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urifuji
2021-04-09 10:22:23
25395文字
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おかま騒動
誤解されまくった龍斗の怒りに巻き込まれる不運な仲間達。オールキャラです。息をするように双子主人公います。大体陰6話ぐらいの時の話。
1
2
3
「さて、皆々方に置かれましては、忙しい身でありながら俺の招集で集まって頂き感謝申し上げる」
「気持ち悪ぃ言い方するな、何様なんだお前!
……
で、一体何なんだよ?」
夕七つの鐘が鳴った今、大広間に鬼道衆が集合していた。
いつもの様に上座に天戒、その横に嵐王が控え、彼らの両隣に向雲、桔梗、その後に奥継、御神槌、弥勒、奈涸と其々がそれぞれの席に座って龍斗を見つめている。
龍斗は普段なら奥継の隣の席にいるのだが、その席は今は空席だ。その代わり上座と反対側
…
つまり下座に立って、座っている皆を見渡している。挨拶をしながら恭しくお辞儀をした彼の手には太い蝋燭が握られており、何故かよくわからないがそれを口元に近づけ拡声器を持つ様に話していた。太い蝋燭には火がともっているが彼が話していても消えることはなく、吐息なんて感じない様にゆらゆら揺らめいている。
口調は酷く丁寧な龍斗だが、目は冷え切っており陽気な龍斗が笑ってないだけで恐ろしく感じる。美人が怒ると迫力があると言われるように、今の龍斗からは言い表せないほどの威圧感を感じていた。
ここに集まっている彼ら全員、虫の知らせ、嵐の前の静けさといったような不吉な言葉が頭に浮かんでいる。
「さて、皆さまの疑問はそこに居るちびっこと同様と思いますが、俺も皆様方にお聞きしたい事がございます。
……
一度でも俺をおかま野郎と思った奴は今すぐ前に出てこい。今ならまだ秘拳・白虎で許してやる」
ちびっこという言葉にすぐに反応を示し、立ち上がろうとした奥継であったが、彼の地を這うような低い声聞いて座りなおした。
あの無謀な言動を繰り返す奥継でさえも、やめておこうと思う今の龍斗の圧力。いつもなら長い前髪で隠れている目は、今は眩しい程金色に輝いており、彼から溢れ出す氣でその前髪は揺らめいていた。何なら髪全体が揺らめいている。
そこに居る鬼道衆全て、心の中で一致した。
はい、またはYESといった瞬間殺されるっ
……
!と
そして彼らの予感は正解も正解、大正解であった。
「
……
おいこら。何でみんな揃って顔をそらす。なあ、どうなんだ?」
目があった瞬間質問されるだろうと踏んだ彼らは揃って目を反らした。
野生の熊に出会ってしまった気分の彼らは顔を蒼白にして龍斗が近づいてきても顔を反らし続けている。特におかまの言葉に笑った御神槌(龍も鳴かずば撃たれまい参照)は見るもの全て哀れに思うぐらい蒼白を超えて白くなっていた。
「
……
ってなんでお前なんかに、俺らが圧迫面接を行われなきゃならねえんだっ!ふざけるなっ‼」
彼の威圧感に耐えられなくなった奥継(と書いて死に急ぎ野郎と読む)はいつものように龍斗に指を突き付け怒鳴った。奈涸に絡んていた龍斗はゆっくり、時間をかけて奥継に向き合う。
振り向いた前髪から見えるぎらぎらとした金色の光をみて、びくっと震えるのは奥継の方だったが。
