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みたむら
2024-12-18 15:03:22
14727文字
Public
8/17「夏インテ」
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「誕生日をもう一度」サンプル
呪術廻戦・五条×女夢主本2冊目です。
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3
4
5
「誕生日をもう一度」本文サンプル
※Web用に読みやすく若干修正しています。
※製本版は体裁サンプルにてご確認ください。
序章
私はちょっと変わっている。
「今日は○月×日だから
――
旧暦だと×月△日で□□の日だね!」
私は呪術師の家系で育った関係で、学校以外での外出や友達は少ない方だった。誘われたこともあるけど、両親は〝呪術師〟は
普通の人間
非術師
とは違うからあまり学校の友達を作らないように、と小さい頃から躾されていた。なので、家庭教師が待ってるから、と断り続けていた。
自然と誘ってくれたクラスメイトは少なくなっていき、私はほぼ空気な義務教育期間を過ごしていた。
ただ、とある家庭教師の先生はたまに面白い話をしてくれた。都市伝説だとか宇宙だとかスピリチュアルとか。それは学校では一切教えてくれないもので、だからこそその先生の時だけいつも楽しみだった。
その先生が教えてくれたのは、国によってカレンダーの暦が違うのだということ。だから、アジアでも日本とは遅れて新年を迎える所もあれば、日本と変わらない日に新年を迎えるのだと。当たり前なんだけど、何も疑問を持たないで生きていた私は度肝を抜いた。私にはまだ知らない世界があるんだな、と呪術の勉強と一般の学校の授業を受けながら思ったのだった。
毎日がつまらないな、と愚痴を零したときに家庭教師の先生がその国によって違う暦があると教えてくれ、その国ではこんな日がある、日本では記念日だけど海外ではこういう日だとか、そう思いながら一日を過ごしてみると面白いかもしれない、とアドバイスをくれたのだ。
確かに、実際にやってみると面白かった。
例えば私の誕生日は世界ではなんともない普通の日。でも、とある国では私の誕生日の日はここ日本では祝日でも何でもない平日だったり。そんなときは、あの国で生まれていれば今日は私の誕生日なんだね、なんて思いながら過ごしてきた。
そんな私にもいよいよ中学を卒業して、呪術高専に入学することになった。
そこでは期待される呪術師候補者が三人いると噂で聞いていた。
教室に訪れてみると、すでにその三人は席に座っていて、私は緊張感を持ちつつも挨拶をした。
五条君、夏油君、家入さん。
三人とも個性が強くて、それぞれの持つ術式が強くて私の術式はそんな対したものではなかった。といっても、私の家系は下の下、御三家の一つ五条家の嫡男を相手に叶うわけがない。夏油君は一般家庭の出だけど、術式が珍しく呪霊を取り込んで操るという術式。そして家入さんは珍しい反転術式の治療ができる。
(私のいる意味ないよね)
京都校に移転申請してこようかな、なんて思いつつも自己紹介は無事終わったのだった。
授業でも私は浮いていた。いや、別にサボっていたとか成績が悪いというわけではなく、三人が期待の呪術師候補者のおかげで、私は陰に隠れてしまっているというか、何でここにいるんだろうな、なんて思うこともしばしば。
(そうだ、あの先生が言ってたアドバイス活用してみようかな)
毎日がつまらなかったのを解決してくれたあの方法。
せっかく新しく出会ったのだから、声をかけてみようと。
私は早速彼らの誕生日を聞いてみた。
初めこそ疑問符を浮かべる三人だったけど、会話をしてみたいと思って、と半分嘘で半分本当のことを言うと、先に折れたのは家入さんだった。
「十一月七日だよ。あと、硝子でいいから。私もこれから名前で呼んでいい?」
「あっ、うん! よろしくね」
「そっか。そういえばちゃんとした話をまだしてなかったね。私は二月三日生まれだよ」
「ふむふむ、五条君は?」
「はぁ? 何でお前に言わなきゃいけねぇんだよ」
そう言ってだっるー、と言いながら教室を出て行った。私はポカーン、と呆然と見送ってしまう。
