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桜霞
2022-10-01 16:55:15
11625文字
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【twst夢】フライパンは無敵
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これ以上は進まない方が楽なのかな
#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/07/11にpixivに投稿したものの再掲です。
1
2
3
兎角ひとという生き物は、居場所なるものを求めたがる。
ひとりになれる場所、集中出来る場所、賑やかな場所、エトセトラ、エトセトラ。
新学期が始まって数週間も経てば教室内での定位置も決まってくるし、行動パターンにも規則性が出てくるようになる。
そして大抵の人間はそれをパーソナルスペースとし、乱されることを大いに嫌う。獣人族で特に食物連鎖の頂点にいるような種族はこれが顕著だ。サバナクロー寮生がいい例だろう。所謂ナワバリというやつだ。
ナワバリなので、侵されれば雰囲気は険悪になるし、最悪、乱闘騒ぎに発展する。ナイトレイブンカレッジは男子校であるし、弱肉強食が暗黙のルールなので、教師陣も「まァこれくらい元気がないとな」と叱りこそすれ、否定はしなかった。
だが、ナイトレイブンカレッジのほとんどの生徒はそういう武力行使を好まない。これは平和主義だからとか怪我させるのが可哀想とかそういう穏やかで甘っちょろい理由から来るものではなく、ただ単純に面倒だからとか、後で禍根が残るからだとか、非効率だとか、成績に影響が出るだとか、そういう打算的な考えから来るものであった。
何が何でも負けたくない時は、また話が違ってくるけれども。
つまりはたかだか放課後にぐだぐだするためだけの場所確保のために他の生徒や上級生に喧嘩を吹っかけるのは割に合わないのだ。そういうわけで、ほとんどの下級生は寮の自分の部屋とか、大食堂の隅の方とか、そういうところで上級生の面倒な奴らに目をつけられないよう、賢く行動していた。
しかし、何百人も生徒が居れば、確保できるスペースなども限られてくる。図書館は静かにしなければいけないし、大食堂は混雑するし、植物園はサバナクローの寮長がナワバリにしているし、広い運動場は部活動で使われる。自分たち以外は静かで、他人の目が無くて、気兼ねなくギャハギャハ騒げる場所なんて中々無かった。
「もうウチでいいんじゃない?」
エースやデュース達とだらだらごろごろできる場所を探していたユウは、面倒になってそう言った。
マジフト大会が無事に終了して、期末テストがもうすぐ始まろうかという時期だった。
それからというもの、ユウ達が放課後だべる場所は、モストロ・ラウンジでも教室でも食堂でもなく、オンボロ寮の談話室になった。皆で少しずつお金を出し合ってサムの店でポテチとコーラを確保し、ぐだぐだ言いながら課題をやっつけたり、オンボロ寮の掃除をしたりした。
話が盛り上がるとそのまま居座って泊まることもあったし、そうなると、オンボロ寮に居候しているリンが夕飯を作ってくれることもあった。
期末テストが終わってからは、ジャックもよく顔を出すようになった。「てめーらがリンさんに迷惑かけてねえかどうか見張るためだ」という言い訳が使われなくなったのは、ホリデーが開けて、しばらく経ってからのことだった。
一日を締め括るホームルームが終わって、エースはすぐさまユウ達に声を掛けた。
「小テスト乗り越えた記念に、ピザパしようぜ。ピザパーティー」
こういうときの言い出しっぺは大抵エースである。グリムは食べ物のこととなると真っ先に賛成するし、デュースもなんだかんだ期待に満ちた目でユウを見やるのだ。
