urifuji
2021-04-17 11:35:53
27916文字
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ワクワク!バレンタイン 当日 現パロ

バレンタイン話です。ツイッターに乗せていた内容の再掲。女主人公視点。御神女主前提のオールキャラです。私の手癖により藍ちゃんは誰より心が強い女になってます。苦手に思う人はバックプリーズ。
御神槌さんは心配してますが御屋形様は女主人公を妹のようにおもっているだけで恋心はありません。




 人が数人入れば満帆になってしまうぐらいの小さなお店:龍の瞳は、趣味程度に行っている弁当屋だ。あまり人通りのない場所でこじんまりと経営しているが、最近は仲間の何人かが来てくれるおかげでいつの間にか口コミが広がり、13時にはすべて売り切れてしまうことがある。
 弁当屋として早々に売り切れてしまうのは由々しき自体だが、悲しいかな一人で作れる弁当の数には限界があり、今は仕方がないと辛抱中。そのかわりと言ってはなんだけど、季節感を出したいと思っていた為本日限定のマフィンを置いてみた。しかしこれもお弁当のついでに買う人が意外と多く、お弁当よりも早々に売り切れてしまった。
 これならもう少し、焼いておいてもよかったですね……
 空になったバケットを見つめて「しまったなぁ」と呟いていると、慌てた様子で自動扉から入ってきたのは、元鬼道衆メンバーであるクリス兄様。彼も九角カンパニーに所属している身だ。元鬼道衆メンバー全員職業が違うのだが何らかの形で九角カンパニーに関わっているため、九角カンパニーがいかに幅広い職業を手掛けているのがよく分かる。

「こんにちは、クリス兄様」
「Hi、シスター!今日は……、Oh, my God‼もうmuffinsは売り切れてしまったのかい?」
「え、何で今日売っている事、知っているのですか?」
「ほのかが教えてくれたんだよ。シスターが作るmuffinsは絶品からね!」

 クリス兄様はほのかちゃんのお隣さんで、本当の姉弟の様に仲がいい。
 この間に行ったお菓子作りの時に伝えたら、その情報がどうやらクリス兄様にもいったようだ。相変わらずの仲の良さは微笑ましい。

「それにLINEで情報共有されているよ。今日新作出ているよって。多分何人か来るんじゃないかな?」

 いつの間にか私の知らないうちに仲間内で情報共有されているらしい。

「誰がLINEに?」
「そりゃあ、ブラザーさ!みてみるかい?」
「は、はい」

 携帯を取り出しクリス兄様の指示通りに見てみると確かに鬼道衆と龍泉組のグループの両方に情報提供がしてある。発信者は……確かに龍斗だ。龍麻と紅葉が誕生日にくれた肩たたきチケットをアイコンにしているのは彼しかない。因みに私も同じく二人がはじめて作った料理をアイコンにしているため、意図せず行うあたり双子だと実感する。二人してただの親ばかという意見は受け付けない。

「本当ですね。……いつの間に、こんなことを」
「そう?いつも情報をくれるよ。シスターももっと告知してくれればいいのに。HPとか作ってさ」
「クリス兄様……。機械がさっぱりな私にそれは酷な話ですよ……

 私は機械が苦手……、いや龍斗曰く酷い機械音痴である。機械に触ってエラーを起こすのはあまり前で、ピーッという音と共にデータ全て消したうえパソコンを動かなくしたのは2年前の出来事だ。
 龍斗から「お前は!家の!パソコンに!二度と触れるな!二度とだぞ!!」と端的に分かりやすい強い言葉でお叱りの言葉を受けたため、それから家のパソコンには触れられない。

「きっとファーザーに言えば快くやってくれるよ!機械、得意だし、何よりシスターの頼みなら余計にね」
「う~ん、今でも散々お世話になっているんですよ?あまり甘えるのもどうでしょうか……

 SNSはもちろんの事、エクセルなんて人の名前?ってぐらい本当に分からない私は、今までの会計処理はすべて手書きで行っていた。しかし月末の売り上げ処理が本当に大変で、それをたまたま見ていたみかちゃんが自作した会計ソフトをくれた上、使い方まで根気よく丁寧に教えてくれた。また、困った時はすぐに相談に乗ってくれ壊れた時にはすぐに直してくれる、フルサポートぶりである。
 購入していないのにこんな特典がついてていいのだろうか?

