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桜霞
2022-10-01 16:53:31
33585文字
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【twst夢】フライパンは無敵
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このストーカー野郎がァ!!
#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/07/07にpixivに投稿したものの再掲です。
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3
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5
ナイトレイブンカレッジの城下には、地下牢がある。そのほとんどが物置や倉庫として使われているが、中には拷問が行われていただろう跡や、壁に埋め込まれた鉄鎖つきの枷などが点々と存在している。
そのうちのひとつに、件の男は繋がれていた。
鉄格子を挟んで、レオナはその男を見降ろしていた。
男はぶつぶつと低い、レオナでさえ聞き取れない声で何事かをずっと呟いている。
───妄執も、ここまでくれば狂気だな。
不意に、レオナの耳がぴくりとそよいだ。新たな足音を捉えたのだ。
レオナはゆるりとそちらに視線を巡らせた。唯一差す光の方から、長い影が伸びて、やがて特徴的なシルエットが地下に降り立つ。
デイヴィス・クルーウェルそのひとであった。
「どんな様子だ」
クルーウェルの声が静かに響く。レオナはこめかみの横で人差し指をくるくると回した。フン、とクルーウェルが鼻を鳴らす。
「警察はまだ来ねえのか」
「もう間もなくだ。学園長が案内している」
「
……
犯人逮捕に俺が立ち会う必要性は?」
「被害者を守った重要参考人だ。ついでに被害者の代理でもある」
「初耳なんだが」
「お前にとってはこれで十分だろう」
まぁ被害者代理は俺もだが、とクルーウェルは鉄格子の向こうを見やった。
「暴れたか」
「多少な」
「結構」
クルーウェルはさっと指示棒を揮った。がちゃりと音を立てて錠が外れる。
レオナが何かを言うより早く、クルーウェルは地下牢の中へと踏み入った。
虚ろな目が、疑念の光をぎらりと光らせてクルーウェルを見上げる。それをどこ吹く風と言った体で受け流し、クルーウェルは彼の眼前に小瓶をぶら下げた。
「これが何か分かるか?」
「
…………
」
男は答えない。クルーウェルは気にしなかった。
「イオラムエイルだ。本物のな」
俺が一晩かけて作った、とクルーウェルはまるで講義をするように言った。
「さて、仔犬。イオラムエイルの主な用途は」
「
……
あ? 俺か?」
「他に誰がいる」
レオナは心底面倒くさそうな表情を隠しもしなかった。
「
…………
医療用。重度の認知症患者で特に徘徊する者や暴行経験のある者に使われる」
「他には?」
「精神疾患患者」
クルーウェルは黙然とレオナの解答を促した。
「
……
麻薬中毒患者」
「服薬するとどのような症状が現れる」
「人によって程度は変わるが、軽い眩暈、意識混濁、これによる嘔吐。ほとんどはすぐに眠りに就く」
「そうだ。
副作用
・・・
を抑え込むためには精緻な作業を必要とする。専門的な資格を持っていなければまず精製に失敗し、服用者は長く苦しむこととなる」
Good、とクルーウェルはレオナに向き直った。
「他には」
「、
……
」
レオナはほんの一瞬、眉を寄せた。
「
……
犯罪現場において、被疑者が強制捜査に応じない場合や、凶悪な立てこもり犯やテロ組織などを捕縛する際に、必要と判断された場合のみ使用許可が下りる」
「Excellent! そう、その通りだ」
クルーウェルは上機嫌に微笑むと、懐から丸められた羊皮紙を取り出した。
「ミスター、貴様には令状が出ている。罪状は数多にわたる万引き、窃盗罪。そしてこれは公開されないだろうが、余罪がいくつか」
