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雪華
2020-09-13 20:27:03
9104文字
Public
テリサイ
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【テリサイ】愛の証明 1,2【女体化】
※サイラスが後天性女体化。大昔に書いた、水をかぶると女になっちゃう先生1/2ネタのお話です。昔書いたものに追記した話+新しい話です。あと4話くらい続く予定で、最後にはR18展開になるはず……。タイトルはとりあえず仮でつけてます。ご都合主義とか何でも許せる方向けです。
1
2
サイラスの秘密を知ってしまった日から数日後、なんとか無事にリバーランド地方の街に辿り着き、行動を別にしていた女性陣と合流した。互いに得た収穫については夜に食事をしながら話すことにし、とりあえず一時の自由時間を取ることになった。
常に集団行動を続けるというのはどうにも窮屈だから、時折こうして自由な時間を作ることが暗黙の了解になっている。特にこういった大きな街では皆の目的がばらけがちなせいでもあるが。
(さて、どうしたもんかね)
銘々目的を持って散らばってゆく仲間達の背中を見送り、テリオンは宛もなく歩き始める。この時間だとまだ酒場も開いていないだろうし、大きな街だからといって特段ほしいものもない。
軽く街を一周して、興味をそそられるものがなければ宿で仮眠でも取り夜に備えるか。自分の中でそう結論づけ、大通りへ向かう。石畳で舗装された道を歩きながら横目で市場を眺めていると、突然耳をつんざくような怒声が聞こえた。
「だからっ! お前の店の野菜は質が悪いって言ってんだよ!!」
「なんだってぇ?! あんたのところだって、握りつぶせるほど柔らかくなった果物を売り物にしてるじゃないか!」
どうやら道を挟んで向かい合った青果店が揉めているらしく、道の端から端までよく聞こえるような大声で叫び合っている。周囲の店や通行人はひそひそと耳打ちしあっているものの、止める様子はない。
激高した片方の店主が水の入った樽を持ち、ずんずんと相手に向かって歩いていく。遠巻きにしていた者たちが巻き込まれる前にと後退るのとは反対に、喧騒の中を突っ切ろうとしている男がいた。片手に本を持ち、完全に前が見えていない
――
。
「お前なんか
……
!!」
「あっ!」
「えっ」
「
……
あの馬鹿
……
」
ばしゃりと派手に水がぶちまけられる音。青果店の店主が振るった樽から放たれた水は、ちょうどその間を通ってしまった鈍くさい男に思いっきりかかってしまった。とても見ていられず、テリオンは思わず顔を手で覆う。
「わ、悪い兄ちゃん! いやでもよ、幾らなんでもこんな時に割って入らなくとも
……
ん?」
「馬鹿だね、こんな別嬪さんを男と見間違えるなんて! だからあんたのところの果物は質が悪いんだよ!」
「ハァ?! 言いがかりは程々にしろ、確かにさっきまでここにいたのは男だったろうがよ!」
一回り小さくなった体で呆然としているサイラスを置いてけぼりに、また店主たちはヒートアップし怒鳴り始める。テリオンとしてはもう暫く成り行きを見守っていてもよかったのだが、判断を改めたのは群衆の中に見覚えのある帽子が見えたからだ。喧騒の渦中を確かめようとしているのか、ぴょこぴょこと羽飾りが見え隠れしている。
(まずいな
……
このままじゃトレサに気づかれる)
そうすると余計に話はこじれるだろうし、サイラスが秘密にしたいと言っていたことが明るみに出てしまう。サイラスは二人を宥めようとしているが、喧嘩が収まる様子はない。とにかく早くこの場を離れたほうがいいと判断し、聴衆を押し退けサイラスの手を掴んだ。突然意識の外から現れた存在に、彼女ははっと丸い目を見開く。
「テリオン
……
! 見ていたのかい?」
「静かにしろ。いいから、すぐにここを離れるぞ」
「だが
……
」
「いいから、来い。顔を伏せてろ」