「そうかそうか。一番初めは奥継、テメエか。おい、もしかしてお前も俺の事をおかま野郎と思った口か?」
「そ、そう思って何が悪いっ!テメエは時々女言葉になってくねくねしてやがるっ!立派なおかま、いや女野郎じゃねえかっ!」
大災害だ。
龍斗の地雷原を最大限に踏み向いた彼に、ある意味拍手喝采を行い、同時に皆で頭を抱えた。
彼の地雷という地雷を多発的に同時に踏み抜くなんて誰にもできない真似だ。さすが特攻野郎。感心できない。
「
……
ほうほう、なるほどなぁ
……
。
テメエは、ずっと、俺を、女みたいっ、だってっっ、思っていやがったのかっっっ‼‼‼」
奥継の言葉をはじめは冷静に聞いていたが、単語を唱える度龍斗の氣が爆発的に増えていくのが分かる。思わず奥継の周りにいた仲間たちは一斉に非難し、残るは奥継のみ。
龍斗の叫び声に合わせ、今まで見たことがないぐらいの大きい秘拳・黄龍が飛び出し、吹っ飛ばした奥継と共に屋敷の壁も飛んでいく。
おかけで大広間に人が手を伸ばし2人並んで通れるぐらいの、半強制的な悟りの窓の出来上がりである。なんとまあ風流になった事でしょう。ただし、その窓は通気性がいいが閉めることは出来ないけれど。
……
というか秘拳・白虎にすると言っていたのはどこ行った。
悟りの窓(龍斗作)を呆然と見つめる仲間たちに龍斗は「さて、次はだれだ
……
?」と肩をごきごきと鳴らして呟いた。震えあがる仲間達。
「ま、待て龍斗!一人一人に尋ねて、これ以上屋敷を壊されてはたまらん‼お前は皆に何かいいたことがあるんじゃないのかっ⁉」
勇気をもって龍斗を止めたのは他でもないここの主人、天戒その人である。
彼の言動に元々あった天戒の株がさらに上がる鬼道衆の方々。天戒の言葉に機嫌悪そうに答えた龍斗であったが、自身のの開けた窓(穴ともいう)をみて少し冷静を取り戻したようだった。
「ああん?
……
まあ、そうだな。直接聞くのはやめよう。ただし答えろ。
……
俺の事をそう思ったことがない奴だけ、顔を上げろ」
腕を組み、仲間を見つめる龍斗。
シーンと響きわたるような静寂が少しの間続いたと思ったら、くっくっくと龍斗の声を殺すような笑い声が響き渡った。思わず顔を上げる仲間達。
「
……
ふっ
……
、くっ、くっ
……
。
まさか一人も顔を上げないとはな、さすがの俺も恐れ入ったわ
……
」
顔を隠して笑う龍斗の言葉に、仲間たちは自分以外の仲間達を振り返った。
桔梗は頭を抱え、向雲は悪いと言いたげに顔の前で手を上げる。御神槌は静かに十字を切り、弥勒はゆっくり顔を振った。奈涸はすでに目を閉じている。天戒は腕を組んでおり、嵐王は天戒に逃げる様に誘導していた。
誰か一人ぐらい顔を上げていると思っていた仲間たちであったが、残念ながら皆無であった。
彼らが感じたのは確かに死の恐怖だった。これは死ぬ。間違いなく死ぬ。絶対に死ぬ。避けられない危機が今ここにある。
龍斗は笑うのをやめ、静かに天井を見つめた。表情はすでにない。
……
あ、死んだなこれ。
この集会にでてから、何度目かの意気投合である。
「これが現実だ。
……
わかったか?
……
、分かったならなぁ、今すぐっ!出てこいっ‼すずなぁっ‼‼‼」
先ほど見た秘拳・黄龍が飛んでくると思い、身を縮め我が身の最後を覚悟していた彼等であったが、龍斗の怒鳴った言葉に聞きなれない名前が聞こえてただけで技が飛んでくる気配はない。
……
すずな?一体、誰だ?
