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桜霞
2022-10-01 17:53:37
9818文字
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【twst夢】フライパンは無敵
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「ごちそうさん。美味かったぜ」
#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/03/13にpixivに投稿したものの再掲です。
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3
季節の移ろいというのは、唐突に悟られるものだ。本来ならば花の蕾が少しずつ綻んだり、夕暮れが遅くなったりと、日々に小さな目に見える変化があるものだが、ひとは些細なそれらを見逃しがちだ。
朝になって目が覚めた時に、ふと、「あれ、部屋が温い」と気付いたり、日差しが暑いわりに風が冷たかったり、───唐突に、桜の樹が生えたり。
そういう、如実に分かりやすいなにがしかを持って、ひとは、冬が終わって、春が来たなあ、と身心を柔らかにほぐし始める。
「
……
いやー
……
」
ひらひら、ひらひらと、白にほんの少し薄紅を垂らした花弁が散る。
「見事な咲きっぷりですねえ」
手持ち無沙汰に大樹を見上げるリンの横で、クロウリーは己の肩の濡れ羽の装飾についた花弁をせっせと払いのけていた。
運動系の部活やクラブに所属している生徒が朝練を始めようとして、広大なグラウンドの端にひときわ目立つ大きな樹が生えているのを確認したのが朝も早い七時頃。
生徒達はなんだアレ、と取敢えず寮長、ならびに教師へ報告を行おうとした。しかし何分早朝であるので、どこの寮長及び副寮長も忙しい。なんなら教師はまだ来ていない場合もある。そういうわけで、生徒のうち何人かがオンボロ寮に突撃をかましたのが七時十五分ごろ。判断が早い。リンはまだちょっと眠気の残る目で突撃してきた生徒達の頬をぺちぺちしてやった。
とは言え魔法の使えないリンに突如生えたファンタジーな樹の調査などできるはずもない。リンは躊躇わずに学園長へ緊急連絡し、植物ならば理系じゃろ、とざっくばらんな偏見に基づく判断でクルーウェルにも電話をかけた。
「なんか校庭に桜が咲いてんのよ。でっかいの」と朝一番に言われた学園長とクルーウェルは、とりあえず出勤時間をいつもより三十分は繰り上げて、こうして校庭に集まったのだった。
背後では、生徒達が朝練を始めている。
「どうでした、クルーウェル先生」
「すみませんねえ、専門外のことで呼んじゃって」
「まったくだ。俺が魔法薬学におけるプロで、植物にも見識があったことに感謝するんだな」
「へーへー神様仏様」
てきとうに拝むリンを小突き、クルーウェルはクロウリーへ向き直った。
「ほぼ、例のアレで間違いないでしょう」
「そうですか。まぁほっとくしかありませんかねえ」
「おそらくは。BAD BOY共が騒ぎに乗じないようにしなければ」
「? 例のアレ」
「ウチにたまに出現する怪異の類ですよ」
諦念を滲ませていたクロウリーが、嘆息しながら説明役を買って出た。リンが「かいい、」おうむ返しに首を傾げる。
「毎年ではないんですがね。ごくまれに、こうやってグラウンドなどにチェリーブロッサムが生えることがあるんです。この辺りの植生ではここまで立派なものを育てることが難しいので、まぁ、妖精か何かの悪戯なんでしょうが
……
」
「突如現れるだけで、それ以外は特にない。ただの樹だ」
コン、とクルーウェルが幹をノックする。リンは再び首を九十度に曲げて桜の天井を見上げた。
色が薄い。分かれた枝に均一に広がるようにして花がついている。おそらくはソメイヨシノの類かもしれない。いや、枝が垂れ気味だから枝垂桜と呼ばれるものだろうか。涼風が吹いて揺れるたびに、さあ、と擦れる音が耳に心地よい。
───春だなあ。
リンは目を細めた。この桜の枝の囲みから一歩でも外に出れば洋の西側と言うのがなんとなく締らないが、そこまで贅沢も言っていられない。
「リン、話はまだ終わっていないぞ」
「はい?」
「ただ、咲くだけならいいんですけどねえ」
クロウリーが腕を組んで口をへの字に曲げる。
「どうも、厄介なものを連れてきているようで」
「やっかいなもの」
「先程、クルーウェル先生が騒ぎに乗じて生徒が悪ふざけをすると言っていましたが」
「はあ」リンは気の抜けた相槌を打った。「何か騒ぎが起こるんですか」
「起こるんですよ。微妙なのが」
「微妙なの」
具体的には、とリンが促す。クロウリーは指折り今までに起こった騒ぎを数えた。
「無銭飲食でしょ、食堂の食材が一部盗難に遭いましたし、ハーツラビュル寮ではお茶会もやりますからそれらの菓子類、あとは煙草ですね。これも盗まれました。ねえ、一番の被害者さん」
「まったく。毎回捕まえられずに逃げられる」
一番の被害者らしいクルーウェルは苛立たし気に教鞭をバシリと鳴らした。
一方、「なるほど」これはいちいち騒ぎ立てるには微妙な被害だな、とリンは納得していた。
道理で具体的な対策案等がすぐに打ち出されてリンにあれこれと指示が飛ばない筈である。
