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urifuji
2021-10-19 14:25:34
18798文字
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鬼哭村、料理に関する津々浦々~春:祈りの筍料理~
料理に関する双子の珍道中です。
一回目は奥継君。
只々楽しく料理をする彼らがみたい。
1
2
3
「わあっ、すごい量だねぇ!緋勇様、風祭様!!」
背負い籠2つでは足りず一度戻ったが、最終的には待ち構えていた村人が喜ぶほど大量に持ち帰ることができた。屋敷の女中は手を上げて喜び本日の功労者を称えており、その一人である龍斗は汗をかいているが疲れなど感じさせない飄々とした態度でその喜びを受け取る。
「本当はもう少しあるんだけどな、まあ今日のところはこんなもんだろう、なあ風祭?」
龍斗はもうひとりの功労者である奥継を見つめたが、彼は龍斗と違い全身から疲労感を感じさせ土間にある板敷に寝そべり天井を仰いでいた。彼等の態度の違いに周囲はおやおやと微笑まし気に見つめている。
「勘弁しろよっ。俺はもうくたくただぜ」
「ははっ、ご苦労さん。お前は風呂でも入ってろよ」
疲労困憊の奥継に龍斗は笑いながら声を掛けるが、龍斗は休む様子を見せない。全身土埃である龍斗が顔を拭く度に布は茶色に変わっており、そんな彼の姿をみて奥継は顔を歪めた。
「あ?お前は入らねぇのかよ?きたねぇ格好で屋敷に入るとマジで叱られるぞ」
「そうだよ、緋勇様も疲れているのに少し休んだ方がいいよ。それともこれからまだなにかやるのかい?」
心底龍斗を心配するおトメ(女中頭)と違い咎めなければ自分も一緒に怒られると違う心配をする奥継。二人の言葉を受けて方向性の違う心配に性格の違いを感じた龍斗は思わず苦笑を浮かべた。
「ありがたい言葉だがこいつと約束したんだよ。俺の筍羹少しやるって。悪ぃけど、茹でた筍小さいやつでいいから一つくれねぇか?あと何処かで使ってない炊事場、までは行かなくていいけど使ってもいい釜があるといいんだが
……
」
龍斗の願いに普段であったら笑顔で了承する気風の良さが売りのおトメだが、本日は悩まし気に腕を組む。
「う〜ん、貸してやりたいのは山々だけど
……
。見ての通りまだ使用中だし、今後も使う予定だから場所も釜も空いていないねぇ」
「
……
だよなあ。う~ん、困ったな
……
」
おトメが唸って周りを見渡したが、確かに彼女の言う通り炊事場では持ち込んだ筍を村人総がかりで茹でており絶賛稼働中である。筍自体を焚火にくぐらせて焼いている人達もあり、忙しい事は龍斗としても理解できていた。
しかし新参者である龍斗はここ以外の調理場を知らず、心底困った龍斗は途方に暮れたように頬を掻く。彼のそんな様子を見たおトメは意外そうに眉を上げた。
「なんだい緋勇様。もしかして緋勇様が料理を行うのかい?」
「ああ、そうだ」
「げ、お前が?お前が作る料理なんて美味いのか?」
龍斗の肯定的な言葉に奥継は思った事そのまま呟いてしまったが、その言葉をきいて間髪入れず拳を落とす。
「ぶん殴るぞ」
「ぶん殴ってから言うんじゃねぇっ!」
頭を押さえて涙目で抗議をする奥継とそれを全く気にしてない龍斗をみて絶妙すぎる掛け合いに漫才をしているのかと思う村人達である。その呆れている村人たちの中で何かを思い当たったらしい一人の女性が声を上げた。
「それなら緋勇様、礼拝堂を当たってみてはどうですか?あそこは確か大きな竈門があったはずです。聞けば貸してくれるんじゃないでしょうか」
「礼拝堂?」
「はい、村の中央付近にあるところですよ。私が聞いてきますからちょっと待っててくださいな」
そう言って仲間に声をかけて出かける彼女に龍斗は「悪ぃな」とすまなそうに笑う。片手を軽く上げ片目をつぶりながら困った様に笑う、彼の茶目っ気溢れる態度に少し笑った彼女はそのまま土間から出ていった。