彼らは時間を置いてから、其々そろそろと顔を上げ始めたが龍斗は相駆らわず天井を見上げ立ちすくんでいるのみ。声をかけようか戸惑っている彼らの前で、龍斗は次第に顔を下げ、仲間の方に向いた。
警戒を強める仲間たち。
龍斗は彼らの方に体をむけ、ゆっくりを目を開けると、
「ご、ごめんなさぁい~
……
」
べそをかいた。
☆
「だぁっっっっから、言ったじゃねぇかっっ!!お前はぼろが出やすいから、俺に扮するのは無理だって!!」
「だってだってだって!出来ると思ったの、いつも見てるから
……
」
「そう言って前もバレたの忘れたのかよッ!!馬鹿なの?!馬鹿なんだな!おい、馬鹿ッ!!」
「もうっ、悪い口!馬鹿馬鹿言わないでよぉ~
……
」
呆気にとられる彼らの目の前では龍斗が一言一言話す度に表情と口調がコロコロ変わる。怒っている様子の彼とそれに泣きそうな顔で会話する彼と二人で話している様だった。実際には一人しかいないけれど。
少し上を向いて何かと話している姿は、常人の様子とは考えられず、先ほどの死の恐怖とは違う得体の知らない恐ろしさを感じ始める仲間達。
「龍斗
……
?」
「な、何だ
……
?表情と声質がコロコロ代わって、気持ちわりいな
……
」
いつの間にか復活し、大広間にやってきた奥継が龍斗をみてドンびいている。口は悪いが、彼の言葉は全ての仲間の思いを代弁していた。
「ほらっ、みてみろ。あいつら全員引いてるじゃねえか」
「ううっ
……
、こうなるから気づかれないよう頑張っていたのに
……
」
自分たちと仲間と温度差がある事に気づいた龍斗(達?)はすっと畳に座る。いつもはドカッと荒い動作で胡坐をかく事が多い龍斗だが、今日は無駄のない動作で足を揃え、彼らの前で正座をしている。
そして畳に手を着き、未だに呆気に取られている彼らに向け深々お辞儀を行ったのだった。
「皆々様に置かれましては、初めてお目にかかる事を光栄に思います。私は龍斗の体に共存させていただいている龍斗の姉、緋勇鈴菜でございます。今後様々な面でご迷惑をお掛けする事とは思いますが、弟共々どうぞよろしくお願いします」
丁寧な所作と挨拶を行った鈴菜は顔を上げ龍斗の顔でにこっと笑った。相分からず訳が分かっていない仲間たち。
「きょ、共存
……
?」
「一体、どういうことだ
……
?」
桔梗と弥勒が当然の疑問を呟く。
「そのままの通りだ。龍斗と鈴菜は5年前からあのような状態らしい」
2人の疑問に答えるのは意外な事に天戒だった。
「若、知っていたんですか?」
「来た時から様子がおかしかったからな。御神槌の件が落ち着いた後ぐらいだったか?龍斗に尋ねるとそう答えてくれたぞ」
なんでもないように答える天戒。それに軽いため息で反応を返した向雲は、未だ姿勢正しく座っている彼女に向き合った。
「しかし、それにしては随分丁寧な挨拶だな」
「それはそうですよ。私はこんな也だから、挨拶をぞんざいにする訳にはいきません。大体皆さんに失礼じゃないですか」
腕を組んで、顔を軽く傾ける彼は、確かに自分たちの知る彼の動作ではない。その中で奈涸が軽く手を挙げ、それに気づいた鈴菜が「はい。奈涸さん、どうぞ」を声をかけた。
「俺の名前を知っているんだね」
「はい。ずっと見ていましたから」
「
……
そうか。では色々な事を確認させてもらおう。君は龍斗君の姉といったが、それはどういう意味だ。何故彼の体に入っている」
目を細め警戒をしてる様子の奈涸は、冷静を装う為に淡々と尋ねた。他人が聞けば酷く冷たく聞こえるだろう声に鈴菜は変わらず穏やかな表情を浮かべている。
「ひとつずつお話ししましょう。まずは龍斗の姉という意味ですが、そのままですよ。血縁関係という意味の姉です。
まあ、たっちゃん
……
あ、たっちゃんとは龍斗の事ですが、双子なので正直姉なのか妹なのか分からないとの声はありますが、それでも私は言います!私が姉です!お姉ちゃんなんです!」
