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桜霞
2022-10-01 16:55:15
11625文字
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【twst夢】フライパンは無敵
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これ以上は進まない方が楽なのかな
#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/07/11にpixivに投稿したものの再掲です。
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それにしても身内か、とユウは薬草をごりごりすり潰しながら考えた。
我ながら言い得て妙である。リンの「レオナ兄さん」や「ラギー兄ちゃん」には度肝を抜かれたが、よくよく考えてみれば面白いかもしれない。
───レオナ兄さんの方は冷めた目で睨まれる未来しか想像できないけど
……
だが、ラギーは実家のあるスラムでたくさんの子供たちを世話してやっているらしかった。きっと「お兄ちゃん」なんて呼ばれ慣れてるんだろうと思う。
こども達に兄ちゃん兄ちゃん言われながら群がられているラギーを想像するのは容易かった。なんだか微笑ましくて、ちょっと頬が緩んでしまいそうになる。ユウは意識して唇を引き結んだ。
───エースは確か、お兄さんがいて。
ハーツラビュルの卒業生だったと聞いたことがある。デュースは一人っ子だったらしい。ジャックには弟妹がいたはずだ。
「うーん
……
」
───ジャックが長兄かな
ユウはすり潰した薬草を他の薬剤と混ぜ合わせながら考えた。卵をとくように手際よくやっていると、通りすがりのクルーウェルに「Good」と一言褒めて貰えた。
───エースとデュースはお兄ちゃんぽくない
いやしかし、あの行動力やいざという時の胆力は驚かされるものがある。もしかして上がダメだから下がおそろしくしっかりしてしまったパターンなのでは、とユウは大釜に少しずつ混ぜ合わせた材料を入れながらふと思いついた。
確か知り合いの家もそんな感じだった。同年代にしては珍しくしっかりしたクラスメイトがいて、兄だか姉だかが奔放だったために下が苦労しているとかなんとか。
───よく兄ちゃんなんて言われてからかわれてたなぁ
確か、バイトも掛け持ちしていたはずだ。授業中にも内職していて、そんなところもラギーに似ている。
懐かしいなぁ、とユウは鍋を掻き混ぜるためのオールのようなものを探した。きょろきょろとしていると、「はい」と視界の横から差し出される。
「あ、ありがと兄ちゃん、」
直後、その人物を視界に入れて、ユウはびしりと固まった。オールを差し出しているラギーが、目を丸くしている。
「あっ、あ、あの、その、違くて」
すいません、とユウはとにもかくにもオールを受け取った。いえいえとラギーも会釈を返してくれる。
「別に大丈夫ッスよ、兄ちゃんて呼んでくれても」
「え、いや、」
「これでも歳下の面倒は見慣れてるんで」
「あの、いや、ラギー先輩しっかりしてるので、」
「お兄さんしっかりしてるひとだったんスか?」
「アッそういうことじゃなくてですね」
えっこれどうしよう、どう説明したらいいんだろう、とユウは大釜をぐるぐる掻き混ぜながら必死に自分を落ち着かせた。どうしようなんて思っていると焦るばかりでどうにもならない。
「その
……
それこそ知り合いに、ラギー先輩みたいに皆からお兄ちゃんって呼ばれてるひとがいて」
───うん、嘘は言ってないな
咄嗟に口から飛び出たにしては真っ当だ。それが逸る心臓を落ち着かせてくれて、ユウは大釜の火加減を少しだけ調整した。ラギーは「へぇー」と相槌を打ちながら鍋の上でマジカルペンを振った。きらきらとした魔法の粒子が鍋の中に降り注ぎ、中身の色をあっという間に変えていく。
「おぉ、すごい。綺麗」
「そのオニーサンには出来ないでしょうね」
「はい。すごいです、お兄ちゃ、
……
先輩」
「いやもうそこまで言ったなら最後まで言っちゃいなさいよ」
けらけら笑いながら、ラギーは鍋を掻き混ぜるのをやめて、レポート用紙にさらさらと色々なことを書き込んだ。
ユウはその間も鍋を混ぜるのをやめない。後でラギーのものを写させてもらう約束なのだ。
「ふむ。Greatをくれてやってもいいな」
「、」
「このまま上手く行けばだが」
「
……
はい」
突然背後から現れたクルーウェルに、ユウは思わず肩をこわばらせた。オールを握る手に変な力が入る。クルーウェルが足音を立てずに他のテーブルを見に行っても、ユウの心臓はまだ派手な音を立てていた。
けれど、彼は珍しくGreatをくれると言った。どうやらこの実験は上手くいっているらしい。シシッ、とラギーは余裕そうに笑っている。
「ちょーっと話してただけなのに、先生ってばマジ厳しいッスね」
「いやでも、上手く行ってるらしいので。お兄ちゃんのお陰ですね。
……
あっ」
「うーん、しばらく直りそうにないっスねぇ」
