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雪華
2020-09-13 20:27:03
9104文字
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テリサイ
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【テリサイ】愛の証明 1,2【女体化】
※サイラスが後天性女体化。大昔に書いた、水をかぶると女になっちゃう先生1/2ネタのお話です。昔書いたものに追記した話+新しい話です。あと4話くらい続く予定で、最後にはR18展開になるはず……。タイトルはとりあえず仮でつけてます。ご都合主義とか何でも許せる方向けです。
1
2
サイラスは水が苦手らしい。
川辺や海辺を歩く時はいつも縁には近付かないし、野営が続いて川で水浴びをすることになっても、彼は布巾を濡らして固く絞ったもので体を拭くだけだ。
ある時どうしてそんなに嫌がるのかと問うてみると、泳げないのだと苦笑が返ってきた。一行の中でも特に運動神経に難のあるサイラスが泳げないことは想像の範疇だったが、テリオンにはまだ何か理由があるように感じていた。なにせトレサでも膝までしか浸からない浅瀬であっても、彼は近付くことすら拒む程なのだから。
その日は運が悪かった。
男四人での移動だったが、魔物の縄張りに足を踏み入れてしまったのか、少々強敵と遭遇してしまった。足止めをしながら逃走し、向こう岸に渡ろうと石造りの橋を渡ろうとした時
――
そちら側からも魔物が迫り寄っていた。
「チッ
……
まずいな、どうする?」
「片側を倒して突破するしかないだろうな。向こう岸の魔物は対峙したことがある、あちらを倒して先に進むぞ」
「おう!」
「あ、ああ。そうだね」
先陣をテリオンが切り、殿をオルベリクが務める。その間に挟まれたサイラスはうろうろと視線を彷徨わせ明らかに戦闘に集中できていなかった。だからこそ、あんなことが起きてしまったのだろう。
オルベリクが片側の魔物を抑え込んでいる間に、残りの三人でもう片側をなんとか蹴散らす。
「よし、先に進もう!」
「おい、待てサイラス
……
!」
やっと橋を渡りきれると思い安心したのだろう。駆け出したサイラスの背中に手を伸ばしたが後一歩届かない。茂みの中に隠れていた四足の魔物がサイラスに襲いかかる
――
。
「サイラス!」
「先生!」
「っあ
……
!」
体勢を崩したサイラスは、魔物諸共派手な水飛沫を立てて川へ転落した。助けを求めるように一瞬だけ上がった白い手が、沈みながら遠退いてゆく。
「やべっ、先生泳げないんじゃ
……
!」
「アーフェン、後は任せた!」
剣や短剣を投げ捨てるように外し、そう叫ぶが早いか川へ飛び込む。刺すように冷たい水に一瞬息を詰めたが、しっかりと目を開いてサイラスの姿を探しながら泳ぐ。
すると直ぐ先に藻掻いている彼の姿を見つけた。魔物も泳げる種類のものではなかったのか、急流に振りほどかれたようで近くに姿は見えない。ばたばたと手足を動かしもがきながらも水面に上がれていないサイラスの腰を抱きかかえ、ふと違和感を覚えた。
(
……
細すぎる)
こんなにサイラスの体は細かっただろうか。水を含んだ衣服も妙に緩いような気がするが
――
いや、考えるのは後にすべきか。サイラスは堪えるように瞼を閉じていたが、それでも助けが来たことは分かったようでテリオンのポンチョをぎゅうと握りしめた。
岸に手を掛け、水中から顔を出す。しっかりとサイラスの体を抱え直して岸に上がった時、ぐにと柔らかく弾力のあるものが腕に触れた。
「はぁっ
……
げほ
……
ぅ、はぁ、はぁ
……
っ」
「
……
サイラ、ス
……
?」
咳き込む彼の背を擦ろうと手を伸ばし、思わずテリオンは一歩身を引いた。