未だ立腹している奥継を慰めの様な慰めでない様な微妙な言葉を掛けている間に思ったよりも早く彼女は戻ってきた。
「神父様は用事があるからその場にいる事は出来ないそうですが、お好きに使っていいですよって話していましたよ」
息を弾ませ嬉しそうに話す彼女の言葉にそこにいる村人たちは龍斗に良かったですねと微笑む。その言葉を聞いててっきり喜ぶと思っていた龍斗はしかし、驚いた顔を浮かべ「マジか」と呟いた。その意外な反応に村人たちは顔を見合わせる。
「え、流石に無用心すぎねぇ?大丈夫?俺が盗みをする様な悪い奴だったらどうするんだよ」
しみじみ語る龍斗の思いもよらない言葉に村人たちはきょとんとした表情を浮かべるが、一瞬の静寂の後周囲は龍斗の声がかき消される程の大声が響き笑った。村人の一人であるおトメもおかしそうに豪快に笑っている。
「無償で筍を村人に提供したお人が、何を言ってるんだか」
「そうですよ、自分で言ってどうするのです」
龍斗の疑念を吹っ飛ばすように笑う村人たちに、焦った龍斗は奥継を村人の前に差し出した。
「いやいや、皆こいつの猜疑心を見習ったほうがいいと思うぞ。割と真面目に」
「おいっ、俺を前面に押し出すなっ!」
矢面に立たされた奥継は龍斗に慌てて文句を言うが、そんな事を気にしていない彼は村人の反応を「ここの人達お人よし過ぎねえ?どう思う、お前」と話しかけている。龍斗のあまりの対応に「俺が知るかよっ!」とすげなく返されているが。
龍斗の言葉を受けて一度は笑っていた村人達だが、大袈裟ともとれる龍斗の反応に少し考え直したようだ。
「
……
う~ん、私達はそうは思わないけど、あまり知られていない緋勇様を快く思わない者もいないとは言えないねえ。確かにここには色々な人がいるから。家主がいない場所で一人いると、あらぬ疑いを持たれないとは、まあ言えないけれど
……
」
女中頭であるおトメは女中頭と名のある通り、屋敷に関わる色々な事を調節する為個性あふれる村人達と関わる事が多いのだろう。その中の幾人かを思い出した様で彼女は顔を捻って龍斗の言葉を肯定した。
自分が疑われているかもしれないというおトメの言葉に、龍斗は落ち込むどころか笑って彼女の言葉を受け止める。
「それなら安心したぜ。そうでなければ俺はこの村のお人よし加減をずっと心配していかなければならなくなる。そういう事なら、それならこいつを監視役として連れてくか。おい、風祭行くぞ」
そう話した龍斗は前にいた奥継の襟足を掴んで共に屋敷の外に歩き出す。一方襟足を引っ張られた奥継は、自分を付き合せようとする龍斗に抵抗する為大声を上げた。人の話を聞かない龍斗にどの程度効果があるか分からないが、このままでは龍斗に付き合わされると危惧した奥継にとってしなくてはいけない抵抗である。
「なんで俺なんだっ!風呂に入ってもいいって言ったじゃねぇか!」
「だってお前、俺の監視役だろうが。それに他の人は今から料理作るので忙しいしお前以外に適任はいない。って事だから。ほら、行くぞ。あ、やっぱ筍2つもらっていい?」
「いいよ。そもそも緋勇様が掘ってきたものだしね」
「お〜、ありがとな」
「ざっけんな、こら!おい、聞いてんのかよ!」
必死で抵抗するものの龍斗の力に勝てずそのまま引きづられていく事になり、その光景を何とも言えない眼差しで村人達は見送ったのだった。
▲△▲
結局誰も龍斗を止める事が出来ないまま、二人は礼拝堂までたどり着いた。
勝手に入るのも気が引けて声を掛けて中を伺うが、この場所を教えてくれた彼女が話した様に家主は既におらず礼拝堂は深閑としている。
静寂が漂う礼拝堂に入ると、十字を模した置物が目に入る。龍斗が今まで見た事がない物が置かれているこの場所は一種独特な雰囲気を醸し出しており、その厳粛な雰囲気は神聖さすら感じさせる程だ。
龍斗が物珍しさからその場所を見上げていると、何度か礼拝堂に来たことがある奥継は部屋を通り過ぎ、その隣にある部屋にずかずかと入っていく。終わるまで解放されないと理解した奥継は早く終わらせたいと考えた様で、「おい、早く来いよっ!」と催促させるが聞こえてた。
