「わーっすっごい晴れてる!」
「晴れてよかったね!」
「オハナミ日和なんだゾ!!」
「校庭あいてんのか?」
「今日はどこの部活も休みらしい」
 都市伝説のことなど、どこ吹く風。
 すっかり晴れた抜ける空に、暖かな日差し、肌を心地よく滑る涼やかな風。心身ともに縮こまる冬が終わり、自由に手足を伸ばして駆けまわるに最適な、そんな季節。
「春だねえ」
 若人たちを物言わず出迎えたのは、突如現れた、一本の大きな桜の樹。風に揺られてさわさわと、どこか生徒たちにじゃれるようにして枝木を揺らす。
 めいめいにレジャーシートを敷き、風で飛ばされないように自分たちの靴などを重しにして、ユウ達は桜の樹の下に腰を下ろした。
 ぱか、とグリムが早速、お重の蓋を開ける。直後、うわああと歓声が木霊した。
「すげー……!!」
「気合入ってんな……
「芸が細かい。器用だな」
「うまそーだけどどっから手ェつけていいのかわっかんねー!」
「はい、割りばし。こっちの紙皿に食べたい分取ってね」
「みたらし団子一丁上がり~」
「早えんだよ経験者共!! もうちょっとひたらせろよ!!」
 スマホカメラを構えたエースががなる。早くしろとグリムが不満顔で突っついた。
 三段の重箱には、定番の卵焼き、から揚げ、ウインナーなどから、里芋の煮っ転がし、きぬさやに人参の炊いたん、花の形にされたかまぼこ、枝豆を混ぜたおにぎり、鰆の西京焼き、などなど。錦糸卵にレンコンといくら、細かく刻んだ海苔をご飯に散らしたものもある。目にも色鮮やかで春らしい品々が、細々と敷き詰められていた。
「いっただっきまーす!」
 次々と箸が伸びて、あっという間に花見弁当が穴だらけになった。その様を、リンは酒を片手に、微笑ましく見守っていた。食べきれるか心配だったみたらし団子も、あっという間に減っていく。
 見上げれば薄白紅の天井に、蒼穹がちらちらと。
 桜の枝木に囲われた異界は、こうもひとのこころをほぐす。
 とっときの酒に、晴れた空、綺麗な桜。はしゃぐこどもたちの声、心地よい風。

