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桜霞
2022-10-01 16:54:23
9961文字
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【twst夢】フライパンは無敵
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いのうりょく:どっぽぎんかく
#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/08/13にpixivに投稿したものの再掲です。
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西日が照らす放課後の校舎に、
人気
ひとけ
は少ない。こういうところはどこ行っても同じだなとぼんやり思案を巡らせるリンの手には、銃が一丁、ぶら下がっていた。
リンの足音が石造りの校舎にこつこつ響く。そこに、落ち着いた足音が一つ加わった。
間を空けず、ぽん、と軽い音を跳ねさせて、銃が手帳へと姿を変える。リンは歩みを止めずに、両手で手帳を弄んだ。表紙にはでかでかと「理想」と書かれた紙が貼られている。
「上手く行きましたか」
「トレイか」
大食堂に近い廊下から姿を見せたトレイ・クローバーに、リンは相好を崩した。
「ありがとね。助かった」
「これくらいなら、お安い御用ですよ」
リンにルークの為人を教え、手帳を銃に『上書き』したのは、トレイそのひとだった。
「それにしても、よくルークの居る場所が分かりましたね」
「えぇ?」
感心したようなトレイに、リンは肩を揺らしてけらけらと笑った。
「私がルークのことを聞いたとき、あいつは狩人だと自負してるって教えてくれたのはお前だろ」
「それとあの展望台がどう繋がるんですか?」
「そりゃお前、寮を狙うなら一番死角が少ないのはあそこしかないだろ」
「
……
」
なんでそんなの分かるんだ、という言葉を、トレイはすんでのところで飲み込んだ。誤魔化すように咳を払い、「それにしても」と話を変える。
「突然、手紙を銃にしてくれだなんて、驚きましたよ」
「案外いけるもんなんだな」
「いや、俺にもどうして成功したのか分かってないんですが
……
」
トレイのユニーク魔法である『
薔薇を塗ろう
Doodle Suit
』は、対象を一時的に上書きするだけのものだ。それは解釈の仕様によっては魔法効果でさえも上書きしてしまう強力なものだが、何かの見た目や感触を全く別物に上書きする、というのはまた別の分野になってくる。
まぁダメ元でやってみてよと言われるがままに魔法を使ったが、案外すんなりと成功してしまって、トレイは喜んでいいやら驚くやらで、結局しばらくぽかんと呆けていた。
「それで、やっぱりルークだったんですか?」
「うん。辞めるか辞めないか、どうするって聞いたら、影からは探らないと誓ってきた」
「
……
それは
……
」
瞬いて、トレイはリンを見やった。視線に交じる戸惑いを感じたのか、リンも「ん?」と隣を歩くトレイの方を見上げた。
「いや
……
、
……
いいんですか?」
「何が」
「言質ですよ」
ルークは影から探るのを辞めると言っただけだ。これから寧ろ堂々とリンに絡もうとするだろう。レオナやラギーに辟易とされても、寮長に「程々にしときなさい」と窘められてもめげないあの強かさで。
「ルークは真正面からの勝負も美しいと思えば仕掛けるタイプだと思いますけど
……
」
ふ、とリンはいっそ冷ややかに微笑んでみせた。
「それならまだやりようがある」
「
……
なるほど」
トレイは、あくまでも自然にリンから視線を外して前を向いた。
タダでは転ばないとは正にこの事だなと意識して深い呼吸をするトレイの耳が、ぽつりと零れた独り言を拾った。
「
……
冷徹になりたくないんだ、私は
……
」
瞬いたトレイがちらりと視線を落とすと、先程の表情からは一転、リンはどこかやり切れなさそうな、苦々しい顔をしていた。
「
……
何かあったんですか」
「
……
ま、いろいろとね」
「
……
」
リンの嘆息しながらの言葉と、決してこちらを向こうとしないその視線が、これ以上はリンの口から何か語られることは無いということを如実に示している。
「
……
」
リンが、話してくれないという、その事実に、トレイの胸は塞がるようだった。悔しさのようなものが静かに心臓から巡ってゆき、自然、噛み締める奥歯に力が入る。
険しくなってしまっているだろう目元をどうにも解せないまま、トレイはそれでもできるだけ、声音だけでも固くならないように気をつけた。
「
……
リンさん」
「ん?」
リンがちらりとこちらを見遣る。
トレイは、意識して呼吸し、必死で思考を巡らせ、言葉を選んだ。
「俺は
……
、俺達のことは、
……
まだ、信用
……
できませんか」
「まぁね」
「、」
即答だった。
無意識に手が動き、眼鏡の位置をいじる。まぁね、というリンの答えを得て初めて、トレイは自分がなんの身構えもせず、リンへ問いをなげかけたことに気が付いた。
「
……
そう、ですか
……
」
意識の外側で小さくなる声に、自分がショックを受けていることを隠しきれていないのが如実に感じられる。今度は羞恥が湧き上がり、トレイは熱くなった首筋を宥めるように手で摩った。
「ま、信頼してなかったらこんなこと頼まないけどね」
「えっ」
思わずリンの方を見遣る。
こちらを見上げていたリンは、ぱちりと一つ、悪戯っぽく片目を閉じてみせた。
「
……
何が違うんですか、それ」
トレイは毒気を抜かれた気分で、ほろりと苦笑した。
リンは答えずに、「ふふふ」小さく肩を震わせた。気のせいか、リンの踵の跳ねる音が幾分か楽しそうだ。
───敵わないなぁ
トレイは、気付かれないように長く息を吐いた。
その隣に堂々と立つには、まだまだ距離がありそうだった。
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