(二人は話をしてくれたからよかったけど、五条君はどうしてもああやって話してくれない)
気づかないうちに私は彼に何かをしてしまったのだろうか。無礼なことはしてないと思う
……
多分。
「あー、ごめんね。悟はさ、一応五条家の人間だから、その、警戒されてるんだと思うんだ。私も最近やっと気軽に話が出来るようになったくらいだから
……
」
そう言って夏油君が慰めてくれる。確かにそうだった。
五条君は五条家本家でずっと隔離されて生きてきたという。私や夏油君のように一般の学校に通ってきたわけじゃない。
私も中学校までは一般の学校に通えたけど、呪術師だからあまり非術師の友達は作らないで、と両親から言われていた。それが御三家の嫡男ならそれ以上の規則や躾は厳しかったはずだ。だからこそ、あんな風に警戒されてもおかしくない。
「じゃあさ、夏油。この子の代わりに
五条
アイツ
の誕生日を聞いてきてよ」
「
……
そうだね、一応聞いてみるよ。君もそれでいいかい?」
「う、うん。ごめんなさい、気を遣ってしまって」
「何も悪くないよ。新入生同士、全く会話がないのも空気悪いだけじゃん。私はちゃんと話ができて嬉しいから」
「私も。君のおかげで、何気ない会話でも楽しめたよ。ありがとう」
そう言って二人は笑ってくれた。私は、彼らの笑顔に救われた気がした。
そして、後日夏油君に呼び出されて自動販売機の前に来た。
夏油君は二人分のドリンクを買い、一本を私に渡してくれる。お金を、とポケットから財布を取り出すものの、夏油君が「いいよ、奢るから」と制止した。私は感謝をして奢られた。
夏油君はベンチに座っている私の隣に座って話を切り出した。
「この間の、誕生日の話を覚えてる?」
「あ、うん」
「あれから悟の奴、機嫌が悪くてね。聞き出すのにここまで時間がかかったんだ」
「あっ、無理しなくても
――
」
どうしても知りたかったわけじゃない
……
聞きたかったけど、誰だって言いたくない相手もいるだろう。だから無理なら無理でそれで構わなかった。
「十二月七日だよ」
「え?」
「
……
一応悟からは、君には言うなって言われてるから二人だけの内緒、ね」
「う、うん
……
ありがとう、代わりに聞いてくれて」
「どういたしまして」
これで三人分の誕生日が分かった。あとは、それぞれの暦で当てはめてまずはこの一年間を過ごしてみるのだ。そう思うと自然と笑みがこぼれていたらしくて、夏油君は「嬉しそうだね」と笑っていた。
「何で、誕生日を知りたがったのか聞いてもいい?」
「深い意味はないんだけど
……
」
と、夏油君が二人だけの内緒と言って教えてくれたので、彼にだけは教えた。
すると、彼は「へぇ、なかなか面白いね」と言った。
そういう記念日を入れていくことで、退屈な日を少しでもなくそうという心意気を夏油君は認めてくれた。
なぜなら友達に言ってみても「わけわかんない」と理解してくれない人ばかりだったから。
「じゃあ私の中で一つ作ろうかな
……
今日は〝初めて君と内緒の共有をした日〟」
「
……
! うん!」
嬉しくて飲みかけていたジュースも一気飲みが出来そうだった。
それは後に硝子ちゃんにも誕生日を聞いた理由を聞いてきて、教えると「いいじゃん、そういうの」と夏油君と同じ反応をしてくれて、仲間が出来たと思えた。
「誕生日、その日だけじゃなくてその国の暦ごとに自分の誕生日を祝えるとか最高じゃん」
「うん、何度でも祝えるのって素敵だなって」
硝子ちゃんとは女子寮での交流だった。そして尋ねてきたのだ。
「で、夏油から五条の誕生日を聞いたんでしょ? 楽しい一年間になりそう?」
「うん、何もない日よりはきっと」
「そうだね
……
そういえばさ、五条のこと気になってる?」
「え?」
突然だった。私は戸惑いを隠せず、どう言い返せばいいのかしどろもどろになる。
硝子ちゃんは顔真っ赤、と小さく笑う。
「だってさ、入学式の時から五条のこと見てたでしょ」
「そ、そりゃあどんな人たちが同級生なのかなっていろいろ想像してたから
――
」
「いーや、明らかに五条を見るアンタの目、違ってたもん」
「そ、そうかな?」
「うん、気になるって目で訴えてるみたいだったよ」
ますます顔が熱くなっていくのが分かって、両頬を手で覆う。静まれ、私の頬!