 ───春だねえ

 目を細めて遠くを見晴るかしていたリンが、ふと瞬く。
 その視界に、見慣れた姿が遠くから近付いていた。
「あ、ジャッククン、あれ」
「ん? あ!」
 エペルとジャックが揃って背を伸ばす。
「ウイーっす、呼ばれてねえけど来ちゃったっス!」
「よォ、邪魔するぜ」
「ウワーッなんか来た!!」
「誰だバラしたの!!」
「強いて言うならユウくんスかねえ、マジフト部ここ土曜日使いませんかって聞いてきたんで。なんかすんのかなーと思って」
 この野郎、てめえやってくれやがったなとユウがエースとデュースにじゃれつかれる。ユウはウワーッと悲鳴を上げて蹲った。
「ほらよ、手土産だ」
「ウオッ、すげーローストビーフ……!」
 シシッ、と大皿を抱えたラギーが笑う。どん、と追加されたそれとは別に、レオナはリンの傍に取り寄せた一升瓶を置いた。それなりに値の張るやつである。
……あによ」
 それまでだんまりを決め込んでいたリンが憮然とした顔で言う。レオナがリンの影を覗こうとすると、それに合わせてリンも体を移動させた。
「なんだよ」
「あんたがなによ!!」
 がなるリンに、レオナが喉の奥でくつくつと笑った。
「散々飲ませてやっただろうが。たまにはいいだろ」
「ちっくしょう、おれのとっとき狙いで来やがったな……!!」
「まあな。ほら、寄越せ」
「やだ!! だってすっごい良いのだし美味しいのに!! って、あー!!」
 レオナがひょい、と指で招けばリンの背からひとりでに酒瓶が躍り出る。魔法は狡いと思いますがとリンが声を張り上げるのを飄々といなし、レオナはまずは手酌で一杯、勝手に飲んだ。
「ニャロウ……!!」
「まあまあリンさんこっちこっち」
 ラギーが調子よく酌をする。こっちにも寄越せと言われて、ラギーはそちらにもはいはいと瓶を傾けた。
「へえ、思い切ったな」
 舌に残る酒精を舐めたレオナが感心したように瓶を改めて眺める。どうやら王族の舌にも適う一品だったらしい。生徒達が目配せし合う中、リンは憮然としたまま言った。
「飲み切らないでよ。ちょっとずつ、日々の楽しみにするつもりだったんだから」
「へいへい」
 言いつつ、レオナは二杯目を注いだ。リンもこうなったら自棄だと盃を煽る。
「うわ、ケイト先輩にバレた」
 スマホを覗き込んでいたエースが箸を咥えながら言った。
「マジカメに上げたのか。そりゃバレるな」
「だからって今から行くねってなんだよ……フッ軽怖え~、あ、から揚げ取って」
「えっ私もマジカメのストーリー上げちゃった」
「リーチ先輩達来るかな……卵焼き貰うね」
「おい、そこの揚げ豆腐取ってくれ」
「あぁ、これだな」
「カリム先輩に見つかったらことだぞ。ジャミル先輩が。グリム、団子なら取ってやるから座ってろ」
「どうする? ちょっと取っておくか?」
 デュースがリスのように頬を膨らませながら器用に喋った。
「食べながら言う事じゃねーんスよね。ま、こーいうのは早い者勝ちっスよ! 枝豆のおにぎりウメ~!!」
 確かにそれはそう、と音に聞こえしナイトレイブンカレッジの生徒達は食べる速さを緩めなかった。我先にと箸を伸ばし、次々胃袋の中へ納めていく。
 バイキング形式のピクニックで、誰が何をどのくらい食べたかなど、細かい事をいちいち把握するようなつまらない事をする奴は、こんなところにいるわけもない。
「わ~やってるやってる! おっじゃっまっしっま~す!」
「え、リンさん、まさかお酒を……!?」
「はは、そんなことだろうとは思ったが……これ、良かったら。ちょうど試作を焼いてたんで、そのまま持ってきたよ」
「ありがとね。お重、もうほとんどないけど、みたらし団子ならまだあるよ」
 頂きます、とトレイとケイトが真っ先に手を付ける。リドルは少し複雑そうな表情でレオナとリンの傍にある酒瓶を見やっていた。ルール的に二人の歳ならば問題なかろうが、学園に持ち込むことに対しては一言なにか言うべきだろうか、いやでも二人相手に、とぐるぐる思考が明滅する。
 そんなリドルの内情を見通しながらも、レオナとリンは何も言わずに素知らぬフリをした。レオナは言わずもがな面倒であったし、リンとて今日ばかりはちょっとだけ悪い大人に傾いている。
 なにせ花見の席である。野暮なことは言いっこなし。来るもの拒まず、というわけで。
「小エビちゃーん! オレも混ぜてー!」
「うわあやっぱり来たあみたらしとっておいてよかったあ」
「どうも皆さんお揃いで。お邪魔しますよ」
「そろそろドリンクが切れた頃かと思いまして、コーヒーなどお持ちしました。宜しければどうぞ」
 ユウさんから話を聞いて、桜シリーズの商品開発をすることになりまして、とアズールたちが用意したのは、桜色のカフェラテだった。
「ユウさんこれって」
「つい……魔が差しまして……
 だってロゴマークとかロゴマークとかロゴマークとか……ユウがもじもじ言い訳する。アズールたちはきょとんとして二人のやり取りを見遣った。
 ほんのり甘くほろ苦いカフェラテが口の中をそれなりに整えてくれる。酒がある大人たちにはともかくとして、甘いジュースにデザートのみたらし団子は少々くどかったから、エース達は正直助かった心地だった。試作品だから忌憚なき感想を言ってくれればそれでいいとアズールたちも言っているし、リンの目があるのだ、後で何か言ってくることもないだろう。
 くちくなった腹に、暖かな気候は眠気を誘う。グリムなどは既にリンの膝で夢うつつに微睡んでいた。フロイドはユウの膝を枕にして好きに寝転がっている。レオナはいつの間にか桜の樹の枝に器用に寝そべっていた。ラギーはまだ口をもごもごさせている。トレイからの差し入れが少し余っていたのだろう。ケイトは桜を撮るのに忙しそうで、リドルはセベクに世話を焼かれてあれこれと話をしているようだった。馬術部同士、案外、気心が知れているのだろう。
 ジャックやエペルはアズール、ジェイドと盛り上がっている。デュースはぼうっとして、揺れる桜の枝を眺めていた。