ユウは苦笑した。
「この間もハーツの皆で大食堂占領したのに」
「いつの時代の話してんだよ」
「それはそれ、これはこれなんだゾ!」
「待って、リンさんにご飯のこと聞いてみる」
時刻はもうすぐ夕方四時になろうとしていた。いつもなら、仕事を終えたリンが購買で食材を買い込んでいる時間帯だ。
「リンさんならいいよって言ってくれるだろうし、別に良くね?」
「確認を取るのは大事だろ」
「連絡しねーとリンは怖えんだゾ、エース」
何度か夕飯抜きの刑に処されているグリムが嫌そうに言った。げぇマジ? とエースが顔を歪める。
「リンさんって案外真面目なの? うわ、ちょっとめんどくせえな」
「何でもかんでも自分の思い通りにならないとめんどくさいって言うの、エースの悪い癖だよ」
「マジレスやめろよ、ポーズみてえなもんだろ」
げんなりとしたエースを他所に、ユウはたぷたぷとスマホを操作した。
『今日、エースがピザパーティーやろうって言い出してるんですけど』
程なくして、リンからの返事がユウのスマホを震わせた。
送られてきたのは、コーラの二リットルペットボトルがデン、と中央に置かれており、その周りをジンジャーエール缶が取り囲んでいる写真だった。
「ヤリィ!! さすがリンさん!!」
ユウのスマホを覗き込んだエースが歓声を上げる。
ユウはあくまでも仕方ないなぁと肩を竦めた。
直後、ひゅぽ、と音がして、スマホの画面に吹き出しが増える。
『スライスしたポテトにチーズ乗っけてチンしたやつ作ったら皆で食べる?』
『私が食べます』
即レスしたユウに、リンは『笑っちまった』と了解スタンプを送信した。
オンボロ寮の談話室がたまり場として定着したからと言って、毎日のように皆で集まるかと言えば、実はそうでもない。
エース達は皆なにかしらの部活に所属しているし、ユウとてバイトがある。それぞれの寮で放課後にこなさなければならない用事も細々あるので、オンボロ寮の談話室が賑やかになるのは一週間に一度あるかないかぐらいだった。
ただ、来客が途絶えないわけではない。
「はー、もうこんな時間だよ」
「くたくたなんだゾ
……
」
魔法を使えないユウや、人間社会の常識を知らないモンスターグリムには、特段成績に問題がなくても補習が課されるときがある。グリムの場合は単純にテストの成績による場合が多いが、ユウは実技授業の単位の穴を埋めるために、他の生徒より多くの課題をこなしていた。
ユウは疲労を引き摺りながら玄関のブザーを押した。ブーッと中でけたたましい音が響く。鍵は持っているので扉は自分で開けるが、帰寮を知らせるために、ブザーを鳴らすのがオンボロ寮のルールだった。ちなみに、鍵を持っていない場合はブザーを二回押すことになっている。
しかし、この日はユウが鍵を差し込む前に、ガチャッと錠の外れる音がした。
「おかえりっス! 飯できてるっスよ」
「ほわ」
ひょこっと顔を覗かせたのはラギーだった。その後ろから「遅え」とレオナがのっそり顔を出す。ユウは何が何だか分からないながらに「す、すみません
……
?」と謝った。
「なんでお前らがいるんだゾ!?」
我に帰ったグリムが素っ頓狂な声を出す。ラギーはなんてことは無いとでもいうように答えた。
「飯食いに来たんスよ。今日の部活の試合、めちゃくちゃ白熱したんで、もーオレ飯作る気力なくてさぁ」
モストロ・ラウンジはレオナが嫌がった。大食堂の混雑に挑めるほどの体力も無い。そういうわけで、二人は手っ取り早くリンの夕飯を買うことにしたのだった。
「リンさんの飯なら、レオナさんが奢ってくれるしね」
シシッ、とラギーがそれはもう嬉しそうに笑う。
「それに、これが初めてじゃねーっスよ。リンさんから聞いてねえんスか?」
「いえ
……
何度か代わりにお掃除をして頂いたとか聞いてますけど