「盗難の犯人もね。どうもゴーストの類のようなのですが、姿を見たものはいないんですよ。それらしい証拠も挙がったことがありません。生徒同士で罪のなすりつけが始まってしまうこともありますし」
「生徒達の間でトラブルになりそうなら、寮長たちには通達した方が良さそうですね」
「そうですねえ。リンさん、お願いできますか?」
「いいですよ。ユウとグリムにも頼むかな。ところで先生」
「なんだ」
水を向けられたクルーウェルが瞬く。リンは桜の樹を指した。
「これってホントに無害? 大丈夫?」
「? あぁ」
「ウチの国には綺麗な桜の下には死体が埋まってるっていう都市伝説みたいなのもあるけどこれはほんとに大丈夫?」
「ゾッとしないな
……
」
「一体全体どんな国なんですか貴方たちの故郷は!!」
おそろしい、とクロウリーが全身の羽を逆立てる。クルーウェルも苦い顔を隠さなかった。
「本当に、ただの樹だ。魔力も感じられない。突然現れて、突然消える。原因も理由も、何もかも不明だ。だが、生徒達がこの桜に傷つけられたとか、そういう実例はない」
ただ、妙な盗難事件が併発するだけだ。
話を聞いたリンが、「ふうん。それならいっか」くるりと踵を返す。
「? 寮長たちへの通達、頼みましたよォ」
はいよぉ、とリンは後ろ手に軽く手を振った。
どことなく機嫌の良いリンの様子に、クルーウェルとクロウリーは思わず顔を見合わせた。
時は流れて、昼休み。校舎裏の、人気が少ない小さな庭にて。
「と、いうわけで。お花見やりまーす!!」
「なんだゾ!!」
ぱっかーん、どんどんぱふぱふとユウがテンション高く自前で効果音を用意する。突然の宣言に呆気にとられたいつもの面子は、それでも「おー」ぱちぱちとてきとうに手を叩いて合わせてやった。
「んで、なに。おはなみ?」
「そ! お花見! まあ端的に言うと桜の下でピクニックなんだけど」
「さくら?」
エースとデュースが首を傾げる。もしかして、とジャックがサンドイッチから口を離した。
「校庭に今朝突然生えたっていう、チェリーブロッサムのことか」
「あっそう! それそれ、チェリーブロッサム!」
ウチの国では桜っていうからごめんね、とユウは頭を掻いた。
「
……
あのチェリーブロッサムって、確か
……
学園の怪談のひとつじゃ、なかったっけ
……
」
「は? マジ? そんなとこでピクニックしようとしてんの?」
エペルの言葉に、正気かよ、とエースが引いた顔をする。ユウは平然と、「死体が埋まってないだけマシじゃん」などと言い放った。
「したい!?」
「リンさんもちゃんとクルーウェル先生に確認してもらったって言ってたし。樹が生えると無銭飲食と煙草盗難がちょっと出るくらいだって」
「いやいや待て待てお前の一個前の発言にドン引いてんだわこっちは」
「おい、デュース大丈夫か」
「だ、だい、
……
したい
……
?」
「しっかりしろ人間!!」
大丈夫ではなさそうだ。エペルとセベクに介抱されているデュースを見て、ユウはこてんと首を傾げた。
「あれ、この世界には無いの? 綺麗な桜の下には死体が埋まってるっていう都市伝説」
「ねーよそんな物騒な都市伝説!!」
こっっっっわ!!!! エースは腹の底から叫んだ。
「なんでそんな都市伝説あるようなとこでピクニックしようとしてんだよ!!」
「え、毎年やるよ
……
?」
「毎年やんの!?」
うん、とユウは頷いた。
「春になったらお花見だよ。お弁当食べたり、お菓子食べたり、大人はお酒飲んだり。リンさんすっごいの作ってくれるって!」
心底嬉しそうに、ユウがはしゃぐ。
「まさかこっちに来てもお花見できるなんて思ってなかったから、今から楽しみ~!」
「
……
」
「
……
」
賢者の島を離れても実家があって、家族があるマブたちは、ユウの言葉を聞いて、思わずそろりと目配せをしあった。デュースがごくりと生唾を飲み込んで、ひとつ、長く息を吐く。
「都市伝説が、なんだってんだ
……
やってやるよ、お花見
……
!!」
「え、うん、
……
えっごめん、そんな真剣に取られるとは思ってなくて
……
なんかごめんね
……
そこらへんにある七不思議のノリで喋っちゃって
……
」
桜には、不思議な魅力がある。
一国の人間を千年もの間、魅了し続ける花である。平安において、花とは、桜を指す言葉でもあった。
───夜のうちに、誰かが死体を校庭に植えたから、桜の樹が生えたのでは。
マジカルなミラクルが存在しない世界から来たユウならば一笑に付してしまうような非論理的な推測も、ツイステッドワンダーランドにおいては通じてしまう道理なのだ。加えてここにはそういうことがあってもおかしくない面子が揃っている。
一国を動かす商人の息子然り、一国の王子然り、次期妖精王然り、文字通り生存競争を勝ち抜いてきた人魚しかり、先代を超える毒物を生成することを課されている生徒達然り。
ありえなくは、ないのだ。何せ、マジカルでミラクルな世界であるからして。
「楽しみだねえ、グリム!」
「おう!」
リンさん、なに作ってくれるかなあ、と無邪気に笑う一人と一匹を前に、ありえない推測をうっかり本気で信じてしまいがちな青い若者たちは揃って、微妙な顔で口を噤むしかできなかった。
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