奥継のあまりの堂々とした態度に勝手知ったるなんとやら、と言葉が巡った龍斗であったが声の聞こえた場所に行くと確かにそこには炊事場がある。
日々手入れをしている様で炊事場は綺麗にしているが、それに反比例して色々な道具が至る所に詰まれていた。その几帳面の様な煩雑さは家主の性格が表れている。
興味なさげな奥継とは対象的に龍斗は目を輝かせた。楽しそうに道具を確認していたが一通り見ると満足したようで、もってきた筍を流しに置くと「色々取りに行くものがあるからちょっと部屋に行ってくる」と言い残し出ていってしまう。
一人残されたは奥継このまま帰ってやろうかと一瞬考えるが、これで勝手に帰った後は文句という名の体裁を受けるのは間違いない。何よりあの龍斗の作る料理と言うものがどんなものか正直少し興味がある。へまをした時には嫌みの一つでも言ってやろうと心の中で決心していると、両手に色々なものを携えた龍斗が戻って来た。
彼が持ってきたものを見ていた奥継が気づいた時には龍斗は手甲や手袋を外しており、流し周囲には水やらすり鉢やらが並んでいる。慣れている様子で準備を終えた龍斗はあまりの手際の良さに呆然としている奥継を尻目に満足げに頷いた。
「思っていたより色々な道具が揃っていて有り難い限りです。大切に使わせていただきましょう。ではでは!お料理、始めます!」
何故か料理の開催宣言をした龍斗は楽しそうにはしゃいでいるが、先ほどまで話していた朗朗快活の龍斗とは雰囲気が違う。どちらかというと天衣無縫と言った言葉が似合う様子である。
急に少女の様にはしゃぐ龍斗に少し引きながら、奥継は目の前にいる男にツッコミをいれた。
「
……
お前、口調どうした」
彼の言葉を聞いて、我に返った龍斗は訝し気に見つめる奥継に焦り慌てた。先ほどまで奥継を翻弄し飄々としていた男とは思えない変わりようである。
「お、俺は料理をするときには口調が変わる性質があるんだよっ」
彼の弁解する内容があまりにもあまりなので奥継は半眼になった。
「は?お前特殊方面の変態か?さっきの疲れで頭のどこかが切れたんじゃねぇ?」
先程とあまりにも態度が違う龍斗に流石の奥継も(主に頭の)具合が心配になってしまう。眉を寄せてマジマジと龍斗を見つめるが、その態度で奥継の気持ちを理解したらしい龍斗はやけになったように叫ぶ。
「煩いっ、ほっとけ!」
「変な物を作って無理やり食べさせるのだけはマジでやめろよな」
「なんで労いじゃなくて罰になってるんだ、もうっ!兎にも角にもさっさと作ろう。えっとまずはもらってきた筍の穂先を切って」
悪態をつく奥継に龍斗は付き合いきれないと姿勢を正しまな板と向き合った。
包丁を持ち気合を入れると先程もらった筍を皮ごと穂先を切り落とし、皮を剝きやすくするために縦に包丁を入れる。何重にも重なっている皮を一枚一枚捲っていくと、中から淡黄色のなめらかな筍が見え、身を取り出した後は硬い節の部分を切り落とした。すべての動作を終えると筍は大体掌1個半ぐらいの大きさになっている。
「うん、丁度いい大きさだな。良かった」
「
……
小さくね?」
満足気の龍斗は反対に訝しげに奥継は見つめた。皮を剥く前は掌2個大あった筍が半分位になってしまった為そう思うのも無理はないだろう。
筍は皮が厚く穂先は殆どは身が詰まっていない為剥けばそれだけ小さくなる。それを知っている龍斗は「こんなもんだろう」と話す。
「あまり大きいと中身の具が足りなくなるからこれぐらいがいいと思う、ぞ。今日は2つだしな」
「ふ〜ん」
手際よく料理をする様子が珍しいのかいつの間にか奥継は龍斗の横に立ち調理を見ていた。彼の様子を見て軽く微笑んだ龍斗は視線を戻した後、筍の裏に軽く包丁を入れ、節に沿って円を描く。包丁を抜くと薄い節は簡単に剥がれ落ち、奥にある節は丁寧に手で取り除いていった。もう一つの筍も同じ様にくり抜いていく。