……
」
とうとう現ナマかぁ、とユウはどこか遠い目になった。
「前まではレオナさんの酒で物々交換〜って感じだったんスけどねえ。リンさんがアズールくんを上手いこと使ってくれちゃったから、価値が釣り合わなくなっちゃって」
ホリデー明けの騒動により、リンはこれまでよりもぐっと食費を抑え、且つ嗜好品である酒をタダ同然で仕入れる破格のルートを獲得していた。
「リンさんがいいなら私は構いませんけど
……
せめて洗い物くらいはしていってください」
「お安い御用っス!」
タダ飯を頂けるとあって、ラギーはいたく上機嫌だった。
それからというもの、オンボロ寮にはサバナクローのツートップもよく訪れるようになった。
ラギーが食事を作るのを面倒くさがったり、レオナの気分だったり、理由は様々だが、一ヶ月もすれば、ユウやグリムも慣れてきた。
「おかえりっス!」とラギーが出迎えてくれれば「ただいまっス!」「おう! 帰ったんだゾ!」と返せるようになったし、レオナに開口一番「遅ぇ」だとか「薬品臭ェ」だとか言われても「リンさんただいま〜!!」と大声を上げられるようになった。
ユウがバイトを初めて二ヶ月も経てば、寮に泊まる者も現れ始めた。
オクタヴィネルのフロイド・リーチである。
フロイドのみならず、ジェイドやアズールも、バイト終わりのユウをオンボロ寮まで送ってやっていた。建前上はユウの安全のためだが、その実はリンやユウの故郷の料理をモストロ・ラウンジに役立て、ひいてはリンをラウンジの経営に引きずり込むためであった。
だが、アズールが打った布石は全てが物の見事にリンに利用されてしまった。オセロならば盤上の色が一斉にひっくり返るような一手を打たれたのだ。
それ以来、アズール達はオンボロ寮に通うのはやめた、かと思いきや。
「ちょっと小エビちゃん、ひとりで勝手に帰っちゃだめでしょ」
「ひょえ」
ぬう、と真上から逆さまになったフロイドの顔が迫ってくる。思わず後ずさったユウは、呆気なくフロイドの両腕に捕まった。
「ハイ、一緒に寮に戻りましょおねぇ〜」
「え、あ、は、はい、」
がっしりと肩を掴まれて、そのまま前へと押し出される。ユウはつんのめってこけないように、小走りで寮への道を進んだ。
「もう新作メニューは完成したのに、まだ食べに来るんですか?」
ユウに訊れられたジェイドは、「おや、いけませんか?」と意地悪く笑った。
「フロイドは良くて僕はダメとは、酷いことをおっしゃる。悲しくなって泣いてしまいます」
白々しいその声に、ユウは呆れを隠せなかった。
「そんなつもりはないですけど
……
ただちょっと不思議に思っただけです」
ユウの言葉を聞いたアズールは、「そんなに不思議なことですか?」とつらつら言葉を並べてみせた。
「僕達だって、他人の手料理に飢えているということですよ。それに、現状維持だけでは店の発展は有り得ません。これからも僕達の新しいアイディアのために、いろいろ食べさせて頂きませんと。安心安全な帰り道を一飯で買えるとあれば、安いものでしょう?」
「
………………
」
結局、ユウは閉口するしかなかったし、フロイドが「帰るの面倒だから泊まる〜」と言い出すのにも、大した時間は掛からなかった。
「泊まれる部屋があるなら早く言ってよ、小エビちゃんの意地悪」
さくっとシャワーを借りて魔法でぽんっと着替えたフロイドは、階段下の物おきに毛布が無いか漁りながら言った。
「でも、ご飯食べたらさっさと帰ってたじゃないですか」
エースやデュース達と夜通し勉強をするときなどのために、オンボロ寮の部屋は幾つかひとが寝泊まりできるようになっていた。使えないマットレスなどはリンがさっさと捨ててしまったが、学園に掛け合って新しいものを取り寄せてくれたのだ。
「オレ、これからここ泊まんね」
「え? 毎回?」
「うん。帰んのめんどい。オレもー寝たい」
