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urifuji
2021-10-19 14:25:34
18798文字
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鬼哭村、料理に関する津々浦々~春:祈りの筍料理~
料理に関する双子の珍道中です。
一回目は奥継君。
只々楽しく料理をする彼らがみたい。
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夕食時、九角屋敷にはいつもよりも賑やかな声が響きわたる。指令の為江戸に行っていた桔梗はその声の明るさに首を傾げていたが、夕飯をみて彼らの様子に納得した。
「おや?今日は筍づくしだねぇ。誰かが取りに行ったのかい?」
桔梗の明るい声に、食事の準備をしていた女中の一人が嬉しそうに答える。
「そうなんです桔梗様!実は緋勇様と風祭様がたくさん取ってきてくださったんですよ」
「緋勇もそうだけど坊やもかい?へ〜、珍しいこともあるんだね」
その内容が内容なだけに桔梗は驚きのあまり軽く目を開いた。
龍斗が村に来てから何かと敵視をしていた奥継だったがまさか二人で共同作業をするまでになったとは。思わず奥継の方に視線を向けると、その視線を感じた奥継は本日の戦利品である筍ご飯を食べながら不機嫌そうな顔を浮かべている。
「俺は無理やり付き合わされただけだ」
「それでも付き合ったんだねえ、随分仲良くなったもんだよ。あんなに息巻いてたのに」
「好きで付き合ったんじゃねぇよっ!」
桔梗の揶揄い交じりの声に奥継は噛みつかんばかりに答える。唾を飛ばしそうな勢いで反論している奥継に天戒は苦笑し、任務で一日奔走していた彼女に労いと事情を説明した。
「桔梗。緋勇達は村外れの竹林で半日作業をしたんだ。お前も知っての通りあそこは毎年筍が沢山なるが村の者はあまり行かせられない場だからな、行ってくれたのは正直有り難い。沢山掘ってくれたお陰で各家庭に一つは行き渡った。すまんな二人共」
龍斗と出会いの場になったあの竹林の場所は、龍斗も経験がある様に噂を確かめようとする腕の立つ者たちが現れやすい。大切な食料なので村人達も取りに行ければ良いが、武術の心得があるものは任務に駆り出されることが多く、例え任務に駆り出されなくても体が不自由な者だと重労働はさせにくい。まして女子供だけでいくのは。理解していても気軽に取りに行きにくい場所である。
その点龍斗は武道に心得がある上に新参者なので単独任務は与えられておらず時間を持て余していた。龍斗からの提案ではあったが、彼以上の適任者はいないだろう。天戒としてはこの上ない有り難い申し出であった事は間違いなく、それを理解している桔梗は村人達と同じ様に笑った。
「おやまあ、それはいいことをしたね」
「良かったな風祭。お前の労働が認められたぞ」
「けっ、白々しい」
桔梗の労いを受けて龍斗は味噌汁を啜りながら本日の共同者を褒める。奥継としても褒められる事は悪い気はしないが、それを先導したのが気に入らない龍斗な為ぶっきら棒にいい放っている。
彼が愛想がないのはいつもことだが龍斗に対してはそれが著明に現れており向雲は苦笑する。緋勇が気にしていないことが幸いだろうなと心のなかで呟いたあと、ふと彼らのお膳の上に自分達にはない料理が在ることに気がついた。
「それはともかく。緋勇と奥継の器に乗っているの、それは何だ?」
「ああ、筍羹知らねえっていうからさ。春になるといつも食ってたからこの時期になると無性に食べたくなるんだよ。自分で言うのも何だが美味いと思うぞ」
「ん?自分でって事は、まさか緋勇が作ったのかい?」
龍斗の言葉に桔梗は意外そうな顔を向ける。『男子厨房に入らからず』との言葉があるように家事は女性が行うことが多いこの時代であるのにだ。
「ああ。だが別に不思議じゃねぇだろ?ずっと旅暮らししていたし料理ぐらい作るさ。なあ、九桐」
何年も放浪の旅をしている龍斗であるが、出来るなら味気ない物よりも美味いものが食べたい派なので料理する事自体苦にならない。同じように放浪の旅をしていた向雲ならこの気持ちが分かるだろうと振り向くが、彼は首を横を振っている。
「いや確かに俺も焼いたりする位はやるが、ここまできちんとした料理はあまり作らんよ」
「そうなのか?」
向雲の言葉に龍斗は眉を寄せる。ふと、旅をしていた京悟も料理をしている姿はついぞ見なかった事に気が付き、もしかして自分がおかしい方なのかと考えはじめた。
料理好きの姉の影響もあって龍斗は龍泉組でも時々自炊していたが、女性陣、特に藍や美冬からなんとも言えない視線を受けていたなあと思いだす。
……
懐かしいとはまだ思えない、あの臨場感がある記憶達。
あの記憶を思い出すとなんとも言えないほろ苦さが胸をしめる。心配そうな姉の声が体に響くが、そんな龍斗の変化にまったく気づいていない隣からよく言えば悪気なく、悪く言えば考えなしの発言が飛んできた。
「料理といえばこいつ、料理中離し方が変わって本当に気持ち悪かったぜ!」
