【マタモア】優しい子【マウモア】

モア海2の世界観で半神半人蝙蝠姐さんが無垢な勇者にいいところを見せる話~嫉妬半神半人英雄を添えて~
映画ネタバレ独自解釈捏造要素有。

 未だマタンギが気掛かりな本心を一度振り返るだけに留め、痛みを伴うくらい力強く手を引くマウイの顔を窺いモアナは彼の名前を呼んだ。
 「マウイ?」
 か細い声への返事はない。前方を目くじら立て見据え続け唇を固く結び会話を拒んでいる。角度の問題でマウイの胸にいるミニ・マウイが一体どんな表情をしているのかカンニングも出来ない。
 不意に大きさが違い過ぎるマウイの手が握り締める力が強まった。モアナの口から痛みに耐える小さな声が漏れ、ようやくマウイの握り締めていた手の力が緩まるもその手は決してモアナを離さない。
 二人共無言でどれくらい歩いたか。幾枚も重なった夜の帳を潜り抜けるにつれ、不明慮で曖昧だった世界が夜明けへと近付いていく。
 しかし、視覚では把握しきれない帳を腕とオールで押し退けるモアナを余程逃がしたくないらしい。顔や体に蜘蛛の巣に酷似した何かが纏わり絡みついて動きを鈍くする。不快感で唸りオールをマウイに当たらぬよう振り回すモアナの正面を青い稲光が走った。刹那、嘘のように動きにくかった体が元に戻ったのでモアナが隣にいるマウイに礼を述べかけ──。
 「わっ!?」
 「………
 手を引いていたマウイの手が自分の体を掬い上げ抱きかかえたので言いそびれてしまった。
 片手で楽々抱きかかえる安定感は流石と言うべきか。何をしてもこの人は絶対に私を落としたりなんかしない、まるで親の腕の中でぐわんぐわん暴れ回る癇癪を起こした子供のように端から落ちる心配自体をしない絶対的な信頼がモアナの中に芽生える。
 普段よりもずっと近いマウイの表情はムスっと不機嫌そうなまま。不躾なのを承知の上で深く刻まれた眉間の皺を伸ばして凝り固まりそうな頬をむにむに解せば「落とすぞ巻き毛ちゃん」とやっとマウイが口を開いた。
 半分瞼裏に隠す呆れ返った目に宿る和らいだ色。冗談を交えても反応してくれる気配にモアナの強張っていた肩から力が抜けた。張り詰めていた嫌な緊張感が薄まってモアナが微笑めばマウイもまた微笑み返した。
 「(あれねむい……)」
 その顔を見て安心したのか重くなってくる瞼を擦るモアナの耳元で父よりも優しく甘い囁き声が注がれる。
 「眠っていい」
 「でも……
 寝愚図るモアナを一層自分に凭れ掛るよう抱え直したマウイが彼女の豊かで艶のある髪に鼻先を埋めそっとかき混ぜた。愛おしいものを愛でる仕草のあたたかさに誘われ、下りてくる瞼の重さを甘んじて受け入れたモアナは自らマウイの首元に顔を寄せ今度こそ夢の中へ旅立った。