「まー、黙ってたらいい顔をしてるもんね、中身はクズだけど」
そう、普段の彼はサングラスを付けて目元を大体隠してる。しかし、たまに見える隙間から澄んだ蒼い目に惹かれた自分がいた。
(何て綺麗な蒼い目なんだろう)
これを見惚れてたというのなら、見惚れていたのだろう。そこからの、言動だ。
出会い頭、呪力が弱いだの、何しに来ただの、ダメ出しばかり。実際図星だから言い返せないのだけど。
夏油君と硝子ちゃんには割と普通なんだけど、弱い私に対しては結構厳しい言動が目立つ。たまに夏油君と硝子ちゃんが彼を指摘するけれど、事実言ってるだけじゃん、と反省しない。むしろ私を見る目がどんどん険しいものになっていく。
私は生まれてから恋に落ちるということは体験したことがない。だから、硝子ちゃんが指摘するまでこれが恋なんだと気づかなかった。
(確かに、いつか夏油君や硝子ちゃんみたいに五条君とお話出来たらいいなって思ってたけど)
なぜそこまで彼と話をしたいのか。それは好きかどうかまでは分からないけど、二人とは違う気持ちで彼を見ていることは認める。
(彼の誕生日を知ってから、カレンダーを見てドキドキする時があるんだよね)
まるで五条君に誕生日を祝う予定があるかのように。でも彼からすれば私は誕生日を知らないことになっている。だから、二人には贈れるけど、五条君には贈れない。何で誕生日を知ってる? と問い詰められるだろうし、私だけなら未だしも夏油君にも迷惑がかかることは想像できる。夏油君と五条君が喧嘩になることだけは避けたい。
「ふーん。じゃあそんなアンタに私から面白い世界があるの、教えてあげる」
「え、何々?」
「占いって信じる?」
「占い? 星占いとかそういうの?」
「そうそう。最近ネット上でも占いサイトみたいなのが出来たみたいでさ、ほら」
そう言ってこの間携帯の連絡先を交換し合い、サイトのアドレスを教えてくれる。開いてみたら、占いサイトと書かれたウェブサイトだった。
「あまり信じすぎるのもよくないけどさ、せっかく五条の誕生日を知ったんだから見てもらってみたら?」
「え? 例えばどんなこと占ってもらったらいいかな?」
占いはあまり利用してなくて硝子ちゃんに教えてもらった。ただ、一番いいのは占い師さんに直接見てもらう方がいいらしく、あくまでエンターテイメントとして占いを楽しめば、とアドバイスを言ってくれる。
(ほう
……
確かに、恋愛とかに自分と相手の誕生日を入れる箇所がある
……
そういう世界もあるんだね)
占いの内容は様々だ。脈があるのかどうかとか、彼の本音は、とか逆に彼と別れた方がいいかとかそういうものも載っていた。
恋愛はやはり誰もが悩む課題なのかもしれない。
「相性がよかったらいいね」
「う、うん
……
あの! あくまで仲良く友達になれたらいいなーっていう意味でね!」
「あはははは! 分かってるよ」
硝子ちゃんはそう言いつつも腹を抱えて笑っていた。
寝る前に硝子ちゃんに教えてもらった占いサイトにアクセスする。そして、誕生日を入力して相性がいいかどうか見てもらうことにする。
「え
……
」
相性が悪いと結果が出てしまった。しかしアドバイスも書いてあった。根気よく諦めないで声をかけてみるといいかもしれない。その時は素直を忘れずに、と最後に書いている。
「素直に、話しかける
……
」
別に五条君に対して嘘をついてるつもりもないのだけど、出会った途端にいきなり吠える犬みたいに、私が話す前に立ち去ったり、罵ったりして会話以前の問題だった。とりあえず、彼から見て私の印象はよくないらしい。