クルーウェルが令状を広げる。
レオナは、その余罪の方に名誉棄損罪とストーカー罪が記されているのを、はっきりと見た。
「令状が出ているということは、俺はこの薬を貴様に使えるということだ」
ほとんどの場合、公共機関に流通しているイオラムエイルは、その効能故に汎用性が高い。ちなみに、事情聴取においては、誘導自供による冤罪を防ぐために使用厳禁とされている。
だが、一つ問題なのは、服薬させたい相手が素直に応じない場合が大半だということだった。
「
……
使えるのか?」
故に、イオラムエイルは特殊な服薬の仕方をさせられる。その方法や魔法は公開されていない。
「まぁな」
しかし、クルーウェルは至極楽しそうに、生き生きと微笑んだ。
指示棒が音を立てて空を切る。瞬間、がちゃがちゃと音を立てて男に科せられていた枷がぱくりと真っ二つに割れた。
「さぁ立て。そして牢から出ろ」
「ッ
……
、」
座り込んでいた男は、震える手足をそのままに後ずさった。そうして、ぶるぶると首を横に振る。
「いやだ、やめろ、おれはなにもまちがっちゃいない、」
「違うな。お前は道を誤った」
「まちがってない!! おれはまちがってない、わるいのはおまえらだ、おまえ、おまえらが!!」
まるでボールのように、男の体が跳ね起きる。男が飛びかかろうとしたその瞬間に、クルーウェルは指示棒を振り切っていた。
魔法が発動し、宙を舞った小瓶が割れる。魔法薬は瞬く間に形を変え、一つの細長い水流になったかと思いきや、あっという間に男の顔を覆いつくした。
「飲まないからな、飲ませるしかない」
クルーウェルは飄々と嘯いた。
たとえどんなに飲みたくなくとも、たとえ服用者が意識を失っていようとも、ヒトという生き物は、息を止められれば生理的に酸素を求めて嚥下を繰り返すのだ。
「───!!」
膝から崩れ落ち、床をのたうち回る男を見、満足そうにしているクルーウェルを見、これがいざという時のやり方かと、レオナは素直に「うわあ
……
」とドン引いた。
男の絶叫はくぐもって、外には響かない。藻掻き苦しんでいた男の喉は、やがてごくりと一度、上下に頷いた。かと思えば、顔を覆っていた魔法薬がするりと吸い込まれるようにして、口から体内に消えて行く。
「ッハァ!! ゼェ、ハァ
……
ッ、
……
ッ!!」
窒息の苦しみから解放されてきっかり二呼吸後、男はびしりと音を立てて固まった。ぐりん、と白目が上を向く。
ばたん、
「
……
」
それから男はぴくりとも動かなくなった。規則正しい呼吸が微かに聞こえてくる。
クルーウェルは、嬉しそうに笑みを深めた。
「うむ、さすが俺。完璧だな」
「
…………
」
コイツやべえな、とレオナは心底からそう思った。
それから余り時を置かず、警察の人間が学園長に連れられて男を受け取りにやって来た。男は手錠を嵌められ、大きな絨毯のようなもので簀巻きにされた後、ガタイの良い大男に俵のように担がれて学園を後にした。
「被害者の方は、今どちらに? できればお話を伺いたいのですが
……
」
「えぇ、それが少しばかり体調を崩しておりましてね、任意同行は拒否させて頂ければと」
クロウリーがさも彼女の代弁者ですと言わんばかりに哀れっぽい声を出した。レオナはこめかみが引きつらないようにするのに必死になった。
警察の人間は、少々面倒そうなのを誤魔化すように、顰め面しい顔をして見せた。
「まぁ、最近はセカンドハラスメントだのなんだの、いろいろありますからな」
「ご心労、お察しいたしますよ。ですがまぁ、こちらで多少、ご考慮いただければ」
クロウリーに促されて、クルーウェルが一歩前に進み出る。彼が懐から取り出したのは、これまでリンに宛てられた執拗で気持ちの悪い付箋やメモの数々が収められたジップロックもどきだった。
「なるほど」警察の人間は素早くそれを受け取った。「逮捕に際して、被害者の方からなにかありますかな。示談とか、そういう話は」
「彼女は一言、『適切な処罰を』と」
「ふむ。裁判官に伝えて頂けるよう、頼んでおきましょう。では、今後の通知は学園にお届け致します」
