ぎんちき
2024-12-24 21:28:38
6789文字
Public ブン木手
 

雪華と赤花

2021年作

未来設定でちょっとバイオレンス表現ありのクリスマス話。白と赤。2ページ目は蛇足。
ノーチェック再掲です……。


   * * *

 シャリ、シャリ、と何かを削るような音で目が覚める。昼寝をしてしまったのか。
……おはようございます」
 顔を向けるまでもない。俺の横たわっているベッドの傍らには、彼がいる。
「おはよ! 良く寝てたな。りんご、うさぎにしてたんだけど……食う?」
「遠慮しておきます」
 そう? と言って剥いたばかりのりんごを美味しそうに頬張った。シャクシャクと彼の立てる小気味よい音が耳に届く。それが止んだと思うと、代わりにこちらへ降り注がれたのは少し重い声音だった。
「あのさ。寝起きに言うことじゃないかもなんだけど」
「何ですか?」
「あ、起きなくていい。えっと……
 どうやら重要な話のようなので身体を起こそうと思ったが、止められた。正直、助かる。まだそうするのは若干億劫なのだ。早く回復したいのに……昔のように寝てすぐ治る、というものではないですね。最も、今回は過去のそれとはまた質が違うわけですが。
「うん。お前の、転勤の話」
 ああ、そういえば昨日その話をしたな、と思い出す。丸井くんは笑ってくれた……だが。
「それなら。その、既に伝えたと思いますが、これですから……流れるかも、しれないですよ」
「それなんだよ。そうなってもさ、平気、ってこと伝えたくて」
 ……丸井くんの言っている意味が分からない。あ。恋人であることをやめるから、とか。そういうことですかね。それは……――
「何かお前が変なこと考えてそうだから、もったいぶるのやめるな。……俺。うん。えっと、そろそろ店を持つことを視野に入れてんの」
 お店を、構えて。ひとりのパティシエとして独立する、ということか。確かに丸井くんは最初からそのつもりなのだ、と学生の頃から聞かされていた。
「それで、どこで店をやるか、決めてねぇんだよ。これ、意味わかるか?」
「馬鹿にしないでくださいよ。丸井くんが関東にこだわっていないということでしょう? だから、つまり……え?」
「そういうこと。いや、でもな。別にお前みたいに春になったらすぐ~ってもんでもないから、もうちょっと期間は必要なんだわ。ってことは、だ。逆にキテレツの都合に合わせられるよな? ……まぁ、実は最初からそのつもりだったんだけど。だから変な風にすれ違いにならなくて良かったわ」
 そう言って丸井くんが俺の頭へ手のひらを載せてきた。するりと下ったそれに、頬を包まれる。それはそれは、あたたかだった。
「ものは言いようですね」
「おう……。でもさぁ……ほんと……よかったぁ……
「え。ちょ、ちょっと! 泣くことないでしょう!」
「しょーがねーじゃん!」
 先程までキリリとしていた丸井くんの眉が瞬時に下がり、涙にその大きな瞳を潤ませた。いくら個室とはいえ、大の大人に泣かれては困る。
「今だから言うけど…………カフェでお前と俺の作ったケーキを食べたくて。マスターにお願いしてたんだよ。でもさ、帰りに電話してみたら来てない、って言われて……でもキテレツは俺の部屋の鍵、持ってないし……じゃあどこに? って思って」
……
「ごめん。一番辛いのはお前だってわかってるんだけど」
 下を向く丸井くんに、顔を上げてほしいと伝える。
「無事退院したら……行きましょう。お詫びも兼ねて」
……うん」
 ああ、ほら。丸井くんの笑顔は余りにも眩しい。その熱で氷も容易く溶かしてしまえるだろう。そんなことを思う。
「じゃ、約束」
「はい」
 子どものように、指切りなんかして。