「術式が弱いのが原因なのかなぁ?」
しかし術式はその人の才能でしかない。才能を伸ばせる人もいれば伸ばせない人もいる。授業だって真面目に受けてると思うし、むしろ担任の夜蛾先生にいつも叱られてるのは五条君の方だ。喧嘩してたら夏油君も怒られる程度。
「うーん、難しいなぁ」
サイトを閉じて、眠気が誘われてその日は寝入った。
いつか、みんなで話が出来るくらい仲良くなれたらいいな、そんな淡い夢を抱きながら。
そんな春だったけど暑い夏になった。高専での生活も慣れて私と五条君の関係は変わらずギクシャク。でも夏油君と硝子ちゃんとは友達のように接してくれていた。
硝子ちゃんや夏油君に何気なく五条君と仲良くなれるように色々協力してもらうけれど、ばれてるせいか余計に五条君とはよくない。
そんな中で夜蛾先生が私と五条君を呼び出した。何かしたのかなと振り返ってみるものの、見当がつかない。
事情を聞けば、今度の任務は五条君の任務に私がついて行く形で任務に行ってこいという知らせだった。
それを聞いた五条君は「はぁぁ?!」と廊下中響き渡っていた。
「ぜってー嫌だ! 足手まといなだけじゃん」
「悟! 呪術師とは何かを見せるのもお前の仕事だ」
「だったら傑にやってもらえばいいじゃん」
「傑にもいくつか同行してもらった。今度はお前だ、悟」
そう、私はまだ三級で任務をするにも誰かと一緒に行動しなくてはならなかった。フリーで働く呪術師の先輩や、高専の先輩など付いて行って祓うのを手伝ったり、実習したりした。ただ、五条君はずっと断っていたらしく、今日まで不思議と五条君と被ることはなかった。それには少しだけ安堵していたのだけど、それも限界らしく、いよいよ五条君の任務に一緒に行くことになった。
五条君は何度も抗議するけれど、夜蛾先生は引かない。そして強制的に先生はその場を離れていく。先生は私にはただ「悟のいいところを見て鍛錬に生かせればいい」とだけ言って。
ため息をついた五条君は私に冷たく告げる。
「勝手な行動したら許さねぇから」
「は、はい! 勉強させていただきます!」
「
……
じゃ、ちゃっちゃと終わらせよーぜ」
だっりー、と言いつつもいつも歩くスピードは遅めだ。
怪我でもしてるのかな、と思って声をかけようと思ったら彼が立ち止まり振り返った。
「何ぼけーっとしてんの。補助監督も待ってるから、さっさと来いよ」
「う、うん」
ハッと気がついて私は重たい足を必死に駆け出して、彼に追いつくのだった。
補助監督の指示に従い、車に乗って後ろに私と五条君が座って目的地に向かう。その間は特に会話はなかったけど、時々隣でじっと窓を見つめている五条君を目で盗み見る程度だった。
現場に着いて帳が下りた。補助監督さんは外で待っており、現場には私と五条君だけが立っている。
「お前はただ見てればいい」
「わ、分かりました」
「
……
何で俺に対してだけ敬語なの?」
「え、えっと
……
」
これは知らないうちについた癖だった。顔を合わせば不機嫌で鈍臭いやら弱いやら彼からすれば図星をそのままポンポン言ってくるものだから、自然と私は彼に対して敬語で話すようになってしまった。
結局占いのアドバイスのように根気よく声をかけて見ても怖い顔と声で、怖じ気づいてしまった。なんかもう、蛇にでも睨まれた怯える蛙のような気分だ。
