「おはようございます。お久しぶりですね。」
人の声を聞いたのは何百年ぶり、いや何千年ぶりだろうか。
突然聞こえてきた女性の声に目を覚ました。
けれど辺りは真っ暗闇で何も見えず、ただ分かるのはここがむせかえるほどに血の匂いで充満しているということだけ。
「
……ここは?」
目の前にいるであろう声の主にそう問いかける。咄嗟に疑問が声に出たが、すぐにそれがありえない事だと気付いた。
だって自分自身は自我のないただの”モノ”に過ぎないからだ。
「ここは平叶250年。貴方からすれば遠い未来の世界です。」
平叶
…まるで聞いたこともない言葉に耳を疑う。そもそも彼女の使う言語は自分が知っているどの国の言語とも違うのだ。それにも関わらず何故かその意味が理解できる。まるで自分の脳にその言語が刷り込まれているかのように
…
それに遠い未来というのもどういうことだろうか。そもそもどうして人でない自分が人のように言葉を理解し、言葉を発しているのだろうか。
思考がまとまらずその場で座り込んでいることしかできない。
そんな自分を見かねてか、カツッ、カツッ、というヒールの音と共に彼女の気配が近付いてくる。
「ほら、早くご起立ください。時間は有限ですよ。」
彼女に手を掴まれ引っ張られるようにその場に立ち上がった。案外2つの足で体を支え立つことは容易だ。
これが体と言うものか、そんな事を考えながら人間達の動作を真似して足を踏み出してみる。
一歩、また一歩と歩む度に手を繋いでいる彼女も一歩ずつ進む。スムーズに歩けるようになったタイミングで手を引く彼女の足がピタリと止まった。
「眩しくなりますよ。」
その言葉と共にギィ、と重い扉が開くような音が聞こえる。その隙間から彼女の言うとおり、眩しい光が差し込み咄嗟に目を塞いだ。
少ししてからゆっくりと目を開くと、そこには暖かい日光が差し込む綺麗な部屋が広がっていた。
永らく見ることが出来なかったその光景に目を奪われていると、繋いでいた手が離れ背後の扉が閉められた。
目の前には重厚なドレスを纏った女性が立っている。花のレースやバラの装飾、ふわりと緩く巻かれた赤い髪、それらの華やかさが彼女の瞳から感じる冷酷さを際立たせているようにも感じた。
「"械”として再び力を得た私達の目的は人間達に血塗られた過去を思い出させること。」
そう告げる彼女の柔らかな笑みは何故か怒っているようにも、哀しんでいるようにも見えた。
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