2025-01-24 19:21:14
12568文字
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特別なきみの大事な一日

Re:valeの千さん、お誕生日おめでとうございます。
貴方にとっての普通の日のお話を書きました。

ブラホワを目前に、突然、千が新曲をボツにする。歌いこなせなかった責任を感じてしまう百。
でも、本当の理由は。

時間軸はふんわりとデビュー二年目~三年目くらい。から、現在へ。
糖度はほぼゼロですが、つきあってない→つきあってるユキモモのつもりです。

※過呼吸の描写が有ります。ご注意ください。
※2024年誕生日企画「16 PRODUCERS」を下敷きにしています。
※歌唱関連の説明・描写はすべて捏造です。公式設定や声優さんに依拠するものではありません。

話に直接の繋がりはありませんが、対となっている百誕はこちら。
https://privatter.me/page/673b2edd859a4

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「It's ALL-for you-」の歌詞

千「大事に思うから」
百「特別だって思うから」

が大好きです。

無人島や新ブラホワを経て、大事で特別に思うことも、特別で大事に思うことも、
ふたりにとっては当たり前な普通の日々になっていたらいいな、という気持ちで書きました。

 

 喉の奥で、ぴんと張った糸を指先でそっと震わせたような、か細い音が鳴る。
 慌てて口を塞ぎ、わざとらしく咳ばらいをした。その間も、オレの歌は流れ続けている。カーオーディオが鳴らす自分の歌声にあわせて、自然と喉の奥が震え、動いてしまったのだった。

 ボーカルレッスンって、筋トレみたいだ。最初の頃に抱いた感想を、ずっと変わらず持ち続けている。日々の修練が力となり、実を結び、いつか自然に身体が動くようになる。
 喉頭筋肉の鍛錬、頭声の開発。短いスケールの発声練習を辛抱強く積み重ね、時間と努力をかけたからこそ出せる歌声。
 それを存分に発揮して歌う曲を貰えたことが本当に嬉しくて、誇らしくて、ことあるごとに口ずさんでしまう。高負荷なことにかわりはないのだからと、ユキには控えるように再三注意されているんだけど、無意識に出てしまうのは、しょうがないと思う。
 聴こえたかな。聴こえただろうな。
 後部座席に並んで座るユキをそろりと横目で窺う――までもなく、ユキはオレに顔を向け、穏やかに笑っていた。優しく柔らかな表情に束の間見惚れる。オレに、オレだけに向けられる笑み。こればっかりは何年経っても慣れやしない。
「こら、モモ。喉は温存」
「ごめん、ついうっかり……っていうか、ユキがいけないんだよ。こんな最高の曲を作ってくれたから!」
 照れかくしにふざけて、恨みがましい上目遣いで言う。ユキは、そうね、と笑いを含んだ声で言って、荷物を探り、なにか取り出した。
「これ舐めて、喉と機嫌なおして」
 雑に袋ごと差し出されたのは、黒いシックなパッケージに金色で刷られたみつばちのマーク。ユキ御用達のマヌカハニードロップだ。
 ひと粒取り出してビニールの個包装を開け、口に入れる。八重歯に当たって、あの日と同じ、かろかろんとかわいい音がした。
「おかりんも食べる? プロポリス入りだよ」
 運転席のおかりんに声をかける。自分は結構です、という答えを聞いて、ユキに袋を戻した。
 社用車の送迎で、岡崎事務所へと向かっている。今日の仕事は、デモ音源の確認からだ。正確には、オレが作ったデモを、ユキに聴いてもらう。それでユキの意見を踏まえて打ち合わせをした後、軽く一緒に声を出す予定になっている。
「モモだって最高の曲を作ってくれたんでしょう。事前情報は一切なしで、わざわざ事務所のスタジオでお披露目をするなんて、すごい気合いだよね。楽しみだな」
「うう、もちろん気合いはめちゃくちゃ入ってるけど、あんまりハードル上げないで……!」
 四つのグループに持ち込まれた、アイドル自身が同じグループのメンバーの新曲をプロデュースする、一年がかりの企画。十六人のフィナーレは、ユキが飾る。
 ふたりだけのRe:valeは、当然オレの曲はユキがプロデュースしてくれて、ユキの曲はオレがプロデュースした、のだけれど。

