【マウモア】永遠に待ち焦がれていた

モアナと伝説の海2の世界観で完全に吹っ切れた半神半人英雄に翻弄されてしまう無垢の勇者の話。映画ネタバレ要素独自解釈有。
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 「(嗚呼、可愛いな)」

 懸命にこの状況を脱したくて逃げ腰になっているモアナのなめらかな大地色の肌が仄かに赤らんでいるのに愛おしさが募り腕の檻をマウイはそっと狭めた。
 神々の知り合いはそこそこいれど、共に歩み傍に寄り添いたいと心から思う相手に出会えた喜びにひたすら頬を心地よく撫でる海風のように優しく包み込む。途端、悠久の時の中で消えることなぞ半ば諦めていた寂寞の虚が陸と海の香りで埋まっていく多幸感が吐息となって薄く開いていた口から漏れた。
 マウイ自身思っていた以上に長年張り詰めていた緊張が解けていく感覚がモアナにも伝わったらしい。あれだけ身を捩って逞しい大胸筋を押していた手の力を緩め太い首に腕を回して抱き締め、戯れるさざ波程度の説得力の無かった言い訳を紡いでいた唇が彼にしか聞こえない声量で「マウイ」と微かに同じ熱を乗せ囁いた。
 数多くの人間たちに称賛され呼ばれた名前が一人の娘に呼ばれるだけで半神の心と魂は癒された。この同じ時を歩むようになった温もりを手放したくない、無垢で勇ましく他者に寄り添う彼女から離れ難い気持ちが募りに募る。
 腕の力を緩めれば、不安と戸惑いで揺れ動いていたモアナの瞳が不安と戸惑いの中に僅かな期待の色が増えていた。嫋やかに波打つ髪のカーテンとまろい頬の間に指を差し込む。モアナの手首と変わらない太いマウイの指先が火照る熱を擦って掌の窪みに小さな顔を捉えた。
 一瞬その手のいい雰囲気や好意に疎いのかと思ったが杞憂だったようだ。ただミニ・マウイをふわり撫でその分厚い胸に手を添え顎をクイっと上げて固く目を瞑った挙句、唇を尖らせている初々しさが逆にマウイの心を擽る。
 色気云々の問題ではない。まあ、ある意味そうかもしれないが、これだけませた子供はたまた成熟した大人たちとは対極の反応を示すモアナに穢れなき純潔を確信した。
 「(最後の箍が外れちまった)」
 まだ、まだモアナが人間であり続ければ秘めた想いを太陽の下にさらけ出すことは無かった。自分は半神、相手は人間。明確で超えられない壁、唯一踏み止まれていたラインを易々未だ小さく震えている細腕に刻まれたタトゥーの存在が蹴散らしていく。
 やにわ千年の間に勘が鈍り碌に釣り針を扱えずに打ちひしがれふさぎ込み荒んでいた時、マウイが自身の口で言ったことが脳内に犇きあう。

──半神半人になった時、自然に体にあらわれた

 近くて遠い空と海の如く互いの道は決して交わらない。一抹の寂しさと諦め、新たな航海の達人が誕生した祝福を糧にモアナたちの行く末を見守れればいい。そうミニ・マウイに何度も呟き自分自身を納得させていた。
 だが、皮肉にもモアナと別れた日を境に彼女への想いが感情が色濃く強さを増すばかり。半神半人の生を受け過ごした幾星霜に比べれば瞬きの間にも満たない日々が掛け替えのないものになっていた。耳触りの良い自分の偉業を称賛する大衆の声よりも、再び英雄に戻してくれた齢二十歳にも満たない無垢な勇者の声を夢に見る。
 瞼を閉じれば蘇る無邪気な笑顔と凛々しい顔付き。危険な場所を勇気と知恵を持って立ち向かい乗り越える鮮烈な輝きに目を眇め、屈託のない自分の名前を呼ぶ声に応える寸前マウイは目を覚ました。これで何度目かなどと野暮な事は言わない。
 そして、口に出したら最後、ただでさえ弱まっている自制心がいよいよ利かなくなる。
 せめて、モアナのためにこの広い海を航海出来るように。それが神として人間の彼女に寄り添える唯一の方法、と。ナロの呪いを解くべく単身乗り込んだのが実に懐かしい。



 暫しマウイが物思いに耽っているうちに「何も、ない?」と恐る恐る片目を開け様子を窺うモアナを流れるような動きで抱かかえ、滝を眺める形で砂浜の上にあぐらを掻きその中にきょとんとしている彼女を収めた。
 「期待しているとこ悪いが、それは来たるべき時までお預けだ」
 「私に魅力がないから?」
 「おいおいおい。いつになく弱気じゃないか。逆だ逆。大事にしたい、させてくれモアナ」
 「──大事にしたいって具体的にどうするの」
 訝しげな視線を投げかけるモアナにマウイが虚空を見遣った後、彼にしては照れ臭そうにされど茶目っ気たっぷりに太い指先で自身の頬を掻いた。
 「まずはお前の両親に挨拶してからだな」
 「挨拶? あなたのことはとっくにお父さんとお母さん、それに島の皆にだって──!!」
 目が眩むほどの黄昏を放った太陽が沈み、今度は夜の帳が青白い星明りを引き連れ薄い闇を奥へ追いやった。
 が、一拍置いてマウイが言わんとしている事を理解して息を飲んだモアナの紅潮した熱は連れ去ってはくれなかった。



 後日、神でありながら夫として結婚の許しを貰うべく畏まった態度で両親に接するマウイを目の当たりにして大いに混乱するのと同時に存外喜びで胸が弾んでいる自分自身にモアナは俯きはにかみ──、急ピッチで建築を進めている新居を見上げ引き攣った笑みを浮かべた。
 「こりゃ責任重大だな」
 「……言わないで」
 真新しい家、そこに住む新婚夫婦。つまり、そういう事であるのをモアナは顔を両手で覆う事で誤魔化したかった。無理だった。しまいにはその場でしゃがみ込み呻き声を上げる新半神半人の嫁に合わせ先輩半神半人の夫もしゃがみ込み肩に手を添えた。
 「明日の盛大な宴が楽しみだ。美味しいブタ肉もあるんだろ?」
 わざと揶揄うように言うマウイにモアナはそれはもうか細い声で「それ、プアの前で言わないであげて」と言ったのだった。











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