彼女の言葉に一瞬えっと表情を変えた彼等だったが、彼女のエッヘンと胸を張った言葉を聞き思わず毒気が抜かれた。
姉宣言をし終えた後には、急にあきれた表情を浮かべている。今龍斗に変わったようだ。
「何がお姉ちゃんだよ。姉と宣言するぐらいならもっと演技を上手くして、周りを騙せるぐらいの頼りがいを見せてくれよ
……
」
「こ、こらっ、たっちゃん!駄目駄目!こういうのは最初が肝心なんだから、余計な事を言わないで!」
「もう遅くねえ?」
「遅くない!」
一人でノリ突っ込みのようにせわしなく動く彼に緊張感という言葉はもはや皆無だった。思わず目の前の光景に呟く九桐と桔梗。
「
……
俺らは何を見せられているんだ?」
「
……
龍斗の一人漫才、かねえ
……
」
「そう、思うよな
……
」
一通り文句の終わった鈴菜はコホンと息を整え、もう一度背を伸ばす。しかし取り繕うもすでに雰囲気は随分緩んだものに変わっていた。
「話を戻しましょう。えっと、後は何故たっちゃ
……
龍斗の体に入っているかという事ですが、う~ん。正直よくわかんないんですよね」
「分からない?」
「はい。私は実体がないので、今はたっちゃんの氣で存在を維持しているんですが、正直今の状態になった前後の記憶がないんですよね。色々な事があって、気が付いたら私はこの姿になりました」
「はあ?なんだよ、その色々な事ってよ」
「えっと
……
、あ。
……
うっせえなあ。色々は色々だよ。何でもいいだろうが。色々な理由があってこんなになった。それから俺らは故郷を離されずっと旅をしている。
……
ただ、それだけだ」
あまりにもあいまいな表現に奥継が突っ込みを入れるが、話の途中で龍斗に変わった為に穏やかな口調が荒々しい様子に変わった。ぶっきら棒に顔を反らす。
彼らの過去は、龍斗の柔らかい部分で触れられたくない部分なんだろうと同じ傷を抱える彼らは瞬時に理解した。そして、彼女がどうして体がないのかもなんとなく理解できてしまうのが辛い。
雰囲気が少し暗くなりそうな時、原因である目の前から明るい声が響き渡った。
「こ~ら!いつも言ってるでしょ?たっちゃんは只でさえ機嫌が悪いと人相が悪くなるんだから。口も元々悪いし、そんな態度じゃ誤解されちゃいますよ!ほら笑顔笑顔!」
「
……
おい」
この中で一番明るいのが何故か実体のない鈴菜だった。龍斗の体に入りながら彼の頬を伸ばし、苦情を言っている。そんな賑やかしい彼らの様子をあきれたように見ていた桔梗だったが、ある事を思い出し鈴菜に声をかける。
「あんたが龍斗の中にいたことは分かったけど、それじゃあ私に薬をくれたのはあんたかい?あれは本当によく効いたよ。傷も残らなかったし、ありがとねえ」
彼女に傷薬をもらった時の感謝を伝えると意外そうにするのは鈴菜だった。
「えっ?よく私だと分かりましたね。いえいえ、お役に立てたならよかったです」
「分かるよ。大根役者よりもひどかったからねえ」
「え゛
……
?」
そんなに酷かった
……
?とショックを受けている鈴菜に、あのっ!と次に声をかけたのは御神槌。聖書を強く握りしめ、少し緊張気味だ。
「そ、それじゃあ!井上屋敷に行く前に私に声をかけてくれていたのは
……
」
「それもよくわかりましたね。はい、私です。悪いとは思いましたが
……
」
「そう、ですか
……
。それでは、ごんも
……
?」
「
……
え?ごん?狐に見えますか、私?」
人としてすら振る舞えないの
……
?とさらにショックを受ける鈴菜。
その後も各々不思議に思っていた事柄を鈴菜に質問攻めにした。
「簪を欲しがったのも、君か」
「う
……
そうです。兎、とても可愛かったですし
……
」
「俺のほつれていた袈裟を縫ったものお前か?」
「ほつれているのをそのままなのは良くないですよ!」