「でも、外泊許可とか」
「アズールにはスマホでゆっとく」
くぁ、とフロイドは欠伸した。目が眠そうにしぱしぱと瞬いている。
もう寝る気満々のフロイドに帰れとは言えなくて、「それじゃあ」とユウは眉を寄せながら言った。
「使った毛布とベッドシーツや枕カバーは、明日の朝、学校に行く前にランドリーに入れてくださいね」
「ン。まほーできれーにしとく」
「あぁハイ、それでもいいです」
呂律が回っていない。なんだか危なっかしくて、ユウは「こっちですよ」とフロイドの腕を取って、空き部屋へ案内した。フロイドは何やらむにゃむにゃ言いながら大人しくついてくる。
「ちゃんとアズール先輩に連絡してくださいね」
「んー」
本当に大丈夫かな、と訝しみながら、ユウはフロイドのために部屋の扉を開けてやった。フロイドはのそのそと部屋へ入っていく。
「おやすみなさい、フロイド先輩」
「
……
ん」
そのままベッドに倒れ込むかと思いきや、フロイドはくるりと踵を返した。
え、と一歩後ずさる間もなく、長い腕が毛布ごとユウを包み込む。
ぎゅう、と抱き締められて、ユウは思わず息を止めた。
「おやすみ、小エビちゃん」
眠さのせいか、とろとろに溶けた声音がそっと耳朶に触れる。ユウが何かを口にする前に、フロイドはするりと離れて行った。それを追いかけるようにして、ドアがゆっくり閉まっていく。
「
……
」
ぱたん、とドアが閉められた後。
ユウは思わず、自分の腕を抱えるようにして摩った。
───フロイド先輩にじゃれつかれるのは、いつものことなのに。
何故だか、いつもより、フロイドに抱き締められた感触が残っているような気がして。
ユウは唇をきゅむりと食んで、気にしない、気にしないと何度も頭の中で反芻した。
何も無い放課後には、同級生たちと。
バイトがある日は、オクタヴィネルの三人と。
その穴を埋めるようにして、レオナやラギー達と。
一緒にご飯を食べることが、当たり前になるのは早かった。
「
……
なんだか、すっかりたまり場になっちゃいましたね」
食事のテーブルにユウとグリム、そしてリンだけが座るのが、ユウにはなんだか随分久しぶりの事のように思えた。
「ん?」
リンが小首を傾げる。ユウは視線をテーブルに並べられた料理に落とした。
使えるように綺麗になった食器が増えた。修繕された椅子やベッドが増えた。ユウが管理する部屋の鍵も増えた。皆の個人部屋には私物が少しずつ増えている。ベッドシーツを干す回数も増えたし、何なら色変え魔法の練習台にされて、大分カラフルなことになっている。それ故か、誰がどれを使うか固定化してきた。
「なんかもう、皆が身内
……
みたいな気分になってきました」
「ほほう」
相槌を打ったリンは、ちょっとだけ思案する素振りを見せた。
「レオナ兄さんに、ラギー兄ちゃん?」
「ブフッ!!」
「オマッ、急に何を言い出すんだゾ!?」
「だって、身内って言うから」
リンはケラケラと笑った。冗談だというのは分かっているが、なんとも心臓に悪い。
「まぁ、言わんとすることは分かるよ。友達とも仲間とも言えないから、なんとなく、身内って言いたくなるよね」
「
……
冷静に考えると身内って言ったら怒られそうですけどね
……
」
「そう? こんだけ私のメシ食ってんのに?」
リンは小さく肩を震わせた。
「外では違うかもしれないけど、この寮にいる内は身内だよ。それでいいんじゃない。あいつらにはあいつらのホームがあるしさ」
「、」
「ま、私達にもだけど」
「
……
はい。そうですね」
少なくとも、悪くはない。ユウは、なんだか寂しいような、切ないような、それでもなんだか嬉しいようなむず痒さを感じて、誤魔化すようにしてご飯を口に詰め込んだ。
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