少し強引に細い手首を掴んで引くと、軽くつんのめりながらも大人しくついてくる。いつもより低い位置にある頭に学者のローブのフードを被せて、人波を縫うように歩き裏通りに入った。
「テリオン、どこまで行くんだい?」
「宿に戻るぞ。その姿のままうろつかないほうが良いだろ」
「あ、ああ
……
そうだね。しかし本の弁償ぐらいはしてもらいたかったな」
「諦めろ。ああでもしなきゃ、トレサに見つかってたぞ」
宿へ入るためにもう一度表通りに出ようとして、足を止めた。軽く背中にサイラスがぶつかったが、そんな彼女を裏道に押し戻すように後退る。背中に柔らかいものが触れたのは故意ではなく完全に事故だが、弁明している暇はない。
「待て。
……
アーフェンがいる、まだこっちには気付いてない」
「っ
……
」
「顔を伏せて、俺の背中に隠れろ」
息を呑むサイラスに声を潜めそう言うと、彼女はテリオンの肩に額を付けポンチョを指先で握り締める。アーフェンは宿の前で子供と楽しげに話し込んでおり、こちらに気付く様子はないが油断はできない。
このまま膠着状態を続けるという選択肢もあるが、震えるような吐息が耳にかかり柔らかい髪に首筋を擽られていると落ち着かない。一度サイラスをここに置いて、アーフェンを追い払いに行くか。そう思ったが、丁度良く子供が走りアーフェンがその後を追うように走り出す。
「よし、今の内だ。だがそのまま顔は隠しておけ、仲間だったらすぐにあんただと見て取れる」
「分かった」
サイラス自身が女顔だというわけではないが、目鼻立ちの整った顔立ちは女になっても本人だと分かる。姉や妹だと言うにはあまりにも似すぎていて違和感があるほど、サイラスという人物の顔の特徴がそのまま出ているのだ。
素早く大通りに出て、サイラスを宿に押し込みテリオンも扉をくぐる。予め部屋自体は押さえており、そのうちの一部屋へ向かった。寝台が二つと最低限の家具があるだけの質素な部屋に入り、扉に鍵をかけた。
「ったく
……
本当に鈍くさいな、あんたは。読書は程々にしろ」
「うーん、全くの正論だ。申し開きも出来ない」
「俺がいたからいいものの
……
他の仲間に気付かれたらどうするつもりだったんだ?」
「そうだね、あの場で真っ先に気づいてくれたのがキミで良かったよ。ありがとう」
半ば悪態をつくようにちくちくと説教していたが、柔らかく微笑まれるとどうにも毒気が抜ける。テリオンが無言で寝台に腰を下ろすと、サイラスは以前と同じように指輪を取り出し祈りを捧げた。するとまた瞬きをする間に、いつものサイラスがそこに立っていた。
「
……
トレサ君があの場にいたのかい?」
「ああ、帽子が見えた。あんたの姿は見えていないと思うが
……
」
「そうだといいのだがね」
指輪を仕舞うと、今度は鞄からタオルを取り出し濡れた顔や髪を拭いていく。ぽたぽたと水が滴る毛先をタオルで包んで軽く絞り、長く息を吐いた。
「本当に、キミがいてくれてよかった
……
隠し抜くつもりではあったが、どんな些細なきっかけで明るみに出るか分からないな」
「サイラス、ここまで俺は二度あんたを助けた。
……
そろそろもう少し、詳しい事情を説明しても良いんじゃないか?」
「
……
」
「分かっただろ。これ以上、あんた一人でこの秘密を隠し抜くのは難しい。事情を打ち明けてくれたら、俺はあんたに協力してやる」
ロイヤルブルーの瞳が品定めをするようにじっとテリオンを見つめる。いつしか彼がテリオンのことを、生徒を相手にするような呼称を外して呼び出したことからも一定の信頼は得ていると思われた。純粋に仲間の一人として言うにも、おかしくない台詞のはずだ。
視線を交え数秒経つと、根負けしたようにサイラスはため息をつく。
「
……
分かった。その代わり、仲間内であっても他言無用だ。キミを信頼して、キミにだけ打ち明けるのだから」
「ああ」
サイラスは濡れた衣服を拭きながら、向かい側の寝台に腰を下ろす。そして一度深呼吸をして、徐に語りだした。