「このくり抜いた節は他の具材と一緒に混ぜて入れるから横に分けて後でみじん切りに。中の具材は昨日エビを買ってきたからそれをいれてっと」
まな板の上で小気味いい音が流れ、筍が刻まれていく。刻み終わった筍はまな板の隅に置いておき、包丁から手を離した後は桶の水で軽く洗い、手を拭きながら台に向かった。
龍斗が持ってきた箱の開けると中に車エビが沢山入っており、箱を開けた途端ひんやりとした冷気が奥継のところまで流れてきた。箱に入っていたエビを見て奥継は驚愕の声を上げる。
「お前いつの間に。っていうかどこにそれしまってたんだよ。いま春だぜ?」
山菜と違いエビなどの生のものは足が速く、江戸から持ってくるにしてもこの鬼哭村は海から程遠い奥山。江戸から鬼哭村まで大人の足でも二刻から三刻はかかり、春の暖かい今の時期では村に持ってくるまで腐る可能性がある距離だ。
の、割には目の前のエビは艶があり、鮮度がよさが伺える。腐乱臭どころか生臭さすらあまりない事に不思議がっていると龍斗は淡々と答えた。
「え?今いる部屋だけど。こう、技で箱ごと凍らせて」
まさかの同室部屋、しかも技を使っての冷凍保管。確かに龍斗の技の中に氷を使う技があったような気がするが、まさか技を使用してまで食料を持ってくるとは。
「は?マジで?」
「うん。えっと何だっけ、あ、そうそう。すりおろしたものと叩いたもの2つにするんだった」
呆気にとられる奥継に生返事をして龍斗は箱からエビを取り出し頭と身を分け、殻を取っていった。剥いたエビは半分に分け一方は包丁でたたき、一方はすり鉢にいれ擦り潰す。殻と頭は隣の鍋に入れており、みそ汁の出汁として使うようだ。
すりこぎを動かし、時折炊事場で貰ってきた琥珀色の出汁を入れ混ぜていく。みりん、醬油などの調味料も同様に少しずつ入れ全体が混じるよう擦っていると奥継は何度目かになる質問した。
「なんでエビを2つに分けるんだ?」
「そうしたら食感が違って美味くなるんだよ」
「
……
ふ〜ん」
料理初心者の奥継は知らない事が多く、触感など考慮して料理を作っているとは思っていなかった。美味い食事には理由がある事をここで初めて知り、想像よりも本格的なやり方に感心をしめしている。分からない事を質問すれば馬鹿にする事無く答える為、奥継は相手が龍斗だということを忘れて興味深げに観察した。
「う~ん、もっと濃くてもいいかな?
……
うん、こんなもんか。あとは持ってきたかまぼこも刻んで、エビと一緒に混ぜてっと」
すりこぎについているすり身を少し味見して、調味料を少しずつ追加していく龍斗。調節した後は納得のいく味になったようだった。満足そうに頷くと切り刻んだかまぼこ、筍、エビをいれて全体を混ぜ合わせ、穴を開けた筍にすり身を詰めていく。
「あとはこんなふうに剥いた竹の皮でくるんと包んで蒸していくぞ」
「包むのはなんでだ?漏れないようにか?」
「そう、漏れないようにだな。筍は茹でてあるから中の具が固まったらもう食べれるよ、いや食べれるぞ」
既に釜は沸騰しており、竈にくべている木を少なくして火加減を調節する。竹の皮で包んだ筍羹を蒸し器に入れて置き蓋をすると、彼はゆっくりと目を閉じていく。
再び目を開けた龍斗は大きく背伸びをして肩を回しはじめた。首を左右に倒すとゴキッと筋肉が凝り固まっている音が周囲に大きく響きわたる。
「
……
は〜、腹減ったなあ」
首に手を置きながら半目でかったるそうにしている彼は先ほどまでの穏やかな雰囲気が嘘のように変化していた。いつもの調子に戻った龍斗に奥継は何とも言い難い表情を浮かべ、不審そうな眼差しに気がついた龍斗は、こちらも不可解そうな顔を彼に向けていく。
「どうした風祭。そんなに俺を睨んでも料理は出来んし時間も早くならんぞ。もう少し待て」
「
……
お前マジで料理中のときだけ雰囲気おかしいな。料理作ると共に頭も一緒に蒸されるのか?」
「
……
自覚はあるから少し黙ってろ」
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