「俺の隠していた菓子を食ったのはテメエかッ‼」
「えっ?何それ知りません」
「あ、悪ぃ、それは俺だわ」
「龍斗テメエッ‼」
今までの不思議な出来事は全て鈴菜のせいになるところだった。
あらぬ疑いを弟の手で回避した(というかそそもそも彼のせい)彼女であったが、彼らのいつものじゃれ合いが始まった途端龍斗の体からすっと飛び出る。別にそのまま弟の中にいてもよかったが、彼らの古武術でのやり取りは同じ古武術を嗜む鈴菜にとっても勉強になる為じゃれ合いを行っている際は大体体外に出て眺めていた。
今日は龍斗視点で見てみようと思った鈴菜は彼の斜め上に寄り添うが、何故か奥継がらぎょっとした顔をされ、龍斗の方に指を向ける。
「あっ!?おい、龍斗‼まさかそいつも一緒に戦うとかいうんじゃねよな?」
「
……
は?」
「おい、奥継。お前は何を言ってるんだ?」
「九桐を巻き込んで俺をごまかそうとしてもそうはいかねえぞ!テメエの傍にいるじゃねえかっ‼ふわふわ浮いている奴がっ‼」
奥継のビシッと刺した先は確かに龍斗だ。しかし、その指は少し斜め上を示しており、実際に指の先にいるのは見えるはずのない、鈴菜がいる。
思わず龍斗と鈴菜は顔を見合わせた。共に眉間に皺を寄せ、しばらく頭をひねった後、龍斗がササっと手を動す。その動作に彼女は深く頷き、彼の傍を離れると、代わりに奥継の周りをぐるぐると回った。
「
……
」
「テメエちょろちょろ動くな!おいっ!」
彼女が近づく度、奥継は近づく彼女を避けようと体を反らしている。
その動きに確信を持った。
「おいっ!奥継‼」
「何だよ、テメエこいつを何とかしろ‼」
「って言うことは見えるんだなっ!おいっ!お前どこまで鈴菜の姿が見える!?声は聞こえるのかっ!?」
奥継は何しても離れない光の管理者である龍斗に苦情を申し立てたが、その龍斗は追い払うどころか逆に奥継に詰め寄ってきた。ご丁寧に彼が逃げないように、肩を強く握りしめている。
「テメエ
……
この手を離しやがれっ!」
「いいから答えろっ‼奥継‼」
『奥継君っ‼』
いつもの飄々とした態度が嘘のように必死であり力加減を忘れている龍斗に戸惑い、同時にこんな奴に戸惑う事自体が腹立たしい彼は制御できない感情で溢れかえった。苛立ちを吐き出す様に叫ぶ。
「うっせえ‼人の形をした黄色い光の塊がふわふわしてんだっ‼それが何だっていうんだ‼耳元で何かを叫ぶんじゃねえっ‼」
渾身の力を込めて、肩を掴んでいた龍斗の手を払いのけた。
はあはあと息が上がっている奥継に対し、困惑しているような、寂しそうな、泣きそうな顔で見つめてくる龍斗。その表情をみてさらに苛立ちが増した奥継は奥歯を強く噛み締めて、ギリッと悲鳴のように鳴く音を隠した。
「奥継」
「御屋形様!!コイツおかしいですよ!ついに頭が狂ってきやがった‼」
なんでこいつの表情をみて変な思いをしなくちゃならないんだ!と悔しい気持ちを隠す等に罵倒する奥継は、周りからどんな目で見られいるのか理解されていなかった。冷静とはほど遠い彼に天戒は声をかける。
「落ち着け。お前には今隣に人の形をした光の塊が見えるんだな」
「そうですよっ!見えますよねっ‼」
「俺には見えん。お前が言っている光がどれか見当もつかん」
「へっ
……
?いや、何言って
……
。こ、ここにいるじゃないですか!」
「
……
すまん」
奥継は指をさして一生懸命天戒に場所を報告するも、彼はじっとその場所を見据えるがすぐに目を閉じて顔を振る。敬愛する御屋形様からの言葉に呆然としていると、追い打ちをかける様に仲間達から報告が上がった。
「奥継。悪いが俺も見えん」
「私も分からないねえ」
「
……
私もです」
「
……
無理だ」
「俺も、だな」
「若が見えないものを儂が見れると思うのか?」
「
……
嘘だろ
……
?」