「いや、大丈夫だよ。むしろどんどん頼って欲しいと思う。ファーザーにとってWINWINどころかおつりがくるぐらいさ。だってお礼に何度か食事をつくっているのだろう?」
「そうですけど、あまり大したものは作ってないですよ?」
「一人暮らしのファーザーにとってありがたいってことさ。そのうえシスターが作るならこの上ない喜びだろうしね」
……そうですね。確かに仕事している人にとって、帰ってから食事作るの大変ですし。みかちゃんは優しいですから、感謝もわすれないだろうし」
「いや……俺が言っているのはそういう意味ではないんだけど……

 クリス兄様の言葉にうんうんと頷いているとカウンター越しにいた彼はガクッと項垂れてしまった。背の高いクリス兄様はカウンターに項垂れるとほとんどお辞儀をするような体制になる為、腰が痛まないか心配である。

「まあ、ホームページは今はそこまで考えていないので。それよりhappy Valentine!」 

 項垂れるクリス兄様の目の前に、用意しておいたチョコレートを差し出した。

「うわぁ!Thank シスター!これはChocolateかい?」
「はい、いつもお世話になっているので仲間チョコです!」

 そう言って渡す私に嬉しそうに受け取るクリス兄様。

「I'll eat it carefully!妹にもほのかにも、そしてシスターにも貰えた俺は幸せ者だね!これで午後の仕事頑張れそうだよ!
 あ、そうそう大事なことを忘れてた。シスター、確認なんだけど……

 本当に幸せそうに笑い大切そうにチョコレートを胸に抱いていたクリス兄様だったが、急に思い出したことがあったのか真顔になり、私に向かい手を招き寄せるように動かした。不思議に思いながらも彼に近づくと手を耳元に寄せ、ひそひそ話をするように小声で話す

「ファーザー宛のChocolate、用意しているかい?」

 ……なんでみんな私が用意していると知っているのだろう。
 赤くなった顔でクリス兄様を上目づかいで睨む。

……それもほのかちゃんに聞いたんですか……
「なんでほのか?違うよ、きっとシスターなら用意していると思ったから。Different?」
「ち、違いません……

 キルシュヴァッサーの洋酒漬けにしていたサクランボを丸ごとビターチョコレートでコーティングしたチョコレートは、お酒の強い彼の為昨日の夜に作った自信作。アルコールの弱い自分は味見は出来ないが、何度も龍斗に味見をしてもらい、ようやく完成した品である。さくらんぼを多く漬けていなかったため数は少ないが、受け取ってもらえると嬉しい。
 しかし、私の返事を聞いた途端クリス兄様は芝居がかった口調で「Oh, my God!」と顔を覆った。

「ど、どうかしましたか?」
「Sorry……、シスター。もう少し早く気づけばよかったんだけど……
「え、え、何ですか。なんだかすごく怖いんですけど」

 オーバーリアクションにしても不穏な行動をするクリス兄様に、否応なしに警戒感が高まる。
 聞きたくない、なんだかすごく聞きたくない。
 本能的に怯える私に、クリス兄様は容赦なく言い渡した。

……残念だけど、ファーザーはチョコレートあまり好きじゃないみたいなんだ」

———聞きたくかった言葉は、どうやら助言ではなく死刑の確定判決だったらしい。

 ごめんねと言いながら力なく顔を横に振る彼が目に入らないほど、目の前が真っ白になりふらふらとカウンターに突っ伏す私。先ほどと対照的な光景である。クリス兄様はそんな私をみておろおろとするばかり。

「嘘でしょう、クリス兄様……?皆さん、そんなことは一言も……。チョコレート、食べていた姿見たことあるのに……

 突っ伏したままガーン、ガーン、と衝撃音が未だに鳴り響く今の私では、そういう言葉が精いっぱいであった。あまりのショックに未だ頭は回らない。

「Sorry……。以前Valentine好きじゃないって言ってたから、理由を聞いてみた時そう答えていたんだ。シスターなら知っていると思って昨日言わなかったんだけど、そんな事なら電話すればよかったな」
「さすがです、クリス兄様。銃無くR.I.P. Shotを打てるなんて……

 世界樹であり黄龍の器(仮)であるはずの私が、まさか四神の一人であるクリス兄様の無自覚な攻撃を受けるなんて思わなかった。色々な意味で私の心はすでに瀕死状態である。今ならステータス画面上毒と混乱状態が付与されている事だろう。
 だって何も知らなかった。チョコレート苦手な事も、バレンタインが嫌いな事も。今までの自分の浮かれっぷりに頭を抱え、今すぐにでも穴に入りたかった。家に帰って鎖国したい。