前屈みになり地面に手を付き苦しそうに息を吐くサイラスの胸元には、あってはいけないものがある。濡れて張り付いた服が余計にその箇所を主張しているようだった。
先程テリオンの腕に触れたものの正体
――
それはどう見たって、女の体にある乳房にしか見えなかった。
「はぁ
……
助かったよ、テリオン
……
」
声まで甘く変調し、よくよく見れば喉仏もない。服が緩くて当然だ、体が一回り程小さくなっているのだから。ようやく落ち着いたのかサイラスが顔を上げ、目を白黒させるテリオンを見遣る。
「
……
サイラス、だよな?」
「ああ、そうだよ。まさかこんなことでばれてしまうとは思わなかったな
……
気をつけていたつもりだったが
……
」
「女だった
……
訳ではないな」
宿で一緒に湯浴みをしたことは何度かある。その時のサイラスの体は、傷跡の一つもないことを除けばテリオンの体と変わらなかったはず。濡れて頬に張り付いた髪を退けながら彼は、いや、彼女は頷く。
「キミも知っている通り、私は歴とした男だよ。ただ少々変わった呪いを受けていてね、水を被るとこうして女の体になってしまうんだ」
「
……
だから水辺を嫌っていたのか」
「ああ。元に戻るには少し時間がかかるから、なるべく水に近付かないようにしていたんだ。
……
さてテリオン、キミに一つお願いがある」
「なんだ」
いつもと変わらない光を宿した碧眼が、いつもより丸みを帯びた顔に嵌っている。あまりにもおかしな事に夢でも見ているのかと思うが、明らかにこれは現実に起きていることだ。
「この事は、皆には内緒にしていて欲しいんだ。キミの胸中にどうか留めておいて欲しい」
「
……
構わないが、隠すようなことか? 笑うようなやつらじゃないだろう。寧ろあんたが困っているなら手を貸してくれるはずだ」
「そうだろうと思うよ。ただもう解呪の方法も知っている以上、手を貸してもらう必要はないからね」
「分かっているなら、何故呪いを解かないんだ?」
普段はテリオンを少し見下ろす視線が、今は真っ直ぐ交わっている。不意にその視線が外れサイラスは困ったように笑う。
「
……
分かっていても実行できない方法なんだよ」
「難しいのか」
「ああ」
短く答えるだけに留まった返事は、今はこれ以上話す気がないということと同意であった。普段良く喋るサイラスが、笑みを浮かべたまま黙ってしまうことに妙な薄ら寒さを感じていた。
「
……
分かった、あいつらに黙っていれば良いんだな」
「助かるよ。ありがとう、テリオン」
思わぬ形で触れてしまったサイラスの秘密。今は語りたくないという態度の彼女に、テリオンは従順に頷いてみせた。
安心したように笑った顔はやはりどこかサイラスらしくなくて調子が狂う。はぁと溜息をついた。
「で、どうやって戻るんだ? 時間がかかると言っていたな」
「ああ、それは
……
っくしゅん」
「
……
先に火を焚くか。かなり下流に流されたから、合流するにも時間がかかる」
「そうだね。風邪を引いてしまう前に火に当たろう」
幸いにも流れ着いた場所は木々が生い茂っており、薪を集めるのには苦労しない。ここ数日晴天だったこともあり、少し歩けば片腕いっぱいの薪が手に入った。大きさや長さもまばらなそれを簡単に組み上げ、鬼火で火を点ける。
するとサイラスは座り込んだまま自分の懐に手を入れ、小さな巾着を取り出す。その中から出てきたのは指輪で、石座に嵌められている石は白く、ほんのりと青みがかっている。石自体はあまり大きくないし、宝石と言うには輝きが足りない。客観的に見れば到底値打ちがあるものだとは思えないが、何か
――
言葉にはできない何かがこの指輪にあるように思えた。サイラスはテリオンの視線に気づくと、片眉を上げてみせる。
「ふむ
……
どうやらキミには、この石の価値が分かるようだね」