予想だにしていない言葉の数々に、奥継は少しずつ頭を抱え始めてしまう。そんな彼の肩をポンと叩き、龍斗は慰める様に話した。
「まあ、そうだよな。俺も長らく色々な場所を旅をしてきたが、鈴菜の形をとらえることが出来たのはお前が初めてだ。お前は古武術を駆使することで氣が読めるから、あいつの氣をとらえることが出来たんだと思う」
「
……
なんだよ、急に」
「褒めてんだよ。氣の使い手として誇っていいぞ。だが
……
」
彼の聞きなれない誉め言葉にどう反応していいのか困った奥継だったが、彼の最後の言葉がなんとなく気になる。眉を寄せ続きを促す様に見つめていると、龍斗は切れ長の目と形の良い口を三日月の形に変えにんまり笑った。
『うわ、悪い顔。絶対何か企んでますね』
「残念だが俺にはかなわねえなぁ。お前は鈴菜を形どる事は出来ても、姿を見ることも、声を聞くこともできないんじゃ、その全部が出来ている俺には到底到底」
一瞬何を言われたかわかっていなかった奥継だが、彼の言葉が理解できるようになるとみるみる表情を変えていく。
「
……
はあああああっ⁉」
「奥継は御屋形様の右腕だもんなあ~。最近来たひよっこの、浪人風情の俺なんかに、まさか敵わないって事はないよなあ~?あ、でもさっき、見えない鈴菜を追い払おうとしたってことは、まさか見えないもの=幽霊思って怖いとか?」
大袈裟にため息を吐いた龍斗は、その後も芝居がかかった様に頭を大きく振り、やれやれと肩をすくめた。その仕草をみた奥継の肩が震え始め、ブチブチとどこからともなく音が聞こえる。
近くにいた天戒は怒れる奥継の様子にやれやれと天を仰いだ。
「怖いなら怖いのならしょうがねえなあ。奥継、お前は震えながら隠れていろよ。俺がお前の分まで天戒の右腕として頑張ってやるからな‼」
親指を立てた爽やかな笑顔を浮かべる龍斗を見て、奥継の中で何ががブチィッ‼と千切れた。
「~
……
っふ ざ け る な あっっ‼‼お前に出来て、俺に出来ない事があるかよっっ‼‼
いいか、すぐに出来る様にしてやるっ‼‼すぐにだっ‼‼後で吠え面書くのは龍斗、テメエだからなっっ‼‼‼」
「お~。頑張れよ~」
「舐め腐りやがって‼‼マジで覚えとけっ‼‼‼」
見事に龍斗の挑発をそのまま受け取り煽られた奥継は、龍斗に向かって指をさし咆哮浴びせる。が、それも笑顔で難なく受け取り答える龍斗に奥継はさらに苛立ち、言葉を吐き捨ててどこかに去っていった。
まあ、どこに行ったのか想像は容易く出来るだろうが。
彼のあまりな対応に苦言を呈する天戒と傍に寄ってきた鈴菜。
「龍斗、あまり奥継をいじめるな」
『無理は、駄目だよ。
……
たっちゃん』
「馬鹿言え、これはいじめじゃ無く愛だよ愛。大きく育って欲しいと思う俺の深い愛情だろうが」
楽しそうに話す龍斗は多分期待しているのだろう。彼らのやり取りを聞いていた仲間たちは思わず苦笑する。奥継の事を良く分かってるからこその嗾けだとは理解できるが、スパルタ気味の龍斗の愛情を受けた彼の行く先を祈るしかない。
「それに、もしかしたら本当に俺以外の奴が鈴菜と関わる事が出来るかもしれん。そうなったら、嬉しいさ。俺も、姉ちゃんも」
その後夕餉の支度が出来た事を知らせに来た女中が、昼までは何ともなかった大広間が匠も驚くビフォーアフターに変化している事で叫び声が上がり、今日の会合は終了した。
隣にいる天戒のみに軽く聞こえてきた内容が、実は切実な本心だと理解できたのは一週間後に奥継が鈴菜を本当の意味で捉えることが出来てから。自信満々に龍斗に宣言していた奥継が、何かを見てから酷く慌てている様子を間近で見て、天戒は彼らの苦悩をようやく察する事が出来たのであった。
今はまだ、焦った様子の龍斗を見て、仲間と共に苦笑し見守るのみである。
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