 ───……ねみー……

 風に紛れて、どこかフルーティな、深い紅茶の香りがする。リンのたばこの匂いだ。あぁリンさん吸ってんだ、と、エースはなんとはなしに思った。
 きっと似合うんだろうな。キセルとかいうシガレットホルダーを持って、ふ、と長く紫煙を吐くリンは、それだけでどこか別世界にいるように見えたから。
 ゆるりと、リンの方へと視線を巡らせる。寝ぼけ眼で、ぱしぱしと瞬いて。花弁がひらひら、視界を邪魔して敵わないが、振り払う気力は睡魔に持って行かれてしまった。
 膝に寝そべったグリムを、細い指が撫でている。グリムは腑抜けた顔で寝息を立てていた。優しくそれを見下ろすリンの、もう片方の手には、キセルが───……

…………

 薄白紅が、ひらひらと。
 視界を遮って、適わない。

 ふ、と息を吐いて。エースの意識は、春のまどろみの中へ溶けて行った。





 がさがさと、音がする。
 冷えた風が、服をすり抜けて肌を撫でる。
 瞼を押し上げると、空は既に夕焼け色に染まっていた。東の方は夜の帳が降り始めていて、とても暗い。
「んあ、」
「お、エースが起きた」
「おはよー。靴履きなー」
……おぉー」
 むくりと起き上がって、エースはちょっと離れたところに転がっていた自分の靴を引き寄せると、のろのろと足にはめた。さあ、と枝木が揺れる。早よ帰れ、と言われているような気がして、エースはさっさと立ち上がった。
 荷物は少ない。レジャーシートは既に丸まって、エペルが肩に担いでいる。ユウはお重の上に皿を乗せて、ジャックが酒瓶を抱えていた。
「荷物戻したら、食堂で飯食おうってことになったぞ」
「あいよー」
 デュースに欠伸混じりに返事をして、エースはふと、グリムを肩車したリンの方を見やった。
……そーいやリンさんさー」
「ん? なによ」
 これはおまえの分だ、とセベクからゴミ袋を受け取りながら、エースは「んや、大したことじゃねえんだけど」と言葉を続けた。
「今日ってさ、たばこ吸った?」
「タバコ?」
 リンがきょとんと瞬いて、首を傾げる。
「吸ってないけど。今日は酒だけだよ」
「煙管は飲むって言うんだよ!」
「知らねーよ!」
 遠くから言ってきたユウに怒鳴り返し、エースは「そんならいいや」と先を行くマブたちを追いかけた。
「たばこ……、はて」
 ふと立ち止まったリンが、懐を探って煙管入れを取り出す。
 煙草を入れてある小さな封筒を開けて、「げ、」リンは頬を引き攣らせた。
…………やられた……
 リンの煙草は、最後に見た時より、だいぶ、かなり、減っていた。