「
……
いや、見たこともない石だ。カットも甘いし、高値がつくとは思えない」
「そうだろうね。これは市場で値が付くものではないんだ。
……
この石、何かに似ていると思わないかい?」
手招きされるままに、サイラスの隣に腰を下ろし彼女の手中の指輪を眺める。サイラスがわざわざ問いかけるということは、テリオンが既に答えを持っているものなのだろう。竜石とは色や透明度が異なるそれは、赤く揺らめく炎に照らされて煌めいている。次第にその像がくっきりし、記憶の中のものと結びついた。
「
……
聖火か」
「ああ、そうだ。正確には聖火そのものではないが、『原初の洞窟』で採掘された石を三日三晩聖火の前に掲げ、祈りを捧げたものだそうだ」
「随分なものだな。正直、眉唾ものだが」
「私も実際に体験しなければ、同じ思いを抱いていただろうね。この石には聖なる力が強く宿り、魔を打ち払う力があるのだよ。見ていてご覧
……
」
サイラスが指輪を両手で包み込み、小さな声で祈り始めた。普段オフィーリアが口にするものと似ているようで端々の文言が異なるそれを静かに聞いていると、不意に炎の爆ぜる音がした。思わず焚き火に目を遣った次の瞬間には、いつもどおりの姿かたちをしたサイラスがそこにいた。
「
……
」
「とまぁ、こういうことだよ」
「
……
理屈が分からん」
「呪いとはそもそも道理から外れたものだ。特にこの呪いは今となってはかなり歪んでいて、魔法というひとの考えた理屈では太刀打ちが出来ない状態なんだ。そこで一時的に呪いを解く手段として用いているのが、聖火神エルフリックの御力というわけだ」
いつもどおりの穏やかな低い声を聞きながら、眉を顰める。分かったような、分からないような話だ。魔法や呪いなどという概念はテリオンにとって遠いもので、あまりピンとこない。テリオンの表情から腑に落ちていないことを悟ったのか、彼は苦笑いを浮かべ指輪を懐に仕舞う。
「とにかく、元の姿に戻るにはこの指輪の力が欠かせないということだ。だからこうして肌身離さず持ち歩いているんだよ」
「それなら、指に嵌め方が良いんじゃないか」
「いや、私の指には小さすぎるんだ。リングのサイズを直すことも考えたが、女になった時に指から落としてしまったら事だろう?」
「
……
なるほど」
サイズを直すという表現からすると、あの指輪はサイラスのために誂えたものではないのだろう。呪いを受けてから入手したのか、それともそれ以前から所持していたのかは不明だが、元の持ち主は別にいたようだ。
(
……
情報が少なすぎるな)
一番の疑問は、サイラスが知っていてなお試せないという解呪の方法だ。仲間達に呪い自体のことを伏せていたのは、その方法に問題があるからではないかとテリオンは直感していた。病とは違い、薬が手に入らないなどという物質的な問題ではないのだろう。それとも何か呪術的な道具が必要になるのか。
「そう言えばテリオン、よくあの急流の中飛び込んできてくれたね。水辺に寄らないための言い訳にしていたが、泳げないのは本当なんだ。助けてくれてありがとう」
「いや。
……
その代わり、俺は今丸腰だからな。戦闘になったらあんたに頼るしかない」
「ああ、任せてくれ! 今度は私がキミを守ってみせるとも」
心なしか胸を張り、微笑むさまがあまりにも眩しくてつい目を細めた。後先考えずに、重しになりそうなものを全て捨て飛び込んだのは、ひとえにサイラスを失いたくなかったからだ。
彼のためなら火の中だろうが水の中だろうが飛び込んでやろう。困っているのならテリオンを頼ってほしい。誰にも言えない秘密の共有者が自分であることに、仄暗い喜びを覚える
――
それは確かに、恋と名の付く感情であった。
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