気持ちよくしていた高鼾が不意に途切れ、大の字に投げていた四肢をググっと曲げた。半身を起こし欠伸をひとつ噛み殺して寝ぼけまなこで周囲を見渡す。
「いつの間に寝ちまってたんだ…?」
欠伸ひとつじゃ足らずもうひとつすれば生理的現象で目尻に涙が溜まる。それを掌に対して短く太い指先で拭いつつ、逆の手で後頭部をガシガシ掻き。
「・・・Ah~」
心底気持ちよさそうに隣で寝入っているモアナを視界に収めたマウイが呻き声を上げた。嗚呼、思い出した思い出したとも。神の悪趣味な戯れで暫しの間、子供に戻ってしまいあろうことかモアナに甘えてしまったのを思い出してしまったとも。あまりにも居た堪れなくて顔を手で拭い頭を振う。
しかし、寝て起きて元に戻る仕様で助かった。隣に置かれていた元に戻っている釣り針を撫で、その手でホッと胸をなでおろすミニ・マウイをとんとん擦り、やにわマウイの方を見る形で横向きで寝入っているモアナを見下ろした。
上下に動く体に合わせ豊かな髪が肩の上をすべり頬に掛かり食べてしまいそうになるのを指先で払った流れで、その髪の一房を大切な宝物のように撫で掌に乗せ緩く包み込む。太陽と海、仄かな花の香りに似た香りを纏う髪を静かに耳に掛け、難なく覆ってしまう大きな掌でモアナの頭を撫でれば彼女の顔が嬉しそうに笑った。
「…モアナ……」
神妙な面持ちで呟いたマウイの視線は、敷布の上に置かれている自分の手を上に重なっているモアナの手を見下ろし、そっと手を反転させその女性らしい手を握れば無意識か反射的か大きさの違い過ぎる手が何てことのないように握り返した。刹那、海風が濃密な緑の空気を乗せ日よけのタパを靡かせた。
なめらかな皮膚を撫でていく快い風が収まる頃、起こさぬよう静かに手を解き敷布にモアナの手を下ろせば、触れていた感触を探してぱたぱた動いていた彼女の手がマウイの手を見付けるなり太い人差し指を握りふにゃり顔を緩めた。
寝ながらに相好を崩すモアナの手を振り解くのは至極簡単だ。だが、庇護欲に近くされど遠い胸に灯った熱をマウイはモアナが起きるまで振り解くことは出来なかった。
大概自分自身も責任感が強い方だが、陽気に振舞いつつも半神としての矜持や責任感からモトゥヌイに住まう人たちの前では気を緩めないマウイにモアナは尊敬の念を抱き。
「良かったらココナッツジュースはいかが?」
横に伸びたヤシの木に腰掛けている彼の後ろからココナッツをにゅっと差し出した瞬間、一緒に航海していた時のような砕けたリアクションを取ってくれるマウイが嬉しかった。上手く言えないが等身大の彼と接している時間は居心地が良くて自然体でいられる。全部が全部忘れたいわけでも疎ましいわけでもない。
ただちょっとだけ緊張した糸を緩めたい、そんな時がある。
「神様業も程々にってな」
「それ自分で言っちゃう?」
青白い閃光に包まれるや否や一匹のトカゲがモアナの揃えられた膝の上に我が物顔でのっしと乗っかり目を閉じた。人間の皮膚とは違う鱗に覆われた体と自慢のトサカを撫でるモアナの手は慈しみに満ち、潮騒に耳を澄ませ膝の上でトカゲにしては賑やかな寝息に微笑みを深め、マウイが起きるまでの間ずっと撫で続けたのだった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.