紫輝
2024-01-15 22:05:03
4078文字
Public 水龍様と御伴侶の話
 

【リオヌヴィ】#01 お二人揃えば大抵の事は解決する【原神】

もう何を恐れることも隠すこともないのでナチュラルにいちゃつく、現代から1000年後くらいの世界で健やかに国家元首とその伴侶やってるリオヌヴィの話です



 この国は水龍に守護されし国だ。約千年程前、先代の守護者である水神様からそのお役を引き継いで以来、水龍様はこの国を導いて下さっている。御名おんなをヌヴィレット様。我々『人』と同じ姿で我々に寄り添って下さる、たっときお方である。
 水龍様には御伴侶がいる。この国が沈みかけた『予言の日』を、共に乗り越えた人だという。この国の秩序と工業の根幹である『メロピデ要塞』を今に繋がる形に整えた、当時の管理者。千年前よりその爵位を賜った人間はおらず、この先も現れないだろうと囁かれる『公爵』位を持つ方。水龍様と愛を交わしその生に寄り添う方の名はリオセスリ様。今日こんにちまでのこの国の平穏は、ひとえにお二方のご尽力によるものである。

***

 パレ・メルモニア。四階の、とある執務室である。
 「なるほど」と呟いて以来黙り込んでしまった美貌を直視しないよう、自分は縮こまっていた。眼前に佇む美貌の持ち主たる方はこの国を守護する水龍様だ。何故佇んでいるのかと問われれば、もうすぐ昼にさしかかろうという時間だからである。水龍様――ヌヴィレット様は、昼が近づくと午前の業務を切り上げる。御伴侶たる公爵様が――彼の方は自分の名は呼びにくかろうと、爵位で呼ぶように皆に求めている――昼食の誘いにいらっしゃるからだ。ここでカップを傾けるのと、連れだって市街へ降りられるのと、割合は半々くらいといったところだろうか。公爵様が多忙でいらっしゃらなかった日の午後のヌヴィレット様は少しばかり精彩を欠くらしいが、正直自分を始めとした職員では判別不可能だった。ヌヴィレット様はたいへん有能な御方なのである。時計を見つめて溜め息をつく愁い顔をうっかり目にしてしまった職員の心拍数が危険域まで上がった、なんて事件はあったりするけれども。
 さて。彼の方を悩ませているたったひと束、たかが数枚の書類をじとりと睨みつつ、やはり午後に回すべきだったか、という気持ちと、こんな大事件報告せずにいられるか、という気持ちが、進行形でない交ぜになっている。報連相は迅速に、がパレ・メルモニアの鉄則だが、このままでは――
「ご機嫌よう、ヌヴィレットさん」
 コンコン、と鳴った扉が、一呼吸の後に開かれる。同時に響いた低音はパレ・メルモニアの職員ならば一度は耳にしたことのある公爵様の声だ。やはり昼食時に被ってしまった。申し訳ない。
「リオセスリ殿」
 書類から顔を上げたヌヴィレット様の、ふわ、とほころぶ表情は言葉通り花の咲くようなそれで、同僚達が寿命が延びるだの目が潰れるだの言う気持ちがわかる。ちなみにこれ・・は相手が公爵様の時限定らしい。睦まじくて何よりである。
 ヌヴィレット様と、その手の書類と、自分を順繰りに見た公爵様が、書類を指さして首を傾げる。
「拝見しても?」
「君の目に入ってはいけない書類はこの国にはない」
「じゃあ遠慮なく」
 スタスタと入ってきた公爵様が当然のように立ち止まったのはヌヴィレット様の半身 はんみほど後ろで、こちらもまた当然とばかりにそれを待っていたヌヴィレット様が心持ち上向けたかんばせに公爵様が唇を落とす。まるで映影のような粋なやり取り――というか、映影でこれが一般化したのもこの方々の影響らしいと聞いたことがある。確かにこんなのスクリーンの向こう側以外じゃこの方々くらいにしか許されないよな、などと小粋に過ぎるキスシーンをぼんやりと見つめてしまっているうちに、お二人はすっかり仕事の顔である。あまりにも格好良すぎる。心中で顔を覆って、居住まいを正した。
「映影祭の警備計画か。ほぼ細部まで詰まってなかったかい?」