 ……いやいや駄目だ。だって今日は。今日だけは。

「ま、まあまあシスター。ファーザーはシスターの貰えるものなら何でも嬉しいはずだよ」
「いいえ、駄目です、嫌いなものなんて渡したくありません!喜んで欲しいのですから!」

 頭を軽く揺らした後、がばっと起き上がる。情けなくなる気持ちを無理やり振るいあげ、天井に指を突き上げ宣言した。

「こうなったら今日が終わるまでにみかちゃんの好きなものを買いに行きます!有難うございます、クリス兄様!もう少ししたら閉店時間が来るのでお店を閉めちゃいますよ」

 落ち込む私を心配していたクリス兄様だったが、私の急な宣言に呆気にとられた後破顔し、部屋中に響き渡る程大きな声で笑った。

「ははは、シスター、めげないね。That's a stone's throw!」
「当たり前ですよ、今日は一年に一回のバレンタインなんですから!」

 女性の戦争の日です!と気合を入れて、閉店を行うべく片づけを始める。それを優しく見守るクリス兄様。壁に備え付けられている時計の針をみて、ふと彼に伝えた。

「そういればクリス兄様。午後のお仕事大丈夫ですか?」
「OH






 店を閉店させ近くの大型ショッピングセンターを3時間かけて見回り、納得のいくものを購入したときにはすでに17時が回っていた。
 場所的に直接届けられない仲間の何人かは仕事前に桔梗姉様の処に行きチョコレートを渡している為、直接渡すのは仕事場が近い雹姉様と、……みかちゃんだ。
 場所的にみかちゃんの方が近いが、諸事情で雹姉様の処へ。情けないというがなかれ。先に雹姉様の処にいって癒されたいと思うのは悪い事じゃない。
 雹姉様の仕事は玩具の設計及び開発を行っている様で、前世でカラクリを設計し整備している彼女にとてもあっていると思う。カラクリから玩具に変わっているが、仕事の話をしている姉様はとても生き生きして、楽しそうにしているためきっと天職なんだろう。前世での彼女を知っている分今の彼女を見ていると本当に嬉しく心底よかったなあと感じていた為、鬼道衆メンバーで食事をした際に普段思っている事を伝えると、姉様は顔を赤らめ、お礼を言って抱きしめてくれた。しかしそこに居た皆から微笑ましいものを見るような顔で頭を撫でられたのだけは今でも解せない。
 そんな彼女の職場にてくてく歩き、終わったと思う時間に電話連絡する。昨日連絡した時にこの時間なら大丈夫と言われたのでいいと思うのだが、電話をかけてもなかなか繋がらない。

 ———……?忙しいのかな?

 一度切ってリダイアルしようとしたが、ちょうど切るタイミングで繋がったため、恐る恐る話しかける。

……もしもし?雹姉様?」
「ああ、鈴様!良かった、すぐ近くにいるのじゃな?」
「?はい、仕事場の近くにいますよ」
「すまんが、まだ仕事が終えてないのじゃ。こちらに来ることは可能かぇ?」
「大丈夫ですよ。どちらにいけばいいですか?」
「13階じゃ」
「わかりました」

 九角カンパニー会社の一角にあるこの高層ビルは様々な業種が入っており、普段なら従業者以外立ち位置禁止だ。家人でも入ることが許されない。……本来なら。
 私達緋勇一家(私、龍斗、龍麻の3人と紅葉ちゃん)は現社長の九角鬼修さん(若様のお父さんだ)から直々に会社を出入りできる特別許可を何故かもらっている為入れるんだけど。
 ……あれ、何でそんなことになったんだっけ?
 エレベーターに乗っている時、特別許可を見ながら経緯を思い出そうと思ったが、その時はとても大変な時期で、色々な事件が重なっていたこともありどうしても思い出せない。そうしている内にエレベーター内で目的の13階についた音が鳴り響いた。受付に声を掛け、雹姉様の名前を出すとどこかで電話をかけていた様子の雹姉様は慌てた様子でこちらに気づいた。

「よく来た、鈴様!今までは何処に?」
「え、すぐ近くのショッピングセンターに行ってましたよ?ほらすぐそこの」

 ビルから見える店を指差すと、あ〜……とため息をつく姉様。

「こんなに近くにいたのかえ。なんじゃ、昼に言っても店は閉まっておるし、連絡は取れんし、御神槌がはらはらして面白い事になっておったわ。妾も大丈夫だとは思うたが、以前のことがあるゆえ、また事件に巻き込まれたかと思うてな。心配しておったぞ」