その言葉を最後に、警察は学園から去って行った。
「いやあまったく、災難でしたねえ。キングスカラーくんも立ち合いご苦労、もう戻ってもらって構いませんよ」
「
……
フン」
レオナはさっさと身を翻した。長い尻尾が、不機嫌そうにひょんと揺れた。
その日の午後、リンはすっかり寝こけていた。
談話室いっぱいに降り注ぐ西日で日向ぼっこをしながらうつらうつらしていたら、あっという間に夕飯の時刻になっていたのだ。サムのミステリーショップから買い物を済ませて来たユウと、それに着いて来たらしいレオナに起こされて、リンは自分でも呆れかえってしまった。
「まったく、呑気なもんだ」
「うぐ、」
「リンさんにだって一日ぐっすり眠りたいときぐらいありますよ!」
事情を知らないユウが元気に反論してくれる。グリムも「そうだそうだ」とぴょんぴょこ飛び跳ねた。
今日のリンさんは全部お休みデーです、と朝一番に宣言した通り、ユウはまめまめしく働いたし、グリムもなんだかんだ言いながらユウを手伝った。モストロ・ラウンジと日頃の努力の成果で、ユウの料理の手際は格段に良くなっていて、リンは「娘の成長を見守る母親ってこんな気持ちなのかな」と切ないような、ほっこりするような気分を味わっていた。
「お待ちどうさまでした! 今日は、鳥と野菜の甘辛煮と、ごはんと、わかめのお吸い物と、小鉢二品です!」
ラギーは一緒ではないのかだの、マジフトの調子はどうだだの、チェカから手紙は来たかだの、他愛もない話をしていたら、時間はあっという間に過ぎ去った。
「わーい!! いただきまーす!!」
「どうぞ、召し上がってください
……
!!」
どこか緊張した面持ちのユウに、リンは「匂いが最高に美味しいから大丈夫だよお」とからから笑って見せた。そっと箸を持ち上げて、不自然に脈打つ心臓と詰まる息を無視して黙殺する。
───案外、ダメージ受けてんな。
畜生、と頭のどこかで冷静な声がする。
道理で昨晩、今朝、昼と食欲が湧かなかったはずだ。けれども空腹は限界を迎えそうだし、ユウの食事で倒れることなど、万が一にも有り得ない。
「じゃあまずおかずから
……
」
一口大に切られた野菜と、美味しそうな甘辛い香りを漂わせる肉を摘まむ。
直後、横からぬっと褐色の腕が伸びてきて、リンは思わずびくりと肩を強張らせた。
問答無用、と言わんばかりにがしりとリンの手を掴んだレオナは、あが、と大口を開けた。
「え、」
そしてそのまま、呆気に取られているユウとリン、そしてグリムを他所に、摘まんだおかずを箸ごとぱくりと頬張った。
「
……
えっ」
「っこ、こここ、コラーーーッ!!!!! 何してくれてんですか一口目ですよ!! リンさんの!! 一口目!!」
「だからだろうが」
レオナは口に物を入れたまま器用に喋った。呆然としているリンには目もくれず、もしゃもしゃと咀嚼し、「まあまあだな」とまで偉そうに言ってのける始末だ。
「そりゃあ殿下は生まれながらに美味しいものたくさん食べていらっしゃるでしょうから庶民の味はまあまあかもしれませんけどねえ!!」
「褒めてやってんだから有難く受け取れ」
「『まあまあ』のどこが誉め言葉ですかどこが!!」
バンバンバンとユウが勢いよく机を叩いて抗議する。あーあーうるせえ、とレオナは自分も器用に箸を操ってばくばくと白米をかき込んだ。
「
……
ぼんやりしてねえで食えよ、冷めるだろ」
「お箸私のと変えますか!?」
「えっ、あっ、いや、うん、いや、だいじょぶだいじょぶ」
リンは弾かれたようにして、慌てて手を振った。そうですか、とユウは少しだけ憮然とした表情でお吸い物に箸をつけた。
「
…………
」
改めて、おかずに箸をつける。リンはちょっとだけそれを見つめた。
もう、心臓は不自然に脈打たなかったし、息が詰まることも無い。
「
……
」
ぱく、と野菜と鶏肉を口に入れる。野菜の瑞々しさと、ちょうどいい塩梅の甘辛さが合わさって、とても美味しい。ちょうど良い食感で、鳥肉もまったくぱさぱさしていなかった。
「
……
すっごく美味しい」
「えっ」
「はちゃめちゃに美味しい」
「あっ、良かったです」
「涙出てきそう」