「そのはずだったのだが問題が発生した」
 ヌヴィレット様の持つ書類を、公爵様がその肩越しに覗き込む。噂の『距離感バグ』だ。お隣でもよろしいのでは?などと進言できるような職員はここにはいないし、するつもりの職員もいない。この方々が睦まじくあられる限りフォンテーヌは安泰なのだ。逆に以前執務机を挟んで会話されているのを目にした職員が何かあったのかと心配して受付係のセドナさんに取りなされた、なんて話を聞いたことがあるくらいだ(ちなみに「単なる偶然」だったらしい。いつでもあの距離という訳ではないんですよと彼女は言うが、それにしては目撃情報が多すぎると思う)。
「問題?」
 なんて少しばかり遠くへ馳せていた意識は、公爵様の氷色の視線で慌てて戻ってくる。発言を促されているのだと理解して、緊張で縺れそうになる言葉を叱咤しながら口を開いた。
「はい。今回の映影祭には璃月より七星のうち数名、稲妻より社奉行様が視察に来られるという話はご存じかと思いますが」
「ああ」
「日程が被りました」
……どっちの予定変更だ?」
「璃月です。スネージナヤとの会談の予定がずれ込んだとかで」
「あー……
 すう、と細めた瞳をそのまま閉じた公爵様が、額に手をやって溜め息をつく。その隣で同じ報告に溜め息こそつかなかったものの微かに眉を寄せていたヌヴィレット様が仕方ないとばかりに頷いて。
「スネージナヤは季節外れの寒波と聞く。その対応もあるのだろう」
「だったらまた来年どうぞとも言えないか」
「うむ。ゆえに困っている」
「二カ国分の要人警護は想定してなかったもんな」
 その指で書類をなぞり何やら思考していた公爵様が、やがて小さくうん、と呟く。
「俺のところから何人か出そう。場外警備を替わればここの特巡隊を警護に回せるだろ?」
「君のところからならそのまま警護につけるので問題ないのでは?」
 ここからこう、と、公爵様の指が紙の上を滑るのに、ヌヴィレット様が首を傾げる。確かにその通りだ。公爵様は今現在直接国政には関わっておられないが、ご自身で警備会社を経営されている。メロピデ要塞での更生を終えたものの行き場のない者たちを受け入れることもしているらしいその会社に籍を置く者たちは特巡隊にも引けを取らない能力の持ち主揃いと聞いていた。であればわざわざ配置を変える必要はない気がする。
「動かせるのが全員強面なんだよな。華々しい会場で他国からのお客人につけるのはちょっと」
「ふふ、ではそのように」
 ご自身の疑問に公爵様が頬を掻いてそう答えるのに、ヌヴィレット様は小さく笑う。そうして机上のペンとボード(『距離感バグ』のまま書類が処理される時のためにいつの間にか用意されたらしい。気が利くなと公爵様は笑っていたそうだ)を手に取り、公爵様へと手渡した。その手が澱みなく動き、何事かを書類へ書き込む。これでどうだいと傾ぐ首に、異論はないと返る首肯。ただの相談が恐ろしく絵になるお二人である。
「それじゃあ君」
「はい!」
 公爵様が目を上げる。
「これを君の上司の所へ。特巡隊への伝達も必要になるからなんて言わなくてもわかってるか。ここの職員は優秀だものな」
 差し出された書類を受け取り、任せるよ、という言葉に承知しましたと頷く。
「定刻を過ぎている。それを提出したら君も休憩に入るといい」
「そうさせていただきます。お時間ありがとうございました、失礼します」
 少し押してしまったな、と労ってくださるヌヴィレット様と、お疲れさんと軽く手を挙げてくださる公爵様へ頭を下げて、退室すべく踏み出した足取りはやってきた時と大違いに軽い。公爵様直々に解決策を記された書類が羽のようだ。
「ヌヴィレットさんもお疲れ」
「君も」
「ヴァザーリ回廊のスタンドが新作のサンドイッチを出したみたいだぞ」
「では今日はそこに」
 背後で聞こえる会話に戻って来た平和を噛み締めながら、公爵様が来てくれて良かったとそっと拳を握った。