沈みそうな気持ちを苛立ちという感情で一瞬にして浮上させた彼に、お礼も兼ねてどんな反応しようかと龍斗は半目で見つめた。聞き捨てならない言葉を拾い上げた龍斗は得意げに話す彼を冷たい目で見つめ続けるが、彼のお膳に残っていたものを見つけると楽しそうに目を光らせる。
「ん?奥継、どういう事だ?」
「こいつ料理を始めたら急にナヨナヨし出した上敬語で話しだしたんですよ。気味が悪ぃったらありゃしねぇって、
あーーーーーーっっ?!俺の漬物がっ!!」
天戒と会話に乗じてお膳から漬物を掠め取った龍斗はそのまま口に放り込んだ。悲鳴を上げる奥継を無視して彼から取った漬物は口の中で小気味いい音を立てる。
「しょうがねぇだろ、そういう性質なんだよ。お茶目で可愛らしい俺の個性だと思って受け止めてくれ」
「自分で言うな」
ボリボリと何事もなかったように太々しく話す龍斗に思わずツッコミを入れる向雲。そんな彼の言葉を軽く聞き流した龍斗は未だ未練がましく睨んでいる奥継のお膳をじっと見つめた。未だ手の付けられていない筍羹をみて楽しそうに口元を緩める。
先ほどの二の舞は踏まないと警戒感を強めた奥継は龍斗の不躾な視線を体を呈して防ぐ。今にも掠め取りそうな彼のお膳に同様のものが未だある事に気が付くと、皿を指差して視線をそちらに向けるべく大声を上げた。
「なんで俺に渡したものをお前が食おうとしてだよっ!お前はそこにあるだろうがっ!」
「悪ぃな、俺の好物なんだよ。いらないなら寄越せ」
「後で食おうとしてたんだっ!!どこまで意地汚い野郎なんだお前は!ったく」
人に渡したものすら食べようとする龍斗にこのまま置いていれば間違いなくとられると感じ慌てて筍羹に被りついた。奥継の口の中で小気味いい音が響き渡ると、口の中で濃く味付けられたエビの練り物と筍の風味が広がる。筍のぽりぽりとした触感と乱雑に叩いたエビの弾力性と甘さが広がり何とも言えない美味しさが溢れ、一口ではすぐに物足りなくなり、もう一度あの味を楽しもうと一口放り込む。
「
……
どうだ?」
食べ終わった頃を見計らって窺うように龍斗は尋ねた。名残惜しそうに嚙みしめていた奥継だったが龍斗の質問に不機嫌そうな顔で「
……
意外と、うまい」と零す。
感想を聞いた龍斗は安堵の息を吐いたが、彼のあまりにちぐはぐな態度に楽しくなったのだろう。肩を軽く揺らして愉快そうに哄笑した。
「はは、なんだそりゃ」
「だってお前が作るもんだぞ!美味いなんて思わねぇじゃねぇか!」
納得できない気持ちを発散するかのように断言するその言葉に、流石の龍斗も微苦笑を浮かべるしかない。
「
……
お前なあ。お前の中で俺の評価がどこまで低いのかむしろ気になってきたわ」
「まあでも坊やの言い様はともかく、確かに美味しそうに食べていたねえ。あたしも少し気になってきたよ」
「ん?桔梗も食べたことねぇ?」
「俺も無いな」
「え、そうなのか?みんな知ってると思ってたけど。
……
でもお前は知っているだろ、九桐?」
桔梗と天戒の思わぬ言葉に驚愕の表情を浮かべつつ、再度綽々と食べている向雲に話しかけた。急に名指しで指名され断定的に話す龍斗に箸を置いた向雲は、形のいい眉を片方上げ彼を見据える。
「まあ、そうだな。
……
緋勇はなんで俺が知っていると思ったんだ?」
「だってお前、津々浦々のうまいものを探しながら旅していたんだろ?」
「
……
緋勇。俺が諸国を歩き回っていたのは情報収集の為であって、食い倒れの旅ではないんだが
……
」
「でも似たような事もしてるんだろうが。大体筍を取ってきたのは旬ってだけではないからな」
御幣のありまくる龍斗の言葉に落胆の色を隠さない向雲だったが、後に綴ぐ言葉に視線を戻す。
「というと?」
「縁起物でもあるだろう?筍は成長が早く天に向かって伸びるから家運
……
もとい村の運の呼び込みを願ってもいいかと思ってな。あとは、この中だと特に風祭にピッタリだろう」
「
……
俺ぇ?」
自分に話題が来ると思っていなかった奥継は食べていた手を止め顔を上げる。
「ああ。だって筍は“子供のがすくすく成長するように”って願う意味もあるしな」
「はあっ⁉俺を子供だって馬鹿にしてんのかよっ‼」
「別に馬鹿にしてねぇけど実際お前は俺より小さいし、フラッと居なくなる俺を見つけられねえだろうが。今よりももっと成長してほしいと願う事は別に悪い事じゃないだろう?」
「~~~っっ!見てろよっ!テメエなんてすぐに追い越してやるからなっ!」
「ああ。早く大きくなれよ~」
龍斗の揶揄い交じりの応援の言葉を聞いてさらに憤慨していた奥継だったが、すぐに視線を彼から反らすとご飯を掻きこみ始めた。龍斗より成長しようと努力する彼はすぐに食べきり、腹いっぱい食べるべくお分かりを要求している。そんな彼をみて、仲間や村人たちは微笑ましそうな顔を向け楽しそうに笑った。
龍斗はその光景を眩いばかりに目を細めて、彼の姉だけに聞こえる小さな声で呟いたのだった。
「
……
そうだ。大きくなって強くなれ」
誰にも負けぬぐらい 強くなれ
ここにいる者全て 紅蓮の業火すら焼けぬぐらい
もっともっと 強く
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