何も言わない私にしびれを切らしたのか、それとも呪霊の気配を察知したのか、チッ、と舌打ちをして呪霊と遭遇した。
呪霊を彼は難なく祓っていく。そして「弱い」「そんなんじゃ俺に勝てねぇよ!」といつもの言動をしながら。でも確かに一方的にやられていく呪霊と蹂躙していく五条君の姿を見ていると、どちらかというと祓われている呪霊が可哀想になってくる。
「これで終わり!」
術式順転・蒼
――
そう言って、術式で作られた蒼が周囲の呪霊を一気に片付けていく。少し蒼の強風に揺られつつも、壁にくっついて耐えていた。
(すごい。これが御三家の、五条家の次期当主になる人
――
)
私とは全くケタが違う。それと同じように並べられる夏油君もすごい。そりゃあ一級に昇級するはずだ。
私の力では彼からすれば弱々のなんちゃって呪術師でしかない。改めて実力の差を見せつけられた気がした。
五条君がこちらに歩いてくる。呪霊はいないと確認したからだろう。しかし、陰に潜めていたらしい残った呪霊が彼の背中を狙っていた。
私は咄嗟に彼を押しのけた。
「ちょ、突然何
――
?!」
「ヒヒヒ
……
ツカマ
……
エタ」
ニタァ、と私を貫いたのを見て嗤う。私はただ、痛みを上げるしか出来なかった。
呪霊に引き寄せられ、私は力強く体ごと放り投げられ、背中に壁が当たった感触があった。そして頭にも衝突したのか、痛みで何も考えられなかった。
「あっ
……
」
痛い。痛い。痛い。
「お前! 何で勝手なことを!」
そう言って起き上がってこっちに駆けてくる五条君の姿が薄ら見えた。
(よかった、五条君は無傷だ
……
)
駄目な弱々なんちゃって呪術師レベルでも、守れたかな、と思うと痛いのにどこか救われた気持ちになった。こんな私でも誰かを守れたんだな、という小さな誇り。
(私のような弱い呪術師よりも、五条君たちのような優秀な人が呪術師にぴったりだ)
私は朦朧として、意識を手放した。
目を覚ましたら、私は医務室にいた。
看病をしてくれたのは硝子ちゃんで、私を見るなり涙ぐみながら「よかった、目が覚めたんだね」と私を優しく抱いてくれた。
「あれ
……
私」
「
五条
アイツ
がお前を抱いてここに連れてきたんだよ」
そういうものの、五条君の姿はない。硝子ちゃんは「五条なら報告書作成と夜蛾センにこってり叱られ中」
と教えてくれる。
「傷は痛む?」
「大丈夫」
「大体は治したけど、傷跡だけはごめん。その代わり痛みが走らないようになんとかしたから」
そう言って腕には包帯に巻かれていた。軽く解いてみると、痣が残っていた。
「お前は何も気にしなくていいからな。お前は五条という呪術師の所業を見る。五条は逆にお前を一般人と見立ててちゃんと守り切れるかどうかのテストだったらしい」
「え
……
そうだったの?」
「そ、例えば五条が任務で誰かを守る仕事に就くとした場合、今回の任務は失敗扱いだ。だからこってり叱られてる」
まぁ、何とか生きているのは私が曲がりなりにも呪術師の家系であることが幸運だったのだろう。これが非術師だったなら即死だったと硝子ちゃんも言う。
「でも私、五条君の言うこと聞かなかった」
「五条から一応聞いてるけど、呪霊に背後を突かれる前にお前が庇ったんだろ? それって人間として当たり前のことをしただけだよ」
「そう、なのかな」
私は五条君に何もするなと言われただけだ。でも私は咄嗟に体が動いて彼を庇ってしまった。今思えば彼の術式は無下限なので、守備はお手の物だったのだ。
私なんかが庇わなくても。