 みかちゃんの名前が急に出てきたためドキッと心臓が慌てる。
 そっか……、心配してくれていたのか。
 頬が赤みを帯びるのを感じた。

「えへへ……、心配させてしまいすいません」
「悪いとは思ってなさそうじゃな……。しかしどうして今日に限って店を締めたのじゃ?」

 頭を謝る私に軽く肩をすくめ、腕を組んだ彼女。背が高くすらっとしている雹姉様はパンツスーツ姿も決まってカッコいい。それで仕事もできるものだから女性社員から人気が高く、バレンタインでは男性の火邑ちゃんより女性の雹姉様の方がチョコレートを多く貰っているとみかちゃんに教えてもらったことを思い出した。やさぐれ火邑ちゃんを慰めていたら、彼の赤い顔が次第に蒼白に変わっていったのは、きっとお酒の飲みすぎだったんだろうな。
 お互いのチョコレートを交換し、質問を続けた雹姉様の後ろで女性社員の悲鳴が上がるが、彼女は全て総シカトである。いいのかなあと悲鳴の方を見つめる私に「これ、鈴様」と再び声を掛けられた。

「え?ああ、やっていましたよ?あ、でも今日は急に用事が出来たので、予定よりもずっと早くお店は閉めちゃいましたが……
「なんじゃ、入れ違いか……、携帯はみておったかえ?」
「え?携帯?」

 雹姉様に電話をかけるときは慌てていた為全然気づかなかったが、よく見ればLINEに沢山連絡が入っていた。メッセージがよく入っているのは……みかちゃん!電話もしてくれていた。

「あああごめんなさい~、お買い物に集中して全然気づきませんでした……
……鈴様らしいの。しかしそんなに急な入用だったのかえ?」

 不思議そうにそう尋ねる雹姉様。ぎくっと肩がこわばるのを感じた。

———いえない、リサーチ不足だったなんて……

 曖昧に笑っていると何かを察した彼女から急にガッと肩を強くつかまれる。
 眼光が、鋭い。

「まさか……、他の男と会っておったのか?」
「え?」
「だれじゃ!?ま、まさか天戒様と言う訳ではなかろうな!!」
「はっ!?」

 雹姉様の悲鳴のような追及に周りからどよめきと悲鳴が上がる。そんな周りを一切気にせず、私を問い詰める姉様。力強く肩を揺さぶる為頭ががくがく揺れる。
 やめて、もげる、首がもげてしまうから!

「おかしいと思ったのじゃ、いつもは渡さぬ手作りを今日に限って作ってきたと聞いた時には!しかもチョコレートじゃと!それを天戒様が嬉しそうに受け取ったとも聞いた!
 もしかして昼時約束をして食事を一緒に食べに行ったのか!そうなのか、鈴様‼」

 彼女の悲鳴と共に周りの悲鳴も大きくなる。さらにどこからか社員の人からも「おい、あの子弁当屋じゃないのか?」「え、あの次期社長が血眼で探したと言われるあの?」「この間九桐さんと桔梗さん達と話しているのをみたぞ」「次期幹部補佐候補じゃねえか!?幹部中の幹部だぞ!」「すげえな、あの子」「やり手だな」との声が広がり、波のようの様な熱量がこちらに向ってきた。
 やめて!やめてください‼誤解が誤解を生んでいる‼二度とこの会社に来れなくなります‼

「違います違います誤解です姉様やめてください‼本当に買い物に行ったんですよ、信じてください‼なんなら買ったもののレシートもありますから見せますよ‼それに今年チョコレートを贈ったのは藍ちゃんから(強制的に)勧められたからで他意はありません‼朝桔梗姉さまにも詰められて大変だったんですから、本当に他意はないです‼雹姉様が若様に憧れているって知っているのにそんな事するわけないじゃないですか‼本当にそうならすでに言ってますよ、早々に‼」

 大声で反論し、肩を揺らすのをやめてのを見計らってから鞄から今日購入したレシートを渡す。そのレシートをじーーーーーっと親の仇のように見つめた後、「……本当の様じゃの」と呟き納得してくれた。

「な、納得してもらえたなら光栄です……

 大きくため息を吐く。激しく揺られたため気持ち悪く、首が痛くて吐くかと思った。
 会社に来る前に身なりを整えたが今じゃすっかりボロボロになった私に、すまなかったのと謝られた。