「えっ、あっ、えっ」
「お代わりするわ」
「あっ、は、はい!!」
ユウが心底嬉しそうに破顔する。リンは一度満面の笑みを見せると、あとは只管、美味しいご飯を食べることに集中した。
───ごはん、美味しくて、良かった。
リンは心底からほっとした。鼻の奥がツンとして、ともすれば本当に泣いてしまいそうだった。
結局、リンは白米を二杯お代わりしたし、レオナとグリムはユウが「明日のお昼ごはん用に」と多めに作っていたおかずもぺろりと平らげてしまった。途中までは、なんとリンも参戦していた。それがユウにとっては悲鳴を上げてしまうほど嬉しかった。
ユウがるんるんで皿洗いに精を出している間に、レオナはさっさとオンボロ寮を後にしようとした。いつもはゴースト達が見送るが、今日は珍しくリンが玄関先までレオナを見送った。
「今日、ありがとね」
「なんのことだ?」
すっとぼけるレオナに、リンは相好を崩した。
「ごはん。一口目、わざと私のお箸で食べてくれたんでしょ」
「
……
」
「まさかわざわざ毒見役をしに来たの?」
レオナは面倒そうに嘆息した。
「草食動物が、お前に食欲が無いのを気にしててうざったかったから来てやっただけだ」
リンの性分からしてユウには絶対に伝えないだろうし、事情を説明したらしたでまた面倒なことになりそうな気配を察したレオナは、毒見の真似事をしてやる方を選んだのだ。
「フォークに仕込まれてたって、クルーウェル先生から聞いたの?」
「
……
まぁな」
「そう。
……
情けねえな、助けられっぱなしで」
ぽつりとリンが零したそれを、レオナは耳ざとく拾った。
「
……
」
何となく聞かなかったことにしたくなくて、「それぐらいでいいだろ、別に」と投げやりに答える。
「ん?」
ぱっと顔を上げたリンが、何度か不思議そうに瞬いた。
───ったく、どいつも、こいつも。
レオナはがしがしと頭を掻いた。
───どうしてこう、一人で大抵のことを済ませちまう奴は、周りを利用しようとしねえのか。
誰ぞの手を借りてなるものかと、プライドが邪魔をしているわけでもなかろうに。レオナは「もっと上手くアイツらを使ってやれよ」と嘆息交じりに言ってのけた。
「
……
ユウとグリム?」
「他に誰がいんだ」
───それとも「なにをほざきやがるか」と牙を剥いてくるだろうか。
それはそれで面白い、とレオナがちらりとリンの方へと視線をやると、予想外にも、彼女はほろ苦く微笑んでいた。
「
……
まったくもって、そうだねえ
……
」
「───」
その声音が。あんまりにも、柔らかで。
ここではない、どこか遠くを見つめて、ユウやグリムを想う瞳が、どこまでも優しかったから。
レオナは咄嗟に、言葉を失った。
「ま、お前達がもう少し気兼ねなく頼れるようになったらかな」
「、
……
」
ころりと悪戯っぽく言うリンに、レオナは小さく息を詰まらせて、何度か目を瞬かせた。
「
……
他はともかく、俺が頼りないって言いてえのか」
そうして、ようやく憎まれ口を絞り出す。そんなことないよとリンはころころ笑った。
「明日の昼をご一緒して頂きたいくらいには、頼りがいがあるかな」
「言うじゃねえか。好きにしな。飯はお前が持ってこい」
レオナの言い草に、リンはたまらず肩を震わせて吹き出したが、すぐに「はいはい」と笑顔を見せた。
「じゃあ、明日、昼に植物園に行くから」
「あぁ。
……
」
踵を返そうとして、けれどもレオナは動きを止めた。扉を閉めようと腕を伸ばしていたリンも瞬いて、小首を傾げる。
レオナは、リンを真正面から見つめた。それを受けたリンの瞳が丸くなる。
「
……
おやすみ」
「
…………
あっ、うん。
……
お、おやすみ
……
」
「
……
」
どこか戸惑って、狼狽えるリンが物珍しくて、レオナは、ふ、と表情を綻ばせた。
「───」
今度こそ踵を返し、鏡舎へ向かってさっさと進む。その背中を、扉が閉まるときの軋みと、鍵のかかる音が追いかける。
それを聞いて、レオナは我知らず、肩の力を抜いて嘆息した。
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