「私やっぱり駄目かも。言うことちゃんと聞かないとって決めてたのに、彼の術式は無下限でそう簡単にやられないって分かってたはずなのに
……
死ぬかもしれないって思ってっ
……
」
「いいんだ。夏油もそろそろ五条に灸を据えてるだろうから」
「え?」
「彼女がここまで譲歩してるのにいい加減君も素直に話を聞いてあげたらって、夜蛾センが来る前に廊下で二人話してるの聞こえたよ」
『あんなに避けていたのに、それでも彼女は必死に君と話がしたいと声をかけている。そして今回の任務も悟が死ぬかもしれないという人間の本能で庇った。これ以上警戒する必要があるのかい?』
『
……
俺の術式を理解してなかったのが悪い』
『じゃあもし無下限を解いていたのを忘れていたとしたら? それでも彼女の行為は無駄だと言えるの?』
『
……
っ!』
『これが一般人の護衛だったら失敗だよ。一般人は置いといても同じ呪術師を、仲間を守れないなら、〝駄目な弱々なんちゃって呪術師〟は彼女じゃなくて、君の方だよ、悟』
『って何、その弱々
……
?』
『私もよく分からないけど、彼女がいつも口癖で言ってるみたいなんだよね。
誰かさん
・・・・
が虐めるから』
そんなことを二人話していたのを聞いて、私は複雑だった。まず、独り言で言ってたことが夏油君に聞かれてたことがショックだった。心の中で言ってたのに、いつの間にか口に出ていたらしい。
確かに、最近夏油君が体術鍛錬の時よく私と一緒に見てくれていた。アドバイスも的確で、少しだけ向上した、と思う。でも結局自分の身を守れなかったから意味がなかったようなものだけど。
「五条は素直じゃないからな。私からもお礼を言っておくよ、あんなクズでも守ってくれてありがとう」
「う、ううん! 私はただ出しゃばっただけだし
……
結局五条君には悪いことをしてしまったから」
「いいじゃん、普段お前に対して酷いこと言ってきたんだから、そのツケが夏油と夜蛾センがお前の代わりに怒ってくれてると思えば」
「でも
……
」
「アイツは何でも出来るから、すぐ人を見下すんだよね。家系の中はどうか知らないけど、世間はそれでは通用しないから、五条にとってこれが今勉強中なんだよ、世間の常識っていうやつの」
「はぁ
……
」
そういうものだろうか。疑問符を浮かべるけど、彼女はそういうもんだ、と言う。
もう少し寝てていいよと言って彼女はカーテンを閉めてくれる。私は彼女に甘えて、もう一度寝ることにした。
ふと目を覚ますと、誰かの気配を感じた。
隣で椅子に座って軽く寝ている五条君がいた。
叱られた後こっちに来たのだろうか。
声をかけるべきか、それとも疲れているだろうからそのまま寝かせた方がいいのか、とどうしたらいいのか迷っていると彼の体が軽く揺れて、その衝動で目を覚ましたらしい。
私はどんな態度でいればいいのか分からず、寝たふりをする。しかし、それはすぐにばれてしまう。
布団をバサッと彼が取り、上半身が外に晒されてしまう。
「
……
寝返り打つところ見てたぞ」
「うっ
……
」
「ったく、起きたなら起こせよ」
「ごめんなさい、沢山迷惑を
――
」
「もういいから! 全部俺が悪かった。だから、まずはその敬語止めろっての」
そう言って今度こそ布団を戻して椅子に座り直した。
しばらく無言が続き、私は彼に声をかけた。
「あの
……
怪我、大丈夫だった?」
「そのままお前に返すわ。硝子からは聞いてるけど、傷は痛むか?」
「ううん、痛みは大丈夫。でもしばらく無理に動かさない方がいいって言われたかな」