「じゃが、この酒肴品とはいったいなんじゃ?鈴様お酒は飲まんじゃろうて。つまみ好きじゃったかの?」
「だってみかちゃん、チョコレート嫌いって聞きましたから慌てて……

 言い訳の様になってしまったが、正直に話す。そういえばいつも応援してくれている雹姉様だけど今回は何も言われなかった。

「御神槌が?チョコレート嫌い?」

 私の話を聞いていぶしがる雹姉様。どうしたんだろうと聞こうとしたその際、周りにいた会社員数名が近づき声を掛けてきた。

「水遠寺さんがいう御神槌って、プログラマーの御神だろ?うちの部門と連携している。バレンタインの時何があっても告白を受けないと有名な」
「あ、知ってる。義理以外どんなものでもうけとらないっていうあの有名な御神さんでしょ?今回も回覧回ってきたよ」
「え、何それ」
「知らないの?この時期に回ってくる女性社員限定の極秘回覧があるのよ。告白しても断られている人が何人もいて泣く人が多いから……。御神さん以外にも何人もいてね……

 そう話す周りの声を聞いて、彼が女性から人気がある事実を知りショックを受ける。そんな事無いですよと困った様に笑っていたけど、やっぱりモテていたんだ……。優しくて頼りがいがありますもんね……、そりゃあ好きになる人が絶えないよ。私みたいに。
 ガーンガーンと再びショック受けている私を心配してか雹姉様は周りを咎めながら窘めた。

「これ、余計なことを言う出ない!」
「だって水遠寺さん、知らないと余計ショックだろ。知っておいたなら多少ショックも和らぐだろうし」
「鈴様は知らなくてもよいのじゃ。関係ないのだから!」
「いや、今から渡す相手なのに関係ないわけないでしょ……

 周りでそんな会話をしていたらしいが、俯き自分の考えにのめり込んでいた私の耳には入ってこなかった。心配した彼女は私の背を軽く摩り、労いの言葉をかけてくれた。

「鈴様、何も知らない愚か者どもは気にするでない。あやつはずっと待っておったのじゃ」
……いいえ、大丈夫です姉様。心配ありがとうございます」

 自分でも硬いと自覚できる声に雹姉様が怪訝そうな顔を向けた。眉間に皺を寄せキッと顔を強く引き締め、前を向く。

「今日はバレンタイン!女性や男性にとって戦争の日です‼たとえ望みが少なかろうが、もしかしたら、ふ、振られようが!みんな勇気をだして言ってきたのです‼ここで敵前逃亡するのは我が緋勇家の名が廃る‼頑張ります!ええ頑張りますとも‼」

 周りから「お~頑張れよ~!」「いいねえ、その勢い」等とヤジが飛ぶ。
 私は顔をパンと軽く叩き戦闘開始前の様に気合を入れなおす。ぐっと力強く握りしめた後姉様の方に向かうと、ちょっとびくっとしている彼女がいた。

「雹姉様‼行ってきます!もし振られたらクリス兄様に墓標を掘るよう依頼してくださいね‼」
「待つのじゃ鈴様、何故振られる前提なのじゃ‼そしてなんでクリス‼?」

 手を大きく振って走り出す。後ろから大きな声が聞こえた様な気がしたが、そのまま走り出した私には届かず、廊下に大きく響いたのみであった。




「行ってしまった…………お主ら、余興じゃないのだぞ」

 周りを見渡しじろっと睨む。囃し立てた連中はにやにやと明らかに面白がっている様子だ。

「え~、だって面白いじゃん」
「初恋をかなえようとしているのかな?まっすぐで可愛いね」
「振られたら御神の分のチョコレートくれないかなあ~」

 彼の恐ろしさを知らない愚か者たちを横目でみて、ため息を吐く。

「残念ながら鈴様は妾より年上じゃぞ」
「「「えっ?」」」
「あと鈴様は御神槌の大本命じゃ。揶揄い振られることを期待してふざけて送り出したなんて聞いたら激怒する御神槌が容易に想像できる。なんてことをしてくれたんじゃ。ああ、恐ろしい」
「「「え゛っっ‼?」」」
「お主ら、(御)神(槌)の怒りを知るがよい。妾は知らぬ、関わりたくもない!本気で知らぬからな‼」

 固まっているスタッフを放っておき、鈴様がくれたチョコレートをみる。

……しかし、御神槌がチョコレートを苦手など……誰がそのような嘘をついたのだか……
 高校時代から彼女のチョコレートのみ欲しがっている事を知っている雹は、不可解な出来事に首を傾けた。