 なんと、オレとユキは、偶然にも作詞と作曲&編曲をそれぞれ同じ人物に依頼してしまっていた。
 そのことを、ユキだけはまだ知らずにいる。

 偶然とは言うものの、Re:valeと何度か仕事を共にし、ユキとオレが信頼していて、無茶な要望にも応えてくれる気の置けないクリエイターってことで、指名がかぶるのは必然だったのかもしれない。
 彼らはこのダブル指名を面白がり快く引き受けてくれたのみならず、洒落た仕込みも提案してくれて、対というか、ちょうどオレとユキみたいな――相方同士みたいな、ふたつの曲が誕生することとなったのだった。
 そして、おかりんだ。オレのプロデュース案を見て何か考え込んでいたかと思うと、次の日には依頼先のクリエイターたちに密着企画の立案をし、さくっとメイキング映像の制作を組み込んでしまった。それを、ネクリバでもバクマジでもなく、ニュース番組のドキュメンタリーコーナーに提供するという。
 二曲を同時進行するコンポーザーのプロフェッショナルな仕事ぶりを描くショートドキュメンタリーになるとのことで、オレたちの負担は少なく、しかし確実にイメージアップが見込まれる極上の案件だ。

 そんなわけで、実は、今日のスタジオには隠しカメラが入っている。ドキュメンタリーのハイライトとして、同じ作り手とは知らされぬままに聴いたユキの素の反応を得るために。
 ユキのことだから、デモ音源を聴いたら一発で依頼相手が分かるだろうし、さりげなく同じフレーズが使われた箇所にもすぐに気づいてくれるだろう。
 そして、ひとしきり面白がったあとは、クリエイターたちが、おかりんが、オレが、この曲に詰め込んだたくさんの想いを、花束みたいに受け取って歌ってくれる。
 音楽を愛するユキが、ユキへの愛で作られた音楽を受け取る。
 その瞬間を、オレはこれから、ユキの隣という特等席で見ることが出来るのだ。きっと、とても幸せで、大切な日になる。

 秘密と期待を乗せて、車は静かに走っていく。
 通りに掲げられた少し気の早い赤と緑のフラッグを眺めながら、ふと、プレゼント交換みたいだなと思った。ユキがプロデュースしたオレの曲と、オレがプロデュースしたユキの曲。いちばん大切なひとに、いちばん大切なものを贈りあう。けれどこれは、誰も何も失わない賢者の贈り物。
 隣のユキがオレの顔を覗き込み、ふふっと笑った。
「モモ、すごく楽しそうな顔してる」
「そりゃそうだよ。今日は本当に楽しみにしていたもん。ユキの歌う新曲が聴ける日なんだから!」
「モモの歌う新曲でもあるよ。プロデュース曲、一緒に歌ってくれるんでしょう?」
「え? ああ、そっか……そうだ、ね」
 この企画において、プロデュースを担当したアイドルは、プロデュースされるアイドルと一緒にボーカルで参加することになっている。
 オレをプロデュースしたユキも歌ってくれたし、もちろん今回のオレも一緒に歌う。あらかじめ定められたお約束ごとなのに。
「楽しみだな。モモと一緒に歌うの」
 ユキがあまりにも、宝物みたいに言って、目を細めてくれるから。なんだかめちゃくちゃ照れくさくて、それと同じくらい、幸せな気持ちになってしまう。
 オレは歌ってきた。ユキと一緒に、ずっと長く、一日ずつを大事に。
 オレは歌う。何年後も、何十年後も。

 そのうちの一日が今日だ。

 嬉しくて、楽しくて、照れくさくて。頬が緩むのを抑えきれない。
 だって、十二月だ。とてもとても特別なひとの、とてもとても大事な日がやってくる。少しくらい浮かれたって仕方がないと思う。

 いつかのオレは、ユキに全部、あげたかった。心も身体も、歌も声も、すべてを捧げようとしていた。
 ほんと、可笑しいよね。気がついていなかったんだ。

 歌えない日もあった。
 声も出ない日もあった。
 けれどいま、歌っている。当たり前のように、ふたりで一緒に。隣で歌う一日一日を降り積もらせていく。

 それが、大事なことなんだって。




〈Fin〉