ユウはすみません、と首を竦めながら混ぜるのをやめて、オールを洗浄スペースに放り込んだ。その間にラギーが魔法を使って炎を消す。ユウは水道の蛇口にホースを繋いで、鍋の側面に水を放った。底の方からゆっくり冷やしていく。温度調節は、ラギーが魔法でやってくれた。器用なものだ。
「なんでまたオニーサンのこと思い出したんスか」
ホームシック? と訊ねるラギーの声はそこまで重くもなかったが、軽くもなかった。気を遣ってくれてるのかなとユウは思ったが、こちらが変に気にする方が、ラギーは面倒に感じてしまうだろう。
「いや、ホントに大した話じゃないんですよ」
ユウは、水が飛び散らないように気をつけながら言葉を連ねた。
「ただ、皆との距離感が」
「距離感?」
「多少
……
近く
……
なったかなーって
……
」
「近く」
「ラギー先輩は近所に住んでてたまに会うと挨拶するくらいのお兄ちゃんです」
ぶはっ、とラギーは吹き出した。喉の奥をくつくつと鳴らして笑い、肩を小刻みに揺らしている。
「例えが細けぇッスね
……
!」
すっかり冷えた魔法薬は、その性質故にちょうど試験管二本分の量へと減ってしまっていた。零さないよう注意しながら移し、魔法のコルクで蓋をしてから自分たちの名前を書いたラベルを貼って、教卓に提出する。
「だからお兄ちゃん、と」
「なんかこれからもうっかり言っちゃいそうな気がしてきたんで先に謝っときます。すみません」
「いや、いーっスけど、全然」
ラギーは魔法で大釜を綺麗に洗い始めた。その間にユウが自分のレポートを完成させる。
「じゃあレオナさんもオニーチャンっスか?」
「レオナ先輩は年に一回のホリデーで田舎に帰ったら見かけたり見かけなかったりする親の実家の近所のお兄さん」
「微妙に遠い!」
ヒー! とラギーはぷるぷる震えながら笑い声をどうにか噛み殺していた。
「その近所のお兄さん、めちゃめちゃ家に上がり込んでメシ食ってるッスけど」
「それが謎なんですよね
……
余りにも堂々としてるから注意も何も無くて
……
ウチのひともご飯とか食べさせちゃうし
……
」
「っはァー
……
!」
ユウが余りにも真面目な顔で滔々と語ったのがさらにツボに入ったらしく、ラギーは鍋の中に頭を突っ込んでぐらぐら揺れていた。ここが食堂、あるいはそれこそオンボロ寮だったら、腹を抱えてゲラゲラ笑ってたことだろう。
そうこうしている内に予鈴が鳴った。この後は昼休みだ。ユウは溜息をついて荷物を纏めると、レポートをラギーと一緒に提出して錬金術の教室を後にした。
帰り際にちらりと視線を巡らせると、エースとデュースはまだしばらくレポートや片付けに時間がかかりそうだった。ユウは素早くスマホを操作して、『グリム探してくる! 先に食べてて』と二人にメッセージを飛ばした。
廊下は多くの生徒でごった返していて、とても賑やかだった。多くの雑音が凄まじい速さで行き交っているので、誰も彼も他人の会話になど耳を傾けてはいない。
「で、妹ちゃんはこれからどーするんスか?」
「いもうとって
……
」
「お兄ちゃんに教えるッスよ」
「もう、」
ユウはくすくす笑ったが、すぐに前を向いた。
「一旦教室に荷物置いたら、グリムを探しに行きます。本当は実技の前に捕まえたかったんですけど、どこに行ったのか見つからなくて」
「大変ッスねぇ」
「お兄ちゃん、グリム探すの手伝ってくれます?」
「オレの妹ならそれくらい一人で余裕っスよ」
暗に手は貸さないと告げられ、ユウは嘆息した。分かりきってはいたものの、この広い敷地内を捜索するとなると、骨が折れるどころの騒ぎではない。しかも、今回はグリムの姿を見失ってから大分時間が経っている。
「ま、見かけたら連絡するッス。飯はちゃんと食うんスよ」
「はーい、お兄ちゃん」
「よしよし」
ラギーはニカッと笑うと、自然な仕草でユウの頭をくしゃくしゃと掻き混ぜた。ユウは反射的に首を竦めてしまったが、すぐにくすくす笑って大人しくラギーの手を受け入れた。
彼の手は少しだけ固くて、思ったよりも大きく、力強かった。
「じゃあまたね」
「はい、また」
ラギーの姿があっさりと人混みの中に消えていく。ユウは反対に大きな人の流れから外れると、人通りの少ない階段を選んで自分の教室へと小走りに進んだ。
それからほどなくして、ユウのスマホにラギーからメッセージが送られてきた。
『グリムくん、微妙な距離感のお兄さんと微妙な距離感で昼寝してたっス』
一緒に送られてきた写真には、横になって寝ているレオナと近いような遠いような、確かに微妙な距離を置いて丸くなっているグリムが映っていた。
ユウはサボりやがってだとか、お昼ご飯食べ逃しただとか、見つかって良かっただとか、様々な感情が綯い交ぜになって、結局は「もお、」とラギーのメッセージにくすくす笑いながら植物園に向かった。
このときのユウは、まさか自分が移動しているその最中に「微妙な距離感のお兄さん」という文言をレオナに見られたラギーが無理やり経緯を説明させられており、後で自分が「ラギーのことは呼べたんだろ? 俺も兄貴って呼んでみろよ」と揶揄される未来など、これっぽっちも予想だにしていなかった。
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