「まずこの呪いだが、私が十四歳の頃にかけられたものだ。かけられた理由はまぁ、人間関係のすれ違いというところだろうね。解呪のために術者を問い質したが、本人も未熟なため解くことが出来ず、彼女はその二年後に病で亡くなった」
「じゃあ、その呪いとは随分長い付き合いなんだな。何故他の者に呪いのことを伏せているんだ?」
「
……
実は解呪の方法に問題があるんだ。古今東西、呪いというのは聖なる力と
……
その、愛によって解けると言われているのをキミは知っているかな?」
「は?」
突然サイラスの口から出た予想外の言葉に、思わず聞き返す。サイラスは何やら気まずそうに軽く唇を尖らせて、もう一度同じ説明を繰り返した。
「呪いというものは、古来より聖なる力や真実の愛によって解けると言われているんだ。この呪いも例外ではなく、恐らく
……
愛する者との性交により解けるであろうと、当時の私たちは結論付けた」
「だから実行できなかったって訳か。
……
私たち、と言ったな。あんたと一緒にそれを見つけたやつとはしなかったのか」
「ああ。彼女のことはひととして尊敬していたが、恋愛的な好意は抱いていなかったからね。ちなみに当時一緒に解呪の方法を探してくれたのは、オデット先輩だよ。クオリークレストで会ったのを覚えているかい?」
サイラスより十歳上で、快活に笑っていた女の姿を思い出し頷く。確かに二人は親しげだったが、サイラスの言う通りそこに恋愛感情はなかったように見えた。
「指輪を探してくれたのも、実はオデット先輩なんだ。当時から彼女は力を持つ石について研究していて、その伝手を使って入手してくれたんだ。
……
少し話が逸れたな。他の者にこの呪いについて伏せている理由も、彼女から勧められたからなんだが
……
」
「
……
おおよそ想像がついた」
「そうかい? キミの想像通りかどうかは分からないが、一度このことを話した人物に迫られたことがあってね
……
水をかけられあわやというところで、魔法を使って撃退したんだ。オデット先輩からは、『必ず同じことが起きるから、この事は周囲には伏せろ』と言われてね」
「なるほどな」
そのオデットのアドバイスは、実に的確だ。サイラスに今更誰にも彼にも気を持たせるななどと説いたって、この男は無意識にやっているのだから意味がない。サイラスの性質をよく分かっているからこその指示だ。
呪いをかけられた経緯も、サイラスは人間関係のすれ違いなどと宣っているが、要は色恋沙汰でトラブルになったのだろう。恐らく恋が何たるかも知らない男に、真実の愛でしか解けない呪いをかけるとは実に皮肉がきいている。
「もちろん仲間内であのようなトラブルが起きるとは思っていないよ。だが、悪意はなくとも人の口に戸は立てられない。旅先で何があるかは未知数だから、伏せておくことにしていたんだ」
「
……
話せと言ったのは俺だが、本当に言っても良かったのか?」
「キミには全て見られてしまったからね。隠し立てするより、事情を説明して味方になってもらったほうが良い。協力してくれるんだろう?」
「ああ、約束は違えない」
テリオンがサイラスの呪いについて知ったのは全くの偶然だったが、あの時飛び込んだのが己で良かったと心底思う。他の誰にもこんなことは知られないほうがいい。
もし自分がサイラスの真実の愛を証明する相手になれたら
――
そんな妄想を繰り広げていることなど知らずに、サイラスは安堵したように微笑んだ。
「ありがとう、テリオン。
……
知られたのがキミで良かったのかもしれない」
「
……
まぁ、俺は口は堅い方だからな」
「そうだね。それに、仲間として、友人として信頼しているキミだからこそ打ち明けられたのだと思う」
――
そういうところが、あんたの悪い癖だ。
浮かんだ言葉を飲み込んで大きなため息をつく。そうやってテリオンの心をかき乱していることなど、知る由もない。サイラスは花が飛んでそうな無邪気な笑顔のまま、テリオンのため息の理由も分からず小さく首を傾げた。
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