硝子ちゃんと話してた時に、夜蛾先生から伝言があって伝えられた。しばらくの間、任務には参加しなくていいらしい。しばらく座学で鍛錬も見学のみに徹しろということらしい。
(そんな大げさじゃないんだけどなぁ)
生きてるだけで儲けものだ。だけど、安静は大事なのも分かるので彼らの言葉に頷くしかない。
「
……
まぁ、その何だ。お前のおかげで助かったかもしれない。けど、俺の術式は無下限だ。無下限を解いてなかったし、お前が庇う必要はなかった」
「うん
……
分かってるはずだったんだけど、なぜか体が思わず動いちゃった。呪術を知ってるクラスメイトが消えちゃうと思ったら、咄嗟に」
私はどこか中学時代までの人生はつまらないと思っていたし、寂しかった。だって学校には呪術はおろか呪霊が見える子なんて誰もいない。先生だっていない。でもここに来てみんなに会えて、ここが私の居場所なんだって思うと嬉しかった。
だから、真っ先に三人に誕生日を知りたかったのかもしれない。そうやって何気ない会話をしたかったのかもしれない。実際誕生日なんてどうでもよくて。
「五条君の命令に背いちゃったのは事実だから、それはごめんなさい。五条君がここまで運んでくれたって硝子ちゃんから聞いて
……
私の方こそ、助けてもらってありがとう」
「別に
……
あのまま放置しても目覚めが悪くなるだけだし」
彼はそっぽ向いてそう言った。彼は素直じゃないから、と言った硝子ちゃんの言い分は何となく分かった。
「十二月七日」
「
……
え?」
「ほら、前に誕生日を知りたがってただろ? 俺の誕生日」
誕生日を知ってどうするのか分かんねーけど、と言って椅子から立ち上がり私を見る。
私は密かにもう夏油君から知っているのだけど、彼はそれを知らない。
「
……
ふふ」
「な、何だよ。何が可笑しいんだよ」
「違う、やっと教えてもらえて嬉しいなって。こんなに会話できたのも嬉しい。今日はすごくいい日かも」
「はぁ? お前、呪霊に腕をやられたんだぞ?」
「でも、そのおかげで五条君は無事で、なぜか私も無事だったし、五条君から誕生日を教えてもらえて、すごく嬉しい」
「
……
よく分かんねーけど。そこまで言うなら、仲良くしてやらんでもない」
そう言ってふふん、と小さく鼻を鳴らす彼。少し気分が沈んでいたような彼だが、今は元気を取り戻したのかいつもの自信満々な笑みを浮かべていた。
その姿に思わず見惚れてしまう。
(あ、好きなのかも)
自然と笑みを零した時の彼の笑顔に胸がドキッとした。多分これが〝好き〟という気持ちで、〝恋〟というものなんだろうな、と自分なりの答えを見つける。
だから、彼を気になる人として見ていたのだ。いつか会話が出来たらいいなと諦めないでいたのも、好きという気持ちが少なからずあったからかもしれない。
「じゃ、俺は先に戻るわ。硝子から、今日は医務室で寝てろってさ」
確かに伝えたから、と五条君は脱いだ制服の上着を羽織ってあくびを殺しながら医務室を出て行った。私はそんな彼の背中を見送った。
私は嬉しい気持ちと、少し照れくさい気持ちが入り交じり、布団の中に体ごと入ってしまう。
――
神様、私を助けてくれて、五条君と友達になれるきっかけを作ってくれて、ありがとうございます。
私はそう心の中でお礼を言いながら、もう一度眠ったのだった。
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